「愛しているのなら、一緒に戦うのは当然のことでしょう?」、なんて君は言うけれど。
この作品は、『旦那さま、冷たいあなたも素敵だけれど、さすがに疲れてしまいました。離婚して出て行ってもいいかしら?』(https://ncode.syosetu.com/n8466hw/)と同一世界の物語です。
『旦那さま、冷たい~』は、2023年12月28日より一迅社様から発売されている「お飾り妻は冷酷旦那様と離縁したい!~実は溺愛されていたなんて知りません~ アンソロジーコミック」に収録されております。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「この成金女が! 今に化けの皮を剥いでやるわ!」
「何をおっしゃいますやら。世の中、金で解決できないことはございませんのよ」
「姑に向かってなんて口の利き方なの!」
「ご心配していただかなくとも、お義母さまには今後お会いする予定はありませんもの。ああ、あんまり怒ると長生きできませんわよ。せいぜい領地で心穏やかにお過ごしくださいませ」
「むきいいいいい」
「おーほっほほほ」
ハンカチを噛みしめる貴婦人に、頬に手を当て気持ちよさそうに高笑いをするご令嬢。流行りの演劇であるならば、ベンジャミンも次の展開がどうなるのかとわくわくしながら見守っていられただろう。
だが残念ながら、ここは劇場ではなく自宅である。ついでに言えば、目の前のふたりは女優ではなく自身の母親と婚約者だったりするため、このまま高みの見物というわけにもいかなかった。まあ高みと言ったところで実際は扉の隙間から、使用人とともに覗き見しているわけなのだが。
「オーレリア嬢、それから母上。これは一体何の騒ぎかな?」
「ベンジャミンさま!」
「ベンジャミン!」
真っ青な顔で扇を取り落としかけた婚約者を前に、ベンジャミンも覚悟を決めた。
***
若き侯爵家当主ベンジャミンには、悩みがあった。それはいまだに婚約者がいないことである。別にベンジャミン自体が悪いわけではない。容姿は整っている方だし、性格も穏やかである。侯爵家に借金はなく、年の離れた実姉とも姉弟仲は良好だ。
問題は彼の両親にあった。父親も母親も、貴族の悪いところをこして煮詰めたような人間なのである。気位が高く、平気で平民を見下す。強い者には巻かれ、弱い者は踏みにじる。
跡取りとして長年当主教育を施していた実の娘を、待望の跡取りができたからと言って粗雑に扱ったあげく、売れ残りの畜産物を処理するかのように適当な男の元に嫁がせようとする。偶然が重なりベンジャミンの姉は密かに想いを寄せていた相手の元に嫁ぐことになったが、これはあくまで運が良かったからだ。
もちろんこれらの所業は最終的に周囲に知れ渡ることになったのだが、このような仕打ちを平気で行う輩であるから、嫁に来た令嬢をいびり倒すであろうことは誰の目にも明らかだった。地獄のような家庭に嫁ぎたがる令嬢などいない。
もちろんベンジャミン側の事情を承知の上で釣書を送ってくる家もあるにはあったが、少し手を回せば、立場の弱い令嬢が売られるように嫁がされそうになっていることくらい、簡単に調べがついた。
さすがにベンジャミンとて、雨に濡れた子猫のように震える令嬢たちに結婚を無理強いさせるつもりはない。必要なのは共に問題解決に取り組む信頼できるパートナーなのであって、お飾りの妻ではないのだ。
そもそもこの一件のあと、ベンジャミンは信用できる家令をつけた上で両親を田舎の領地に軟禁している。だが、自分が庇護しなければ生きていけなさそうな箱入り娘を娶ったところで、遅かれ早かれ結婚生活の破綻は免れないと思われた。
***
そんなベンジャミンにオーレリアを紹介してくれたのは、姉の結婚相手である侯爵家当主のケネスだ。職業柄顔の広い義兄は、思わぬところから話を持ってきてくれた。
「結婚相手を探すのに苦労しているのだろう? 良かったら、こちらのお嬢さんに会ってみてくれないか。少々変わっているところはあるが、性格の良さは保証しよう。今まで結婚はしないと言い張っていたのが、君となら結婚してもいいと言っているようでね」
「それは……。親御さんも困っているのでは?」
「さあ、どうだろうね?」
「俺は、無理して結婚する必要は感じていないんだけどな」
「恋も結婚もいいものだよ。君はいろいろと見過ぎてきたから、なかなかそうは思えないだろうけれど」
含み笑いをしつつ、義兄はひとりのご令嬢を紹介してきたのだ。製薬に関する功績で陞爵されたケネスと同様、薬を安価にかつ国内全域に流通させ、疫病の流行を食い止めたことを評価され貴族の地位を得た商家のご令嬢だ。
風変わりとは聞いていたが、変におびえることもなく快活で、朗々と歌うように話をしてくれる。振舞いが少しばかり芝居がかっているような気もしないでもなかったが、おどおどとすがるような眼差しで助けを求めてくるようなご令嬢よりも、ずっと好感が持てた。
とはいえ、オーレリアに対して気になる点がないわけではなかった。なぜか彼女はベンジャミンに対して、デートに行く場合は少なくとも一週間前までに詳細を知らせてほしいとお願いしてきたからだ。
デートの場所にふさわしいドレスや髪型、アクセサリーなど、女性は準備することが多いのだろう。そう考えたベンジャミンは素直に次回の予定について連絡を入れていた。
家業の宣伝も兼ねているのか、会うたびにがらりと雰囲気を変えてくるのには驚いたが、浪費家であるどころかむしろ金銭感覚はしっかりしている。さすが商家として名を馳せた家門の出身だと納得した。
そんなある日のことである。偶然、ベンジャミンが先触れなしでオーレリアの自宅を訪ねたことがあった。数量限定の人気の焼き菓子を手に入れることができたため、不躾ながら急遽自宅まで届けることにしたのだ。
ところがオーレリアは、なかなか自分の前には姿を見せなかった。急な来訪のため、支度に準備がかかることは理解できる。けれど、いつもと違いなぜか視線が合わない。恥ずかしがっているというよりは、何やら困った様子のオーレリアにベンジャミンは首を傾げた。終始うつむき気味で、顔も赤い。
(具合が悪いのか。あるいは、俺の来訪が迷惑だったのだろうか)
だが、次のデートの際にはオーレリアの様子はいつも通りに戻っていた。一体、あの時の妙な態度の理由はなんだったのか。それはベンジャミンの中で、オーレリアには聞けないもやもやとしてくすぶり続けることになったのだった。
***
それから正式に婚約者となったベンジャミンとオーレリアだったが、ふたりはそれなりに上手くやっている。やはりケネスの紹介を信じて正解だったと、ベンジャミンは胸を撫でおろしていた。
デートの予定は事前に教えてほしいと話していたオーレリアだが、意外なことに予定が中止になることについてはとてもおおらかだった。一週間も前から外出の準備をしているのだから、予定が駄目になれば悪鬼のごとく怒り狂うのではないかと心配していたベンジャミンが拍子抜けしたくらいだ。
突発的な事態で約束の時間がずれるときは、ベンジャミンの屋敷の図書室で時間を潰して待っていてくれる。誰かに八つ当たりすることもなく、相手を慮ってくれるひとの得難さを身に染みて理解していたベンジャミンは、オーレリアを紹介してくれたケネスを密かに神のようにあがめていた。
(さすが姉上が惚れた男だ。有能過ぎる)
ベンジャミンの母親は非常に高圧的な人物だ。父親に急な用事が入るのも、見たかったお芝居のチケットが手に入らないのも、天気が悪いのも、頭が痛いのも、階段で滑って転ぶのも、髪型がきまらないのも、全部誰かのせいだと癇癪を起こす。思い通りにならないと扇をへし折り、周囲に当たり散らすのだ。父親はその八つ当たりの被害に遭いたくないのだろう、母の機嫌を損ねるほうが悪いと主張してくる。今も領地の屋敷で、母親は周囲にわめき散らしているに違いない。
(やはり母上はどこかおかしいのだろうな。姉上も非常に苦労していた)
母性のない母親から幼い自分を守ってくれていた優しい姉。ジェシカのことを考えると、ベンジャミンは複雑な気持ちになる。
予定外に自分が生まれたせいで、姉の努力は水泡に帰した。その上、自分が成長するまでの数年間、貴重な時間をさらに拘束してしまっている。けれど思い出すのは、自分に優しく微笑みかける姉の姿ばかりだ。
――姉上、それからどうなるのですか?――
――ベンジャミン。あなたはどうなると思う?――
すぐに答えを教えるのではなく、自分で予想させた後に一緒に考察し、それから答えを確認する。ひとつひとつの作業が今となってはすべて懐かしい。
両親、特に母親は姉弟が一緒に過ごすことを毛嫌いしていた。まるで病原菌か疫病神のようにジェシカを追い払っていたのだ。彼らが一緒に過ごすことができたのは、両親が立ち入らない図書室の中で勉強するときだけ。それも、ふたりの目を盗んだわずかな時間だ。
だから、ベンジャミンにとって図書室は屋敷の中でも特別な場所だった。けれど不思議なことに、オーレリアが図書室に立ち入ることは、ベンジャミンにとって少しも不愉快ではなかった。姉との思い出を伝えたわけでもないのに、金銭には代えられない価値がこの場所にあることをよく知っているようだった。ベンジャミンはそれがことのほか嬉しかったのだ。
今日もベンジャミンは急な対応のために、オーレリアを待たせてしまっている。
実は読書家であるらしいオーレリアは、話しかけても気がつかないほど真剣に本を読むことが多い。その姿は、かつて同じように本の世界に入り込んでいた姉の姿をほうふつとさせた。領地経営の邪魔になると図書室の出入りを禁じられてしまった姉だが、今は嫁ぎ先で自由に好きな本を読んでいると聞く。ふたりを引き合わせてみたら、意外と話が弾むかもしれない。
(そういえば、オーレリアはどんな本が好きなのだろうか。図書室に、彼女の好きな本を置いてみるのもいいかもしれないな)
オーレリアの笑顔を想像しながら歩いていたベンジャミンは、遠くから耳障りな金切り声が聞こえてくることに気がついた。しばらく前までは、当たり前のように屋敷内で響いていた声によく似ている。合わせて聞こえるのは、使用人たちの悲鳴か。金切り声の正体に思い当たったベンジャミンは、慌てて駆け出した。そしてたどり着いた図書室で見たものは、演劇染みた罵りあいを繰り広げる婚約者と母親の姿だったのだ。
***
「この成金女が! 今に化けの皮を剥いでやるわ!」
「何をおっしゃいますやら。世の中、金で解決できないことはございませんのよ」
「姑に向かってなんて口の利き方なの!」
「ご心配していただかなくとも、お義母さまには今後お会いする予定はありませんもの。ああ、あんまり怒ると長生きできませんわよ。せいぜい領地で心穏やかにお過ごしくださいませ」
「むきいいいいい」
「おーほっほほほ」
なぜオーレリアがベンジャミンの母親を口汚く罵っているのか。自分の母親を敬ってほしいなどとはこれっぽっちも思ってはいないが、オーレリアが普段使っている語彙とは思えない低俗な煽り方に疑問が生じた。
そしてなぜ王都から遠く離れた領地に軟禁しているはずの母親がここにいるのか。これまたさっぱり理解できずに、ベンジャミンは頭を抱えた。まったくもって意味がわからない。
「オーレリア嬢、それから母上。これは一体何の騒ぎかな?」
「ベンジャミンさま!」
「ベンジャミン!」
真っ青な顔で扇を取り落としかけた婚約者を前に、ベンジャミンも覚悟を決めた。大切なことは、しっかりと口で言わなくては伝わらないのだ。
「ベンジャミン。見なさい、これがこの女の正体よ!」
「わ、わたしは、わたしの愛するひとを守るために戦うのみでしてよ!」
なぜか急に噛んだオーレリアにやはりとひとつうなずくと、ベンジャミンはオーレリアを自分の背にかばい、母親に向かい合った。
「俺の婚約者への暴言、謝ってもらいたい。そもそも、母上に文句を謂われる筋合いはないはずだ」
「ベンジャミン、婚約者ができたというのに親に連絡ひとつ寄越さないとはどういうつもりなの?」
「父上と母上は隠居された身の上。世俗のことには煩わされず、ゆっくりと余暇を楽しんでほしい」
「ひとを老人扱いしないでちょうだい。それに、なんなのこの品のない娘は。何をどう間違ったら、夫の母親にたてつくような娘と婚約を結ぶ羽目になるのかしら」
「オーレリア嬢の発言については、俺も不思議に思っているよ」
「そうでしょう! あなたはこの女狐に騙されているのよ!」
「オーレリア嬢は意味もなく、先ほどのような振る舞いはしない。どうせ母上がよからぬことをしたのだろう。それから、母上。約束を破ってどうしてここにいるの?」
「だって、息子が婚約をしたと人伝に聞いたらいてもたってもいられなくなって」
「じゃあ、真っ昼間から酒臭いのはどうしてなのか、教えてもらってもいいかな」
はっと、慌てたようにベンジャミンの母親は口を閉じた。ベンジャミンは部屋の中をざっと見回し、足元にスキットルが転がっているのを見つけた。
「田舎送りにされたことに我慢できず、酒浸りの日々を送り、酔いに任せてここまでやってきたってことかな。母上のことだ、女性に手をあげられない家令に逆に暴力をふるったんじゃない? 家令がぎっくり腰になっていなければいいんだけど」
「どうして、あの家令の心配ばかりするの! わたくしは、あなたの母親なのよ。息子なら、母親を大切にするべきでしょう!」
「母上、無償の愛というものはないんだよ。ひとを愛したことのない人間は、愛されない。愛されたいと愛を乞うだけでは何も変わらないよ」
「あなたも、わたくしを愛してくれないのね! どうして! どうして!」
錯乱状態に陥った母親が急に静かになる。貧血を起こしたのか、床にうずくまっている。領地に軟禁すればいいと思っていた、自分の甘さに嫌気がさした。自分が傷つくなら構わない。けれど、オーレリアを傷つけられるのだけは許せない。恋や結婚なんて面倒くさいと思っていたはずなのに、いつの間にか誰よりも大切になっていた。
(俺はオーレリアを愛している。彼女のために何ができる?)
しばらく考え込んだあと、ベンジャミンは家令に義兄へ連絡をつけるように言いつける。なんといっても、今日の急用の相手は姉夫婦なのだ。もしや義兄は、母親の情報を掴んでいて屋敷を訪ねてきたのかと疑いたくなるくらいだ。そのまま、使用人に母親を引き渡す。
「ベンジャミン、せっかく母が来たというのにこの扱いはなんですか!」
「オーレリアへの謝罪以外、聞くつもりはないよ」
それにもうすぐ薬の専門家である義兄も到着するのだ。ベンジャミンはもはや母親を更正するために手段は選ばないことを決めた。
***
「母が迷惑をかけた。すまない」
ベンジャミンは、母親の姿が見えなくなるとまず最初にオーレリアに頭を下げた。
「いいえ。むしろ、あのような失礼な物言いをしてしまって」
「怖かったよね。本当にごめん」
先ほどまでの堂々とした姿とは違い、小さく震えるオーレリア。それは、かつて先触れなしで屋敷を訪ねたときのオーレリアの反応によく似ていた。
「もう無理はしないでいいんだ」
オーレリアは、涙目で小さくうなずいた。
「いつ、気がつかれたのですか?」
「おかしいと思ったのは、先触れなしで訪ねた時だ。君はまったく俺と目を合わせようとしなかっただろう? 嫌われたのかと思ったが、次に会った時はいつものように話ができた。だから、思ったんだよ。もしかしたら君は、俺に会うために事前練習をしているんじゃないかって」
言い回しや動作が芝居のようなのも、会うたびに印象が変わってしまうのも当然だ。オーレリアは物語や戯曲の台本を読み込み、役に成りきることでデートを乗り切っていたのだ。
「だから、突発的なことに対応できなかった?」
「あの時は本当に驚いてしまって。ちっとも取り繕うことができませんでした」
「極めつけは、先ほど母とやりあっていた時の台詞かな。『わたしは、わたしの愛するひとを守るために戦うのみでしてよ!』 あれは、『あかつき姫の冒険』の主人公の台詞だよね?」
オーレリアが目を丸くしていた。少女向けの小説を、ベンジャミンが読んでいるとは思ってもいなかったのだろう。
「どうして、ベンジャミンさまがご存じなのですか?」
「その昔、姉上から勉強を教えてもらっていたときに、読んでもらった本だからね。懐かしいな」
「わたしは元来恥ずかしがり屋で、緊張すると何も言えなくなってしまうことがよくありました。それを変えるために、物語の中の主人公のつもりで振舞うことを覚えたのです。大好きな本の世界のことなら、一言一句間違えずに覚えることができます。ですから、ベンジャミンさまとお会いする前には、それにふさわしい物語を読んで、その場に合わせた台詞を引き出していたのです」
「お芝居みたいな台詞を話すと思っていたけれど、実際にお芝居みたいなものだったんだね」
「はい。騙すような形になってしまい、本当に申し訳ありません」
「謝る必要はないよ。すごい努力だと思う。それにしても今日の台詞は、いろいろと驚いたよ」
「あの、あれは、最近流行りの嫁姑戦争の『ざまぁもの』でして。あれでも、表現が穏やかな部類のものを選んだのですが」
「……怖い世界だね」
苦笑しながらベンジャミンは、ふと不思議に思った。なぜ、オーレリアはそこまでして、自分と一緒になるために努力をしてくれたのだろうかと。自分の母親は成金貴族と蔑んでいたが、実際、彼女の財産は非常に魅力的だ。ベンジャミンよりもずっと条件のよい縁談はいくらでもあったに違いない。
「どうしてそこまでして……」
「愛しているのなら、一緒に戦うのは当然のことでしょう?」
「は?」
「あ、あの、恥ずかしいので、聞き返さないでくださいませ。愛しているのなら、一緒に戦うのは当然のことだと申し上げたのです!」
先ほどまで、あの母親と互角に渡り合っていたはずなのに、今のオーレリアはぷるぷるとうさぎのように震えながら、真っ赤な顔で愛の言葉を紡いでいる。
「わたしは、ジェシカさまの幸せを守ろうとするベンジャミンさまのお姿を夜会で見て、ベンジャミンさまのことを好きになったのです。わたしには、ジェシカさまのような美貌も頭脳もありません。けれど、隣に立って共に戦うことならできるはずです」
恥ずかしがり屋のご令嬢が、自分の隣に立つために淑女から悪役令嬢の振る舞いまで一生懸命学んでくれていたことに、むず痒さを感じてしまう。
「君にばかり頑張らせていたことを許してほしい」
「あの、ベンジャミンさま」
「ありがとう。絶対に、オーレリアのことを幸せにするから。愛してる」
つい感情のおもむくままオーレリアを抱きしめ、頬に口づける。
「オーレリア?」
「……きゅううううう」
「オーレリア、しっかりして! オーレリア!」
ちょうどタイミングよく駆けつけた姉夫婦に、嫁入り前の婚約者に抱きつき気絶させたことがバレたベンジャミンは、こっぴどく叱られることになった。
***
ごたごたを乗り越え仲を深めたベンジャミンとオーレリア。ふたりは、ベンジャミンの姉夫婦と交流しながら、平和に暮らしている。目下の話題は、結婚式後の新婚旅行の行き先だ。
「新婚旅行は、オーレリアの行きたい場所にしよう」
「ええと、あの、その」
「大丈夫だよ。慌てないで。考えがまとまるまで、ゆっくり待つから」
オーレリアは、ベンジャミンの言葉に小さくこくりとうなずいた。
「こんなに恥ずかしがり屋さんだったなんてね」
「は、はわわ」
「あのときは、まだよそ行きだったから、台詞回しが無意識にできていたんだね。大丈夫、焦らないで。そのぶん俺は、可愛い君を眺めることができて嬉しいから」
「ひゃん」
(「愛しているのなら、一緒に戦うのは当然のことでしょう?」、なんて君は言うけれど。俺もそんなパートナーを求めていたはずだけれど、愛しい相手というのは、大切に囲いこんで守りたくなるものなんだな)
赤面して言葉を失うオーレリア。そんなところがまた可愛らしくてたまらない。最近、ようやく口づけても目を回さなくなったことをいいことに、ベンジャミンはのりのりで婚約者に愛を囁き始める。
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