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5 天才魔具師

 列車に揺られながら、私は新聞を読んでいた。見出しの記事には「ラウルポール伯爵、何者かに殺害される」という記事が大々的に掲載されていた。


(うわ、犯人が私の従者とか……大丈夫かなこれ)


 記事を読み進めていくと、伯爵の悪事がこれでもかと並べられており、怨恨の線で捜査が進んでいると書いてあった。


「大丈夫よぉ? それ、私が主導してるの」

 

 姉のサンクタは、自治組織リーバル。前世で言うところの警察を仕切っている。新聞社にも強いコネを持っているし、宮中晩餐会に呼ばれるほどの功績はないが、地味に様々な情報を握っている。


「大丈夫……とは?」


「うふふ。私があの憎たらしい小太りの伯爵を放っておくはずがないでしょう? ……私のアリアちゃんに手を出そうとして無事に生きていけるなんて有り得るはずがないのよ」


 最後の小言、聞こえてますが?


(レイを唆したのはお姉様ってこと?)


 あの後、レイが暗殺者一族の末裔であることは本人から教えてもらったけど、姉の情報力なら知っていてもおかしくはない。


「お姉様、レイに何か吹き込むのはやめてください」


「どうしてなの? 彼はアリアちゃんにぴったりの執事よ? 力関係はきちんと心得ているし、何よりアリアちゃんのことを私より知り尽くしているもの」


 レイのことをこんなにもいきいきと褒める人を初めて見た。姉がそう言うなら、そうなんだろうなと思わせる謎の説得力があったが、問題はそこではない。


「レイは私の従者です。お姉様の誘導に引っ掛かるのは私の教育の不行届きですけど、そもそも情報を私じゃなくてレイに流すのは何でなんですか!」


 伯爵の件でも、私に言ってくれれば対処のしようがあったのに。


「あらあら!? 嫉妬かしら?」


 姉は私と、私の座席の斜め後ろに控えているレイを交互に見てニヤニヤとし始めた。


神1: 嫉妬なの?

うさぎ: は……?

リア: 違いますよね^^?


(え、リアさんまで私の事疑ってる!?てか何、ニコニコしてて怖いんだけど……)


「そんなわけないでしょ!」


「だってぇ……"わかって"もらえるのは彼しかいないのだもの……」


「私にはわからないとでも言うんですか?」


 意味がわからない。情報を渡すのに何をわかる必要があるのか。


「……アリアちゃんは、誰かのために人を殺せる? 出来ないでしょう? そこがまたいいのだけれど、それじゃあ私の気持ちはわからないでしょう?」


「……わからなくていいです」


 聞いた私が馬鹿だった。この世界では、命はあまり重くない。魔物という脅威がある以上、弱肉強食のような価値観がある。だけど、前世での価値観がある私にとっては、救えるものは救いたいし、誘拐でもされない限りなるべく人は殺したくなかった。


「サンクタ様、お戯はそこまででお願いします」


 ビビアニが姉を嗜めてくれた。


「ありがとう、ビビ。私は大丈夫だよ」


 ゲームの中ではFPSでたくさん人を殺してきたけど、それはそれ。私はゲームと現実の区別くらいちゃんとできる。


「まぁいいわぁ。それじゃあ、私は寝るからまたね?」

 

 大きなあくびをして、姉は去っていった。

 私は私でやる事が残されている。これからのために特に重要な事で、ちゃんと言い聞かせないといけない。


「レイ、到着するまでお説教だから。そこ座って?」

 

 

 


 照りつける太陽が白い砂浜に反射して、眩しい光を放っている。アインバークの街は、大きな三日月型の遠浅のビーチの中央に、観光資源である水上都市がある。


 私はレイとビビアニを引き連れて皇族専用列車から降りた。姉はまだ寝ているので放置している。

 

親衛隊: 私もお説教受けたかったです……

うさぎ: たしかに。あれじゃご褒美と思われてもおかしくない

名無し: どこが?すごく怒られてたけど


 レイには、私の従者であることの心構えとか、命令には絶対従うこととか、まずは私に確認を取ることとかを口を酸っぱくしてお説教した。断じてご褒美じゃない内容だった。はず。

 

 実際のところ、レイが嬉しそうに聞いていたのを見るに、餌付けか何かと勘違いされているのではないだろうか。

 ……私は何を言っているんだ?


(ダメだ。やっぱりご褒美だったのかもしれない)


 到着早々、私は意気消沈した。幸先が悪い。しかし、そうも言っていられない。私はドミニクに会わないと。


「アリア様! 綺麗な海ですね!」


「ビビは海を見るのは初めてだっけ。あ、私もか」


 たしかに、ビーチリゾートのような綺麗な砂浜とエメラルドグリーンの海が目の前に広がっていた。


「姫様。こちらを」


 レイがすかさず日傘をさしてくれた。さすがにこの日差しの中で燕尾服は可哀想なので、何かレイに服を買ってあげたほうがいいかもしれない。


 

(しっかし、こんな観光地に引きこもりがいるとはね……)


神1: ここからあの引きこもりを出すのが大変なんだよね

あいちゃん: あらあら、どんな方かしらね?

るなしぃ: 親近感はあるわね


「聖女様、アインシュタット領へようこそお越し下さいました。私は領主のアーク・アインバークと申します」


 まだ若い20代ぐらいの領主が白い花束を持って出迎えてくれた。


(聖女呼びが定着している……だと?)


名無し: 聖女様だってw

うさぎ: よっ聖女様!

使用人: 正当な評価ですね


「ごほんっ……領主様直々のお出迎え、ありがとうございます。早速、ドミニク様のところにご案内いただけますか?」


 姉が起きる前にはドミニクとの接触を果たしたい。恐らく起きたら海水浴に連れて行かれる。

 

「は、はい……。ドミニク様は、少々人付き合いに難がある方なので、出来ればお会いになるのを辞めた方がよろしいかと……」


 アークは、皇族である私の機嫌を損ねないように手を揉みながら提案してきたが、私は首を振った。


「知っています。それでも会う必要がありますから、案内してください」


 

「……わかりました。こちらへどうぞ」


 なぜかしょんぼりとした領主に連れられ、馬車に乗り込んだ私達は、水上都市を眺めながらドミニクのいる岬の洋館へと向かった。

 

 馬車を降りた私達に、アークは告げる。


「申し訳ありませんが、聖女様お1人で来るようにとのことですが、よろしいでしょうか?」


「失礼ですが、それはできませ――」


 レイが断りを入れたのを、私が制する。


「いえ、構いません。レイ、先にリアード離宮で荷解きをしてて」


「……かしこまりました」


 レイは渋るかと思いきや、素直に従ってくれた。お説教の成果が出たのかもしれない。

 

「聖女様、お迎えはまたドミニク様に言っていただければすぐに参りますので」


 そう言ってアークも、レイとビビアニと共に馬車で帰ってしまった。


 

(問題はここから。引きこもりのエンジニアを引き抜く方法、ってネット検索したいくらいだわ)


 岬にはいい風が吹いていて、花壇の花も風にゆらゆらと揺れていた。


神1: その格好なら、間違いなく興味を引けるよ

使用人: たしか彼はいつも刺激を求めてましたね

うさぎ: 刺激って言うか実験対象の間違いじゃないか?


 今の私の格好は、白いワンピースに麦わら帽子というシンプルな格好だった。これは神1さんからのアドバイス。


 私は玄関のベルを押した。恐らくこれも魔具で、水晶のようなレンズはもしかしてドアホンなのかもしれない。


 しばらくすると、自動で扉が開いた。出迎えてくれたのは、コウモリの羽を持った正方形の物体だった。


「えっと……」


『子供が何の用? ここは君みたいな子供の来るところじゃないよ』


 正方形の物体から少年の声が聞こえてきた。


(む、何よ! ドミニクだって私と5歳しか変わらないのに!)


 たしかに私はまだ子供だけど、魔法の腕は大人と変わらない。


「じゃあ……これでどうですか?」


 私は得意げに杖を抜いて、自分の16歳の姿を思い浮かべて、自身に魔法をかけた。みるみるうちに身長が伸びて、ゲームのパッケージ通りのアリアーデの姿になる。


「へぇ。"聖女様"は未来が見えるんだ」


 声がした後ろを振り向くと、ストレートのブロンドヘアを床のスレスレまで伸ばした人がいた。


「……ドミニク……さん?」


「当たり前の事聞かないでくれる?」


「あ、はい」


 一瞬不審者かと思って警戒してしまった。


(ステータスオープン)


――ドミニク・オブロン好感度-30


「マッ!? あ、いや。なんでもないです」


 好感度を上げて魔具を作ってもらわないといけないのに、どうしてこうなった!?

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