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6 幻惑

 魔法はイメージが重要になる。具体的なイメージなほど、魔法の発動率は上がる。そして、私の今の姿は未来の私と瓜二つ。完璧に再現されていた。


「その姿、僕への当て付け?」


 苛立った声のドミニクに、私は焦った。


「な、何のことですか?」


 ドミニクは、すっと正面にある肖像画を指差した。そこには私と同じ、白いワンピースのブロンドの女性の絵が飾られていた。


「……あの方はどなたですか?」


「知らないの? 僕の母さんだよ。僕が殺した」


 私は固まってその場から動けなかった。その間に、ドミニクが私の横を通り抜けて肖像画の前まで歩いていく。


(……神1の嘘つき!)


 まさか、好感度が低い理由が格好にあるとは。


神1: ごめんね?逆効果だったみたい

使用人: どういうことですか!?

うさぎ: あー、なるほどね。完全に理解した


「ねぇ、聖女なんでしょ? 神様はなんて言ってるの?」


「……私は聖女なんかじゃない。ただのアリアーデ・クランツェフト。強くなるためにここに来ただけ」


 パチン。

 私は指を鳴らして服を着替える。


「ふーん? それ以上、強くなる必要ある?」


「レガリウスの魔眼に挑みたいの。あなたの魔具があれば、隙を作れる」


 嘘はひとつもない。私はじっとドミニクを見つめた。

 だが、当の本人の表情は長い髪に阻まれて見えない。まるで心の壁がそこにあるように。


「僕はもう誰かのために魔具を作るつもりはないよ。作りたい時に作りたいものを作るだけ」


 そう言って、ドミニクは階段を上り始めてしまった。


「待って!」


「お迎えは呼んでおくから。残念だったね」


 ここで帰るわけにはいかない。なんとしても作ってもらわないと、私の命すら危ういのだから。


(何かない? 引き留めるための何かが)


 

「……作ってくれないと、アークリガリットの存在を世間にバラすから! そうしたら、もうこんな隠居生活は送れないからね!」


 半ば脅しではあるが、ドミニクの足は止まった。低い声でドミニクは静かに怒っていた。


「僕を脅してるの……? 腕に自信があるみたいだけど、少し痛い目を見た方がいいみたいだね。そうしたら、レガリウスに挑むなんてバカなこと考えないよね?」


 ドミニクは袖の中から鉄筆を取り出して、そこに魔力を込めると筆先が青く光り始めた。


「ペグロック」


 名前を呼ばれたコウモリの羽が生えた正方形の物体は、ドミニクの元へ急いで飛んでいく。ドミニクがペグロックを優しく掴んで、ゆっくりと鉄筆を差し込んだ。


「えっ!? な、何!?」


 その瞬間、洋館の内装が、階段が、全て幻だったように消え去っていく。今まで仮想空間に居たように、何もない白い空間になる。ドミニクは、そこに浮かんだままだった。


「この家には僕しかいない。何故だと思う?」


 たしかに、使用人すらも見当たらない。何故だかわからずに黙っていると、ドミニクはさらに新しいペグロックを取り出した。

 そのまま鉄筆を差し込むと、カチッという音がしてまた空間が白から街中に変わった。


(ここは……馬車の中で見た水上都市?)


 石畳の街並みに水路が走っていて、ドミニクは建物の屋上に立っていた。


 ごくり、と私は唾を飲み込む。


「……この空間で迷子になったら、どうなるの?」


「僕が助けるまで彷徨い続けるだけだよ」


(つまりここから出たければドミニクを倒せってことね?)


 

「そっちが始めたんだから、後から文句言わないでよっ!」


 私は杖を引き抜いてドミニクに向けて雷を落とした。


 ドォン!

 轟音が鳴り響き、ドミニクの姿は光に包まれる。


「無意味だよ。この空間の中で、僕を傷付けることはできないから」


 傷ひとつないドミニクが両手をあげると、周囲の建物が浮き上がった。そして、容赦なく私に向かって建物をそのまま投げつけてきた。


「ちょっ!?」


(だめだ、逃げ場がない!)


 民家に囲まれた立地では、上から落ちてくる塔や投げつけられる宿屋など、避けれるわけがない。

 

 私は避けるのを諦めて、真正面から魔法で壊すことにした。





「撃ちますよ」


 レイがドミニクに向けて、銃を構えている。


「ああ、この盗聴器って君が彼女に仕掛けてたんだ?」


 ドミニクは横たわるアリアーデの髪飾りを引き抜き、しげしげと眺めた後にその髪飾りに鉄筆を当てて壊した。


「それが何ですか? 早く姫様から離れてください」


 レイは壊された盗聴器を意に介さずに、ドミニクに銃を向け続ける。


「レガリウスの魔眼って君のこと? それにしては、仲良さそうだけど」


「……私ではありません。姫様はレガリウスそのものに挑むおつもりですから」


 それを聞いたドミニクは笑い出す。


「あははッ! 面白い冗談だね? そんな命知らずの奴がこの世に存在してるなんて思わなかったよ」


「……姫様は本気です。魔具を作る気がないのなら、姫様を解放して下さい」


 未だアリアーデは眠っている。レイが異変を察知して駆けつけた時から変わらず。そして、その原因がレイの魔眼にはハッキリと見えていた。


「それなんだけど……彼女、戻る気がないみたいなんだよね……」


「は?」


 レイは構えていた銃を下ろしてアリアーデに駆け寄る。すやすやと眠っている寝顔は無防備で、幻惑を受けているなど考えてもいなさそうに呑気だった。





「どうしてそこまでして戦うの?」


 ドミニクは不思議そうに問う。

 何十本の塔を壊しただろうか。ドミニクが投げる建物は、投げたそばから復活していった。


「私は生きてこの世界を自由に旅したいの!! 大人しく誰かに、運命に服従して生きたくないだけ!」


 疲労が溜まって足元がおぼつかない。気力だけで魔法を放ち、攻略法を考えていた。なぜかリスナーも黙っていてコメントが流れない。


「レガリウスには勝てないよ」


「そんなの、やってみなきゃわからないでしょ!」


「諦めなよ。僕にも勝てないんじゃ、絶対無理だよ」


 たしかにドミニクに攻撃は通らないし、一方的にやられている。だけど、まだ負けてない。それだけで十分だった。


「諦める? そうやって、なんでもかんでも挑む前から諦めて、あなたみたいに動けないまま引きこもりになれって言うの?」


 ドミニクの攻撃が止んだ。俯いていて表情は見えないが、初めてのチャンスだった。


 私は走って街を探索する。

 すると、視界の端に青く光る蝶を見つけた。


「……僕はさぁ。僕さえ何もしなければ、母さんは死ななかったんだよ。諦めろよ! お前も! 一回死ねば!?」


 ドミニクの悲痛な叫びと共に、後ろから猛スピードで建物が飛んでくる。私は一縷の望みをかけて、建物ではなく蝶に向けて魔法を放った。


 その瞬間、私の視界は真っ白に塗りつぶされてしまった。





「姫様! 姫様!? 起きてください!」


 レイの声が耳元から聞こえてきた。


「痛っ」


 よくわからないが私は無事で、身体中が痛い。

 レイが体を支えてくれて私は立つことができた。

 

 頭上は穴が空いており、そして目の前には瓦礫とたくさんの蝶が辺りを飛び交っていた。


「はは……床をぶち抜くなんて、そんなことある……?」


 ドミニクは、生気が抜けたように呆然と立ち尽くしている。


「あの時、ちょうどあそこにいるみたいな蝶が見えて……」


「……これはリガリットって言う蝶の魔物だよ。この地方では精霊って呼ばれてる。屋敷の下に入江があるのは知ってたけど、こんなにもリガリットが集まってたなんて」


 ドミニクは悲しそうに、指に止まっている蝶を見ていた。


 

「姫様、無茶はおやめください。幻惑とわかっていても、勝たないと気が済まないのですか?」


「……え、幻惑?」


(あ……なるほど?)


 よくよく考えてみれば、ドミニクが空間を変えて建物を投げれるレベルの魔力を持っているはずがない。魔具のせいかと思っていたが、それだとしても魔力の供給源が必ず存在しているはずだった。


神1: そんな……

上様: それにしても見事な機転よな。俺様の魔法でも幻惑の中までは覗けぬわ

トッキー: 我の観測も領域外だ。

リア: 未来が変わったね


 

「ごめん、こんなことになるとは思わなくて……」


 屋敷を壊してしまった。これで、もう魔具は作ってもらえないだろう。


「リガリットは魔力に干渉しやすいから、幻惑の中に繋がりを持たせてしまった……? いや、だけどそんなはず……」


 ドミニクは1人で考えごとをしながら、大きくなったペグロックに乗って穴の上へと上がってしまった。


「あ、どうしよう……」


「ひとまず日を改めましょう。公務もありますので、お身体をお休めください」


 レイはそう言うと、私を抱き抱えて索発射銃を打ち上げて上階に上がった。

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