東京ヲリンピック序①
-2013年9月・アルゼンチン・ブエノスアイレス-
当時IOC会長であったロゲ会長が封筒を開ける。
「Tokyo」
この瞬間日本は歓喜した。
歓喜の裏には必ず悲哀が存在する。
そうして彼らは動き出した。
-同刻・中国-
プルルルルル、プルルルル、ガチャッ
「日本でのオリンピック開催が決まりました。至急計画についての会議をお願いします。」
「あぁ。分かった。残念だが、話を進めるとしようか。」
彼は電話を切ると早々に会議を始めた。
「今、王の電話にあった通り、日本でのオリンピック開催が決定しました。これより我が国、中国を主体とした日本滅亡計画を始めます。アジア各国の首脳陣の皆様よろしいですね?」
「あぁ。問題ないよ。これ以上アジアででかい顔をされてはたまらん。」
「そうだな。近年日本企業は中国まで進出し、さらにはASEAN諸国まで進出しようとしてる。これは経済力での植民地化と何ら変わりない支配だ。それを国連の奴ら‥見逃しおって」
「セカ様。一国のただの政治家が言うことではありませんが、国連は敵にはしてはいけません。」
「フォッフォッフォッ。一国のただの政治家とはよく言うたもんじゃ。李静、中国の頭脳と呼ばれた男よ。」
「いえいえ、インドを我が国に並ぶほどの人口大国にしたあなたに比べれば、私なんて。表舞台には名前も出ませんので本当にただの政治家ですよ。」
「フォッフォッフォッ。それもそうじゃの。」
「では、各国首脳陣の皆様も納得されたという事で、これより資料の説明に入ります。」
「まず、今回の目的は東京オリンピック開催により日本がさらに経済的に力をつけるであろう事が予想されるため、それを阻止し、アジア間での格差をなくす事。さらには協力する事で日本とロシアを除くアジア各国の水面下での結びつきを強め、経済力向上を狙いとします。」
そう言って彼は資料の説明を始める。
その計画に各国の首脳陣ともあろう者が、動揺を隠せない。
この日本を潰す計画には留まらず、米国、いや、全世界に問題を起こしかねない計画。
そんな悪魔の引き金に素晴らしいと感嘆する者、眉間に皺を寄せる者、反応を見せず、動揺を隠すようにただただ目の前の文字に目を落とす者。
反応はそれぞれであろうとも、まず全員の頭に思い浮かぶことは一つ。
「李さん。僕はあなたを尊敬しているよ。」
「ありがたきお言葉です。韓国首脳朴様。」
「あぁ、良いんだ。でもこれは実現可能なのか?」
「フォッフォッフォッ。そうじゃの。ワシも韓国のと同じ意見じゃ。おそらくこの技術自体は中国であれば可能じゃろう。しかし、どうやって元の世界に戻す?ワシらもろとも滅亡しかねん。さらにもし、こんなのバレたら、第三次世界大戦となるぞ。それを国家が許すのか?お主は表舞台に立たされた時、世界の反逆者として一族まで完全に消されるぞ。」
「ええ、そんな事は百も承知でございます。元の世界の戻し方も開発中です。開発でき次第、実行に移ります。さらには、バレることなどあるのでしょうか。もし、計画が始まれば、バレた時点で止めなかったあなた達もA級の大罪人。米国が世界的に幅を効かしている今では、アジア諸国の首脳陣であろうとも全世界転覆罪として死刑は免れない。そんな事になりたい方などいないでしょう。
では、今止めて自分だけ逃れ、米国に報告する。それも良いでしょうね。しかし、その行為は私たち中国を敵に回す行為という事をお忘れなきようお願いします。米国と刺し違えてでも‥これ以上はご想像にお任せ致します。」
「フォッフォッフォッ。脅しとは物騒な事を言うもんじゃないぞ。ここにいるのは皆腐っても一国のトップじゃ。小僧。我々を舐めるなよ。」
各国首脳陣の目が変わる。
インド首相・ネルーの言った通り彼らは一国のトップであるのだ。トップにまで上り詰めた彼らにとって、脅しなど通用しない。むしろ火に油を注ぐように怒りを溜めさせる悪手である。
しかし、李静ほどの男が何の意味もなく悪手を打つはずがなかった。
「これは皆様、失礼致しました。お気に障った方もいらっしゃるでしょうが、どうか私、李静の顔に免じてお許しいただきたいです。この脅しに関しましては、ある方からの協力条件でありました。少しその方とお変わりしますね。」
会議室のモニターに2人の男が映し出される。
彼らは首脳陣に対して臆する事なくこの脅しについて説明した。
まず、脅しに対する謝罪。その上で本当に実現可能なのかといった、リスクに対する質問がくる事を予想しており、実現する勇気のないものは裏切りがあるため試した事。中国を敵に回すのに屈しないならば、米国ひいては世界を敵に回せるという事。裏切りが起こらないのであれば私たちは全力で協力するということ。
「なるほど。さすが李さんだ。これなら技術的な実現可能性が増す。そうすれば私たちが裏切る必要はないし、今この脅しによって我々が裏切るような器ではない事を確認した。実際に李さんの脅しの後、全員が攻撃的な姿勢を見せたしね」
「フォッフォッフォッ。見事よ。ワシもしてやられたわい。」
「良いぜ。俺もこの案に賛成する。」
こうして、李の機転の効いた対応、さらに協力者による実現可能性の大幅アップにアジアの各国首脳陣は日本滅亡計画に賛同した。
「皆様方、ありがとうございます。それでは、この計画を呼びやすようにこう致します。『COVID-19 計画』と。」
東京オリンピック開催を引き金に水面下で人類の禁忌であるバイオテロ計画はこうして始まった。