第6部、第2章~夢の中の霊感
ぼくと誠司君は、階段で1階まで下りて行き、何とか出口に辿り着きました。
出口を出るなり、誠司君はその場にへたり込みました。
剛史「ねえ、誠司君!あの部屋で何があったの?」
暫くすると、誠司君はやっとこさ体を起こし重い口を開きました。
誠司「…おっ、恐ろしいものを見た…」
そう言ったきり、誠司君は再びへたり込んでしまいました…。
ぼくは、誠司君の肩を軽く揺らしながら質問しました。
剛史「それでさぁ、あの部屋で何があったの?」
誠司「…うっ、そ…、それは…」
誠司君は、小刻みに震えていました。
剛史「もういいよ、誠司君はこの辺で休んでいて」
誠司「…わ、悪いな…」
剛史「実君!誠司君が落ち着くまでこの辺にいて貰えないかな?」
実「うん、それはいいけどさ…、お前はどうすんだよ?」
剛史「ぼくはもう一度このビルの中を見に行ってくるよ!」
実「分かったよ…、けど、なるべく早めにな」
剛史「了解」
ぼくは、再び雑居ビルの中に入りました。
「カツ、カツ、カツ…」
ゆっくりと階段を上っていくと、すぐに異変に気付きました。
階段は埃だらけで、内壁は彼方此方にヒビが入っていました。
「そういえば、実君と階段を駆け下りた時に、辺りが暗くなった瞬間があったけれど、恐らくは2階を通り過ぎた頃じゃなかったっけ?」
「それに、さっきよりもこの辺りが暗く感じるのは気のせいだろうか…」
「まあ、階段の上り下りは支障が無さそうだけど…」
「こりゃあ、ひょっとしてタイムトリップでもしたかな…」
「ははは…、まさかなぁ…」
「このぼくの身にそんな大それた事が起きる訳ないじゃん!」
そう、虚勢を張ってみたものの、
「何でこんな所に何度も来なくちゃならないんだ…」
と、カリカリしていたのも否めませんでした。
何せ、この建物は外観こそ違わずとも、中に入ると廃墟と呼ぶのに相応しい状態でした。
ぼくは、複雑な思いを抱えながら2階に着きました。
すると、そこにはさっき迄とは全く違う光景が広がっていました。
「…え、えっ!]
「こ…、これは一体…」
ぼくは、暫くその場に立ち尽くしてしまいました…。
さっきまでは、2階の廊下の突き当り迄フリーで入る事が出来たのに、階段の踊り場から1メートル以上先に行けなくなっていたからです。
何故なら、2階の入り口には天井まで届く頑丈な鉄格子があったからです。
「何だここは…、この入り口はいつから封鎖されているだろうか…?」
まじまじと鉄格子を見ると、設置されてからかなりの年月が経っているのか、全体的に錆だらけで端の方は何ヵ所か腐食していてしました。
それに、鉄格子の隙間という隙間には、埃が絡んだ蜘蛛の巣がダラーンとぶら下がっていました。
「この鉄格子の先はどうなっているのだろう?」
「確か、先程ここに来た時には8世帯分の住居があった筈…」
ぼくはそう思い、幾つかの蜘蛛の巣を慎重に払い落としました。
「ん?先の方がよく見えないな…」
ぼくは、必死になって埃まみれの蜘蛛の巣を除去しました。
何か、棒状の物が落ちていれば良かったのですが、残念ながら見当たらなかったので、結局は蜘蛛の巣を手に絡ませるしかありませんでした。
手に絡まった蜘蛛の巣は、壁に擦り付けて削ぎ落としました。
しかし、壁の汚れも相当なものだったので、無数の蜘蛛の糸を引き剥がせたものの、手の平は真っ黒になってしまいました。
暫くすると、鉄格子より先の景色が見えてきました。
顔を近付けて覗き込むと、突き当りにある非常口から鉄格子迄の廊下は、何十年も立ち入った事がないような感じでした。
住居前の通路は、全ての蛍光灯が抜かれていて埃と蜘蛛の巣だらけでした。
ただ、廊下の中央付近には蜘蛛の巣は張られていませんでした。
唯一の光源は、廊下の突き当たりにある非常口誘導灯だけでした。
果たして、ぼくは数分前、本当にここに来たのだろうか?
いやいや、そんな事ある訳ないじゃないか!
ぼくは、現実逃避したくなりました。
しかし、堆積した埃で雲の様になった廊下には、ぼくと誠司君が通った時の足跡だけはクッキリと残っていたのです…。
「な…、何なんだよ…、さっき僕らが通ってきた所で間違いないじゃないか…」
「…まっ、まさか…、この場所だけ急に時代がトリップでもしたのだろうか?」
そんな事を思っていると、鉄格子の向こう側から、
「ギッ、ギギギー」
という、音が鳴り響きました…。
そして、右側の壁沿いのドアが開きました。
そこは、奥から数えて2番目の部屋でした。
「確か、ここは絵美佳さんの部屋だった筈…」
そう思っていると、頭から足先に至るまで全身青白い人が、音も立てずにスッ-と出てきました。
その方は、フラフラしながら廊下側に出て来ました。
着ている服は、白っぽいパジャマのようでした。
そして、その方は鉄格子に向かってジリジリと近付いてきました。
「な、何だこの人は…」
「で、でも…、鉄格子があるからこっち側には来られない筈…」
そう思っていると、その方の体が薄っすらと透けてきて、向こう側にある景色と一体化している事に気付きました…。
その人は、フラつきながらもぼくの方にゆっくりと近付いて来ました。
ぼくは、固唾を飲みながら見守りました。
次第に、その人の顔がはっきりと見えてきました。
その顔を見て、ぼくの表情は凍り付きました。
何と!そこにいたのは、紛れもなく絵美佳さんだったのです!
それも、さっき迄とはまるで別人で、魂が抜かれたような顔をしていました。
剛史「うわあああぁ~」
ぼくは、度肝を抜かれて思わず叫んでしまいました。
そして、1階の出口に向かって一目散に走りました。
青白い顔をした絵美佳さんが、鉄格子をすり抜け1階まで追ってくる事はなかったものの、恐怖のせいで足元がフワフワしているような感じがしました。
やっとの思いで外に出ると、そこには落ち着きを取り戻していていた誠司君がいました。
さっきまでは、肩で息をしていた感じでしたが、すっかり呼吸が整っていました。
しかし、彼は相変わらず俯いたままでした。
ぼくは、誠司君の視界に入る所まで歩み寄りました。
すると、誠司君はぼくの足元が見えたのと同時に取り乱しました…。
誠司「なあ…、剛史も俺と同じ物を見たんだろ!」
彼は、ドスの利いた声でそう言ってきました。
その直後、誠司君は徐に実君と向き合いました。
実君は、誠司君を見て叫びました。
実「いっ、ひいぃぃぃ~!」
ぼくは、ぎょっとしたまま誠司君の顔を見ました。
すると、有ろう事か、誠司君の瞳はギョロっとした黒目だけになっていたのです。
剛史「うぎゃぁぁ~~!」
ぼくは、思わずへたり込んでしまいました。
その直後、実君が雑居ビル周辺の異変に気付きました。
実「お、おい…、あれは何だろう?」
ぼくは、徐に振り返りました。
誠司君が蹲っている場所から反対側の歩道を見ると、見た目50歳以上と思われる何人かの男性が俯せに倒れていました。
実「彼奴らさ…、さっきまでは傍らにいた女の人と楽しそうに喋っていたのにさ…」
剛史「でも、あれはヤバいよ!早く助けに行かなくっちゃ!」
ぼくと実君は、卒倒した6人の男性を2人掛りで仰向けにしました。
しかし、残念ながら既に全員息絶えていました…。
実「何なんだよこれ…、皆さっきまでピンピンしていたのにさ…、脈拍が途絶えているぞ…」
それどころか、50歳以上と思われる男性6人の眼球は全て黒目で、かつ、黒ずんだ唇をしていたのです。
剛史「うぎゃぁぁ~!」
ぼくは、すぐにその場から離れようとしました。
すると、実君は何かに気付いたようで、ぼくの右手首をサッと掴みました。
実「おい、よく見ろよ!此奴らさっきのパーティーでカップルになったおじさん達じゃないかよ…」
剛史「ほ、本当だ…、何でこんな所で死んでいるんだろう…?」
実「そんな事知るかよ!もう、死んでるんだからあとは警察の仕事だろ!」
剛史「そうだね、それよりも誠司君の所に戻らないと…」
僕らは、泡を食って誠司君の所に向かいました。
誠司君は、何か言いたげでしたが、声が小さくて聞き取れませんでした。
実「い…、急いで救急車を呼ばないと!」
剛史「今、呼んでるから待ってて!」
ぼくは、焦っているあまり、手の震えが止まりませんでした。
(プルルルルルルルルッ)→携帯電話の呼び出しの音
剛史「あ、もしもし………、あっ、切れた…」
実「何やってんだよ!早くしろよ!」
剛史「それが、何度掛けても切れちゃうんだけど…」
僕らが焦りに焦っている時、雑居ビル周辺のビルとビルの隙間から、お見合いパーティーでカップルになれなかった女性達がわらわらと集まってきました。
「あらっ、貴方達よく会うわね」
実「こんな事をしたのはお前らか?」
「嫌ね~、私達が何をしたって言うのよ~」
剛史「誠司君に何をしたのかって聞いてんだよ!」
「あ~、そこにいる坊やの事~?」(誠司君を指差す)
「まだ、若いから生きていているみたいよ~」(別の女性が誠司君に息があるのを確認している)
「お~、ほっほっほ~」
実「許せねぇ…、てめえら誠司に何をした~!」
そのタイミングで、誠司君はぼくの膝をトントンしました。
剛史「誠司君どうしたの?」
誠司「うっ、ううっ…、や、奴らと…、キ…、キスだけはするな…」
剛史「何?キスをするとどうなっちゃうの?」
誠司「うっ、うう…、ガ、ガッハー!」(首がガクンとなる)
実君は、誠司君の脈拍が途絶えたの確かめてから首を横に振りました。
実「誠司君はもうダメだ!それよりも、どんな事をしてもここから逃げないと!」
剛史「でも、うちら完全に囲まれちゃったよ…」
実「弱そうな人の所を強行突破するしかないだろ!」
すると、群衆の後方から、長身で華奢な女性が現れました。
「あら~、怯えなくてもいいのよ、お2人さん!」
実「誰だてめえは!」
「そういえば、まだ私の名前を言ってなかったわね」
剛史「確か、この人はパーティーにはいなかったような…」
「正解よ!私はここにいる女共の元締め、小笠原靖子という者よ」(以後、靖子さんと表記します)
実「てめえら何が目的だ!金か?それとも悪戯に刺激を求めているだけか?」
靖子「う~ん、そ~ね~、カップルになって浮かれている男は私達が制裁をしないといけないのよ」
実「一体、何の為にそんな事をするんだよ!」
靖子「貴方達には分からないのよ!最後まで売れ残った女共の怨恨が~!」
剛史「もしかして、あのビルの2階と関係あるんじゃないの?」
ぼくがそう言うと、彼女達は静まり返りました…。
靖子「まさか…、お前はあの鉄格子の先を見たのか?」
剛史「ええ、見ましたよ」
靖子「何部屋あるか分かるのか?」
剛史「8部屋でしょ」
靖子「じゃあ、何で8部屋あるか分かるか?」
剛史「さあ、そこまでは…」
靖子「あんたら2人よく聞きな!あの8部屋はカップルになった男らが時間差で連れ込まれる場所なんだよ」
実「連れ込んでどうするんだよ!」
靖子「そりゃあ、決まってるだろう!女が甘えた声を出してキスをせがむのさ」
実「キスをするとどうなるんだよ!」
靖子「まあ、そうカッカしなさんな」
ここで、靖子さんの右横にいた女性が合いの手を入れました。
「いいから、早く言っておやりよ」
靖子「イッ~、ヒッヒッヒ~!ここにいる女らがキスをするとな、男共は忽ち生気を奪われ、真っ黒い瞳になって苦しみながら死ぬのさぁ~」
実「マジかよ…、そんなの地獄じゃん…」
靖子「ふん!もう、無駄話はこれで終わりだよ!」
剛史「ま、待って!僕達はカップルになってないよ」
靖子「バ、バカなぁ!今日のカップルは8組じゃないのか?」
剛史「いいえ、7組でしたよ」
靖子「クッ、クソが~!これだけ良さげな女子をつぎ込んでも、8部屋埋まんなかったとなぁ~!!!」
(女性達が一斉に)「も…、申し訳ございません…」
靖子「ええい、この期に及んで選り好みするとは何事だぁ!」
剛史「それは、僕らが合コンを優先して態とカップルにならなかったからですよ」
実「そうそう、お楽しみは来週以降にしたんだよ」
靖子「お前らぁ~、何て狡猾なぁぁぁ…」
実「それは、女性達も同じだろ!」
剛史「だからね、僕らは帰っていいかな?」
靖子「いい訳ないだろ!者共!さっさとやっちゃいな!」
そこで、真っ先に襲われたのは実君でした…。
「ほうら、捕まえた!」
実君は、あっという間に羽交い締めにされてしまいました。
靖子「大人しくしな!すぐに終わらせてあげるから」
ぼくは、後退りをするしかありませんでした。
実「やっ、やめろ~!来るんじゃねぇ!」
実君は、何人もの女性から全身に渡って触られ続けました。
「この男は私が頂くからね」
その声を聞いて、実君は目を丸くしました。
実「あんたは確か桝本さんか?」
「いや~ねぇ、澄禾って呼んでよ」(以後、澄禾さんと表記します)
実「あんたが何でさ…、俺は嘉月さんとメルアドを交換したのにさ」
澄禾「それは、もう我慢が出来ないからよ!」
実「えっ、何を言ってんだか…」
ここで、実君は落ち着かない様子で周囲を見回しました。
澄禾「あ~、もしかしてメルアド交換した奴らの事を探しているのか?」
実「そうだよ!そんな先走った事をしたら怒るだろっ!」
澄禾「それなら心配いらないわ!奴ら今頃は帰りの電車の中よ!」
実「マジかよ…」
澄禾「それに、1ヶ月も先の合コンなんて待ちきれないわ!今すぐ貴方を頂くわ!」
その直後、周りにいた女性達が実君を押し倒しました。
そして、透かさず澄禾さんが実君に覆い被さりました。
澄禾「ム~~、チュッ、チュゥゥゥ~、ズボボボボボボッ」
実「うぐっ、ウッ、グッ…、ゲッホ、ゲッホ…」
靖子「バ、バカ!こいつはカップルにならなかった男だぞ!何て事をしてくれたんだ!」
澄禾「へーんだ!もう、私達の正体見られちゃったんだからさぁ!今更何を遠慮する事なんてあるのよ!」
程なくして、実君の全身が痙攣し始めました。
実「おっ、お、おぅ…、お、おっ…、お、お…、うぉ~~~」
剛史「ああっ、実君が---!」
ぼくの叫びが響く中、実君の瞳はみるみる漆黒に染まりました。
実「うぉぉぉ~、前がぁ…、前が全然見えない~!」
剛史「実君!ぼくが見えないの?」
実「うぉぉ、ぉ……」
実君は、苦しみながらぼくの目の前で息絶えました…。
彼の口からは、重油のような液体が滴り落ちていました。
靖子「このバカが!男の舌を思いっ切り吸い込みやがって!」
「あんなに激しく吸うとはね~」
「あれじゃ、おじさん達と同じで即死に近いよね~」
澄禾「これで、8番目の部屋にこの男を運んで行けば私達は救われるのよ!」
「じゃあ、私がこっちを持つわ!」
「なら、私も手伝うわ!」
澄禾「これで、私の怨念も開放される~」
靖子「そんな訳あるかぁ!此奴はただ無駄死にしただけだ!」
澄禾「えっ…、そ、そんなバカなぁ!」
靖子「あの部屋に行けるのは、お見合いパーティーでカップルになった奴らだけなんだよ!だから、女どもの宿怨を晴らす事が出来なかったのは、そこにいる九美の詰めの甘さだ~!」
ここで、群衆の中でひっそりと佇んでいた九美さんが、周辺の女性達によって靖子さんの前に担ぎ出されました。
九美(泣きながら)「許して下さい…、もう許してよ~!」
靖子「いいや!お前は最後の悪足掻きをしないでさっさと帰ったそうじゃないか!」
九美「そ…、それは…、こ、これ以上傷付くのが嫌だったから…」
靖子「このバカが!あと1人連れ込めばお前らの怨念は晴らせたのに!」
九美「で…、でも…」
靖子「ええい、忌々しい!この男に私らの事がバレてしまった以上、最後はお前が始末しろ!」
そこで、聞き覚えのある声がしました。
彼女は、九美さんと一緒にいた昌枝さんでした。
昌枝「そんな事をしても意味がないわ!いいから早く逃げて!」
九美(身を挺して靖子さんをブロックしながら)「剛史さん!早く逃げて!」
靖子「バカなぁ…、そんな事をしたらただじゃ済まさんぞ~!」
ぼくは、必死になって走りましたが、そういう時に限って滅茶苦茶足が重いのです…。
「追え~!」
「捕まえろ~!」
後方から、威勢のいい声は聞こえてくるものの、何故か追っ手は近付いて来ませんでした。
そのうち、歌舞伎町一番街のアーチ看板が見えてきました。
ぼくは、それを見てこんな風に思っていました。
「この看板の下を抜ければきっと逃げられるだろう!」
「よし!あと、もう少しで看板に辿り着く!」
ぼくは、何とかアーチ看板のすぐ近くまで来ました。
そこで、ふと振り返ると、鬼の様な形相をした女性達が迫って来ました。
しかし、ただでさえ混んでいる歌舞伎町入り口付近から、女性達を撒くなんて造作もない事だと思いました。
ぼくはそう思い、ちょっと得意気にこう言い放ちました。
剛史「追って来れるのもここまでだね!じゃあな!」
ぼくは、最後の力を振り絞って、歌舞伎町のアーチ看板を駆け抜けようとしました。
その時です。
「ドシン、バァァァン!」
ぼくは、何かに当たって弾き飛ばされました。
剛史「な…、何だ…」
「ハアハアハア…、手間を取らせやがって~!」
ぼくが倒れ込んでいる間に、女性達に追い付かれてしまいました。
その数秒後、靖子さんがゆっくりと登場しました。
靖子「フッ、バカめ!この看板から先は結界が張られているんだよ!」
剛史「そっ…、そんなバカなぁ…」
靖子「お前らっ!誰でもいいから彼奴の唇を奪え!そして、思いっ切り舌を吸い上げるのだぁ!」
剛史「うわぁぁぁあ!そんな事されたら即死だよ!」
「私!私にやらせて!」
「やるのは私よっ!」
ぼくは、大勢の女性からキスをされて揉みくちゃにされましたが、決して口は開けないようにしていました。
「いや~ん、この男が口を開けてくれない~」
「ふ~ん、だったらこうすればいいじゃん!」
その直後、ぼくの鳩尾に片膝を立てた女性が降って来ました。
剛史「アガッ、ぐほっ…、ゴッホ、ゴッホ…」
意外な事に、女性達の中には異常な程身体能力が高い人がいました。
「やる~、氷見耶さん!」(以後、身体能力の高い女性を氷見耶さんと表記します)
「さすがよね!」
彼女は、ぼくの事を容赦なく攻め立てました。
氷見耶「これで口は開いたじゃん!」
そこで、ぼくは必死になって両手で口を塞ぎました。
氷見耶「ふ~ん、根性あるねぇ!なら、これでどうだ!」
彼女は、ぼくの背後にサッと回ると、躊躇なくチョークスリーパーを掛けてきました。(チョークスリーパーとは、背後から片腕を相手の首に巻き付けて気管を潰すように食い込ませ、もう片方の腕でしっかりとホールドして締め上げるもので、格闘技で使用される絞め技の1つです)
剛史「ガ…、ガッ…、ガッハー!」
ぼくは、苦しさに耐えかねて口を開いてしまいました…。
氷見耶(チョークスリーパーをサっと解いて)「ほら今よ!今がチャンスよ!」
「それじゃあ、いっただっきま~す!」
「ゴッホ…、や…、やめろ~、やめてくれぇ~」
ぼくは、力の限り叫びました。
しかし、多くの女性達から体中を押さえ付けられ、身を捩る事も出来ませんでした。
ぼくは、とうとう馬乗りになった女性から、思いっ切り舌を吸われてしまいました…。
咽せ返るような激しいキスが終わると、女性達は散り散りになりました。
ぼくは、放心状態になっていました…。
それに、ぼくの顔は女性達の唾液でベッチョベチョになっていました…。
顎から下にかけては、馬乗りになった女性の唾液が首筋を這うようにしてダラダラと垂れていました。
「いっ、嫌だ~~!」
そう叫んでみたものの、もう、どうする事も出来ませんでした…。
「うううっ…、な…、何でぼくがこんな仕打ちを…」
「クッ…、でも、もう遅いか…」
「どうせ、ぼくも苦しんで死ぬのかな…」
ふと辺りを見回すと、既に視力は失われていました…。
ぼくは、死の恐怖を覚えて全身に力が入っていました。
それと同時に、頭がクラクラして車酔いをしているような気分になりました。
そんな時、ぼくが最後に思った事は、
「あれっ?馬乗りになって激しくキスをしてきた女性の顔がもう思い出せないや…」
「彼女の顔半分に影がかかっていたからね…」
「でも、まあ…、この際どうでもいいや…」
という事でした。




