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[ 164 ] ミネラの防具屋

 港を後にすると、ロゼと東側へやってきた。


「ここは鍛治師のために増設されたエリアなんだ」

「へぇ、それは凄いですね。商売の匂いがぷんぷんします!」

「はは、それは確かに当たってるかも」


 商人のロゼにとってはこの場所が何より楽しいらしい。ナッシュやフォレストでは見たことのないような、奇抜な装備や道具が店の軒先で売られており、歩いては立ち止まり質問をしている。


「……という事はこれの量産は可能ですか?」

「量産はキツイな、いや条件次第か。素材の運搬が……」

「あのロゼ……」


 ふと目を離した隙に、店主と何やら交渉を始めてしまった。


「あ! ご、ごめんなさい。つい……。あの先ほどの話はまた今度!」

「おう、いつでもこいや」


 ロゼが見ていたのはアクセサリー屋だった。


「あのお店のアクセサリーが、物凄く精巧で小さかったんです。物を小さく作る技術は、なかなかわたくしも見たことがなくて……」

「そ、そうなんだ」

「すみません。わたくしは冒険者なのにまだ商人の癖が抜けなくて……」

「冒険者をしながら商人をやっても良いんじゃないかな?」

「そ、そうですか?」

「うん、その方がロゼっぽいよ」

「そう言って頂けると嬉しいですわ。ふふ」


 活気のある東のエリアを歩くと、すぐに目的の店に辿り着いた。


「すごく……散らかってますね……」

「う、うん」


 ミネラの防具屋は、いつもに増して店の外へ兜や鎧が散乱し、道端にまではみ出している。


「あれ、ミネラのお婆さんがいないな……」

「ミネラさん……?と言うのは?」

「あ、えーと、僕の防具の作成を依頼してる女性なんですけど」

「可愛いですか?」

「そうですね。素朴さがあってかわ、えぇ?」

「ロイエさん? わたくしとレオラさん以外にもたぶらかしてる方がいるんですわね?」

「ち、違う違う、ミネラとはそんなんじゃないよ」

「ほんとーですか?」


 ミネラとはギルドの依頼の時だけで、本当に何もないけど、疑い深いロゼがジリジリと詰め寄ってきた。


「誰じゃ! わしの家の前で騒いでる奴は!」

「あ、ミネラのお婆さん……」

「またお前か! 今度来たら許さんと……あ、痛たたた」


 杖を振り上げると、ミネラの祖母は腰を押さえてうずくまった。


「だ、大丈夫ですか?」

「う、うるさいぃいいたたたた!」

「お婆ちゃん!」


 叫び声に呼ばれて、店の中からミネラさんが飛び出してきた。


「あ、ロイエさん! こんにちは!」

「うぅうう!」

「お婆ちゃん大丈夫?! ど、どうしよう」

「ミネラさん回復薬です。すぐに飲ませてください」


 僕はポーチから、ただの水が入ったポーションを取り出してミネラさんに手渡した。


「え?! そんな高価なもの受け取れませんよ。寝てれば治りますから」

「防具を作ってくれているお礼ですから」

「そんな……」

「いーたたたた!」

「ああ、もう! ロイエさん! 回復薬頂きます!」


 ミネラさんが、お婆さんに偽回復薬を飲ませるタイミングで、お婆さんに無詠唱のクーアを施す。こないだの毒男の毒を誤魔化すのに苦労したから、こういう時のためにダミーの回復薬をいくつか用意してある。


「いたたた……はら? 痛くないわ! あらあら?」

「お婆ちゃん?」


 腰痛にもクーアは効くのか……。擦り傷や切り傷、打撲には効くからもしかしたらと思ったが、効いて良かった。


「なんじゃこりゃ! すーごく体が軽いわい!」

「こんな元気なお婆ちゃん見た事ない……。ロイエさんありがとうございます!」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 長年の腰痛が治ったお婆さんは、鼻歌を歌いながらくるくると回っていてピタッと止まると、僕の前にやってきた。


「おお! お主が治してくれたのか! いやー助かったわい。どうじゃお礼にミネラを嫁にやろう」

「え! い、いらないですよ」

「いらないってひどいです! ロイエさん!」

「あ! や! えっと、そういう意味じゃなくて……僕には勿体無いという意味で……」

「いやいやいや、遠慮することはない。なんならこのあと子作りに励んでもろてもいいからな」

「お婆ちゃん! もー! 怒るよ! あっち行ってて!!」


 ミネラさんに怒られたお婆さんは、「なんならわしの体も空いてるでなー」と言い残し家に戻って行った。台風みたいな人だ……。


「ご、ごめんなさい。ロイエさん」

「いえ、元気になってよかったじゃないですか」

「元気過ぎる気もしますが……あら? そちらの綺麗な女性は?」

「申し遅れました。冒険者のロゼと申します。いつもロイエさんがお世話になっております」


 ニコッと微笑んだロゼだが、明らかに敵意を剥き出しの営業スマイルだ。勘の良いミネラは察したらしく、早々に敗北宣言を行った。


「わ、わぁ。ロイエさんとロゼさんってお似合いですね。お付き合いされてるんですか?」

「うふふ、それ以上の関係です」

「わぉ、そんなに進んでましたか」


 自慢気に返すロゼだが、完全に誤解されてる。


「あ、あのミネラさん……誤解ですから」

「わかってます!大丈夫です!」


 本当に大丈夫かな……。わかってない気がする。


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