《続編》第5部~カップリング発表とその後にかけて 第1章~本日のカップルは
フリータイムが終了すると、最終投票の集計が始まります。
その間、司会役の方は控室で待機しています。
集計にかかる時間は、10分前後になると思います。
この時ばかりは、会場にいる全員が集計作業を興味深く見守っていました。
会場係の方は、2人1組になって投票用紙をチェックしていきました。
投票用紙は、男女別にして小箱に入れていきました。
その後、男性側の投票用紙(青色)を見ながら、手早くPCに打ち込んでいきました。
男性陣は、ほぼ全員が最終投票をするので入力に時間を要します。
それは、どこのお見合いパーティー会場であろうと同じ事だと思います。
その理由は、男性の参加費が高額なのと、“空手形では帰れない!”という強い思いがあるからだと思います。
あとは、“人気の女性には是が非でも投票しないと気が済まない!”という性分の男性もけっこういるのです。
それが、99%無理な願いであっても、淡い期待を抱いてカップルの発表を待っているのです。
男性側の最終投票用紙は、提出数が多いというだけで人気の女性に偏っている事が多いです。(完全に見た目重視です)
なので、有効な票がほとんど無いというのが現状だったりします。(うまくバラける時もありますが)
これはよくある話なのですが、ある男性が数人の仲間とお見合いパーティーに行ったとします。
そのメンバー全員が、最終投票用紙に同じ女性の番号を書いた、というのも珍しい事ではありません。
それでも、“仲間内の誰かがカップルになれればいっか!”という感じの流れになると思います。(争ったところで選ばれるのは1人だけなので)
しかし、蓋をあけてみると、その女性からは誰も選ばれなかった…、なんて事もあり得るのです。
男性側の入力が終わると、投票用紙に輪ゴムを掛けてを小箱に移していきました。
続いて、女性側の投票用紙(ピンク色)を集計し始めました。
そこで、会場係の1人が思わず漏らした心の声が、
「何だ、女性はたったこれだけか…」
という一言でした。
会場係の方々は、司会進行は疎か設営やクレーム対応でも相当頑張っていたと思います。
それなのに、思ったような成果が出なかったので、つい本音が出てしまったのでしょう。
ぼくが見た限りでは、女性側の票数も男性側の半分以上はありました。
ただ、こんなにもカップリングしないという事は、大半が無記入投票だったんだと推測されます。
「おい、気を抜かないでさっさと集計しろよ」
「はい、分かりました」
会場係の方は、女性側の投票用紙を再びPC入力していきました。
女性側の入力が終わると、スッと画面から顔を離し吐息を漏らしました。
「ふぅぅ~」(目を閉じて上を向く)
(画面に向き直って)「よしと、これで間違いないかな」
「終わったか?」
「はい」
「どれどれ」
「どうです?入力結果はこんな感じになっていますけど」
「うん、そうだね、間違いないんじゃない」
集計係の方が一息ついたところで、彼らの後方にいた上席者がダブルチェックをしました。
「こっちにも見せろよ」
「どうぞどうぞ」
「ちっ、何だぁ、こんなもんか…」
(投票用紙と画面を照らし合わせながら)「こことここがこうなるって事ですよね」
「そうだな、これでいいからプリントアウトしといてよ」
「分かりました」
PC入力を担当していた方は、カップリングの結果をプリントアウトしました。
そして、その紙をクリップボードに挟みました。
そこで、彼らの上席者が言いました。
「おっと、忘れるところだった」
「その紙をこっちに寄こしてくれよ」
「順番を決めないとならないからな」
PC入力をしていた方は、クリップボードをそっと差し出しました。
彼らの上席者は、プリントアウトした紙に幾つもの数字を書き込むと順番を洗い出しました。
その数秒後に上席者が呟きました。
「そうだなぁ、今日のはこれで間違いないだろう」
そう言うと、会場係の方にクリップボードを差し戻しました。
「ねえ君、これを司会者に持って行ってよ」
「はい、今すぐ渡してきます」
「おう、頼んだぞ」
会場係の方は、クリップボードを持って控室に入って行きました。
その直後、再び初老の紳士の鍋嶋さんが会場の中央に戻って来ました。
続いて、ゲームの司会進行をした谷口さんが鍋嶋さんの右後方に立ちました。
いよいよ、カップル発表の時間になりました。
鍋嶋「えー、それでは皆様、本日のカップリングの発表を致します」
谷口「まさか、0組じゃあないよね?」(一同失笑)
鍋嶋「ご心配なく!本日のカップリングは何組か成立しております」
谷口「おっ、やるじゃん!頑張ったじゃん!」
鍋嶋「良かったですね~」
谷口「それで何組出来たの?」
鍋嶋「3組でございます!」
谷口「3組か~、お姉さんは微妙だな~」(谷口さんが半目になる)
鍋島「まあまあ、そう悲観なさらないで下さいよ」
谷口(口を尖がらせながら)「だってぇ~、今日は最高記録を狙っていたんだもん」
鍋嶋「カップル数は少なめでしたが、ここは皆さんで栄冠を手にした3組を祝福しましょうよ」
谷口「はーい、分かりました~」
鍋島「それでは、番号を呼ばれた方は笑顔で前へいらして下さい」
鍋島「会場の皆様は拍手でお迎え下さい」
鍋島「それでは、1組目を発表致しまーす!」
鍋島「1組目は、2番の男性と4番の女性で~す!」
鍋島「どうぞ前へお越し下さい」(パチパチパチ)
4番の女性は、ぼくと割り箸通しゲームでペアになった司さんでした。
司さんと2番の男性は、フリータイムでお近付きになったのでしょう。
やはり、力を入れるべきはフリータイムという事を、まざまざと思い知らされました。
鍋島「おめでとうございます!」
鍋嶋「お互いに投票したお相手で間違いないでしょうか?」(2人が嬉しそうに頷く)
鍋嶋「それでは、手を繋いでから後方にあるテーブル席でお待ち下さい」
2人は、促されるままテーブル席に着きました。
鍋島「続きまして、2組目を発表致しまーす!」
鍋島「2組目は、男性8番と女性20番の方で~す!」
鍋島「どうぞ前にお越し下さい」(パチパチパチ)
女性20番の方は、ぼくと輪投げゲームでペアになった清美さんでした。
鍋嶋さんからそう言われた時、ぼくの最終投票が一瞬で水泡に帰しました。
「クソっ…、ゲームで成功しても良い事なんて何も無いじゃないか」
「所詮ゲームはゲーム、単なるお遊びだったのか…」
「冷静に考えてみると、ゲームに誘ったところで拒否される事はないからね」
「だとすると、フリータイムで話したどちらかの女性を選ぶのが正解だったのか…」
「憖っかゲームで成功したもんだから、完全に本質を見誤っていたな…」
苦虫を嚙み潰したような顔で悔しがったものの後の祭りでした。
鍋島「おめでとうございます」
鍋嶋「え~、まずはお近づきの印に握手をして頂きます」(2人が遠慮がちに握手をする)
鍋嶋「それでは、手を繋いたままテーブル席に移動して頂きます」
鍋嶋「係員はテーブル席までご案内願います」
2人がテーブル席に着くと、会場の皆さんから羨望の眼差しで見られていました。
つまるところ、お見合いパーティーに来た以上は、テーブル席に座れるようにならないと何の意味もありません。
ここに登場するテーブル席とは、カップリングした人だけが案内される特別な場所なのです。
この場所だけは、パーティー中に配置替えする事はありません。
テーブル席を使用しない時は、埃が被らないようにシーツの様な物が掛けられています。
お見合いパーティーに行くと、どこの会場であっても4~5卓程度のテーブル席が用意してあります。
その席を全部埋められるかどうかが、運営会社の手腕といったところでしょう。(但しサクラは除きます)
ですが、多くの回で5組以上になる事はありませんでした。
その為、空いたテーブル席は荷物置き場になったり、次回以降のご案内のチラシが置かれていたりするのです。
それでも、6組以上のカップリングの回が無い訳ではありません。
その場合、カップルになれなかった参加者を早々にお引き取り願って、足りない分は椅子だけをセッティングして急場を凌ぎます
パーティー会社によっては、テーブル席への移動は促さずに、カップリングしたままで退出して頂くというのもあります。
カップルになる事だけを目指していた人にとっては、そのまま退場したとしても特に問題はないと思われます。
しかし、テーブル席を目指していた人からすれば、それはそれで葛藤するのかも知れません。
ここで本題に戻ります。
鍋島「これより、本日最後のカップリングを発表致します!」
鍋島「皆様に申し上げます!」
鍋嶋「お手元にあるご自分の番号を今一度ご確認下さいませ」(ここで一拍置く)
ぼくは、3組目の女性が誰なのかを予想をしました。
第1の候補は、ぼくと風船割りゲームをした6番の優さんでした。
彼女も、カップルになった女性と負けず劣らずの容姿をしていたからです。
それに、ぼくと一緒にゲームをした女性が3人共カップリングするのなら、飲み会のネタになりそうだったからです。
優さん以外だと、22番の里歌子さんの人気も上々でした。
フリータイム後半戦だけなら、彼女が一番人気と言っても過言ではありませんでした。
一方、フリータイムの前半戦では、里歌子さんと誠司君がいい雰囲気で話し込んでいました。
「という事は、誠司君の番号が呼ばれたらお相手は里歌子さんっていう事もあるのか?」
「この2人は、男女ペアで行うゲームを2回もやっていたし、もしかするともしかするのでは?」
「え~と、里歌子さんの友達は21番の酒井由紀美さんだったかな」
「仮に、誠司君と里歌子さんがくっ付けば、酒井さんと合コンって事もあるかな?」
「でも、酒井さんの情報はプロフィールシートに書いてあるだけなんだよね」(例のいざこざで聞いていなかったので…)
ぼくは、そんな事を思っていました。
鍋島「それでは、本日最後のカップルを発表致しまーす!」
鍋島「本日最後のカップリングは~」(ここでドラムロールが流れます)
鍋嶋「男性は10番の方で~す」
男性10番は誠司君でした。
ぼくと実君は目を輝かせました。
鍋嶋「それでは、女性の番号を公表致しま~す」
鍋嶋「女性は11番の方で~す!」
鍋島「どうぞ前へお越し下さい」(パチパチパチ)
今日だけは、“うちらの中からカップルが誕生するかも!”と期待していましたが、本当に名前を呼ばれるとは思いませんでした。
誠司君は、一瞬で満面の笑みになりました。
そして、力強くガッツポーズをしてから前に行きました。
11番の女性は、顔を赤らめながらも嬉しそうに微笑みました。
そして、片手で口を押さえながらゆっくりと前に出て来ました。
プロフィールシートを見ると、11番の女性は三島絢乃さんと書かれていて、ぼくにとっては全くのノーマークの方でした。(以後、11番の女性を絢乃さんと表記します)
絢乃さんは、色白で鼻筋が通っていて、笑うと三日月形の目をしていました。
前髪は中央で分けていて、後ろ髪はボリューム感のあるポニーテールでした。
そこで、ふと里歌子さんの事が気になって、彼女の様子を窺ってみました。
すると、里歌子さんは打ちひしがれたような暗い表情をしていました。
彼女は、“えっ、何で?”と言わんばかりの表情をしてから、数秒後には下唇をギュっと噛み締めて下を向いてしまいました。
その様子を見る限り、彼女は誠司君に投票していたのかも知れません。
ぼくは、自分の事を棚に上げて、里歌子さんを憐れんでしましました。
「何だ…、里歌子さんもぼくと同じで最終投票で外れたんだろうな」
「これは、勝負馬券に外れたどころの騒ぎじゃ済まないな…」
とまあ、そんな事を思っていました。
鍋嶋「おめでとうございま~す!」
鍋嶋「本日、最後のカップルになられたお2人には、弊社が運営するカフェのクーポン券を差し上げます」
鍋嶋「尚、クーポン券の期限は来月末迄となっておりますので、是非お2人でお使い頂けたらと存じます」
鍋嶋「えー、それでは、これにて本日のパーティーを…」
鍋嶋さんが締めの挨拶をしている途中で、谷口さんがスッと前に出て来ました。
谷口「ちょっと待って下さいよ~」
谷口「せっかく3組もカップルになったのに、これじゃ全然盛り上がらないじゃないですか~」
谷口「最後にカップルになったお2人には、私からインタビューをさせて下さいねー」
そう言うと、谷口さんは鍋嶋さんが持っているマイクを奪い取りました。
鍋嶋さんは、“やれやれ困ったお嬢さんだな”という感じの表情をしました。
谷口「はい、では彼に質問でーす」
谷口「彼女のどこに惹かれましたか?」
誠司「そうですね、話が合ったし可愛いと思ったからです」
谷口「彼はそう言ってますけど、彼女はどうですか?」
絢乃「え~、そうですね、話していて楽しかったのと、身長が高い人っていいなって思って」
谷口「それはそれは、ごちそうさまでした~」
誠司「ど、どうも」
谷口「じゃあ、早速親御さんにもにも報告ですか~」
絢乃「いえ、まだまだそんなんじゃありませんよ」
谷口「いやいや、当パーティーで最後にカップリングした諸先輩方を見くびってもらっちゃ困りますよ」
谷口「つい最近も、“お陰様で結婚が出来ました~”とか、“その節はありがとうございました~”っていう感謝のお手紙を何通も頂いてるんですからね」
鍋嶋「こちらのテーブルに置かれているのが、皆様の先輩方から頂いたお手紙になります」
谷口「それに、スタッフの中には相性診断が出来る人がいるから、カップリングした中で一番相性がいいと思われるペアを演出込みで最後に発表しているんですよ」
絢乃「へ~、そうなんですね」
谷口「それじゃあ、この後お2人で円山町にあるホテルなんてどうですか?」
絢乃「う~ん、それはちょっと考えてからにします」
谷口「本日最後のカップリングなんだから盛り上げて下さいよ~」
絢乃「ここでは恥ずかしくて言えないですよ~」
谷口「それもそうですね」
谷口「因みに、彼の方はどう思っているんですか?」
誠司「え~、それは2人の事なので…」
谷口「嫌なんですか?」
誠司「それは想像にお任せします」
谷口「何なら、ホテルのクーポン券を渡しましょうか?」
誠司「えっ」
谷口「まあ、嘘ですけど」
谷口さんから過激な質問が続くと、誠司君は後ずさりながら、
誠司「そ、それはまあ…」
と、言葉を濁していました。
絢乃さんは、真顔のままで黙り込んでしまいました。
会場の空気が変わったところで、谷口さんは得意気な様子で、
谷口「何だ、図星ですか~」
と言って、笑いを誘いました。(その間に誠司君と絢乃さんがテーブル席に案内される)
会場の皆さんが思わず吹き出したところで、谷口さんが締めの挨拶をしました。
谷口「はーい、私からのインタビューはこれで終わりで~す」
谷口「最後に笑ってくれてありがとうございました~」
谷口「これにて、お見合いパーティーを終了致しま~す」
谷口「本日はお忙しい中ご参加ありがとうございました~」
谷口「尚、テーブル席の方だけはこれより10分間延長させて頂きま~す」
鍋嶋「え~、申し遅れましたが、カップルのお連れ様も椅子席でお待ち頂けますので、どうぞご利用下さいませ」
その案内を聞いて、僕らは椅子席に座りました。
他にも、何人かは待合いの為に会場に残りました。
ここで、健闘虚しくカップルになれなかった参加者は、次々と姿を消していきました。
一方で、カップルになった皆さんは、楽しげな声でアドレス交換をしていました。
しかし、誠司君と絢乃さんがアドレス交換している様子はありませんでした。
それどころか、他のペアよりも早く話を切り上げていました。
誠司君が、何をそんなに焦っているのか、ぼくには理解不能でした。
それどころか、泡を食って帰ろうとしているではありませんか。
ぼくは、誠司君に帰られたらおしまいだと思って必死で食い止めました。
剛史「ちょっと待ってよ!何で帰ろうとするのさ」
誠司「何でもねえよ!その手を離せよ!」
剛史「いいから戻れってば!」
誠司「俺は十分に活躍しただろ!」
それを見て、実君はイライラしながら言いました。
実「なあ、せっかくカップルになったのに、何をそんなに慌てているんだよ」
誠司「そ、それなんだけどさぁ…」
実「何だよ、煮え切らないな」
誠司「俺もこんな事になるなんて思ってもいなかったんだよね」
実「いいじゃねぇかよ!めでたい事じゃねぇかよ」
剛史「そうだよ!この勝利を突破口にして勢いをつけたいのにさ」
誠司「でも、何て言うかその…」
剛史「もしかして、自分だけカップリングしたから気が引けるって事?」
実「いいってことよ!負け組に気を遣わなくたってさ」
誠司「そういう訳じゃあ…」
実「でも、テーブル席に行ったんだからアドレス交換はしたんだろ?」
誠司「いいや、俺からは言い出せなかったよ…」
実「おいおい、嘘だろ~!何でアドレス交換しなかったんだよ!」
剛史「そうだよ!せめて理由だけでも教えてもらわないと納得出来ないよ!」
誠司「それなんだけどさ…、何か、さっきのインタビューの所為で滅茶苦茶話し掛けにくいんだけど…」
誠司君は、真顔で僕らにそう言ってきました。
実「お前ってそんなに面倒臭い奴だったっけ?」
実君は、吐き捨てるようにそう言いました。




