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001.その光が告げる、始まりは


 それは突如、起こった。




「……ん~?」



 光。

 遥か遠くに見える光。 

 その光に、視界が一瞬奪われる。


 それは、群がる狼の群れに突っ込み、持っていた短剣で通り過ぎ様に斬りつけて一頭絶命させた頃だっただろうか。

 それとも、今日は大量だと、常備装着している仮面を被り直して、草原のど真ん中で手ごろな魔物であるウルフの群れに向かって「ひゃっはー」って突っ込んだ時だっただろうか。

 今日のクエストでありギルドからのオーダーであるウルフの毛皮集めに必要な素材――これからウルフ(狼ちゃん)の大量虐殺はじまりまーす。と、今日のクエストで手に入れたお金で夕飯は豪勢に行こうかなって、じゅるりと口からこぼれそうなよだれを必死に喉元でごくごくと飲みながら、狼ちゃんの群れに向かってアクション仕掛けたときだったかな? そのどこかだったのは間違いないと思うんだけど……ああ、やっぱり覚えてないしどうでもいっか。


 それに、いくら狼ちゃんのお肉が美味しそうだからって、そんなによだれを垂らしてるわけでもない。

 私、顔見られたくないから仮面してるんだよ。そんな仮面の中でどばーってよだれ垂らしちゃったら自分のよだれで溺れちゃうってば。



 それが起きたことは緊急事態だったんだから、私の行動のどこかでそれが起きたなんて正直いまはどうでもよくって。



 そう。

 それが起きたことが問題だったんだから。





 東の空に、光り輝く柱が現れた。



 それが、とっても大問題。



 どこまでも高く、それは青空を湛えた空より更に上空へ。

 まるでこの星の向こう側から降り注いでいるかのように、巨大で荘厳な光。


 目を閉じていても分かるほどの光、と形容するのが正しいのだろうとは思う。でも、その光は私のいる場所より遥か遠い場所で光り輝く。

 ただ、その光は物理的に眩しいといった印象もなく、ただ、そこに光がある。という現象だけのようにも見える。気にしなければただそれだけの現象でもあるんだけど、でも、それがいきなり現れて、明らかに誰の目にも分かるほどの圧倒的存在感を持っていれば、それはまさに超常現象とも言うべき光だと思うし、いくらこの世界に魔法があると言っても、人が起こしたとは思えない、神様が起こしたんじゃないかって思えるほどの光の柱だったんだから、驚くのも無理はないと思う。


 いやまあ、でも。あれって、人が起こしたんだろうなぁってうっすらわかってはいるんだけどもね。


 そんな風に思っちゃってるから、私は東の【領都ヴィラン】より更に先の森の中で光るそれをこんな遠くからでも見ちゃってるわけだし。私のように誰もが驚きながらそれを見つめ続けることができるのだろうなって思う。



 ……周りに誰もいないから、他に誰か見ているのか、見続けているかなんて……




 …………

 ………………

 ………………………




 ……しらんけどっ!




「……ふ~ん?」


 思わせぶりにその光を見て感慨深く考察しながらみたものの。

 そんなことはお構いなしに、光に背中を向けて、私は私のよだれの元凶である目の前のご馳走を見据える。


 見逃すわけにはいかないのだから。

 狼ちゃんは綺麗に解体すればお金になるいい魔物。


 肉は草原を駆け回っているからか引き締まって、煮ては焼いては美味しいし。

 皮は人々の衣服、防寒具等にも使われるし、他にも色々使い道もあるし。

 牙や爪は武器や装飾品にもなる。おまけに二回言うけど煮ては焼いては美味しいし。あの肉の柔らかさは燻製にしても美味しいんだから。


 素早い動きに気をつけるだけで狩れるよわっちい魔物なのに、どこもかしこもお金にな――こほんっ。


 人々の生活を脅かす魔物を討伐して人々の生活基盤を守る。

 それが私達冒険者組合の冒険者の仕事なのだから見逃すわけにはいかないのさ。




 だから。

 だから……

 今日は、ステーキ、かなっ☆



 私の背後――遥か遠くでいまだに光り続けるその光の柱から、何かを感じるのか、私のご馳走は体を震わせて尻尾を丸めて座り込んでいる。

 その様を見ると、魔物とはいえ、子犬のように見えて……


「う……ダメ! 殺せないっ! でも、ステーキのためだからっ!」


 なんていう小芝居しながらさくっと。

 さくっと、さくっと。毛皮を肉を傷つけないように一刀の元に首元に切り込みいれて斬り捨てる。


 動かなくなった狼ちゃんを宙ずりにして血抜きをしたら、後は解体処理。


 この解体処理が内臓抜いたりするの面倒なんだよねーとか思いながら、いつもそんなことをしない私は、【ボックス】内に取り込んで、内部で分かれて【アイテム化】したお金の元を見て、ほくほくする。そもそも血抜きなんてする必要もなかったりする。

 加工なんて一度も経験したことのない私が、早々血抜きや知らない動物や魔物の臓物を抜き出したりなんかすぐにできるわけがない。何年この世界にいようとも、そんなのできるわけないじゃん。やりたくもないし。


 だからこの【ボックス】を考案し実現できた時は、私って神なんじゃないかな!? とか一人思ったのは内緒。


 そんな【ボックス】のありがたみを考えつつ、今この世界で起きている超常現象を無視して歩き出そうとしたのだけれども……。


 ぴたっと。数歩歩いたところで動きは止まる。


「……無視、できないよねぇ……」


 何となく、このまま忘れてしまいたい衝動に駆られて帰路に着こうとしたけど、やっぱりあの東の空に浮かぶ光は無視しちゃいけない。


 むしろ、どこの誰が無視しようとしても、私だけはあれを無視しちゃいけないのは私自身がよぉく分かっている。

 帰る方角も一緒だし。


「あーあ。五年。やっとこさ始まるよ……。短いようで長い。さてはて、どうなることやら」



 今頃、王都だけではなくて、私の拠点としている町もてんやわんやで騒がしいのだろうと思うと、騒ぎの元凶をなんとかしてあげないとなぁとも思う。



「しっかしまー。なーんであんな物騒なところなのかねー」



 光柱が墜ちる場所はその場所がここよりも低く、遠いからこそよく分かる。


 あそこは、私の拠点先【領都ヴィラン】の更に先の、魔物がわんさかな森の中だ。


 いくらあの町の冒険者が屈強だからって、何があるかわからない、向かえば誰も助けに行けないような、そんな奥で光るあの場所に、誰が好き好んで向かうのだろうか。


 私は思わずため息をつくと、被っていた仮面を脱いで遥か先の光を見る。

 気持ちよく吹いた悪戯な風が、私の長髪を弄ぶので、頬にかかる髪を押さえると、絵になりそうな自分の今の状況と行動に、億劫な気分も幾分和らいだ。



「迎えに行かないとねー」



 五年。

 五年の間、この時を、待ちたくはないけど待っていた。


 全然来ないから忘れちゃいそうになるほどに待った私がここにいる理由。


「遅いけど、ちょうどってタイミングなのかな? さすが神様」


 別に空を見上げたからって、そこに何かあるわけでもなく、それこそ私が今言った【神様】がそこにいるわけでは勿論ない。


 なんだろう。

 妙に絵になる行動だなって思うと、思わずしちゃってたってのがしっくり来るけど、別にナルシストなんかじゃないんだからねっ。


 だからといって、見えない神様との約束のためと、自分のこれから起こす行動へのしっかりとした意思表示をするには、先の動きは絵になるなって思ったり。



「……神様との約束、しっかり守りますからねー」



 そして私は動く。


 私が拠点としている町へ。

 その先にある光の先へ向かうために――




 ――の、前に。



 狼ちゃんの素材を売って、お金にしてステーキ食べるために町へ帰ろっとっ!


お面つけた謎の女性が一人遠くを見ながら狼ちゃんを虐殺するところから始まるこのお話、どうぞ末永くお愉しみ頂けますと嬉しいです。


なお、カクヨム様では140話以上先に進んでおりますので、先に興味がありましたら、ともども、どうぞ(お星さまの評価を是非(切実))よろしくお願いいたします。

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