第5部、第4章~戦略通りに余裕の勝利
カップリングになった誠司君ら7組は、会場内でのアドレス交換やらの時間が10分間延長になりました。
会場内に居残った人達による歓喜の声が、あちらこちらから聞こえました。
今までのパーティーなら、勝ち組の方々を羨ましそうに横目で見てとぼとぼと帰って行ったのですが、今回はアドレスを9件も交換していたので、笑いを堪えるのに必死でした。
会場内には、スタッフを合わせて総勢90人近く居たのですが、最初に退場したのは見た目50歳過ぎのおじさん達でした。
その際、カップルになれなかったのが余程悔しかったのか、プロフィールシートと鉛筆を床面に投げ捨てていきました。
「クッソ!来るんじゃなかったな…」
「バサッ、カン、カラカラカラ~」(紙と鉛筆が投げ捨てられた音)
おじさん達の大人気ない態度により、先程まで綺麗だった床面があっという間に散らかってしまいました。
それを、会場係の方々が泡を食って回収していきました。
その後、カップルになれなかった女性達が重い足取りで階段を下りて行きました。
その中でも、ぼくとカップルになろうと躍起になっていた九美さんは、女性陣の中で真っ先に階段を下りて行きました。
そして、九美さんと逸れまいとして、必死になって昌枝さんが追いかけて行きました。
ぼくは、それを横目で見ながら“合コンを選択した事は間違いじゃなかった“と、自分に言い聞かせました。
しかし、“逃した魚は大きかったかな…”とも同時に思いました。
迷う気持ちが無かったというと嘘になりますが、取捨選択をしなければならない事は重々承知していました。
それにしても、誠司君があっさりとアドレス4件を捨てたのには感服しました。
やはり、その辺はスパッと割り切らないとカップルにはなれないのでしょう。
ぼくと実君は、女性陣の列がある程度捌けたのを見計らって、ゆっくりと階段を下りて行きました。
薄暗い階段下りて行くと、3階付近で先程退出していった女性達に追い付いてしまいました。
(ここからは、僕ら2人とカップルになれなかった女性達との会話になります)
「あら~、まだ残っていたの?」
「確か、貴方達はカップルにならなかった殿方よね?」
実「まあ、普段全くモテないから土壇場で断られるのがオチかなって思いまして…」
「そんな事はないわ!」
「お兄様方は過小評価し過ぎよ!」
「フリータイムでは話せなかったけど、私はお兄さんの番号を書いたのよ」
実「へ~、それは驚きです!」
(右側にいた女性がぼくの方を見ながら)「私は貴方の番号を書いたのよ」
剛史「えっ、ぼくって存在感あったんですね!」
「ええ、私は背の高い男性だと威圧感を受けるから貴方のような人がタイプなの」
剛史「へ~、そんな事を言われたのは初めてですよ」
「ねえ、それよりもこれから私と飲みにいかない?」
「あ~、ズルイわ!ここで若い男をナンパするなんて!」
剛史「偶々、今日は女性が多かっただけですって」
「でも、貴方達はカップルにならなかったんだから、ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃない」
「そうよ、お金ならちゃんと出すわ」
「何なら、この中から好きな子を選んでよ」
「それだったら私よね?」
「はぁ?あんたが選ばれるとでも思っているの?」
「あっ、は~い!ご指名はこちらで受け付けま~す!」(後ろで話を聞いていた女性が軽い感じで言ってきました)
そこで、数人の女性が悩殺ポーズをしてきました。
「いい?誰が選ばれたって恨みっこなしだからね」
剛史「行きたいのはやまやまなんですが、こういうのには慣れてなくって…」
実「ゴメン…、この後に連れと待ち合わせがあるから今日は帰るよ…」
「そんなぁ~」
「引っ込みがつかないから、1人だけでも持ち帰ってよ!」
実「本当ゴメン…」
「あら、残念…」
剛史「お気持ちだけ受け取っておきますので…」
「そう、つれないのね…」
剛史「すいません…」
「ねえ、連れって誰なの?」
実「それは、最後にカップリングした人ですよ」
「あ~、あの男性ね」
「でも、売れた人には興味は無いのよ!」
「向こうもこの後好き勝手やるんだから、そんな固い事は言わないでお姉さんと一緒に遊びましょうよ!」
剛史「それが、そうもいかないんですよ」
「それじゃあ、ここで私とキスしてくれたら通らせてあげてもいいわよ」
「ちょっとあんた!若い男にデレデレしてんじゃないわよ」
「何言ってんのよ、こんなもの早い者勝ちよ!」
「そんなにカップルになりたかったら、何でおじさま方とお近付きにならないのよ!」
「そんなの、あっちの方がダメだからに決まってるじゃない!」
「そんな事はないわ、こんな所に出ている位だもの!」
「そうよ、不能な訳ないじゃない!」
実「あの~、俺も正直おじさん達が次々にカップルになっていくのが信じられなかったよ」
「驚く程じゃないわ!女なんて男に拾ってもらわないと生きていけないもの」
「じゃあ、あんたもおじさまに貰われれば良かったじゃない!」
「私は嫌よ、一緒になっても数年で未亡人なんかにはなりたくないわ!」
剛史「いやいや、皆さん若くてお綺麗なんだからもっといい人がいますって」
「いいえ!結局は男に気に入られて家庭に入らないと女は生きていけないんだから」
実「そうかなあ、今は女の人もかなり稼いでいると思うけどな…」
「それでも、女1人で生きていくのは心許ないわ…」
「ねえ、固い事を言ってないで1時間だけでも私と付き合わない?」
剛史「どうする?1時間だけならいいんじゃないかな?」
実「バーカ!1時間で終わる訳ないじゃんかよ!」
「そんなの、立ち飲みだったら30分でフラフラだから!」
「もう、いっその事、行くか行かないかはジャンケンで決めましょうよ?」
その時です。
階段の上の方から、聞き覚えのある女性の声がしました。
典果「ちょっと-!いつまでも先に進まないと思ったらあんたらの仕業だったのね!」
「何よ!あんただって同じでしょう」
典果「ふふ~ん、私は既にそこにいる彼とアドレス交換したんだからね!」
「え~、そんなぁ…」
夏南「もう、合コンの約束もしてるんだからね!負け組は帰った帰った!」
「う、うううっ…」
それを聞いて、周りにいた女性達は怯みました。
典果「今よ!早く逃げて!」
実「ほら、何してんだよ!さっさと来いよ!」
(実君がぼくの手首を掴んで急いで階段を下りる)
剛史「うわあああ--」
「あっ、逃げたわ!捕まえて」
実「そうはいくかよ!どけどけ~」
剛史「痛い、痛いよ~」
実「もうちょっとだ!我慢しろや!」
「そっちに行ったわよ!早く捕まえてー」
「あ~、体には触れたのに~」
実「そうはいくかよ!こっちだ~」
剛史「うわっ、うわあああ~」
「あ~、もう何やってるのよ~」
実君が急いで階段を駆け下りると、出口付近で急に暗くなった気がしました。
しかし、そんな事で足を止める訳にはいきませんでした。
実「よし!出口が見えた!」
剛史「や、やった!」
ビルの出入口を抜けると、眩いばかりの光が視界に入ってきました。
ぼくは、思わず目を瞑りそうになりましたが、ここで転げ落ちる訳にはいかないので、必死で前方を見ました。
実「そのまま、正面にある狭い路地に抜けるぞ!」
剛史「正面に逃げたら、すぐに見付かっちゃうんじゃない?」
実「グダグダ言ってないでとにかく走れや!」
剛史「OK!もうどうにでもなれや…」
狭い路地の中にあった大きなゴミ箱の脇に隠れると、不思議と誰も追っては来ませんでした。
「……………」
それから、何分位経ったのだろうか…。
もう、ここは安全なんだと感じ取れました。
実「もう行ったかな…」
剛史「そうだね、いつまでもゴミ箱の横にいなくてもいいんじゃないかな」
実「俺なんか逃げてる最中に顔を触られされちゃったよ…」
剛史「ぼくなんかお尻を叩かれちゃったよ…」
実「モテモテなのは嬉しいけどさ、何なんだよこの様相は…」
剛史「あそこにいた女性達は、通常のパーティーに出れば確実に立場が逆転するっていうのにね…」
実「なあ、路地の先まで行ってちょっと様子を見て来てくれないか?」
剛史「うん、分かったよ」
ぼくは、路地の入り口付近までそっと近付きました。
さっきまでいたビルの出入口付近には、1人の女性が辺りを見回していましたが、すぐに退散していきました。
剛史「実君…、もう誰もいないみたいだよ…」
実「そうか、だったら移動しようぜ」
ぼくと実君は、ビクビクしながら狭い路地を出ました。
そして、会場の中に残っている誠司君を待つ為に、ビルの出入口付近が見渡せる場所を探し歩きました。
すると、少し離れた所にある白いビルが打ってつけの場所である事に気付きました。
それで、試しに白いビルの非常階段前の扉に手を掛けてみました。
「ギッ、ギギー」
何と!扉には鍵が掛かっていなかったのです。
実君は、辺りを見回してから非常階段の踊り場に移動しました。
実「おい!お前も早く来いよ」
(ぼくは言われるまま階段を上る)
剛史「こんなところに居て大丈夫かな?」
実「な~に、数分だけだよ」
すると、早速ぼくがアドレス交換した燿さんから、合コンのお誘いメールが来ました。
“鈴木さんへ、是非とも今月中に合コンをしたいので、候補日を返信して下さいね”
“紗綾っちと偕子りんには合コンのOKを貰ったけど、彼女達は可愛いのに自分からは動かないのが玉に瑕なのよね。それと私のお相手は剛史さんだけだから他の子に色目は使わないでね。耀より”
続いて、実君がアドレス交換した嘉月さんからも合コンのお誘いメールが来ました。
“実さんへ、今日は私達といっぱい話してくれてありがとうございました”
“今月中なら、土日祝のどこかで合コンしたいので取り持って下さいね。言っとくけど、社交辞令じゃ済まさないからね。嘉月より”
剛史「よ~し!今月まともにいけば合コン2回は確定だね」
と、ぼくが言うと、実君は無言でガッツポーズをしました。
ぼくも、釣られて小さくガッツポーズをしました。
その数分後、ぼくがアドレス交換をした典果さんからも合コンのお誘いメールが来ました。
“剛史さんへ、さっきは危ないところでしたね!うまくまけましたか?”
“今月中に合コンするなら早い方がいいので、早速友達にも当たってみますね。典果より”
典果さんからの文面を読み終えたタイミングで、夏南さんからもメールが来ました。
“剛史さん達と一緒に合コンするのを心より楽しみにしています”
“今日は化粧が濃かったかもですが、次に会う時には心持ち薄目にするからね。君の尊い味方、夏南より”
それを見て、ぼくは思わず吹き出しそうになりました。
実「何だよ、俺にもそのメールを見せてくれよ」
剛史「いいよ!そのかわり実君のメールも見せてよね」
実「OK!それじゃあ、俺と携帯を交換しようぜ」
実君宛の返信を見ると、何故か自分のメールよりも感動しました。
ぼくは、経験したことのない事態に、手が震えていました。
剛史「いや~こんな事もあるんだね、神様に感謝だよ!」
と、興奮気味に実君が言ったところで、誠司君らが続々と会場から出てきました。
誠司君は、先程カップリングしたばかりの絵美佳さんと楽しそうに話していました。
その中に、先程僕らが絡まれた女性が混じっているんじゃないかという不安もありましたが、その心配には及びませんでした。
誠司「よっ、待たせたな!」
実「あ、ああ…、そうでもなかったけどな…」
誠司「あれ?何かお前ら顔色悪くない?」
剛史「ちょっと、危険な感じで走ったからね…」
実「それでも、葛藤はしたけど誘惑には打ち勝ったからな」
誠司「何だよそれは~」
剛史「それよりもおめでとう!うちらの中から初めてカップルが誕生するとはね」
絵美佳「お2人はお友達なのかしら?フフフッ」
誠司「え~と、今俺とカップリングになった…」
と、誠司君が言いかけると、彼の言葉に重ねるようにして絵美佳さんが言いました。
絵美佳「初めまして、河野絵美佳と申します」
剛史「初めまして、ぼくは鈴木剛史です」
実「どうも初めまして、南雲実です」
絵美佳さんはミディアムのストレートヘアーで、顔立ちはややつり目で逆三角形の輪郭をしていました。
誠司「2人は大学の時の同級生で、今では皆違う会社で働いているんですよ」
剛史「どうぞよろしく」
実「よろしく~」
絵美佳「こちらこそよろしくね、フフフッ」
どうやら絵美佳さんは、会話の最後に「フフフッ」っと言うのがクセらしい…。
絵美佳「それでね、誠司さん」
誠司「ん、何?」
絵美佳「私の住んでる所は、ここから凄~く近くだから、ちょっとだけお部屋に寄ってくれないかしら、フフフッ」
誠司「まあ、ちょこっとだけならいいけどさ~」
実「30分以上掛かりそうなら、剛史と向かいの喫茶店に行ってるけどどうする?」
剛史「疲れたからちょっと座りたいしね」
絵美佳「そんなには掛からないと思うわ」
誠司「でも、友達待たせちゃうしな~」
絵美佳「ほんの少しだから、バッグを置いて少しお茶を飲むだけよ」
誠司「どうしようかな…」
絵美佳「フフフッ、ねぇ、いいでしょう?」
実「じゃあ、10分だけならここで待っているよ、それ以上だったら喫茶店に行ってから」
誠司「2人共悪いな、あと少しだけ待っていてもらえるかな?」
剛史「別にいいよ、こっちは合コンの返信をしなきゃだからね」
実「そうそう、早く返信しないと機会を逃しちゃうからさ」
剛史「あの~、ちなみに絵美佳さんはどこに住んでるんですか?」
絵美佳「フフフッ、私はこの雑居ビルの2階に住んでるのよ」
実「マジか!絵美佳さんの部屋はパーティー会場の下階だったのか」
剛史「早く行ってあげてよ、ぼくと実君はこの雑居ビルの入口付近で待っているから」
ぼくがそう言うと、誠司君は押し黙ったまま絵美佳さんの住んでいる2階の部屋に向かいました。




