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[ 153 ] 内緒の話

「ギルドマスターともあろう方が、騒がないでください。魔法を解きますから、冷静にお願いしますね」


 氷漬けされたマスターが目だけで返事すると、ラッセが氷魔法を解除した。氷が溶けて自由になったマスターは、ガタガタと震える足を抑えてながら小声で僕に話しかけた。


「す、すまなかった。俺とした事が……。ロイエ、子供を助けてくれてありがとう。礼を言う」

「いえ、こんなことくらいしか役に立てませんので」


 氷漬けされた事で、マスターはいつもの豪快さが消え、しおらしくなっていた。なんだか気持ち悪い……。


「この事は他言無用だ。ラッセ、レオラ、わかったな?」

「うん、ロイエの秘密は墓まで持っていくよ!」

「私は元々知っていました」


 なんだって?とマスターがラッセを睨みつけるが、当の本人は涼しい顔をしている。


「ラッセ! テメェいつから知ってやがったんだ! 俺に言うくらい、いいだろうが!」

「声が大きいです。うるさいです。兄から秘密裏に便宜を図ってくれと教えられただけです」

「ならアウスも一枚噛んでやがんのか……」


 あんまり広めないで欲しいなーと思うけど、こればっかりは仕方ない。信頼できる仲間には打ち明けた方が、今回みたいに何かあった際に早く対処できる。


「ねぇ、ロイエの回復魔法って麻痺とかも治せる?」

「やった事ないけど、たぶん……誰か麻痺してる人がいるの?」

「うん、私のお母さんなんだけどね。元々ヘクセライを出てきたのも、お母さんの病気に効く薬草を探してってのもあってね」


 魔法の原理がよくわかってないからなんとも言えないけど、脊髄圧迫などから来る麻痺は流石に無理な気がする……。たぶん魔法で治せるのは、神経毒みたいなものくらいじゃないかな……。


「さっきも言ったけど、フォレストの後はヘクセライに寄る予定だから、寄った時に尋ねてみるね」

「……ありがとう」


 涙を流しながら喜ぶレオラは、僕の手を握るとぶんぶんと振り回してきた。


「おーい、お取り込みのところ悪いんだけどよ。ロイエ、これ以上、回復魔法のことを広めるんじゃねぇぞ。回復魔法を闇を呼ぶと言う、知ってる者が少ないに越した事はない」

「そのつもりです」

「ラッセ、お前……ロイエのギルドカードの更新をしたって言ったただろ。勝手に俺まで共犯にしやがったな」

「何か問題でも?」

「ねーよ! でもちゃんと言え!」

「マスターが声が大きいので、あまり話したくはありませんでした」


 なんだとー!オレはマスターだぞ?! それが何か?とラッセとマスターの掛け合いが続く中、グイーダが母親を連れて戻ってきた。


「マスター! お母さんを連れてきました! 男の子の容態……は、あれ?」


 テーブルの上ですやすや眠る男の子をみて、首を傾げているグイーダ。困ったことに言い訳を考えていなかった。マスターもラッセも僕の方を向いて頭を悩ませている。


「治ったんですか? ロイエさんが解毒薬をお持ちだったとか?」

「あ―、そう! そうだ! ロイエの奴が持ってたフォレストの解毒薬が効いたみたいだ! ガーハハハハ!」


 ラッセに視線を送ると無言で頷いていたから、マスターの話に乗る事にした。


「そ、そうなんです。フォレスト産の解毒薬はよく効くなー」

「はぁー、よかったぁ。ロイエさんありがとうございます。もうダメかと思いました」


 男の子の母親は、男の子に抱きついて泣きじゃくっている。死にそうだと聞かされた親の心境を考えると無理もない。


 ふと、前世で黒のタッグをつけられた被災者を手の施しようがないと言って、見限った時の親族の顔を思い浮かべた。あれは、どうしようもなかった……でも、この世界ではどうにかなるかもしれない。


 どうにかなる場面なら、秘密だなんて言ってられないな。


「ロイエ! これ持っていけ!」


 マスターが渡してきたのは金貨の入った袋だ。ギルドで依頼を達成する時に貰ったことがあるからわかる。


「なんのお金ですか?」


 中を開けると金貨が三枚入っていた。


「解毒薬の代金だ。受け取っておけ」

「ありがとうございます」


 なんだかんだ僕も金欠だ。もらえるものは貰っておこう。


「しかし、どうして毒にかかったんでしょうね」

「……おと、男の人……が」


 男の子の意識が戻ったのか、少し辛そうな顔をしながら体を起こした。


「無理しないで」

「だい、じょうぶ……。あ、あのね。僕、噴水の近くで知らない男の人にお水貰って飲んだら……気持ち悪くなって……」

「マスター!」


 事故ではなく、事件だと分かった時のマスターの決断は早かった。


「すぐに街を封鎖だ! 逃すな! グイーダは市長に連絡! ラッセは港長のポルトに! ロイエは街の東門! レオラは西門! 俺は南門に行く! 各自シュテルンを見つけたら町中に警告を流すように伝えろ!」


「「「「はい!」」」」

 

「「ジオグランツ!」」


 レオラと僕は自身へ重力魔法をかけると、それぞれの持ち場に向かって駆け出した。

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