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夢も現実も男3人彼女さがし  作者: きつねあるき
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《続編》第6部~パーティーの翌日以降 第1章~翌朝に電話に出るも

 お見合いパーティーの翌日は日曜日でした。


 この日は、お見合いパーティーの疲れが残るだろうと思い、極力予定を入れないように調整していました。


 お見合いパーティーに行くと、何人もの見知らぬ異性と対峙(たいじ)する事になるので、精神的にかなり疲弊(ひへい)するのは必至です。


 高望みしたお相手にフラれるのは慣れっこになりましたが、自分と釣り合いそうな女性からも全く相手にされないと、それなりに(こた)えるからです。


 お見合いパーティーで連戦連敗が続くと、お相手の希望をどれだけ下げられるかという一点に絞られてくると思います。


 しかしながら、若いうちはどうしても見た目の呪縛(じゅばく)から逃れられないのが現実です。


 ですが、年齢を重ねるうちにお互いに気が合う人を追い求めていくようです。


 それは、“長い事一緒にいてもお互いに気が楽な相手である”という事に()きるのでしょう。


 男女共に若かりし頃は、仕事を覚えなきゃならない、資格も取らないといけない、遊びにも行きたい、恋人も欲しい、お金も欲しい、等々それはそれは忙しい毎日なんだと思います。


 サービス業に勤めていると平日休みが多くなりますが、友人知人の多くは土日休みの方が多いかと思います。


 それは、官公庁(かんこうちょう)がカレンダー通りに休むので、それに合わせて仕事をする人が多いという事なのでしょう。


 土日には、多くの集客を見越して各種イベントが盛り沢山なので、まったりと過ごしてしまうと勿体(もったい)ないと思う事もあるかと思います。


 プロスポーツにせよ、演劇にせよ、テーマパークにせよ、チケットを取るのが困難なのは土日開催のものと相場は決まっています。


 それでも、混んでいるのを承知でイベント等に足を運ぶと、次の仕事からいい気分で取り組めるのは否めませんでした。


 この日は、朝からよく晴れていて(さわ)やかな風が吹いていました。


 お出掛けしたり、ちょっとした運動をするのには最適な気候でした。


 昨日に関しては、お見合いパーティーが終わってから、初の反省会無しで帰宅するパターンがあっても可笑(おか)しくはありませんでした。


 それは、言わずもがな誠司君がカップルになったからです。


 なので、誠司君と絢乃(あやの)さんの仲がどうなろうが、美純(みすみ)さんの様に形振(なりふ)り構わず直帰していれば、今日の予定は変わっていたのかもしれません。


 他に、もう1つだけ想定したとして、負け組同士で飲みに行くという選択肢もあったのかも知れません。


 その場合、男女の仲に関しては進展は望めませんが、異色の反省会としては成立しそうな気がしました。


 仮に、昨晩のパーティーが終わったと同時に直帰していたならば、午前9時頃には起床して自転車を乗り回そうと思っていました。


 サイクリングでは、どこに行くという事ではなく、目的地を決めずに1時間程度走らせるといい運動になるのです。


 それに、うまく時間を調整して昼前には自宅に戻るようにすれば、午後からのイベント等にも参加出来るからです。


 自転車に乗っていると、脂肪燃焼や生活習慣病の予防改善などの効果が期待できる有酸素運動にもなるし、ドリンクさえ持って行けば大してお金もかからないのも魅力(みりょく)的でした。


 行き着いた先で、(あらかじ)め持参したドリンクを半分飲んでから一休みするのです。


 残りの半分は、帰り道用にに取っておくのです。


 サイクリングの帰り道は、あちこちの店に立ち寄るようにしていました。


 その中でも、大型店には高い確率で入店していました。


 自転車で遠出をする理由は、ある意味大型店に寄る為だと言っても過言ではありませんでした。


 それは、店舗が大きい分、ダラダラと滞在していても目立たないからです。


 それでも、お目当ての大型店に1度でも行ってしまうと、“もういっか”っていう気分になってしまうのです。


 なので、サイクリングの度に毎回違う大型店に行くようにしていました。


 大型店以外だと、ディスカウントストアに行くのが好きでした。


 地域によっては品揃(しなぞろ)えも違うし、新たな発見がある事を期待して入店していました。


 お店に入ったところで、何かを買う事はほとんど無いのですが、キャラクター商品を扱っているコーナーには自然と立ち寄っていました。


 キャラクター商品は、見ているだけで心が(なご)むので気分転換には欠かせませんでした。


 ぼくが、お見合いパーティーに行き始める前は、連休さえあれば自転車を乗り回すのが定番でした。


 しかしながら、月に何度もお見合いパーティーに行くようになってからは、長々と自転車に乗る事が少なくなってしまいました。


 それに、パーティーの後は反省会と称した飲み会をやっていたので、まっすぐ家に帰る事がほぼなくなりました。


 それでも、運動不足にならないように、週に1回30分程度は自転車に乗るようには努めていました。


 ただ、昨日は予定外の深酒をしてしまったので、昼頃まで寝続ける事にしたのです。


 ですが、早朝にはトイレに行きたくなった為、その(ねら)いが外れて眠りから覚めてしまいました。


 その際、昨日のお酒がかなり残っていました…。


 その所為(せい)で、軽度の頭痛が続いていました。


「う~、怒りに任せて自棄(やけ)酒なんてかっ食らうんじゃなかった…」


「こんなんじゃ、今日はどこにも行かれそうにないや…」


 トイレを済ませると、冷蔵庫からキンキンに冷えた水を取り出しました。


 そして、酔い覚ましの為にガブガブと冷水を飲んだのです。


 すると、さっきまでの頭痛が少しだけ楽になったような気がしました。


「よし、これなら昼過ぎ迄寝られるな」


 ぼくは、頭痛が再発しない事を(いの)ってから、早々に二度寝する事にしました。


 冷水を飲んだお陰で、精神衛生上スッキリとしたので、程なくして一気に眠気が(おそ)ってきました。


 その時は、“もうこのまま好きなだけ寝ていればいいや”と思っていました。


 ただ、布団(ふとん)に入ってから頭を(よぎ)った事がありました。


 それは、“携帯電話の電源を切っておかないといけないな”という事です。


 ぼくの携帯電話は、いつもマナーモードにしているのですが、人と会う時だけは着信音が鳴るように設定していました。


 ただ、昨日は深酒をしてしまったのもあって、その設定を戻し忘れていたのです。


「ぐっすり寝ている時に、ぼくの携帯が鳴ったら嫌だなぁ…」


「面倒だけど、()ってでも電源を落としに行かなきゃならないな…」


「いやいや、もう既に寝ちゃってるじゃないか」


「それに、昨日の今日であの2人から連絡してくる事なんて無いんじゃないかな?」


「今頃は、彼らも相当疲れているだろうからね」


「多分、午前中だけなら爆睡(ばくすい)しても大丈夫じゃないかな」


 この時のぼくは、自分に都合のいい事しか考えていませんでした。


 早い話、ぼくは再び起き上がるのが面倒だった為、携帯電話の電源を切らずに眠りに()いてしまったのです。


 それからどのくらい時間が経っただろうか?


 ふと我に返ると、ぼくの携帯電話が鳴っているではありませんか!


「しまった…、予想が外れてしまった」


「昼迄は掛かってこないと思っていたのに…」


 ぼくは、さっき迄の判断を後悔しました。


「う~ん、無精こいて携帯の電源を切らなかったのが(あだ)になるとは…」


「大体いつもこうなるんだよなぁ…」


「あっ、何でもいいけど今何時だっけ?」


 枕元にある目覚まし時計を見ると、時刻は午前10時30分でした。


「クっ…、人がせっかくいい気持ちで寝てるのに何の電話だよ」


「どうせ、セールスか間違い電話だろう」


 そう思ったものの、“重要な電話である可能性も捨てきれないのでは?”と思慮(しりょ)を巡らせました。


「とりあえず、要件だけは聞いておこう」


 ぼくは、寝惚(ねぼ)け眼のまま携帯電話に手を伸ばしました。


 そして、気が進まなかったものの、“はいはいはい”と言いながら携帯電話に出る事にしました。


 剛史「はい、もしもし…」


 ぼくは、平静を装ったつもりでしたが、ガラガラ声で電話に出てしまいました…。


「しまった…」


 そう思ったものの、電話口のお相手は十中八九男友達からだと思っていました。


 ぼくの友達は、パーティー仲間以外だと、高校時代から付き合いがある人がいました。


 ボーリングやバッティングセンター、ゴルフ練習場に誘ってくる、体を動かすのが好きな人。


 他には、プロ野球観戦が趣味の人がいました。


 この電話が、運動系のお誘いだったら断ろうと思っていましたが、後者からだったら付き合う事も考えいました。


 しかし、ぼくの耳に聞こえてきたのは聞き覚えのない女性の声でした。


 電話口の女性は、張りのある声でこう言ってきました。


「こんにちは~、鈴木さんの携帯で合ってますか~?」


 剛史「ええ、はい…」


「良かった~、間違ってないか不安だったのよね」


 剛史「あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」


「え~、私ですよ~、分かりませんか?」


 剛史「あの、いきなり分かるかと言われても…」


「ほら、私ですよ~、昨日渋谷で会ったばかりじゃないですか~」


 それを聞いて、ぼくはハッとしました。


 そして、(あわ)てふためきながら、昨日のパーティーでの出来事を思い返しました。


「え~、昨日関わった女性参加者といえば…?」


 考えてはみましたが、誰なのかは分からないままでした…。


 今迄のお見合いパーティーでは、相手にされる事すらごく(わず)かだったので、突発的な電話があったとしてもピンときたのかも知れません。


 しかし、今回に関しては想像以上に難解でした。


 昨晩の屈辱感(くつじょくかん)からの深酒によって、パーティーの記憶をリセットしてしまったからです。


 基本、男性参加者はフリータイムで話した女性全員に携帯番号を書くと思いますが、逆に書いて(もら)える事はほとんどありません。


 それに、お見合いパーティーで敗北した瞬間に、プロフィールシートを捨てて帰って行く人が大半なのです。


 何故なら、そんな物を持ち帰っても何の得にもならないからです。


 参加者によっては、プロフィールシートの端に番号札のクリップを(はさ)んで、会場係の方に手渡して帰る人もいたくらいですから。


 ここで、本題に戻ります。


 とはいえ、女性からの電話に悪い気はしませんでした。


 せっかくのチャンスなので、話をしながら電話の主が誰なのかを見極めようと思いました。


 剛史「あ~、昨日はどうも!本当に掛けてくれるとは思ってなかったもんで」


 ぼくはそう言いつつも、“電話口の相手が業者である可能性も捨て切れないな”とも思いました。


 ぼくは、誠司君の二の舞にならないように警戒しました。


 しかし、そんな様子は微塵(みじん)も感じさせませんでした。


「私はね、そんなにはパーティーに行くような子じゃないからね」


 剛史「別に疑ってなんていませんよ、ぼくだって友達に誘われて久し振りに出たんですよ」


「そんな感じはしたわ」


 剛史「ああいった場所は苦にならないんですか?」


「そんな事はないわ、私あれでもかなり緊張してたんだからね」


 剛史「そうなんだ、その割には堂々としていたような」


「でも、昨日は貴方みたいな人に出会えたから行って良かったなって思っているの」


 剛史「そんな事言われたのは初めてですよ」


 ぼくは、(うれ)しい気持ちもありましたが、いつまでも電話の相手が分からないままだったので、次の言葉が出てきませんでした。


「どうしたの?急に(だま)り込んじゃって」


 剛史「女性から電話を掛けてもらう事が初めてだったもんで」


「へ~、そうなんだ」


 剛史「それで、次に何を話そうか迷っちゃたんですよ」


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


 剛史「それはどうも」


「それより、時間通りに掛けたんですよ~、偉いでしょう!」


 電話口の声が、先程に比べて大きかったので、受話音が割れていました。


 ぼくは、思わず受話器を遠ざけました。


 それと、彼女が言った、“時間通りに掛けた”という文言にも疑問を抱きました。


「ぼくはこの女性といつそんな約束をしたのだろうか?」


 あれもこれも、よく分からないままやり取りをしていると、段々と頭が()えてきました。


「もう1度聞きますけど、鈴木剛史さんで合ってますよね?」


 剛史「はい、そうですけど」


「私ね、今日の為に頑張って早起きしたんだからね、だから今すぐにでも出掛けられるのよ」


 剛史「ははは、元気がいいですね~」


「エヘヘ、それだけが取り柄だから」


 この電話は、何の要件で掛けてきたんだろうか?


 もしかして、例の業者からぼくの情報が流れちゃったのかな…。


 そうだとしたら、名前を聞かれた時に、“いいえ違います”って答えるべきだったんじゃないかな?


 それでも、“デートのお誘いが無い限り何とかなる!”と思っていました。


「そうだ!このままでは分が悪いから、適当に理由をつけて掛け直す方向にもっていこう!」


「でも、話を(さえぎ)るのも悪いから、次の一言を聞いてからにしよう」


 ぼくは、警戒しながら次の言葉を待ちました。


「どうしたの?元気ないね」


 剛史「ごめん、昨日の帰りに飲み過ぎちゃってさぁ…、今は全然冴えていないから、後で掛け直してもいいですか?」


 ぼくは、電話のやり取りが(まま)ならない事情を説明しましたが、電話口の女性はお構いなしに、


「これから、私と一緒にお昼を食べませんか?」


 と、元気よく言ってきました。


 ぼくは、その言葉に緊張感を覚えました。


「マジか…、もう誘ってくるのか」


 ぼくは、(いたずら)に様子を見ていた事を後悔しました…。


 この女性の事を、“限りなく怪しい”とは思ったものの、すぐにでもイエスと言いたい気持ちがあるのも否めませんでした。


「ねえ、いいよね?そんなに高い店じゃないからさ~」


 電話口の女性は、(ろく)に頭が働いていないぼくに(たた)みかけてきました。


 剛史「えっ、お昼?いいですけど、どの辺にします?」


「渋谷の道玄坂で気になっていたイタリアンがあるのよね」


 剛史「イタリアンですか~、今流行りですよね」


「あの辺なら、昨日行ったから分かるでしょ」


 剛史「ええ、まあ」


「心配しないで、今日は他の場所に連れ回したりはしないから」


 ぼくは、その一言で頭の中が混乱しました。


 何故なら、電話口の方が業者なのか一般の参加者なのか分からなくなってしまったからです。


 もし、この女性が業者であるなら、デートと見せかけて社会人クラブや展示会の会場に誘い込んでくるに違いないからです。


 食事の後に、“寄りたい所があるから付き合って”と言ってくるのが既定路線でしょう。


 しかし、一般参加女性であるなら、初回のデートは様子見程度と考えているので、食事が終わったら早々に切り上げる場合が多いからです。


 なので、食事のお誘いを受けたからといって、そこまで狼狽(うろた)えなくてもいいのではないか?と勘案しました。


 前に聞いた、誠司君の話とは当てはまらない点もあるので、彼女が一般の参加者という可能性も捨て切れませんでした。


 そうこうしているうちに、この女性と実際に会って確かめてみたいと思う様になりました。


 ただ、食事の後に早々にお開きになるという保証はどこにもありませんでした。


 そうさせない為には、どうすればいいのか思考を巡らせました。


「そうだ!実君に協力を求めよう」


「業者対策として、13時30分にぼくの携帯電話に連絡するように頼んでみよう」


 不確定要素はあるものの、そうすることで身の安全を確保しようと思っていました。


 剛史「OK!今から家を出ればお昼過ぎには渋谷に行けると思うよ」


「待ち合わせは、13時に道玄坂にある映画館前ね」


 剛史「パーティー会場が入っているビルの1階ですよね」


「ええ、そうよ」


 剛史「了解です」


「私、あの辺のお店に詳しいんで、来てくれるだけでいいから」


 剛史「それは助かるけど、ついさっき起きたばっかりなんだよね」


「だったら、今すぐ着替えて渋谷まで来て下さならない?」


 剛史「ちょっと待って下さいね、今から支度しますんで…」


 ぼくは、平静を装っていましたが、心の中ではこう思っていました。


「これは大変だ!」


「今までのパーティーでは、プロフィールシートに携帯番号を書を書き込んだところで1回たりとも電話を受けた事がないのに…」


「それが、今日に限って掛かってくるとは…」


「それも、フリータイムで話せたのは真由(まゆ)さんと由花理(ゆかり)さんだけなのに、誰の声なのかも分からない…」


「そうだ!プロフィールシートを見て(かま)をかけてみよう」


 ぼくは、慌ててカバンの中を探しました。


 すると、昨晩に酩酊(めいてい)状態で確認したプロフィールシートが、どうしても見付からないのです…。


「何でこう肝心な時にダメなんだよ!」


 自棄になって、カバンの中身を全部ぶちまけてみましたが、プロフィールシートは出てきませんでした。


「ヤバい!これは電話を掛け直す方向にもっていかないと…」


 そんなこんなで焦っていると、電話口から、


「どうしたんですか?もしかして私の事が分からないんですか?」


 と、疑うような感じで言ってきました。


 剛史「いやいや、そんな事はないけど昨日お酒を飲み過ぎちゃったからさ…」


 と、言いましたが、


「そんなのは言い訳にならないでしょ!」


 と、少し怒り気味に言ってきました。


 ぼくはもう、誤魔化(ごまか)しは効かないと(さと)りました。


「確率的に、電話のお相手は由花理さんである事が一番高いだろう」


 ぼくは、由花理さんだと決め付けてこう話しました。


 剛史「フリータイムの最後に話した佐原由花理さんですよね」


 ぼくは、腹を(くく)ってそう話すと、


「えっ、そうだっけ?」


 と、(とぼ)けた感じで言われてしまいました…。


 その時、ぼくの心の中ではこう思っていました。


「ヤバい、間違えた…」


「電話の相手は真由さんだったのか…」


「クっ…、たかだか1/2の確率で外すなんて…」


「でも、今更間違えたなんて言えないし…」


 ぼくは、数秒間げんなりとしていました。


 ただ、本当に正解なのか不正解だったのかは、解き明かされていない状況が続きました。


「よく分からないけど、食事にさえ行ってしまえば、電話の相手が分かるはずだ!」


 ぼくはそう思い直し、今までの会話を完全に無視して、


 剛史「あの~、お昼なんだけどさ、お勧めのパスタとかってあります?」


 と、捨鉢(すてばち)になってそう言うと、電話口の女性は完全に怒ってしまいました…。


「ふざけないでよ!」


 剛史「はっ、はい…」


「あと、1時間後かそこらに誰だか分からない人と会うって言うんですか?」


 剛史「(むし)ろ、会わない方が失礼なのかと思って…」


「貴方、何を言っているか分かっています?」


 剛史「‥‥‥‥」


「誰に対してもそんな態度なんですか?」 


 剛史「‥‥‥‥」


「自分で自分がおかしいと思わないんですか?」


 電話口の相手は、より一層(まく)し立ててきました。


 ぼくは、さっき迄の発言を()いると共に、“これでこの話は終わったんだな…”と思い、頭の中が真っ白になりました。


 彼女からの話は続いていましたが、聞くに堪えなかったので、思わず受話器から耳を離しました。


 そして、会話が途切れる瞬間までじっと待ちました。


 1秒、2秒と無言の時間が続いた事を確認すると、今度はぼくが話す番でした。


 剛史「せっかく誘ってくれたのに本当にゴメン…」


 剛史「じゃあ…」


 それだけ言うと、電話口の女性は小さな声で、


「うん…」


 とだけ返事をしました。


 ぼくは、思ってもみなかった反応にばつが悪くなり、慌てて電話を切りました。


「いやいや、やっちゃったか…」


「でも、こうするしかなかったよね…」


「それに、電話の声だけじゃ誰なんだか分からないじゃないか…」


「クソっ、あの時に携帯の電源を切っておけば…」


 ぼくは、ブツブツと独り言を(つぶや)きながらも、()に落ちないままでいました。


「確か、昨日の晩はプロフィールシートがあったんだけどなぁ…」


 そう思いながら、もう一度カバンの中を探してみる事にしました。


 すると、カバンのあおりポケットの中に、ぐちゃぐちゃなったプロフィールシートが入っていました。


 それも、あおりポケットのチャックは、ご丁寧(ていねい)にもキッチリと閉まっていました。


「クソっ!こんなところに入れていたのかよ」


 とは思いましたが、もう後の祭りでした。


 今更でしたが、プロフィールシートを見返して、電話のお相手を確かめようと思いました。


 ただ、プロフィールシートは乱暴に押し込まれたらしく、ぐちゃぐちゃになっていました。


 そこで、プロフィールシートの(しわ)を伸ばして改めて見る事にしました。


 昨晩もらったプロフィールシートは、運営側が基本情報を記入しておいてくれたので、表面には追記をしませんでした。


「このプロフィールシートが何だっていうんだろう?」


 ぼくは、不意にプロフィールシートをひっくり返しました。


 すると、さっきの電話が由花理さんからだとすぐに気付きました。


 何故かというと、プロフィールシートの裏面には、


「明日の10時30分に電話しますね!由花理より❤」


 と、丸文字で書いてあったからです。


「マジかよ!こんなの分かるかよ…」


 ぼくは、しばらく呆然(ぼうぜん)となりました。


「じゃあ、さっきの電話は由花理さんで間違ってないじゃんか!」


「何であんな意地悪な事を…」


 とは思いましたが、こっちにも非があるのは明らかでした。


 それは、夢で見た絵美佳さんの忠告に従えなかったからです。


 ぼくは、3つの忠告のうち失念していた1つを、今頃になって思い出しました。


 それは、プロフィールシートをチェックする事でした。


「これだけを思い出せなかったばっかりに…」


 ぼくは、しばらく自己嫌悪に陥りましたが、過ぎた事はどうにもならないので、気持ちを切り替えて二度寝をする事にしました。

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