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[ 010 ] ハリルベルの焔

 五匹のブラオヴォルフは意思疎通が取れているらしく、まったく隙がない。いつのまに近づかれたんだ。


「どうして……」

「おそらく、先ほど水を飲んだ時に遠目に見られていたってことだ」

「どうしましょう」

「今の俺では、一匹……いけて二匹が限界だと思う」


 ハリルベルの自己評価は正しいのだろう。つまり五匹にで襲われている時点で、僕らの死が確定している。


「俺が囮になるから、ロイエは全力で逃げろ」

「そんな……」


 僕のことを助けてくれたハリルベルを見殺しにして逃げるなんて出来るわけが無い。


『見殺しにするのか』


 また僕の中であの言葉が、フラッシュバックする。


「見殺しにはしません。僕も戦います。そもそもこの重い足枷をつけて、こいつらから逃げられるとは思えません」

「そうか、ごめん……」


 考えろ。この状況を打破する方法を……。手持ちのカードで何が出来るか、回復でハリルベルを援護しつつ強引に切り抜けるか? いや、回復魔法には連続発動出来ないという欠点がある。

 

 それならばと、今のうちにハリルベルに遅延回復を仕込もうと思ったが、昨日の戦いで彼の魔力は回復しきっていないかもしれない。


 攻撃に使う魔力を遅延回復で消費してしまい、技が使えない場合が最悪だ……。どうする、どうすればいい……!


 しかし、作戦を練っている時間をブラオヴォルフは与えてはくれない。左に待機していたブラオヴォルフがその鋭い牙でハリルベルへ襲いかかった。


 ただ眺めているしか出来ない僕は、昨日の火炎剣で返り討ちにするのかと思ったら、何故かハリルベルは左の籠手を差し出した。鋭い牙が左腕へ食い込む。


「ハリルベル!」


 早く回復魔法をと思った矢先。正面と右に構えていたニ匹が同時にハリルベルへ飛びかかる。


 絶体絶命のピンチ。もうダメだと思ったその瞬間。ハリルベルは逆にチャンスへと変えた。


「ヴェルア・オルト!!」


 先日みた火炎よりも、さらに巨大な火柱を纏った剣が空を一閃。左腕に喰らい付いていた一匹と、飛びかかった二匹の三体のブラオヴォルフはまともに爆炎の剣閃を食い爆散し魔石になった。


「す、すごい……」


 ハリルベルにこんな奥の手が残されていたとは……三体同時に仕留めるために、あえて一匹目の攻撃は受けたのか……。なんて感心してる場合じゃ無い! 早く回復を!


 慌ててハリルベルへ近寄ろうとしたが、僕の背後にいた二匹が僕たちの間に回り込んできた。くそ、びびって逃げてくれよ……。


 ハリルベルに視線を向けると左腕に喰らい付いたブラオヴォルフを倒すために、自分の腕も技の範囲に入っていたらしく火傷をしている。さらに魔力不足を起こし崩れ落ちるハリルベル。


「グルルルルゥゥ」

「グルゥウガァァー!」


 チャンスとばかりに様子を伺っていた二匹のうちの一匹が、ハリルベルへと跳躍せんと力を貯めた。


(この重い足枷をつけて、こいつらから逃げられるとは思えません)


 どうしようと思った……その瞬間、先ほどのハリルベルとの会話が何故かフラッシュバックした。そうだ、その手が……!


 ハリルベルの首目掛けて跳躍したブラオヴォルフに合わせて、僕も跳躍するとブラオヴォルフの頭を目掛けて、激重の足枷で蹴りをお見舞いした。


 グシャッとした心地よい響きと共に、ブラオヴォルフの首が折れると、魔石となり地面に落ちた。


「はぁはぁ、どんだけ……重いか分かったか」


 重い足枷をつけたまま跳躍したせいで足が折れ、おかしな方を向いている。慌ててクーアを唱えて怪我を直し、最後の一匹へと向き合う。


「来るなら来い! もう一発お見舞いしてやる!」


 仲間がやられてビビったのか、最後のブラオヴォルフはそそくさと森の中へと逃げていった。


「はぁはぁ、なんとかなった……あ、ハリルベル!」


 慌てて駆け寄ると、顔面蒼白に手はまる焦げで、いつの間にか受けた足の傷は骨まで露出して虫の息だ。ハリルベルの魔力を利用しないよう、自分の魔力のみを使ってハリルベルを全回復させた。


「ぅ……うぅ、ロイエ……大丈夫、か」

「はい! ハリルベルさんのおかげでブラオヴォルフは退けましたよ!」

「よかっ……おえっ」


 ポーチを探したが、ブルーポーションはもう無いみたいだ。僕はハリルベルを引きずると大きめの岩の後ろへ寄りかからせた。


「気分最悪……ぅぷ」

「これは魔力が自然回復するまで待つしか無いですね」


 先程逃してしまったブラオヴォルフが戻ってこないか、仲間を連れてこないかだけが心配だったが、いまはハリルベルの魔力が回復するまで待つしか無い。


「前の戦闘もそうでしたけど、剣を燃やしたのはどんな魔法なんですか?」


 三十分ほど休憩して、ハリルベルの表情がだいぶ和らいできたので、話しかけてみた。


「うぷ……ああ、魔力回路にも人によって得手不得手があってね。俺は魔法回路は、炎属性で短距離系の回路だから遠距離は苦手でね。ご覧のように剣に纏わせて攻撃してるんだ」


 ということは、僕も短距離が得意で、遠距離は苦手なのかも。洞窟に連れてこられた最初の日は牢屋の格子越しに離れてやったら、たった二人の回復で魔力切れを起こした事を思い出した。


「逆に遠距離が得意な回路を持ってると、短距離では魔法が出ないらしいよ」

「なるほど……」

「さて、そろそろ移動しようか」

「まだ休んでいた方がいいんじゃ」

「いや今日中に町に入りたい。昨日の携帯食料だけで、ろくに食べてないからね」


 僕の回復魔法も、怪我は直すが失った血までは戻らない。昨日と先ほどの戦闘でハリルベルも相当の血を失った。ちゃんとした場所で休んだ方がいい。、


「たぶんここからなら、あと三時間ほどで街へ入れると思う。慎重に行こう」

「はい」


 それからの道中は、特にモンスターに襲われることもなく、昼過ぎには炭鉱の街ナッシュの裏門へと辿り着くことが出来た。

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