第4部、第2章~フリータイム後半戦
フリータイムの前半戦が終わると、5分だけ休憩になりました。
そこで、うちら3人は合流しました。
誠司「なあ、そっちの方はどうだった?」
実「業者対策に時間を使っちゃったからさっぱりだったよ…」
剛史「実君は核心に迫ったんだけどね」
誠司「それで、業者っぽい奴はいたか?」
実「う~ん、1人で来ていた女には声を掛けたけど、素人なのか演技かは分からなかったよ…」
剛史「あれで業者だったらどうしようもないよ」
誠司「そもそもさ、お前ら2人で行ったら正体を現さないだろ」
実「そうなんだけどさ、やっぱ1人だと恐いじゃん」
誠司「そこを何とか解明するのが男だろ」
剛史「1対1ならしっぽを出したかも知れないけどね」
実「とりあえず、分からないという事だけが分かったよ」
誠司「まあ、見た目や態度で分からなかったら見送るのが無難だろ」
実「結局はそれしかないよな…」
誠司「それで、肝心のフリータイムの方はどうよ?」
剛史「いや~、思っていた以上に厳しいね…」
誠司「俺の言った通りだろ」
実「まあ、後半戦に賭けるしかないよな…」
剛史「そうだね」
誠司「後半戦は相手が誰だろうが自分からは絶対引くなよ」
剛史「分かってるって」
実「今最善なのは、カップルを回避して合コンに持ち込む事なんじゃねえの」
剛史「その心は?」
実「カップルにならなきゃ業者には引っ掛からないだろ」
誠司「まあ、合コンの誘いにも乗ってこなかったらそれまでだけどな」
剛史「さっきのぼくが正にそれだったけどね」
誠司「そんなのいちいち気にすんなよ」
剛史「確かにそうだけど…」
実「あっ、そろそろ時間だな」
フリータイムの後半戦は、とにもかくにもスピード勝負になります。
それは、お目当ての方と話せる最後のチャンスだからです。
なので、恋愛対象となる異性と話せていない方は浮き足立っていました。
フリータイムの後半戦は、スタートをする前から最短距離でお目当ての方に辿り着こうとして、熾烈なポジション争いが繰り広げられていました。
ただ、本命視されている方には、なかなか近付けないというジレンマがありました。
それは、うちらみたいに複数で来ている人達は、お目当ての方に話し掛ける人と、他の参加者の進路を妨害する人で役割分担をしていたからです。
それは、ライバルにとっても同じ事でした。
よって、本命視されている方に狙いを定めると、肉弾戦になるのは必至でした。
逸る気持ちにより、フライングをしてしまう人もいますが、そんな事は許されません。
その場合、会場係の方から笛を吹かれ、スタートラインからやり直しになります。
それに、参加者の皆さんからも非難される事は不可避だと思います。
よって、会場係の方に注意されない程度に、スタートダッシュをしなければなりませんでした。
「男ならスタートを制して女性のハートを勝ち取れ!」
何て、簡単に言う人もいますが、組織戦になると1人参加の方では歯が立ちません。
ただ、フリータイムが始まる前に、本命視されている人が立ち位置を変えた場合、1人参加の方にも少しだけチャンスはあります。
それでも、多くのケースでは組織戦が勝ると思います。
やはり、壁役の方が大柄だと太刀打ち出来ないからです。
なので、1人では競り勝てないと判断したら、スッと引くというのも1つのやり方だと思います。
ここで、鍋嶋さんがセンターマイクの前に立ちました。
鍋嶋「皆様、水分補給はお済みでしょうか」
鍋嶋「ドリンクが足りなくなりましたら、遠慮なく係員にお申し付け下さいませ」
鍋嶋「それでは、フリータイム後半戦をスタート致しまーす」
本命狙いの方々は、お目当ての方を目指して一目散に飛び出しました。
この時ばかりは、鬼気迫るものがありました。
ぼくは、輪投げゲームでご一緒した清美さんに向かって勢いよく走りました。
ところが、その直後に2人組の男性に邪魔されてしまいました…。
一瞬だけムッとしましたが、いつもの事なのでグッと堪えました。
そんな事でカッカしても、時間の無駄だと思って気持ちを切り替えました。
それに、一刻も早く次の女性と話したかったからです。
ぼくは、人混みを掻き分けながら、割り箸通しゲームでご一緒した司さんを探し出しました。
しかし、彼女とは立ち位置が遠かった上に3人の男性に囲まれていたので、行き着く事が出来ませんでした…。
それならばと、風船割りゲームでご一緒した優さんを探し回ったものの、彼女の後ろにも順番待ちの男性がいたのです…。
「クソっ、何だよ…」
「後半戦が始まったと思ったらこれだよ…」
「う~ん、これからどうやって作戦を練り直せっていうんだ…」
「でも、落ち着け!落ち着くんだ!」
「今日は女性の方が若干多いじゃないか」
「それに、人気の女性には順番待ちもいるじゃないか」
「だったら、いつもよりチャンスがあるって事じゃないか」
「それに、スタートダッシュを決められなかった男性だっているじゃないか」
「よし!ここは焦らずに深呼吸してから動こう」
ぼくは、1拍置いてからフリーの女性を探す事にしました。
そうする事により、自動的に本命を外す事が出来るからです。
端から、競争率が低めの方と確実に話したいのであれば、この方法が有効だったりします。
ただ、フリーの女性に声を掛けたところで、目も合わせようとしない人には近付かないようにしました。
この時、最も重要な事は、うちら3人の誰かが突破口を切り開く事でした。
ぼくは、フリーの女性に近付きつつ、周りにいる方々をチェックしました。
その折、20代前半と思われる男性は、女性のペースを考慮せずにガンガン口説いていました。
しかし、口説かれた女性からの受けはいまいちでした。
恐らくは、若い男性にありがちな一方的な会話(自慢話等)が毛嫌いされたのでしょう。
やはり、お見合いパーティーで語らうには、落ち着きが大事だと思います。
お相手から怪しまれたとしても、笑い飛ばすくらいでないと身が持ちません。
それと、話し上手よりも聞き上手の方が好感触だったりもします。
若い男性は、お相手の女性が手強いとみるや、“よかったら友達から始めませんか?”と畳み込んでいましたが、
「貴方位の年齢の男友達には困っていないの」
と、軽くあしらわれていました。
このパーティーで人気になっていた男性は、27歳前後のルックスが良い青年でした。
彼らの近くには、複数の女性が集まっていたので、フリーの女性がいない時もありました。
そのお陰で、ぼくは誰ともお話が出来ず溢れていました…。
かと言って、打開策が無い訳ではありませんでした。
交渉さえすれば、どこかのペアに入れてもらえない事もないのです。
それでも、どこぞのペアに割って入るのは、かなりの勇気が要るでしょう。
仲間内でパーティーに来ていれば、彼らに声を掛けて会話に入れてもらう事も出来ますが、そのタイミングが難しいのです。
例えば、会話が盛り上がっている時に声を掛けてしまうと、2人の仲に水を差す事になってしまいます。
一方で、膠着状態に陥っている時に声を掛けると、お相手の女性に逃げる口実を与えただけで終わる事もあります。
なので、仲間内のペアに割って入る場合は、
①話が盛り上がっていない時に近付く。
②自ら乱入するのではなく、会話中の仲間から声を掛けてもらう。(ヘルプとして)
といった、感じにするといいかも知れません。
※2人の会話が膠着状態であっても、いつまでもヘルプを呼ばない仲間もいますが…。
フリータイムの後半戦では、流れが読みにくいのが特徴です。
定番の流れとしては、前半戦で気が合う女性を探して、後半戦で交際を申し込むのが理想的だと思います。
しかしながら、後半戦でお目当ての女性と話せなかったとなると、勝利の方程式からどんどん遠ざかってしまうのです。
結局は、フリータイム後半戦で交際を申し込み捲った男性がカップルになったりするのです。
その時の謳い文句は、大体こんな感じになります。
男性「こんにちは、今お話よろしいでしょうか」
女性「はい、大丈夫です」
男性(大袈裟に)「○○さんをずっと探してたんですよ~!やっと話せましたよ~」(と言って嬉しそうな顔をする)
※ここで、名指しするのがポイントになります。
女性「えっ、そんなに」
男性「あの、最初に会った時からずっと貴女の事が気になっていました」
女性「ありがとうございます」
(この後、数分間流行りの話をします)
男性(頃合いを見計らって)「あっ、でも、もうお相手を決めちゃいましたか?」(ここからはケース1と2で分岐します)
❬ケース1❭女性「はい、もう約束した人がいます」(この場合すぐに退散します)
❬ケース2❭女性「いえ、まだ決まっていませんよ」(このセリフが聞けたら次に進みます)
男性「でしたら、友達からでも構いませんのでアドレス交換だけでもしませんか?」
女性「カップルになったらアドレス交換をしてもいいわ」
男性「だったら、目一杯頑張らないとね」
女性「それで、私のどこら辺が良かったの?」
男性「その綺麗な髪と可愛い声かな」
女性「持ち上げるのが上手いわね」
男性「いえ、そんな事は」
女性「まあいいわ、それでメル友にでもなりたいのかしら?」
男性「出来れば近いうちにお会いしたいのですが」
女性「でも、まだ会ったばっかりだし…」
男性「そうですよね…、ご迷惑かも知れませんが、カップリングカードには貴女の番号を書かせて頂きますので是非ともよろしくお願いします」
女性「まあ、気が向いたらね」
男性「あの、今月末が期限の映画の券があるので、それだけでも付き合ってもらえませんか?」
女性「う~ん、どうしようかな~」
男性「あっ、嘘じゃないですよ、映画の券ならここに2枚ありますから」(内ポケットから映画の券を出す)
※男性の中には、短時間で女性の心を開こうとして、この様な下準備をしてくる方がいるのです。但し、女性が誘いに乗ってこなかった場合は、自らチケットを消費するか、男同士で映画を観に行く事になるのでしょう。このチケット代を、投資と捉えるか無駄金と考えるかは人それぞれです。
要点を言うと、とにかく貴女に会いたかった、話したかった、友達からでいいので気軽に交流したい、貴女の番号を書くので検討して下さい、あとはささやかながら特典もありますよ、という事です。
男性の中には、終始この様なセリフを吐いて気を引こうとしてくる人がいるのです。(うまくいくかどうかは容姿にもよりますが…)
いくら女性の警戒心が強いとはいえ、“貴女は私にとって特別なんです”とか“映画のチケットを無駄にしたくないだけなんです”というような巧みな話術で口説かれると、そんなに悪い気はしないと思います。
そんなお願いを熱心にされてしまうと、つい応えたくなってしまう女性もいるのです。
それに、“カップリングカードに貴女の番号を書きます”と断言されてしまうと心が揺れると思います。
この場合、多くの女性が以下の選択肢を想像するでしょう。
①お相手の番号を書いてカップルになる。
②急な誘いには応えられないので、カードを提出しない、または無記入で提出する。
男女共に、カップリングカードを渡されてから回収する迄の時間は、せいぜい2~3分といったところなので、上記の2件以外の事は考えられないと思います。
ですが、そんな思いを嘲笑うかのように、全く違う人とカップリングする男性もいるのです。
一方、女性にも掴み所がない人がいるので、慎重に判断しないとなりません。
男性だけではなく、女性にもがっついている人は一定数います。(表に出すか出さないは別として)
そういう女性は、基本誰にでもいい顔をするので、勘違いする男性が多数いるのです。
それが、例え営業用スマイルであっても、
「○○番の女性は俺に愛嬌を振り撒いてくれた」
「もしかして、この俺に気があるんじゃないか?」
と、男性から見込まれる事が多々あると思います。
男性がそうした思考になるのは、“とにかく自分に振り向いてくれる女性だけに興味を惹かれる”というのが大きいと思います。
なので、カップル発表の時には男女共に驚きの声が上がるのです。(恐らくは宛が外れたのでしょう)
それが、男性の場合だと、“カップルにはなれたけど思っていた人と違う方だった…”となる訳です。
それでも、葛藤はするものの、男性からカップルを辞退する事はほとんどありません。
表面上は、嬉しそうに振る舞います。
ただ、それも会場を出る迄の間だけだったりします。
勝利を確信したのに、期待を裏切られた男性は以下のようになると思います。
「よ~し!今日こそは確実にカップルになれる!」
という思いから一転、
「何だよ…、さっきは気がある感じだったのにさ…」
「クソっ…、俺のどこがいけなかったんだろう…」
「う~ん、カップルになった奴とはどこで逆転されたんだろう…」
とまあ、こんな感じになるでしょう。
それとは逆に、男性をフッた女性からするとこんな感覚かも知れません。
それは、洋服のバーゲンセールの時と似ているのかも知れません。
商品を持てるだけ持って、少し離れたところでゆっくりと選別してから、要らない物を一括してラックに戻す。
恐らくは、そのような感覚なんだと思います。
肩透かしを食った女性の場合、“せっかくカップリングカードに書いてあげたのに何でスルーされたんだろう…”と思うでしょう。
または、“えっ、あんなに交際を申し込んできたのに違う人とカップルになるんだ…”といった驚きの表情をします。
その感情は、静かな怒りへと変貌するのです。
恩を仇で返された女性は、該当の男性を睨みつけたままさっさと帰ってしまう事もあるのです。
ここで、そろそろ本題に戻ろうと思います。
後半戦の残り時間が10分を切った時、ぼくは焦っていました。
それは、フリータイムでまともに話したのは真由さんだけだったからです。
これでは、業者に引っ掛かる以前の問題でした。
ぼくは、プロフィールシートをじっくり眺めていました。
その時に、真由さんと話した時の事を思い出して、年上の男性狙いの女性を探しました。
すると、会場の入り口付近で2人の若い男性から執拗に言い寄られている女性を見かけました。
ぼくは、その女性が気になって番号札が見える所に回り込みました。
「ん、番号札が見えないな…、どこに付けているんだろう?」
そう思い彼女の逆側に回ると、その女性は番号札を腰元に付けているのが分かりました。
彼女はダボついた上着を着ていたので、番号札が反転した状態でぶら下がっていました。
しかしながら、鏡文字を判読するのは容易でした。
2回程確認しましたが、彼女の番号札は14番で間違いありませんでした。
プロフィールシートを見ると、14番の女性は佐原由花理さんで24歳と書かれていました。(以後、14番の女性を由花理さんと表記します)
由花理さんの前にいた2人の男性は、彼女の警戒心を少しでも和らげようとして、頻繁にジョークを飛ばしていました。
彼らの顔立ちは整っていましたが、ぼくより2~3歳は若く見えました。
個人的な感想だと、いかにも人気になりそうな2人でした。
ただ、由花理さんはジョークには反応するものの、お茶や飲み会の誘いは迷惑そうに断っていました。
由花理さんは、大きく脚を組んで椅子に座っていました。
その脚が、膝上まで素足だったので、目の当たりにした男性はかなりそそられたんじゃないかと思います。
由花理さんが、男性受けするポーズを狙って脚を組んでいたのかは分かりませんが、彼女はとても人気になっていました。
「よし!最後に話し掛けるのはこの人にしよう」
ぼくは、そう思い立ったのです。
それで、彼女の後ろに並んでみましたが、彼らはなかなか席を立とうとはしませんでした。
すると、司会の鍋嶋さんから、
鍋嶋「皆様、ゲームでペアになった方とはお話しになられたでしょうか」
鍋嶋「今更ながら申し上げますが、ゲームで成功されたペアはカップル率が高かったりするんですよ」
鍋嶋「是非とも参考にされてみてはと存じます」
というアドバイスがありました。
そこで、会場係の方が鍋嶋さんに耳打ちをしました。
鍋嶋「え~、宴もたけなわではございますが、フリータイムの後半は残り5分になります」
鍋嶋「フリータイムが終わりましたら、皆々様にはカップリングカードの記入して頂きますので、よろしくお願いします」
そう案内すると、鍋嶋さんは噴き出した汗をハンカチで拭いました。
「ああ、今日も夢をみただけなのか…」
残り時間もないので、ここら辺で諦め時かな…と思いました。
そこで、夢の中の絵美佳さんが、
「最後まで諦めない事!」
と、ぼくに知らせてきたのを思い出しました。
そこで、会場の入り口付近にいる人気の女性に、駄目で元々だと思って話し掛けてみる事にしました。
ただ、その女性には2人の若い男性が話し込んでいました。
一瞬だけ躊躇しましたが、絵美佳さんの話が脳裏に浮かんだまま離れなかったので、思い切って割り込む事にしました。
剛史「すいません、最後の5分だけぼくと交代してもらえないでしょうか?」
と、上擦った声でお願いしてみました。
すると、2人の男性は驚いたような顔をしました。
更には、“声を掛けてくれて助かった~”というような表情をしました。
どうやら、由花理さんのガードがあまりにも固い為に、これ以上ジョークを飛ばしても時間の無駄だと察した様子でした。
しかし、ぼくは彼らに声を掛けた事を後悔しました。
何故なら、“彼らのジョークでも心を開いてくれないのに、ぼくが話したところで何になるんだろう…”と思ったからでした。
剛史「あっ、無理そうなら大丈夫です」
「いえいえ、もう話す事が無くて困っていたんですよ」
「あと5分もないですがどうぞどうぞ」
意外にも、2人の男性はすぐに席を譲ってくれたのです。
無理なお願いだとは思いましたが、こんなにもうまくいくとは思いませんでした。
ぼくは、彼女の前にある席に着くと軽く会釈をしました。
由花理さんは、目がぱっちりとしていて、ボブヘアーが可愛らしく、太いフレームの黒縁眼鏡をかけていました。
剛史「どうも、今日は友達と3人で来たんですけど2人とは別行動なんですよ」
由花理「ふ~ん、そうなんですね」
剛史「え~と、最後に割り込んじゃってすいません」
由花理「いいえ、年上の方がいつ来てくれるのかと思って、ずっとお待ちしていましたわ」
剛史「またまた~、持ち上げるのが上手いですね」
由花理「そんな事はないわ!」
剛史「それでも、さっきからすっごく人気じゃないですか」
由花理「来て下さるのは嬉しいんですけど、皆さん年下なのよ…」
剛史「そうなんですか、お話をしていた方は何歳だったんですか?」
由花理「22歳の方が1人と、23歳の方が3人と、24歳の方が2人いましたわ」
剛史「同い歳でもダメなんですか?」
由花理「ダメっていうか、弟みたいな感じで恋愛対象には入らないのよね…」
ここで、ぼくは由花理さんとどっかであったような気がしました。
なので、彼女の顔をじっと見てしまいました。
由花理「あら~、私の顔に何か付いているいるかしら」
剛史「いえいえ、由花理さんとは前にどこかでお会いしたかなって思って…」
由花理「ナンパ師は大概そう言うのよね~」
剛史「嫌だなあ、普段のぼくはナンパなんかしませんよ~」
由花理「それはごめんなさいね、でも私の顔に見覚えがあるんですか?」
剛史「うーん、最近ではないんですが、どっかで…」
由花理「まあ、ありきたりの顔だからね」
剛史「そういう訳では…」
由花理「私ね、今日初めて年上の方から話し掛けられて安心したわ、だから、このパーティーに来て良かったわ」
剛史「いやあ、社交辞令でもそう言ってもらえると嬉しいです」
由花理「いいえ、本心ですわ!」
剛史「そ、それはどうも…」
由花理「あの、もう時間がないのでここに連絡先とお名前を書いて下さらない」
そう言うと、由花理さんはプロフィールシートを渡してきました。
由花理「その間、私があなたのシートを持っていますので」
剛史「ええ、それじゃ急いで書きますね」
この時、フリータイム終了の号令が何秒後にかかるか?という時間帯でした。
ぼくは、大慌てでボールペンを取り出しました。
そして、椅子の上に由花理さんのプロフィールシートを置き、右側の余白に携帯番号と名前を書き込みました。
その後、1分もしないうちに会場係の方が、
「フリータイム終了で~す」
「どうも、お疲れ様でした~」
と、右手を挙げて叫びました。
何とか、時間内に書き終える事が出来たので、心底ホッとしました。
その直後、由花理さんとプロフィールシートの交換をしました。
剛史「ここに書いてあるのがぼくのです」
由花理「そう、ありがとね」
ぼくが、自分のシートを受け取った時、何故か由花理さんが悪戯っぽい笑顔を浮かべていました。
「何だろう?」
とは思いましたが、会場係の方から、
「男性陣と女性陣は反対側の壁沿いで待機して下さ~い」
と案内があったので、由花理さんとはバイバイしました。
男性陣、女性陣共に壁際に集まると、全員にカップリングカード(最終投票用紙)が配られました。
投票用紙を見ると、書き込める番号は1つだけでした。
1つだけという事に戸惑いを感じましたが、早々に書き込む必要がありました。
そこで、プロフィールシートをまじまじと見返しました。
風船割りゲームでペアになったは6番の大越優さん、割り箸通しゲームでペアになったのは4番の田代司さん、輪投げゲームでペアになったのは20番の大角清美さんでした。
男女ペアで行うゲームでは、全てのゲームをクリアしたので3人の名前を書きたいところでした。
しかし、1人だけだとしたら誰を選んだらいいのだろうか?
やはり、この3人の中だと輪投げゲームでペアになった清美さんだと思いました。
3つのなげ輪を全部受け止めたのは、他でもないぼくだけなのですから。
とはいえ、フリータイム後半戦で1回も話せなかったのは大きな誤算でした。
いくら、ゲームで成功したとはいえ、かなりの割引きを覚悟しなくてはなりませんでした。
清美さん以外では、フリータイム前半で話した真由さんも気になるところでした。
しかし、彼女は連絡先を聞いた時に拒絶したので、カップルになる可能性は低いとだろうと予測しました。
最後に、フリータイム後半で話した由花理さんとはいい感じ話せましたが、あまりにも時間が無かった事が引っ掛かっていました。
ただ、由花理さんがぼくの前ではスッと脚を組むのをやめて、前のめりになって話していたのでドキッとしました。
他のパーティー会社の様に、3人選べたらどんなに楽だった事でしょう。
カップリングカードには、1つしか番号が書けないので思い悩みました。
そこで、ぼくの斜め向かいにいる由花理さんの様子をチェックする事にしました。
「由花理さんがカップリングカードを提出するんだったら、ぼくは彼女の番号を書いて投票しよう」
そう、心に決めました。
しかし、由花理さんが会場係の方に投票用紙を渡している素振りが見られなかったので、ここは見送るのが妥当だと判断しました。
結局、こんな短い時間では結論が出なかったので、輪投げゲームで一緒になった清美さんに投票する事にしました。




