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[ 002 ] 兄と僕

――生まれ変わりから九年


 この世界はどうやら中世ヨーロッパくらいの文明のようでいまだに馬車が主流。テレビも無ければスマホもない世界だ。両親は名のある貴族でそれなりに土地を管理しているらしい。


 らしいというのは僕が九年間、一度もこの屋敷を出たことがなく、外部の人間と接触をしていないので、屋敷の外の状況がわからないからだ。


 両親は、頑なに僕を家から出さないように、そして他人の目に触れないようにしている。


「兄さん、おかえりなさい」

「ああ、ロイエただいま。今日は何してたんだ?」


 僕には、少し年の離れた兄がいた。僕は銀色の髪に青い瞳だけど、兄は鮮やかな赤にオレンジが混ざった炎の様な髪と黒い瞳を持っており、とても優しくカッコいい自慢の兄だった。


 普段は学校に行っていて家にいないが、夕方には帰ってきて夕飯の時間まで勉強を教えてくれる。


「兄さん、教えて欲しいことがあるんだ」

「いいよ。ロイエの部屋に行こうか」


 走って自分の部屋へ向かうと中庭に出た。我が家は四角い形をした屋敷で、中央のここは外からは見えない箱庭。ここだけが僕に許された外出だった。


「あれ?」


 中庭に出てみると、ベンチの前に小鳥が倒れているのを発見した。羽と足を怪我しているらしく、飛ぶことも歩くことも出来ずただじっとしている。


「今、治してあげるからね」


 僕は小鳥を手に乗せると、身体中から魔力を集め回復魔法で小鳥の怪我を回復させた。


「ロイエ! それダメって言われたろ!」

「あ……ご、ごめんなさい……」

「お母さんに怒られるの俺なんだぜ?」


 僕が回復魔法の存在に気付いたのは三歳の頃。転んで擦り傷が出来てしまい、とっさに手で傷口を触った時だった。身体中から暖かい何かが込み上げてきて、手のひらへ集まり淡い光と共に傷が治った。


 それを両親に話したら、えらく驚きつつもこの力について説明してくれた。


「いいかい、ロイエ。これは大事な時にしか使っちゃダメな力なんだ。人前では絶対やっちゃいけないよ」

「う、うん」


 父親のその覚悟の瞳を見て、深く頷いたのを覚えている。でも、大事な時にしか使っちゃダメという両親の教えには納得してない。


 だって回復魔法だよ? ヒーラーってやつだよね。医者であった僕からしたら、こんな素晴らしい物がある世界なんて最高だよ。怪我人を直ぐに癒せるし、この世界は前世よりきっと怪我人や死者が少ないんだと思う。


 いつかこの魔法で、世界中の人の怪我を治してあげたい。僕はこの世界でも医者になりたい。その思いから両親の目を盗んで自分でわざと怪我をしたり、こうやってたまに箱庭にやってくる動物達に回復魔法をかけて練習していた。


「兄さん……なんで使っちゃいけないの、この魔法で怪我してる人や困ってる人を救いたいよ」

「ロイエ……。お父さんも言ってただろ。十五歳になったら教えてやるって」

「だって納得いかないんだもん」

「そんな顔したってダメだ」


 膨れっ面をしていると執事が呼びにきた。


「御夕飯の準備が出来ました。本日は旦那様も奥様もいらっしゃいませんので、お二人での御食事となります」


「あ、そうだった。今日はお城で会議があるから帰れないって言ってたね」

「……そうだな。じゃぁ夜更かしするかー」

「ダメですよ」

「ちぇっ」


 執事に見張られながら、兄と二人だけの食事を終えてお風呂を終えると、執事にベットへ押し込まれた。よほど強く両親から言われていたらしい。


 仕方なくベットに横になり思いを馳せる。


 両親が僕を家から出さない理由。

 回復魔法を公に使ってはいけない理由。


 不可解ではあるが、彼らからは悪意は感じられない。それでも言えないとなると、何かしらの理由があるのだろう。これだけ裕福な生活をさせて貰ってるし、十五歳になったら教えてくれるなら待つしかない。


 それよりも、現在進行形で困っているのは夢だ。この五年間、いまだに病院での患者達の悲痛な叫びや旦那を救ってくれと懇願していた女性の夢をみる。


 あの時、この力があれば……何人の人を救えたのだろうか。そんな今更悩んでもどうしようもない事を考えながら眠りにつく。

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