2話
叔父に森の外まで送ってもらい、叔父を見送ってから西に向かって半日、歩いていくと森から一番近い村が見えてきた。
まだ日は明るいがこのまま歩き続けても大きな町にはつかないだろうので村で泊まれないか見て回ることにした。
私はひとまず村の雰囲気を見るために村の中心地に向かって足を向けて歩くと村の中心の建物の中から女の子が出てくるのが見えた。少女はこちらを見ると私の顔を凝視しているので警戒されないように挨拶をしてみることにした。
「こんにちは。森から来たラミーアと言います。村を見て回っているの。」
「もしかしてお姉ちゃんエルフ!?私、エルフに会うの初めてなの!」
女の子は私の耳を見てエルフだと気付いたようで驚いた顔になって珍しい物が来たと物珍しそうな様子になってこちらを見ている。
里のエルフが外に最後に下りて行ったのはずいぶんと昔の話なので人間の村の女の子が知っているはずがないはずなのに知っているということは何処かでエルフの話が残っているのだろうか?
「わたしも人に会うのは初めてで外の里を見るのも初めてよ。」
改めて女の子の顔を見ると本で読んだ通りエルフと違って耳が尖っていない。
体全体でみると小さな差異だがまじまじとみるとなかなか面白い。
女の子のかわいらしい顔に丸い耳でとてもかわいらしい。
「?。私の顔になにかついてる?」
まじまじと顔を見ていたせいで困惑させてしまったようで女の子は困った顔をしていた。
「いえ。かわいらしい顔だとおもって。」
女の子はそう言われると手を顔に当て顔を真っ赤にして目を輝かしていた。
「きれいなお姉さんに可愛いってぇぇ。」
どうやら照れているようで喜んでいる様子だった。
「ところでこの建物は何ですか?結構大きな建物だけど?」
村の中心にあった建物は他の建物より大きいためとても目立つ。
「この建物?この村の近くに生まれた聖人様の像があるの。みんなで順番に掃除するから今は私の番なの。」
「聖人?」
「うん。偉い人なの。」
人の世界ではどうやら人を祀る文化があるらしく聞いた限りは普通の人と変わりないようでどうやら人の世界ではただの人を神のように扱うらしい。
女の子は教会の奥に手招きしているので私は奥に行くと教会の奥には片眼鏡をかけた男性の像が建っていて足元に男性の功績と奇跡の数々について書いてありどれも偶然に起きた出来事に見える。
「どれも偶然に起きたように見える...。」
私はそんなものかなと思っていると女の子は続けて話しかけてきた。
「ねぇ!エルフさんって人間より長生きってほんとう?」
どうやら女の子はエルフの話を聞きたかったらしく食い気味に聞いてきた。
「エルフは人間より長生きってわたしも聞いたことあるよ。わたしも聞いただけだからわからないけど。」
「エルフさんは綺麗だけど何歳なんですか?」
「80歳だけど?」
「80歳!おばあちゃん...。」
おばあちゃん...。人間だと80はおばあちゃんなのか...。
女の子と話していたら後ろの扉が開いた。
「ニーナ?教会の中は掃き終わったの?」
ニーナと名前を呼ぶ女性が扉から入ってきた。横に幅のある恰幅の良い女性で里の中では見たことないタイプの人だった。
「ニーナ?お隣に居る女の子は?」
「あっ!お母さん。あのねエルフのラミーアさんよ!」
ニーナの母親はこちらを向くと怪訝な顔をしていたが私の耳を見ると驚いた顔をした後にアッ!?と声を出して慌てて教会から出ていった。
しばらくすると教会の外から人の声がザワザワ聞こえてきたため外に出ると多くの村人が押しかけていた。
「「あっ!出てきたぞ!」」
村人たちは私の方を一斉に見ると値踏みをするかのように視線を浴びせてきた。
その村人たちの間から初老の男性が一人こちらに向かってきて頭を下げた。
「森の賢者でいらっしゃるエルフ様、この村になにか御用入りでしょうか?」
「ただこの村で泊まれる場所が無いかと思いまして...。」
「この村は辺境にある故、宿泊施設はありません。泊まる場所に困っていらっしゃるなら私の家に泊まるのがよろしいでしょう。他の者の家より広いため最適です。」
どうやらこの初老の男性はこの村の村長らしく、なぜかこの私に恭しい言葉づかいで話しかけていて自宅でもてなす気のようだ。
教会の中で話していたニーナはいつの間にか現れた母親に手をつかまれていつもみない大人たちの様子を見て不安そうに遠目で見ていた。
私は村長の自宅に案内されるとテーブルに案内されて席に着いた。
村長の家は確かに他の家より大きいが他より家具が良いというわけでもなく奥に多くの人が収容できる部屋があるらしく村長の家は家々の代表者の集まりがある時に使われるらしい。
「あの村長さん初めて会うわたしを泊めようと思ったのですか?」
普通に考えてもおかしな話である。いくら若いとはいえこんな見知らぬ人を家に泊めようとは思わないと思う。
「それはこの村はエルフ様によって設立されたという歴史がありまして森から出てきたエルフ様には丁重に扱うことが村に伝わってきたのです。」
どうやら昔に里からでたエルフの一人がこの里の設立に関わっているらしく自らと同じく里を出てきたエルフを支援するために作ったのだろう。
その教えが村で広まっていたからあの女の子でさえエルフを知っていたのだろう。
それにしてもこの村を設立したエルフが教えたのは大昔なのにこの村の人はエルフの存在を疑いもせずに私の姿を見てエルフだと判断したその根幹は何だろうか?
「あの村長、エルフが里を出たのはわたし達エルフからしても昔の話です。エルフの姿もこのエルフの話もどうやってこの村では伝えているのですか?」
この村の人々はエルフを森の賢者、エルフ様と呼ぶそれは一種の信仰に近いものに感じる。
しかし、この村の中心地にはエルフではなく人である聖人の教会が建立されていた。
ならば彼らのこの信仰はどこからやってくるのだろうか?
「あぁ、それなら絵本ですよ。」
「絵本?」
村長は部屋の角にある棚の中から革装丁の本を取り出してきた。
辺鄙な場所にある村には似つかわしくない立派な本だ。
「これがそうです。エルフ様がこの村を設立してからのことが絵本で書いてあるのです。この本は子供のころから読み聞かされて親から子にと受け継がれていきます。」
村長によるとこの村の真ん中にある教会は配教という宗教の建物で影響力が大きいらしく昔みたいにエルフを堂々と信仰することが出来なくなったそうでこの絵本は村人たちには聖書のようなものらしい。
「この絵本を私が教会の中で子供たちに読み聞かせをするのです。そして子供が成長して大人になった時に絵本ではなくエルフ様の教えを正確に書いた本を読むのです。これがこの村の成人の儀なのです。」
「ではその本はどこに?」
「成人の儀に使われる本は絵本と違って教会の関係者が来た時に誤魔化すことが難しいので家の地下室の奥に厳重に隠してあります。」
それにしても影響力のあるという教会に逆らってまで信仰を続けようというのだから信仰心は本物のようだ。
そうこう話しているうちに太陽が沈みはじめ外が暗くなってきた。
私はそのまま村長宅にて食事をごちそうになった。食事の内容は里にいた時と変わらず森の中の動物や森の中でとれたものであった。
違う点は里と違ってパンや畑で栽培される農作物を使った料理がでた所で里では周りが森なのでこのように畑で栽培されるようなものを使った食事はできないのである。
そして、食事が終わった私は村長に来客用の部屋を案内されて眠りについた。