[ 001 ] 新しい暮らし
――ここは……どこだ?
「おめでとうございます奥様。元気な男の子ですよ」
「でかしたぞ! リリア!」
僕は確か、病院で刺されて……。
ぼんやりとしていて視界が悪い。誰かいるようだがうまく見えない。頑張って目に力を入れると体の中から何か暖かいものが目に集まっていく……。
「なんて可愛いのかしら。ロイエ。お母さんですよー」
「何?! 男だったらアルスにする約束では?!」
「そうだったかしら? ロイエが良いわよねぇ?」
目に力が集まると、不思議なことに次第に視野がクリアになり、周囲の光景がくっきりと見えはじめた。
どうやら僕は死んで生まれ変わったらしい。先程の会話からも僕を抱きしめているのは母親で、この男性が父親か。背後には慌ただしく何かを用意している女性が見える。
「……?」
部屋の様子を探ろうとキョロキョロしていると、母親が僕の前でピースサインを作り、右へ左へ動かし始めた。なんだ……? 思わず目で追うと母親の表情が険しくなる。
「まさか……見えてるの?」
「なんだと?! そんな馬鹿な。産まれたばかりだぞ」
そうだよね。乳幼児は物をちゃんと追えるようになるまで三、四ヶ月かかるはずだし。どうなってるんだろこの身体。疑問だらけで頭の中が膨れる中、父親が何やら道具を持ってきて僕の額に当てた。
「これは、なんてことだ」
「あなた……」
母親が僕をぎゅと抱きしめた。さっきのなんの道具なんだ? なんか病気でもしてるのか?
「こ、この事は絶対に秘密だ! いいな」
「ええ、絶対にこの子を、ロイエを守りましょう」
「ああ、絶対に守ろう……」
なんの話かわからないが、僕はどうやら本当に生まれ変わったらしい。最悪なことに前世の記憶を持ったまま……。
記憶を持って生まれたことに対して、最初に抱いた感情は後悔だった。僕は大災害で怪我人を、誰一人として救えなかったということだ。
なんのために医者になったんだ。子供の頃から母親に言われて勉強勉強の毎日。おかげで一人称を僕から俺に切り替えるタイミングを、見失ってしまった。
それは別にどうでもいいか……。医者になったからには一人でも多くの人を救いたい。そう志して医者になったのに。
刺されたけど、あの女性に恨みはない……。彼女の気持ちもわかる。だから尚更、記憶を無くして生まれ変わりたかった。
気がつくと自分でも信じられないが、おぎゃおぎゃと泣いていた。それを見た母親は、安堵した表情で優しく僕の頭を撫でた。