第2部、第2章~全くダメなら考えなくて済んだこと
うちら3人が、5回目に行ったお見合いパーティーは、原宿駅から徒歩3分の所にある会場でした。
原宿というと、かなり人が多いイメージですが、お見合いパーティー自体は15対15とそれ程多くはありませんでした。
お見合いパーティーでは、男性の参加料が女性の数倍高い為、男女比を度外視して可能な限り男性を入れれば利益率が大きくなり運営会社は儲かります。
それに、参加申し込みをするは7割位が男性になります。
よって、運営会社はクレームが来ない程度に男女比を調整しています。
何故なら、男性の参加料だけが儲けの原資になっているからです。
しかし、男性にとってあまりにも酷い内容だとリピーターは増えません。
ですが、多くの運営会社は目先の利益に囚われて改善する事はありませんでした。
ただ、今回行った原宿のパーティー会場は違いました。
他の会場とは比較にならない程、男女比がキチンとしていたからです。
普通、お見合いパーティーの申し込みをする時は、定員に達していなければすぐにでも受け付けをしてくれます。
成り済ましを防ぐ為、公衆電話からの申し込みでは、家の固定電話か携帯電話からのコールバックを要求される事もありましたが、せいぜいその程度だと思います。
しかし、ここの運営会社は中止でもないのに前日に出欠確認をするのです。
他にも、女性のドタキャンが多くならないようにと補欠要員を立てていたりして、男女比に対して真面目に取り組んでいる会社でした。
その他、多くの運営会社では受付け順に番号札を渡すので、誰が一番に来たのかが分かります。
それに、グループで来ている方は番号札を連番で渡される上に待合席に固まっている為、何人組がどれだけいるのか察しが付きます。
しかし、原宿の会場では違いました。
番号札は受付け順ではなくランダムに渡してくるです。
更には、会場係の方から番号札の順に席に着くように言われるのです。
なので、連番になっている人を探しても全くの他人だったりするのです。
番号札の順番を無視して仲間同士で固まろうとすると、会場係によってすぐに引き離されてしまいます。
その意図を推測すると、仲間同士の馴れ合いを防ぐ為のようでした。
それと、他の会場でも問題になっていたのですが、やはりグループによる攻勢の方が圧倒的に有利になるので、1人参加の男性から何とかならないものかというクレームが続いていたからなのでしょう。
その対応として、スタート時だけでもバラバラに座らせるという事をしたのだと思います。
そうする事で、数人で来ていたとしても、お見合い回転寿司が終わる迄は1人で頑張らざるを得ないからです。
グループの方が再び固まれるのは、1回目のフリータイムの前になるのですが、各々のグループを把握している人はほとんどいませんでした。
なので、お見合い回転寿司でいきなり合コンを持ちかけるというような荒業は使えなくなりました。(番号札をバラバラに配ったのはそれなりに効果があったようです)
このパーティーでは、前半戦のお見合い回転寿司は他の会場と同じなんですが、後半戦のフリータイムは30分×2セットでした。
よって、10分で交代するルールが無い為、人気の女性は囲み取材を受けるような形で話していました。
それと、フリータイムでは会場係の方がフォローする事はありませんでした。
何故なら、男女比を合わせているという自負と、下手げに邪魔をしない方が波風が立たないという理由からでした。
あと、ここの特徴としては、会場の隅にお酒と軽食が置かれていなかった事です。
テーブルに出されていたのは、紙コップに入ったソフトドリンクのみでした。(お代わりは自由です)
お酒と軽食をふんだんに出すと、カップルになれなくても飲めればいい的な思想になるので、それを未然に防ぐ為でした。
お見合いパーティーは、定番のお見合い回転寿司からスタートしました。
この時、誠司君とぼくは比較的近くにいたのですが、実君はうちらとは離れた所にいました。
ぼくは、誰と誰がグループなのかを把握する事ばかり考えていました。
しかし、数分後にはそんな思いを払拭する事になったのです。
それは、女性陣の中に1人だけアイドル並みに可愛い方がいたからです。
彼女の名前は、木俣智美さんでした。(以下、智美さん)
智美さんは、黒髪ストレートのセミロングで清純派アイドルのような顔立ちでした。
会場内では、智美さんの存在があまりにも桁違いだった為、男性陣の多くが浮き足立っていました。
お見合い回転寿司で智美さんと話せる順番が回ってくると、誠司君はいつにもなくご機嫌で話をしていました。
そして、話し始めるなりこんな事を言ったのです。
誠司「ねえ、君って本当に可愛いね」
智美「あ、ありがとうございます」
誠司「お見合いパーティーでこんなに可愛い人と会えるとは思っていなかったよ」
智美「随分とストレートに言うんですね」
誠司「まあね、今日は君と会えただけでも来た価値があったよ」
智美「そこまで言ってくれる人はなかなかいませんよ」
誠司「ところで、今日は1人で来たの?」
智美「いえ、今日は友達と2人で来ました」
誠司「どれどれ、どの人かな?」(辺りを見回す)
智美「反対側にいるんで見えないかも知れません」
誠司「そうですか、うちらもバラバラになっているんだけどね」
智美「今日は何人で来られたんですか?」
誠司「3人ですよ」
智美「あの、今日私が来た目的は…」
「は~い、お時間になりました~、次の方と交代して下さ~い」
智美さんが何かを言いかけたところで、誠司君の番が終わりました。
誠司君は智美さんの事を終始べた褒めしていたので、ぼくの番では同じ事を言う必要はありませんでした。
うちらの仲間が誠司君と実君という事を認識してもらうだけでいいと思い、それだけを言っているうちに話が終わりました。
ぼくの話は相当あっさりとしていましたが、智美さんはうちらがグループで来ている事に興味を示してくれました。
ただ、実君は反対側にいたので、彼の事を認識してもらう事は出来ませんでした。
この時の女性陣のレベルは、それ程劣っている訳ではありませんでしたが、智美さんがあまりにも抜きに出ていた為に、ほとんどの女性が目を向けられませんでした。
前半戦のフリータイムが始まると、男性陣は挙って智美さんにアプローチをしました。
それを見て誠司君は目を細めながら言いました。
誠司「うちらには、あんな可愛い人とは縁がないんだろうな~」
剛史「そうだよね~、1分間話せただけでも夢心地だったよね」
誠司「何とか知り合いになれないものかな~」
剛史「気持ちは分かるけど、ここは手堅く他の女性と話した方がいいんじゃない?」
誠司「まあ、それは頭では分かっているんだけどね」
剛史「智美さんさえ外せば今日は大チャンスかも知れないよ、いつもなら人気になりそうな人が退屈そうにしているからね」
誠司「分かったよ、だけどフリータイムは別行動でよろしく!」
剛史「了解、前半戦が終わったら入り口の近くに集合って事で」
誠司「実君にも別行動って言っとくから先にやっててくれよな」
剛史「OK!じゃあまた後で」
それからは、話し相手がいなくて暗い表情になっている女性に声を掛け続けました。
すると、最初のうちだけは笑顔で応対してくれるのですが、すぐに会話が途切れてしまってうまく攻略出来ずにいました。
うちら3人は、カップル率が高いと思われる道を進んだつもりでしたが、遠目で見ていても苦戦しているのが分かりました。
前半戦のフリータイムが終わると、やっと3人が合流しました。
実「お前らさ~、前半戦はどうだった?」
誠司「智美さんを外せば活路が見出せると思っていたのに苦戦続きだよ」
剛史「何か手応え無しだしダメだよね~」
実「ほとんどの男が智美さんを囲んで話しているから面白くないんじゃないの?」
剛史「確かにあれは気になるよね~」
誠司「まあ、ここで折れたら元も子もないから、後半戦はそれをネタにして挑もうぜ」
実「せっかく男女比も揃っているんだし、ウケ狙いでいってみるかな」
誠司「そうだよな、酒の力も無いからな」
剛史「ところでさ、後半戦も別行動?」
誠司「そうだね、その方が動きやすいからな」
実「OK!じゃあそういう事で」
後半戦のフリータイムでは、前半戦で話せていない女性にアプローチしましたが、相変わらず苦戦続きでした。
誠司君は、後半戦の最初のうちにお手上げというポーズをしました。
実君も、精力的に動いていましたが空回りしていただけでした。
ここで、うちら3人は話し合いをしました。
誠司「何だよ、今日はこれだけ動いてもダメなのかよ…」
剛史「う~ん、何か問題があるとすれば単独で動いたからじゃない?」
実「おいおい、今それを言っても仕方ないだろ」
剛史「でも、今日は男女比が揃っているからイケると思ったんだけどな~」
誠司「ここの会場はシステムが違うからな」
実「俺らの選択は間違っていないから最後まで諦めずにやろうぜ」
剛史「それじゃあ、あと20分はラストスパートだね」
誠司「OK!暇な奴はフォローに来いよ」
3人は、最後のチャンスに賭けて散り散りになりました。
それから、10分位経ったところで、ぼくと誠司君はお手上げになり合流しました。
実君の方を見ると、全然ダメというゼスチャーをしながらこっちの方に近付いてきました。
程なく実君も諦めムードで合流しました。
実「今日は何なんだろう、今迄の戦略が全く当て嵌まらないや」
誠司「急にシステムを変えられると対応出来ないよな」
実「じゃあ、この後はお約束の反省会でもやるかぁ」
剛史「そうだね、パーティーが終わったら早々に飲みに行こっか」
そんな事を話していると、実君の肩をトントンしてきた女性がいたのです。
彼女の名前は、三上墨江さんでした。(以下、墨江さん)
墨江さんが実君を気に入りアプローチしてきたのです。
彼女は、ボーイッシュな感じで茶髪ショートの人懐っこい方でした。
それで、前髪は眉毛の上でぱっつんでした。
墨江「あ~、居た居た~、探したんだから~」
実「えっ、俺の事?」
墨江「そうそう、お見合い回転寿司の時にいいなって思っていて」
実「へえ~、それは嬉しいね」
誠司「驚いたな、今日は女性の方から声を掛けてくるなんて」
墨江「そうかな~、別に普通だよ」
誠司「あのさ、残り時間も少ないし、うちらもこの辺に居てもいい?」
墨江「それは気にしなくても大丈夫よ」
墨江さんから声を掛けられた実君は、いつもとは異なる状況に気を良くしました。
そして、残り時間を惜しむように楽しそうに話をしていました。
彼女は、声が大きめで笑い上戸だったので、楽しげな会話は周りの方にも響いていました。
誠司「何かいい感じだな」
剛史「このままうまくいけばいいのにね」
誠司「でも、まだ油断は出来ないぞ」
剛史「えっ、何でそう思うの?」
誠司「実質あと5分しかないだろ、それで連絡先の交換をするにはあと2分以内には切り出さないとならないからな」
剛史「それは、お互いにカップリングカードに記入すれば済むんじゃない」
誠司「それだと人前に出ないとならないだろ、それが嫌で直前で番号を書かない女性もいるからな」
剛史「その確認もしなければならないんだね」
誠司「いろいろと奥が深いだろ」
剛史「そう言っているうちに残り3分だよ」
ぼくと誠司君があれこれと話していると、そこに智美さんが人混みを掻き分けるようにしてやって来たのです。
智美「すいませ~ん、通して下さ~い」(じりじりとこっちの方に近付いて来る)
智美「はあ、はあ、はあ…、すいませ~ん、ちょっと通してもらえませんか~」(うちらが居る輪に入ろうとする)
誠司「もしかして、うちらの所に来たの?」
智美「そうよ、残り時間も少ないから隙を見てこっちに来たの」
墨江「やっと会えた~、智ちゃんはどこに行ってたのよ~」
智美「さっきまで向こうの方で囲まれていたのよ」
墨江「さっすが~、智ちゃんの人気は凄いよね~」
智美さんは、実君の顔をじっと見てからこう言いました。
智美「あ~良かった、彼女は私の仲のいい友達なの~」
実「えっ、そうなの?」
智美「墨ちゃんがうまくいってるようで安心したわ」
聞くところによると、智美さんがあまりにも人気だった為、2人組で来ていたのに早々に分断されてしまったとの事でした。
智美さんは、墨江さんのお相手探しを最優先に考えていて、それが叶ったかどうか確認したくて必死でこっちに来たんだとか。
ただ、智美さんの次の一言がうちら3人を惑わしました。
智美「あのね、墨ちゃんがうまくいくんだったら~」
誠司「うんうん」
智美「私ね、お友達のどっちかとカップルになってもいいかな~、って思ってるの」
誠司「本当?それは嬉しいけど、俺ら3人とは全然話していないじゃん」
智美「それはそうなんだけどね、ダメかな~?」
誠司「俺ら的には大歓迎だけどさ~、ずっとアプローチしていた男性達は面白くないんじゃない?」
誠司君が牽制する様に言いました。
智美「だ、だからね、皆さんには悪いからカップル発表の所には行きたくないの」
剛史「まあ、危険を回避するにはいいんじゃない」
智美「でもね、墨ちゃんのカップルが成立した後でなら考えている事があるの」
誠司「それってうちらにも関係あるの?」
智美「ええそうよ」
誠司「具体的には?」
智美「それはね、来週以降に5人で合コンをするっていうのはどうでしょうか?」
残り時間が僅かだったので、智美さんが焦った感じで言いました。
智美さんは、何とか墨江さんのお相手を確保したいと思ったのか、誠司君の牽制にも折れずにそう返答してきました。
それだけ墨江さんとは親密な間柄で、その為にはうちら3人の合コン相手にもなるのも辞さないといった構えでした。
ただ、合コンを持ち掛けられた辺りから、実君は難しい顔をするようになりました。
ここで会場係の方が大きな声で言いました。
「は―い、これでフリータイム終了で~す」
「男性陣と女性陣は、右側と左側の壁際に沿ってお待ち下さ~い」
「この後にカップリングカードを配りますので各自ご記入願いま~す」
ぼくと誠司君にとっては、願ってもないチャンスでした。
その為には、実君が墨江さんとカップリングになる事が前提でした。
なので、うちら2人は実君が墨江さんを選ぶかどうか確認しました。
しかし、実君は難しい顔をしたままなかなか頷かないのです。
それどころか、実君はカップリングカードの記入すらしないのです。
これはマズい流れになったと感じたので、実君にカップリングカードを提出するよう何度も懇願しました。
すると、実君はうちら2人にカップリングカードを見せないようにして、会場係の方に渡しました。
カップリングカードが配られてから5分位すると、会場係の方が慌ただしく回収に来ました。
「皆様、集計作業に入りますのでしばらくお待ち下さ~い」
ぼくと誠司君も一応提出しましたが、問題はそこではありませんでした。
目の前に来週以降の合コンがぶら下がっているのに、それをふいにするのは考えられませんでした。
「お待たせしました~」
「集計が終わりましたので、この後はカップリングの発表になりま~す」
「番号を呼ばれた方は前に出て来て下さ~い」
「それでは、本日のカップルを発表しま~す!」
最後に実君が気難しい顔をしていたのには懸念を抱きましたが、きっと墨江さんを選んだに違いないと思っていました。
しかし、実君は墨江さんを選びませんでした。
カップルの発表が終わると、墨江さんは青褪めた表情でこちら側を見詰めていました。
しかし、実君は目を合わそうとはしませんでした。
智美さんは、意気消沈した墨江さんに寄り添って背中に手を回しました。
そして、智美さんは墨江さんを引き連れて下を向いたまま足早に帰っていきました。
智美さんの横顔を見ると、こみ上げる怒りを何とか抑えているようでした。
それを、会場にいた多くの男性達が啞然たる面持ちで見送っていました。
「はーい、本日のカップルは3組でした~」
「この会場はあと15分で閉鎖するので、お帰りの際はお忘れ物にご注意下さ~い」
最後に、司会者の締めの挨拶で閉会しましたが、うちら2人は納得出来る筈もありませんでした。
誠司「おい!何で墨江さんとカップルにならなかったんだよ!」
剛史「そうだよ!いい感じだったのに何の問題があったんだよ!」
2人で、堰を切ったように言いました。
実「智美さんが来る前迄は何の問題もなかったんだよ、だけど状況が変わって混乱したんだよ」
誠司「それでもカップリングカードは出したんだろ!」
実「出したけど何も書かなかったよ」
誠司「はぁ~?何だって!その理由を言ってみろよ!」
実「それだと、お前ら2人のどっちかが智美さんと付き合うのか?って思ったら書けなかった…」
誠司「おいおい、男の嫉妬かよ!俺らがお見合いパーティーに出ている本来の目的を見失ってんじゃねえよ!」
実「ゴメン、本当にゴメン…、自分でも情けないと思ってるよ」
誠司「合コンはともかく可哀そうなのは墨江さんだよ!カップル発表が終わってから泣きそうになっていたのをずっと堪えていたんだからな!」
実「ゴ、ゴメン…、あの時は本当にどうかしていたよ…」
剛史「まあまあ、とりあえずいつもの様に反省会反省会!」
実「そ、そうだね…」
誠司「まあ、今までは何の収穫もなかったけど、今回は学ぶ事も多かったからな」
剛史「でも、チャンスで凡退すると尚更痛いよね」
誠司「確かにな…」
ぼくは、お見合いパーティーから脱却して、来週辺りには合コンが開かれると思い糠喜びをしていましたが、所詮は他力本願だったので叶いませんでした。
お見合いパーティー独特のあの雰囲気、女性の体臭と香水が交じったあのフェロモンむんむんのクラクラする感じ、参加料を払っている事でより美形な女性にアプローチしがちになる事。
それらの要因が判断を鈍らせたとはいえ、今回の失態は頂けなかったと思います。
反省会では、愚痴が絶えなかったので、いつもより多くのお酒を呷りました。
誠司君は、智美さんから合コンの話が出た時に、どうせなら3対3でやりたいと思っていたんですが、前回のパーティーの時に欲張って自滅した経緯があったから自重したんだとか。
3人で話し合ったところ、また来週以降にお見合いパーティーに行く事で落ち着きました。
お見合いパーティーの借りはお見合いパーティーで返すのだ!
うっ、帰るのがキツい…、だけど飲めたからいいってことで…。
その日は帰ってお風呂に入ると、湯船で何度か寝てしまいました。
風呂上がりに最後の気力を振り絞って歯を磨くと、すぐに布団に入って眠ってしまいました。