5話
プリム、ミリアと会ってから3日経った時に美術商から取引をしたいという相手が現れたと連絡があった。この3日間はミリアのいる教会に通い続けてお話をして暇をつぶしていた。もちろん通い続けている間も手土産も忘れていない。
私は美術商からの伝言を宿の女将から受け取って美術商の元に向かった。店内に入ると店主がこちらが入ってきたのを気付いたようで店の奥から出てきて話しかけてきた。
「こんにちは。店主さん。」
「ラミーアさん、お久しぶりです。ささ、立ち話もなんですから。」
私は店主に促されて店の奥に行きテーブルについた。
「まずですね。この先日、受け取った貨幣ですがこの町の評議員のザロモン様が買取したいと申されまして。ザロモン様は武具や絵画でも多様な物を収集する収集家でこの貨幣も大量に所持しているらしいのですが...。収集家の考えることはよくわかりませんね。」
この町は評議会で自治されているらしくそこの評議員が貨幣の購入に意欲的だそうである。評議会の事はミリアから聞いていた。
「そのザロモン様との取引は何時頃ですか?」
「明日、ザロモン様のお屋敷にて商品と料金の授受を行う予定です。なので明日は宿にお迎えに向かいますのでそのままお屋敷に向かいましょう。」
私はその後少し話をした後に店を出た。
後日、店主が宿まで迎えに来たのでザロモン邸に向かった。ザロモン邸は他より大きいが私が本の中でみたことがあるお屋敷の想像と違っていたので少し残念な気持ちになった。
店主がザロモン邸の扉についているドアノッカーで叩いたら中から若い女中が出てきた。
「こんにちは。美術商のカイルです。」
「カイル様、お待ちしていました。」
私達は女中に応接間まで通された。部屋の中に入ったら帽子を外すのが礼儀なので外ずすと私の耳が見えてしまうため事前にカイルさんから包帯を渡されて頭に巻いておいてくださいと言われている。そのため頭から顎まで包帯でぐるぐる巻きになっている。なにか聞かれたらケガをしたと話を合わせてくれることになっている。
応接間で待っていると応接間にザロモンが入ってきた。
「カイルさん、ようこそおいでくださいました。」
「いやどうも、ザロモン様。さっそく始めましょう。こちらが古王国のトネル貨幣です。」
「トネル貨幣だけは。いくら集めても飽きませんなあ。トネル貨幣は古王国の各地の造幣所によって少しだけ意匠が違いましてな、年代、場所と違ったものが見られるのが楽しいものでしてね。そして今回の貨幣は・・・」
その後も貨幣について長々と語った後に収集し始めた経緯から話し始めてしまった。事前にザロモン様は話好きな所があるからと伝えられていたが、いやはや話が脱線しすぎではないかと思い隣を見ると。
「はい。すごいです。」
「それでな・・・」
「さすがです」
この美術商、相手の様子をみつつ適当に相槌を打っているだけで全く話を聞いていなかった...。取引相手にもこういった手合いが多いのか慣れている様子に感心してしまう。
「あの...。ザロモン様そろそろ。」
さすがにこのまま話し続けられたらキリがないと考えたのかカイルは話を遮って話しかけた。
「ん?あぁそうか他にも仕事はあるだろうからな。引き留めてすまなかった。これが代金だ。」
そういうと紙を取り出しテーブルの上に置かれカイルが置かれた紙を確認するとしまいこんだ。
「ありがとうございます。では次回からも御贔屓にお願いします。」
私達はそのままザロモン邸を後にしてカイルの店についた。
「カイルさん、受け取ったのは紙だけで代金はどうしたのですか?」
「この紙はお金の代わりになるもので金札というんだよ。」
「簡単にいっぱい作れそうね」
「それは無理だ。この札を透かして見てごらん。」
金札を渡されて透かして見てみると複雑な紋様が浮かんできた。
「その透かしは偽造が出来ないからね。この技術のおかげもあって、この札の信頼がある。」
たしかにこの模様を紙に刷るだけでもかなりの技術が必要だろうましては透かしとなるとなおさらである。
「そして、今回の取引は喜ばしいことに予想より高い値段が付いたから。私的にはだいぶ満足した結果だったな。はい、これがラミーアさんの受け取る仲介料を抜いた分の代金だ。」
札の中から何枚か抜いて私に渡してきた。
一枚の札に書いてある値段と枚数からみるに、仲介料を引かれた額でも、ものすごい量になっていた。
「大金を持っているのは少し怖いのでこの町に出るときに受け取りに来ますので店に置いておいてもらって構いませんか?」
「構わないけど...。これから行く場所とか決まってるのか?」
「そうですね。海に向かおうかなと思っています。わたしずっと森暮らしだったので海の景色って憧れなんですよね。」
海は本の中でいろいろな情報を読んできたが森の中では知りえないことばかりなので楽しみなことが多い。
「それなら。ポルソンという名前の港町が南に向かってずっと行くとあるから行くといい。あそこは漁業も盛んだが貿易の盛んな港湾都市でね。色んな物が見たいというならそこがぴったりな場所だよ。それに、お金が集まる場所だから金札が発行される銀行があるそこで口座を作ってはいかがかな?お金を預けて手持ちには使う分だけ持つといい。」
「それだと各地を旅をしているとお金が必要になった時に困りませんか?」
「必要になったら各地の支部から引き出すことが出来るよ。本部に問い合わせるのに時間がかかるからその間の生活費は即金で渡してくれるから利用するといい。」
そもそも口座を開くための条件に一定以上のお金を預けることが条件なためにこのようなサービスがあるらしい。
「ありがとうございます。2日後にこの町を出ますのでその時に。」
翌日、私はこの町を出ることをミリアに伝えるために教会まで訪れていた。
「ミリアさんおはよう。明日から町を出るので挨拶をと思って。」
「えっ?ラミーア、町からでるの?」
どうやらミリアはこの町に移り住んできたものだと考えていたようで私が旅をする途中でこの町に立ち寄っただけですぐに出るつもりだったと伝えた。
「ラミーア、本当にこの町に住まないの?」
「えぇ。旅をするのがわたしの夢だから。」
「ん~。じゃあ私も付いていって良いかしら?」
「わたしは構わないけど。あなたはここを離れてもいいの?」
「別にこの町から離れたら死ぬわけじゃなくて、それにこの町にはプリムもいるから。」
「離れるならプリムくんに言わなくていいの?」
ミリアが自分で決めて出ていくにしても知り合いならプリムに挨拶に行かなきゃいけないだろう。
「やっぱり。言いに行かなければいけないわよね...。」
前に知り合いかと聞いた時もそうだけど微妙な反応を返される。
「ねぇ。ミリアさん、プリムくんとなにかあったの?前に知り合いかと聞いた時もそんな感じだけど?」
「なんだか。会いにくくて...。」
「喧嘩とかしたの?」
「そういうわけじゃないのだけど...。前に生まれた時からの知り合いって言ったわよね?あれは比喩でもなんでもなくて私が意識が生まれた時に目の前にいたのよ。知らない場所、知らない状況で不安だった私に教会の象徴としての在り方を教えてくれたわ。プリムを兄のようで弟のように思っていたのだけど会ってくれなくなって...。」
要は会いたいけど避けられていて最近は様子がわかるようになって元気なのがわかっているから会おうとしていないと。
「でも今回は会いに行かないといけないわよね?」
「そうだけど会う方法知っているの?」
「プリムはあなたの事、気に入ってるみたいだからあなたが行けば会えるわよ!たぶん。」
私なら会えるという確実性のない案だがその後にいくら考えても代案が出なかったため私が決行することになった。ミリアと一緒にいると出てくれなくなるかもしれないからだそうだ。私はとりあえず教会を出た後に最初に出会った噴水近くの路地に向かうことにした。
「たしかここよね。」
前にプリムと会った路地の前に来たけど路地は前にプリムと出会った時のような様子はなく普通の路地が広がっていた。
「どうしたものか...。」
ここは恥を忍んで名前を呼んでみますか。
「おーい、プリムくーん。」
「なんだよ。」
後ろを見るとプリムが立っていた。
「あっ。呼んだらでてきた。」
「別に呼ばれたから来たわけじゃないから。用事はミリアの事でしょ?」
「用がわかってるなら話が早い、なんでミリアと会わないわけ?」
「それはミリアの独り立ちのためだよ。」
「つまりどういうこと?」
「ミリアは教会の信仰の対象としての役目があるからずっと僕の世話になるわけにはいかないから距離を取ってこの路地から様子を見ていたんだ。」
「ミリアさんはあなたが合ってくれなくなったと理由がわからない様子でしたけど理由を伝えてないの?」
「一人でがんばって。とは伝えたけどなぁ。」
これは明らかに説明不足ではないのだろうか?ミリアの話していた口調的にいきなりいなくなったという感じだけど。
「それ伝わってないですよ?ミリアさん、寂しそうでしたし会えないからと会うことさえ諦めていましたよ?」
「そんなことないと思うけどないよね?」
「本人に聞いてみたらいかかがですか?」
本当に自覚が内容で全く慌てている様子がないので無理にでも連れて行った方が良いと考えてしまう。
「それとも行けない理由でもあるんですか?」
「いや別に。」
「だったら。今すぐ会いに行きましょう。どうせミリアさんがこれから、わたしと一緒に旅に出るってわかってるのでしょ?」
「わっわかったよ。会いに行くよ。」
私が会いに行くことを押すとプリムは顔を縦に振ってこたえた。プリムの手を引っ張って教会に連れていくとミリアはプリムが来ることがわかっていたようで入り口を向いて待っていた。
「....。」
ミリアがじー。とこちらを黙って見つめていた。何だろうかもの凄く気まずい。
「ミリア、ひ、久ぶり。」
沈黙に耐え切れずにプリムが口を開いたが言葉が引きつっている。
「今まで何で会ってくれなかったのですか?私が会おうとしているのわかっていたよね?」
ミリアがプリムを問い詰めている間、私は教会のステンドガラスを眺めながら今日の夕飯を何を食べようか考えながら時間を潰していた。そうしていると話が終わりそうな雰囲気を感じてミリア達の様子を見ると。
「つまり独り合点していたわけね...。避けられていると私が悩んでいた期間って...。」
ミリアが打ちひしがれていたプリムは少し疲れている感じだが原因は彼なんだから反省してほしい物である。
「ミリアさん、話は終わった?」
「えぇ、疲れたけど。あとプリム!」
「はい,,,。」
「知っていると思うけど私はラミーアと一緒に旅にいくから。当分、この町に帰って来れないからこの教会のこと頼んでもいいかしら?」
「構わないけどエルフの君はいいのかい?」
「ミリアさんが加わってもミリアさんは周りから見えないから旅していても目立たないし、一人より二人の方が寂しくないしね。」
エルフだとばれるのはまずいので大人数で目立つようなことをしたくは無いけどミリアは、周りから姿が見えないから目立たないからその心配はないのでそこは安心できる。
話しあいの後、ミリアに明日、教会の前で待っているようにに伝えた後に解散した。
なんだか今日は気疲れするような日だった。一応、誤解は解けたから良しとしよう。ミリアも怒った顔をしていたがプリムがもう一人前になったからの所で少し嬉しそうな顔をしていたのを私は見逃していない。
旅の仲間が出来るということをにやにやと考えながら宿に戻った。