何でも欲しがる妹は、私の命が欲しいみたいです。
婚約者であるアレク様と私の妹エレジアが、こっそりと密会を何度もしていることに気が付いた。私はショックではあったけれど、それもしかたがないと心の奥底では受け入れてしまう。アレク様は金髪碧眼でまさに王子様のような容姿で将来有望なうえに性格までいいときている。妹のエレジアは光の加減で桃色に輝くプラチナブロンドの髪色に青い目でお人形みたいに可愛い。私は茶色の髪と目で平凡な顔立ち。そして妹は私のものを幼いころから何でも欲しがって、私が初級魔術試験に受かって手に入れた盾をみれば「お姉さまだけ貰えるなんてずるいですわ!」と泣きわめいて、「そんなに欲しいならお勉強なさい」と私が言ってしまったばかりに、魔術の勉強を始めたらめきめきと実力を伸ばし、私よりも2才も早く盾を手に入れた。そう、妹は天才なのだ。二人が惹かれあうのもしかたがないと思う。あふれる涙をぬぐいながら私はある計画のために、荷物をまとめて家を飛び出した。
私の自尊心のために、他の分野でがんばろうとすれば「ずるいですわ!」と言って妹がついてくる。マナーだってなんだって、私だけが持っているとずるいのだと食らいついてくる。あの子は努力家なのだ。それが恐ろしくて私はどうにか追いつかれないように様々な趣味や勉学に手を出した。そうして広がった見識で、ある日手に入れた古代文書を読み解いたところ、この世界に魔王が復活しそうであるということを知った。この魔王を倒すためには多くの犠牲が出るのだと、占星術でもわかった。私は古代魔道具を集めて研究し、自らの命と引き換えに魔王を倒す術式を完成させていたのである。どうせアレク様に捨てられる運命なら、もう死んでしまってもいい。アレク様だけは私をみてくださっていると信じていたのに。
背負った鞄から取り出した聖水をいくつも投げてゴースト系の魔物を追い払う。じめじめとしてかび臭い暗い洞窟の奥に祭壇があり、そこに魔王が復活するのだ。魔法で光の弓を作り出しながら、妹なら私がひとつ矢を放つころには十本は作れているだろうなと自嘲する。あの子の光の矢は奇麗だった。本当に憎らしくて、恐ろしくて、可愛い私の妹。貴方が光の中を無事に生きていけるように、私は何が何でも魔王を退治しなければならない。突然、獣の遠吠えが響く。洞窟の中で反響して、どちらからの音かわからないが、すぐに私は理解する。前と後ろどちらからも聞こえていたのだった。挟み撃ちになる。そう気が付いた時には私の足は震えていた。
「お姉さま!その命と引き換えに魔王を倒し、聖女として歴史に名を残そうなんて、ずるいですわ!」
「エレジア!?その服は私のものじゃない。まさか、勝手にクローゼットを開けたの?」
後ろから私のドレスと靴を身に着けたエレジアが飛び出す。そして幻影魔法で私そっくりになった。ヘルハウンド達は匂いまでほぼ同じな私とエレジアに、一体どちらを狙えばいいのかと一瞬判断が鈍った。くるりとダンスでもするように靴のヒールでヘルハウンドを刺す妹。私も負けてはいられない。鞄から取り出したチェーンフレイルを振り回して、応戦する。めきゃりと骨のきしむ音がして敵が吹き飛ぶ、私のお気に入りの武器だ。二人で回りながら数十匹を倒すと、残りは怯えながら逃げていった。
「やれやれ、とんだ暴れん坊だな君は。知らなかったよ。もう婚約者ではいられない」
「アレク様!?どうしてここに……!」
私たちを影から狙っていた上級悪魔に剣を突き立てながら、アレク様が笑っていた。
「惚れ直したよ。もう耐えられない、今すぐにでも結婚しよう」
甘い笑顔でそう言われてしまって私は一気に自分の顔が赤くなるのを感じた。
「お姉さま。いけません。この男は偏執的でいずれ何かをやらかしますよ。あと駆けつけるのが遅すぎますわ」
エレジアが、ふんと鼻を鳴らして言った。
「僕は愛しい人と一緒になれるのなら、やらかしたりしないと何度も言っているのだが……。きみの妹君は、ずいぶんと心配性だね」
アレク様は私から一切目を離さず、妹には見向きもしていない。どうやら全て私の勘違いだったみたい。一人で勝手に思い詰めてしまっていたのだとわかって恥ずかしいので、もう帰りたいくらいだけれど。
「ありがとう二人とも来てくれて。そして相談もしないで、思い込みでここまで来てしまって、ごめんなさい」
「お姉さま。いつだってお姉さまは私の憧れで、かっこいい最高の姉なのだから謝罪なんていらないわ!」
私の手を取って微笑む妹は欲張りで、私のものは何でも欲しがって、どこに行くにも着いてきてしまう。そんなこの世にたったひとりの大切な妹だ。