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[ 005 ] 兄のため

 それからは怪我をした男たちが牢屋の前に来て、牢屋から僕は手だけ出して回復を施す日々が始まった。


 後日に分かったことだけど、この回復魔法は距離が離れるとものすごく魔力を消費するらしい。直接の手を触れて回復を施すと、僕の魔力でも十人ほど回復することが出来た。


 しかし、毎日盗賊団が怪我を負っているということは、誰かが盗賊団と戦った結果なのではないか? 僕のやっていることは逆に自分の首を絞めているのかもしれない。そんな事を考えたりもした。


 でも、治癒を止めれば兄さんが殺される……チャンスは必ずある。今自分に出来ることをしようと思い、怪我人がいない時はこの重い足枷があっても、歩いて逃げれるように脚を鍛えることにした。


 無駄な体力を使わない方が良いのかもしれないが、幸い僕に死なれたら困るのか、盗賊団は水や食事は満足に出してくれた。


――そんな日々が一年も続い頃、僕の体にいくつかの変化が訪れた。


 まず、毎日二十人近く回復しても魔力が切れなくなった。それに回復魔法を何度もやっていくうちにコツを掴んだ。今までは患部以外にも回復が掛かっていて無駄な回復を行っていたが、魔力を眼に集めることで淀んだ生命力の流れが視れるようになり、的確な回復が行えるようになった。


 それに逃げ出すための足の筋力強化も、この五十キロ近い足枷があってもギリギリ歩けるようになってきた。


――そして、二年目。


 ある時、親方も含む盗賊団のほぼ全員が致命傷を受けて帰ってきた。この人数のこの怪我を治すためには、自分の魔力だけでは足りないと思い、回復を施す時に相手の魔力も少し利用するようにしたら、普段の半分以下の魔力で回復が可能な事を発見した。


 そして足の筋トレは、普通の速度で歩けるようにまでになった。長時間の逃亡は厳しいけど、三十分くらいなら逃げれると思う……。


――三年目


 盗賊団は百人を越す規模となり、手柄を取ろうと無茶をするようになったのか怪我人が続出。


 この頃、患者の体内に発動寸前の回復魔法を残して、怪我をしたら対象者の魔力を使い自動で回復させることに成功した。遅延回復魔法の誕生である。


 これには盗賊団の親方であるガイゼルも喜んだが、盗賊団の生存率が飛躍的に上昇した反面、無理をする者が続出し結果としては大怪我の患者が増えた。


 足の方は短時間なら走れるほどまでに足腰が鍛えられた。これなら逃亡の際に邪魔にはならないと思う。


――そして、盗賊団に拉致されてから四年目……。


 ある日、盗賊たちが近くに王国騎士団が来ているという話をしていた。


 二年前と同じで僕が盗賊団を回復をし続けることで逆に僕の救出が困難になっている可能性が高いと考え、一か八か、遅延回復魔法に罠を仕掛けた。


 盗賊団が少しでも怪我をした場合、即座に回復魔法が発動するが、盗賊団の魔力を枯渇するまで過剰に使い回復を行うように……。


 それがうまく成功したのか、遅延回復魔法に罠を仕掛けてから一週間。見張り番を残して盗賊団は誰も帰ってこなくなった。そんなある日……。


「王国騎士団?! 貴様……どうしてこの場所が!」


 洞窟の入り口の方から見張り番の怒鳴り声と共に、キンキンと金属がぶつかり合う音が激しく洞窟に鳴り響く。しばらくやり合った後、盗賊団の断末魔が響き渡った。


 カツンカツン……今まで聞いてきた盗賊団の靴音ではない、金属製の足音が洞窟の中に響き渡る。


 息を潜めて牢屋の隅に隠れていると、牢屋の前を通ったのは白銀の鎧と籠手を装備した青い髪の優しい顔の男だった。


 男は何かを探しているような素ぶりをしているが、先ほど聞こえた王国騎士団という単語から、やっと救助が来たのかもしれないと頑張って声を上げた。


「あ、が……ぐ!」


 長年喋っていなかったせいで、うまく言葉が出なかった……。


「うわ! なになになになに?!」


 白銀の鎧を着た男は腰から素早く剣を抜くと、右へ左へと構えてその場でクルクルと回り始めた。ちょっとおっちょこちょいな人なのかもしれない。


「げほっ、がはっ……あ゛、あああ、あの」

「え? 誰かいるの?」


 牢屋の中は暗くて男からは見えていなかったらしく、格子の近くまで歩いて行くが、今の僕は四年間髪が伸びっぱなし顔が髪に埋まっていた。


「うわああ! おばけー!」

「た、助けてください!」

「え……こ、子供? 捕まってるの?」

「はい……ここにずっと囚われていまして」

「なんて事を……わかった。いま格子を壊すから下がってて」


 男は一歩下がると剣を上段に構え直して、魔力を練り始めた。


「アングリーフ……」


 呪文のようなものを唱えた瞬間、男の両腕が赤い魔力で包まれる。溢れるほどの魔力を腕に纏い、男は剣を振り抜いた。


「はぁああああ!」


 信じ難いが、キンッと高い音を鳴らして鋼鉄製の牢屋の扉が、細剣の一撃で見事に真っ二つになった。いまのも魔法なのだろうか。


「大丈夫? 当たらなかった?」

「はい。ありがとうございます」

「あ、俺の名前はハリルベル。怪しい者じゃないよ」


 ハリルベルと名乗った男は、明らかに怪しいが盗賊団の一味では無いことは確かだった。逃げるなら今しかない。この日のために足枷があっても歩けるように訓練してきたんだ。


「あの……兄さんも捕えられているはずなんです! 助けてください!」

「え? いや、他も全て回って最後にここに来たけど、君以外に捕えられている人はいなかったけど……」

「そんなはずは!」

「ごめん。あんまりここに長居すると、奴等が戻ってくるかもしれない。とりあえず一度ここから逃げよう」


 強引にハリルベルに手を引かれて、僕は四年ぶりに洞窟から出る事に成功した。

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