第5部、第2章~ハンバーガー屋での一幕
場の雰囲気が悪くなったところで、ぼくが話しを切り出しました。
剛史「だったら、ぼくが代理でお茶に誘ってみるよ」
ぼくがそう言うと、誠司君はすまなそうな顔をして黙って頷きました。
実「俺もフォローだけならしてやってもいいぜ」
誠司「そうして貰えると助かるよ」
実「まあ、やるんなら早く行こうぜ」
剛史「分かったよ」
ぼくは、誠司君の顔を見ながら、
「何だよ~、いつもの勢いはどうしちゃったんだよ~」
とは思いましたが、せっかくのチャンスを棒に振る訳にはいきませんでした。
なので、この状況を可及的速やかに対処する必要がありました。
しかしながら、いざ絢乃さんに話し掛けようと決意すると、緊張が高まって額に脂汗が滲み出てきました。
それでも、やっとここまで漕ぎ着けたのだから、簡単に引く訳にはいきませんでした。
ぼくは、早足で絢乃さんに近付きました。
そして、ゆっくりと息を吐いてから会釈しました。
剛史「すいません、ちょっとだけお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
絢乃「はい、私に何か?」
剛史「えっと、ひとまずカップリングおめでとうございます」
絢乃「どうもありがとう」
剛史「あの、ぼくは篠原君と一緒に来た鈴木っていいます」
絢乃「鈴木さんね」
剛史「こちらが、南雲君です」
実「南雲です、よろしくどうぞ」
絢乃「どうも」
剛史「三島さんはうちらの事って分かりますか?」
絢乃「ええ、ついさっきパーティーで会ったから分かりますよ」
実「それはどうも」
絢乃「さすがに他の方でも分かると思いますよ」
実「まあ、そうですよね」
剛史「覚えて頂いてありがとうございます」
絢乃「いえいえ、こちらこそ」
剛史「あの、いきなりのお誘いで申し訳ないんですが、今から近くのカフェでお茶をしませんか?」
実「お家が遠いようでしたら30分だけでも構いませんよ」
絢乃「篠原さんも来るんでしょう?」
剛史「勿論ですよ」
実「首に縄を付けてでも連れてきますよ」
絢乃「それは分かったわ」
剛史「いかがですか、お手間は取らせませんから」
絢乃「うーん、どうしようかな~」(しばらく考え込む)
剛史「せっかくカップルになったのに、ここで帰ったら勿体無いですって」
実「そうですよ、次の機会なんて保証されてないんですから」
絢乃「本当はこのまま帰ろうかと思っていたのよね」
実「え~、そんなつれないこと言わないで下さいよ~」
剛史「そうですよ~、カップリングのお祝いにぼくが奢りますんで」
絢乃「別に、絶対に嫌だって言ってる訳じゃないんだけどね」
剛史「でしたら、是非とも行きましょうよ」
絢君「でもね、何で篠原さんから誘ってくれないのかな~、って思って」
剛史「ぼくもそう言ったんですけどね」
絢乃「それで、彼は何て答えたんですか?」
剛史「それが、さっさからずっと歯切れが悪いままなんですよ」
絢乃「でも、彼は私の番号を書いてくれた訳でしょう?」
剛史「そうなんですけどね、急に固まってしまって動かないんですよ」
絢乃「今頃になって緊張しているのかしら?」
剛史「多分そんなところだと思います」
実「何か心当たりはありませんか?」
絢乃「さあ、私からは何とも言えないわ」
実「因みに、篠原君とはアドレス交換したんでしょうか?」
絢乃「いいえ、していないわ」
実「でしたら、連絡先の交換だけでもお願いしますよ」
剛史「そうですよ、ゆっくりとお茶でもしながら交換なさっては?」
絢乃「そうしたいのは山々なんですけど、貴方達から頼まれるのは複雑だわ…」
実「お気持ちは分かりますが、自分にもチャンスを頂けませんか?お2人の邪魔はしませんので」
剛史「ぼくからも頼みます」
絢乃「そうね、せっかくカップルになったんですものね、皆さんと一緒ならいいわ」
剛史「本当ですか!よかった~、ありがとうございます」
絢乃「でも、何で本人から言ってこないのかしら?」
実「あ~、正直に言うと、最後のインタビューで谷口さんに厭らしい質問を連発されたからですよ」
絢乃「そんなの気にしなくていいのにね」
剛史「ぼくもそう思いますよ」
絢乃「まだ帰るには早いし、30分だけなら大丈夫よ」
剛史「了解、誠司君にも伝えてきますね」
絢乃「ええ、お願いね」
ぼくは、絢乃さんの目の前に誠司君を連れて行きました。
誠司「お待たせしちゃってすいません、何か最後のインタビューで気が引けちゃって…」
絢乃「いえ、私は気にしていないわ」
実「とりあえず、役者が揃ったってところかな!」
剛史「そうだね」
実「それじゃあ、番号札を返してここを出ますか」
絢乃「あっ、ちょっと待っててね、私の友達に伝えてからでもいい?」
実「それはいいですけど、お友達って何番の方なんですか?」
絢乃「あそこにいる12番の子よ、ここに連れて来るから私のハンドバッグを見ていてね」
剛史「分かりました」
プロフィールシートを見ると、12番の女性は大島美純さんと書かれていました。(以後、美純さんと表記します)
絢乃「ごめ~ん、お待たせ~」
剛史「いえいえ、こちらこそ無理言ってすいません」
美純「貴方達が篠原さんのお友達なの?」
実「そうですよ」
美純「今日は残念だったわね」
実「まあ、完全に力不足ってところかな」
美純「南雲さんとはゲームでご一緒したわよね」
実「そういや、豪快に風船を割ったっけ」
美純「勢い余って頭をぶつけちゃったけどね」
実「ははは、あの時は悪かったね」
美純「い~え、お互い様よね」
剛史「何だ、実君と接点があったんだ」
美純「ゲームをした後は話せなかったけどね」
剛史「あの、もしよかったら大島さんも30分だけお茶しませんか?」
美純「ごめん…、私はパスで」
絢乃「え~、みぃちゃん(美純さん)も来なよ~、鈴木さんが奢ってくれるんだよ~」
美純「ごめん、やっぱ負け組はサッサと退散したい気分なのよね」
絢乃「そう、それじゃあまた今度ね」
美純「私は帰るけど、あやちん(絢乃さん)をよろしくね」(美純さんは番号札を返して帰途につく)
剛史「分かりました」
絢乃さんは、誠司君と連絡先の交換をしないで流れ解散になるのが嫌だったのか、お茶に付き合ってくれました。
それでも、一点だけ腑に落ちない事がありました。
奢りますと言った手前あれですが、率先してお金を出すのは誠司君の役目ではなかろうか?
ぼくは、絢乃さんに声を掛けるだけの存在だった筈…。
でも、仕方ないや…、こういう時は出し惜しみすると碌な事がないからね。
ぼくは、絢乃さんの分だけを奢るのは不自然だと思ったので、全員分の食事代を出す事にしました。
お見合いパーティーで使用した番号札を、プラスチックケースの中に入れると、薄暗い階段を使って地上階に向かいました。
実「とりあえず喫茶店でも入りますか~」
絢乃「そうですね」
僕らは、近くに喫茶店がないかと探し回りました。
しかしながら、そういう時に限って喫茶店が無かったのです…。
剛史「ちょっと先にハンバーガー屋ならあるけどね」
実「バーガー屋じゃ落ち着けないだろ」
剛史「そう言われもなあ…」
実「それにしても、この通り沿いはハズレだよなぁ…」
剛史「じゃあ、その辺の路上でアドレス交換だけして帰るっていうのはどうですか?」
実「そうだな…、この状況だったらそれが一番かもな」
誠司「いや、駅まで行けば何かあるんじゃないかな?」
うちら3人が、あれこれと話していると絢乃さんが言いました。
絢乃「私はハンバーガー屋さんでもいいわ」
その一言に、うちら3人はホッとしました。
同時に、“絢乃さんは何ていい人なんだろう”とも思っていました。
それから、程無くして数メートル先にあるハンバーガー屋に入店しました。
剛史「ぼくが最後に会計しますんで、決まっている人から注文して下さいね」
実「悪いな、うちらの分までな」
剛史「いやいや、そんな事より早く頼んでよ」
実「ちょっと待っててな~」
絢乃「だったら、私から頼もうかしら」
剛史「決まっているならどうぞ」
その言葉通り、絢乃さんが真っ先にセットメニューを注文しました。
続いて、誠司君と実君がセットメニューを注文しました。
実「じゃあ、先に2Fに行ってるからな」
剛史「了解」
3人が注文を終えると、50席以上と掲示してある2Fに向かいました。
その際に誠司君から、“4人掛けの席を確保しておくから”と言われました。
ぼくは、皆さんより若干お安いセットメニューを注文すると、全員分の会計をしました。
「ありがとうございました~」
「こちらの番号札を、テーブルの真ん中に置いてお待ち下さいませ」
剛史「分かりました」
番号札を受け取り2Fに上がって行くと、すぐに誠司君達を見付けました。
誠司「おーい、こっちこっち」
剛史「大丈夫、すぐに分かったから」
実「まあ、とりあえずそこに座ってくれよな」
剛史「ふ~、疲れた~」
いつも通りの展開だと、今頃は反省会と称した飲み会をしていた事でしょう。
それが、女性が1人でも加わるだけでこんなにも変わるとは!
ぼくは、その状況に浮かれていました。
とはいえ、絢乃さんには、“30分だけお茶に付き合って欲しい”という事で来てもらっているので、時間だけは守ろうと思っていました。
なので、ぼくは椅子に座る前に然り気無く現在時刻をチェックしました。
ぼくの斜め前の壁面には、キャラクターをあしらった掛け時計があったので、その時刻を基準にする事にしました。
現在時刻は20時30分を少し回ったところだったので、話が盛り上がっていなければ21時でお開きにしようと思っていました。
4人掛けのテーブル席に着いて数分経つと、やっと気持ちが落ち着いてきました。
皆さんの座り位置は、2Fの入口から見て左奥が誠司君、その向かい側に絢乃さん、右手前が実君でした。
ぼくの席は、誠司君の左隣で実君の正面でもありました。
剛史「どうも~、今日はお疲れ様でした~」
「お疲れ様~」(一同)
絢乃「本当、疲れたね~」
誠司「それでも今日は心地よい疲れだよ」
実「そりゃあ、こんなにも可愛い彼女さんとカップルになれたんだからな」
絢乃「またまた、うまいんだから~」
実「ははは、今日は俺にもチャンスがあったんだけどなぁ」
剛史「ぼくにはチャンスらしいチャンスはなかったけどね」
絢乃「今日は人数的に男性の方が有利だったのにね」
剛史「そうですね、今日は何時に無く積極的な女性が多かった気がしますよ」
誠司「本当にさ~、ここ数ヶ月でお見合いパーティーも変わったよね」
実「そうだな、俺らなんてお見合いパーティーが流行る前から行っていたからな」
絢乃「え~、そんなにもパーティーに出ていたんですか?」
剛史「以前はね、でも今日は久しぶりだったんだけどね」
誠司「あの頃は酷かったな、多い時で女性の3割はサクラだったからな」
絢乃「サクラってどんな感じなの?」
誠司「ピンからキリまでだよ、モデル並みに綺麗な人もいるからね」
絢乃「そんな人がいたら私達にとっても脅威よね」
誠司「そうだね、いざパーティーが始まるとサクラといえど圧倒的な人気になるからね」
絢乃「今日がそんなんじゃなくて良かった~」
誠司「それに、最近は男女比に拘っていますからね」
実「女性の場合、ドタキャンが多いから多めに受け付けているみたいですよ」
絢乃「へ~、知らなかったわ」
誠司「逆に、男性の申し込みは女性の8割程度になるよう厳しく制限しているみたいですよ」
絢乃「それで女性が多かったのね」
誠司「それでも、通常だと男性の方が多いんですけどね」
実「でも、最近は真面目に参加する女性が増えたんだろうね」
絢乃「そうみたいね」
剛史「ぼくも吃驚でしたよ」
絢乃「因みになんだけど、今日もサクラがいたのかしら?」
剛史「女性が多い時はいないと思いますよ」
絢乃「今回は安心だったのね」
誠司「だったらいいんだけどね…」
絢乃「まだ他に何かあるの?」
実「それが今や、男性にとって目障りなのはサクラだけじゃないんですよ」
絢乃「へ~、他には何があるのかしら?」
実「それは、恋人のフリをして高額商品のローンを組ませる業者が潜入しているんですよ」
絢乃「え~、業者なんて初耳だわ!」
誠司「それが今日もいたんだよ、カモと一緒にまんまと抜け出したみたいだけどね」
絢乃「ねえ、誠司さん、その話今度詳しく聞かせて下さいよ~」
誠司「そうだね、今月中には予定しておきますよ」
剛史「その前に、アドレス交換をしてからだよね」
絢乃「そうね」(2人がアドレス交換をする)
(アドレス交換が終わった頃を見計らって)
実「ところで、鈴木君から声を掛けられた時はどう思いました?」
絢乃「そうね、正直驚いたわ」
剛史「すいません、いきなりお茶にお誘いしてしまって」
絢乃「いえ、大丈夫ですよ、帰りに何か食べようとは思ってましたから」
二言三言話していると、店員さんが2回に分けてセットメニューを持って来てくれました。
「ご注文の品は全てお揃いでしょうか」
剛史「大丈夫だよね?」
「はい、大丈夫です」(一同)
「それでは、番号札を回収致します」
店員さんは、番号札を回収するとこちら側に向き直りました。
「ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと、店員さんは慌ただしく1Fに下りて行きました。
僕らは、お見合いパーティーで話し続けていたので、からっからに喉が渇いていました。
なので、有無を言わずドリンクから手を付けました。
実「ふぅぅ~、ちょっとだけ生き返った~」
誠司「俺もヤバいところだったよ」
剛史「よし、そろそろハンバーガーでも食べるかな」
ぼくが、ハンバーガーを一口だけ齧ったところで絢乃さんが、
絢乃「あの~、私、篠原君と2人きりになりたいんですけどいいですか?」
と、唐突に言ってきました。
まあ、言われてみれば、女性1人に男性3人では息苦しいのかもしれません。
それに、誠司君の成果に水を差す訳にはいきませんでした。
そこで、ぼくは考えました。
「それを言うからには、僕らがいたら話せないって事だよね」
「それも、今この場で早急に確認しなければならないんだろうな」
「ん~、恐らく、テーブル席でアドレス交換しなかった事をとやかく言うつもりなのかな」
「それとも、既成事実を作る為に円山町に行く算段でも立てるのかな」
「う~ん、どっちにしても邪魔は出来ないけどね」
「でも、流れ的に後者はないかな…」
いろいろと考察した結果、一先ずは絢乃さんの言い分を呑む事にしました。
なので、その打開策を考える事にしました。
その結果、ただ単に僕らが別席に移動すれば解決するんじゃないかと考え付きました。
「そういえば、窓際のカウンター席が若干空いていたな」
「でも、急がないとすぐに埋まってしまうかも…」
その事を、実君の近くに行って耳打ちをすると、すぐに納得してくれました。
実「でしたら、我々はカウンター席に移りますね」(荷物を置いて席を確保する)
剛史「ちょっとだけ待って下さいね、うちらは窓際の席に移りますんで」
絢乃「でも、他の席に行っても私たちの会話が聞こえちゃいますよね?」
剛史「そんなには聞こえないと思いますけど…」
絢乃「いえ、少しでも聞こえてしまうと都合が悪いんです」
実「では、どうしてもらいたいと?」
絢乃「出来れば帰って欲しいんですけど」
それを聞いた時、ぼくの血の気が引きました。
「マジか…、やっと座ったばっかりなのに、このタイミングで帰れとな…」
「それに、かなりお腹が空いているというのに…」
そんな事情もあってか、思わずこんな事を口走ってしまいました。
剛史「あの、今ぼくはスーパーヘビー級にお腹が減ってるんで、ハンバーガーだけでもここで食べていきたいんですけど…」
ぼくがそう言うと、
絢乃「そもそも、何であんたらと一緒に食べなきゃならないのよ!嫌だって言うんなら、私もう帰るから!」
と、絢乃さんは凄んできました。
「これはもしや、お茶をするという事は了承したものの、僕らと30分MAXで同席するのは解せないという事なのか?」
「それにしても、言い方ってもんがあるだろうに…」
そんな事を思っていると、今まで押し黙っていた実君がぼくに向かって、
実「バーカ!自分のバーガーとドリンクだけ持ってさっさと外に出ろよ!」
と、吐き捨てるように言ってきました。
僕らがそんなやり取りをしていた時に、誠司君が何か言いたげな表情をしました。
しかし、僕らを庇うような言動は一切ありませんでした…。
というか、言えなかったんだと思います。
恐らくは、こんな展開になるとは誠司君自身も思っていなかったのでしょう。
それと、パーティー会場の時と現時点では、絢乃さんの態度が少なからず違っていたのも影響したんだと推し量られます。
ぼくは、涙目になりながらも、
剛史「じゃあまたね!後で連絡するから」
と、大きめな声で言うと、早足で階段を下りて行きました。
実君は、食べかけのハンバーガーとドリンクを両手に持って、黙ってぼくの後ろを付いて来ました。
ぼくは、一刻も早く食べ物を口にしたいという欲望はありましたが、ハンバーガー屋の近くで飲食をするのは憚られました。
何故なら、お2人がお店から出てきた時に鉢合わせするかもしれないからです。
僕らは、ハンバーガー屋を出てから100メートル以上は歩きました。
ただ、その周辺には、2人の男性がゆったりと座れるような場所はありませんでした。
なので、仕方なく強度があるガードレールの上に腰掛けました。
何とか座れたので、残りのハンバーガーはそこで食べる事にしました。
ぼくは、冷め切ったハンバーガーを口の中に押し込むと、ドリンクをがぶ飲みしました。
手付かずだったフライドポテトを勢いよく完食すると、紙ナプキンで指先を拭き取りました。
空腹が満たされると、さっきまでの出来事に対して、後から怒りが湧いてきました。
剛史「このままだと気が収まらないから飲みに行かない?」
実「いいぜ、今日はさすがに素面じゃ帰れないからな」
剛史「話が分かるね~」
実「だったら、そこにある居酒屋でどうよ?」
剛史「いいね~、ある程度食ったからいきなり飲めるね」
実「OK!もう決定だからな」
僕らは、すぐ近くにある居酒屋に入りました。
「いらっしゃいませ!」
「2名で」
「すぐにご案内出来ますよ」
数秒後に座席に着けたものの、気持ち的には恒例になっている反省会の時よりも機嫌を損ねていました。
剛史「クソっ!絢乃さんをお茶に誘ったばっかりにこんな事になっちゃったよ!」
実「いや、お前は間違ってねえよ」
剛史「でも、こんな気持ちになった以上、そう思いたくもなるよ!」
実「いやいや、愛のキューピット役なんていつだってこんなもんだろ」
剛史「思いっきり傷付いたけどね…」
実「それでも、うちらでフォロー出来る事はやらないとな」
剛史「そりゃあそうだけどさ~、奢ってあげたのにあんな言われ方はないよ!」
実「まあ、そうだな、お礼の一言もなかったからな…」
剛史「彼女にしてみれば、うちらは誠司君の友達っていうだけだからね」
実「それは、来てくれただけでもよしとしないとな…」
剛史「最初は、皆さんと一緒だったらいいって言ってたじゃんか!」
実「確かにそう言っていたな…」
剛史「それがいきなり、2人きりになりたいから帰ってくれとはね…」
実「あれには俺も驚いたよ…」
剛史「それが、よりにもよって食事中に邪険にしてくるなんてね…」
実「男と女じゃ通用する常識が違うからなんだろうな…」
剛史「ちやほやされて生きてきたからなんじゃないの?」
実「それはあるだろうな」
剛史「だったら、なんでぼくの誘いに乗ったんだろう?」
実「結局のところ、俺らは誠司を連れ出す為だけの役目だったって事だよ」
剛史「それって、お茶の誘いを逆に利用されたって事?」
実「そこまで計算していたかは知らねえけど、結果的にはそうなるな」
剛史「ぼ、ぼくが余計な事をしたばっかりに…」
実「いや、あそこでお前がサッと動いたのは高評価だと思うぜ」
剛史「どの辺が?」
実「俺には出来ない芸当だったからな」
剛史「でも、こんな惨めなお茶はあり得ないよ!」
実「それが嫌なら、うちらも早くカップルになれって事だよ」
剛史「あ~あ、里歌子さんの方が優しそうだったけどな~」
実「それはどうかな?女の本性なんて分からないからな」
剛史「何だよ~、さっきから否定ばっかしてさ~」
実「そりゃあ、負けてばっかじゃ卑屈にもなるだろうが!」
剛史「気持ちは分かるけどさぁ…」
実「結局は、勝てない奴はいくら吠えても誰も助けちゃくんねえからな」
剛史「それは言えてるけどね…」
実「これが勝ち組と負け組の差ってやつなんだろうな」
剛史「だろうね…」
実「でも、俺が絢乃さんだったら同じような事をするかもな、“もう、此奴ら関係ないな…”と思ったら早々に排除しようとするんじゃないかな?」
剛史「いやいや、今はそういう意見を求めている訳じゃないんだよ!」
実「じゃあ、どういう事を言えばいいんだよ!」
剛史「とりあえず、ここにいない奴のフォローは無しにしない?」
実「まあ、それもそうだな」
剛史「実君も何か思うところはあるでしょ?」
実「今回は業者にビビって真面に戦えなかったよ」
剛史「実はぼくもなんだよ…」
実「そもそも、何で業者なんかいるんだよ!」
剛史「そうだそうだ!もっと言え~」
すると、実君もぼくの気迫に押されて同調しました。
実「あの女は、誠司の前だけいい顔をしているヤバい奴だよ!」
剛史「でしょう!それもぼくの方だけを見て凄んでくるなんてさ!」
実「お前は当たられやすいからな」
剛史「クソっ、あの女本当にムカつくよ!」
実「だけど、ああなった以上、俺らは一刻も早くずらかった方が身の為だろ!」(ずらかる→逃げる)
剛史「確かにね…」
実「あれさぁ、さっきはあんな事言っちゃってゴメンな…」
剛史「仕方ないよ…、僕らには30分すら同席する価値はないって事でしょ!」
実「それは考え過ぎだって!相手が悪かっただけだって!」
剛史「それならいいんだけどね」
実「そうそう、僻んでいてもいい事ないからな」
剛史「それでも、誠司君にはこのお礼をしてもらわないとね」
実「それは、俺からも取り立ててやるよ」
僕らは、続けざまに不満を吐露しました。
実「結局さ~、パーティーが安くなっても女が多くなろうが、カップルになれなきゃ意味ないよな~」
剛史「状況は変わっても、女の理想は変わらないからね」
実「でも、以前よりかは声が掛かるようにはなってんじゃねえの?」
剛史「それはそうだけど、逆ナンには慣れてないからさぁ…、好感触で迫られても適切な対応なんて出来ないよ」
実「でもさ~、誠司の野郎はあんな短い時間でどうやって口説いたんだろ?」
剛史「チラッと見た限りだと、ヒットアンドアウェイを実践していただけだったよ」
実「何それ?」
剛史「要は、話に乗って来ない相手には一切関わらないって事かな」
実「あとさ~、ゲームでは男女比の関係で女性から積極的に誘ってもらえたけど、フリータイムではいつも通りだったな…」
剛史「ぼくが年上って事で、好感を持ってくれた人はいたけれど、それだけだったよ」
実「まあ、その辺は次回に生かせるかもな」
剛史「だといいんだけどね」
実「誠司の選んだ女はハズレだったかもしれないな…」
剛史「あんなに早く本性を出さなくてもいいのにね…」
実「仮に続いたとして、いずれは俺らと再会するかもしれないのにさぁ」
剛史「そうなったら気まずいよね」
実「今思うと、誠司の事なんてほっといて、うちらだけで飲んだ方が良かったんじゃねえの?」
剛史「結果的にはね」
実「あ~、期待をしただけバカだったよ…」
実君の愚痴が続くと、ぼくはようやく救われたような気がしました。
僕らは、安いお酒を飲みながら、いつまでも憤慨していました。
お見合いパーティーでは、男女ペアのゲームだけは新鮮味がありました。
それに、3人で参加したパーティーで、うちらがカップルになれたのは初めてでした。
しかし、ハンバーガー屋で絢乃さんから邪魔扱いされたのには、いくらなんでも頭にきました。
それにしても、どうして急に席を空けろなんて言ってきたんでしょうか?
いろいろと考えましたが、納得のいく答えは出ませんでした。
それでも、カップリングしたのは誠司君なのだから、彼だけがうまくやってくれればいい話でした。
「我々の扱いはこれが正解なんだ」
と、言い聞かせながらも、2人の怒りはしばらく燻っていました。
ぼくと実君は、お見合いパーティーとハンバーガー屋での出来事を酒の肴にして、つい深酒をしてしまいました。
帰り道は、最初のうちこそフラフラしましたが、酔いを覚ましつつ何とか家に帰りました。
「そういや、プロフィールシートは持って帰ってきたかな」
カバンの中を探ってみると、普段から愛用しているあおりポケットの中に入れてありました。
「あー、あるある」
「これで、彼女(絵美佳さん)のお言い付けは守れたんじゃないかな」
ぼくは、それだけ確認すると、体力の限界だったのもあってすぐに寝てしましました。




