第5部、第2章~女性多数の逆告白パーティー
ぼくに最初に話しかけてきた女性は、フリータイムで初めて男性と話せたようでした。
その方は、うちら3人に並んでいた女性の列が捌けると、向こう側から人混みを掻き分けてジリジリと近付いて来たのでした。
なので、ぼくの目の前に来た時には少しだけ息が上がっていました。
彼女は、小柄な体型でボブヘアーでした。
顔立ちとしては、パッチリとした目と鼻筋が通っているが印象的でした。
服装は、上下共に黒っぽい色で、膝丈よりも少し長めのスカートを穿いていました。
ぼくに話し掛けてきた時こそは、積極的な女性なんだと思っていましたが、話してみるとおっとりとした一面もありました。
女性3「私は、23番の木元燿です、よろしくね!」(以後、耀さんと表記します)
剛史「どうも、ぼくは20番の鈴木剛史です」
と、言ったところで、会場係の方が大声で、
「すいませ~ん!」
「今日は男女比が偏ってしまったので、フリータイムは5分おきで交代して下さ~い!」
「皆さんが1人でも多くの方と話せるように、こちら側で配慮させて頂きました~」
「5分たったら笛を吹きますので、速やかに移動願いま~す」
「どうぞよろしくお願いしま~す」
と、言ってきました。
すると、会場内は急に慌ただしくなってきました…。
ぼくは、5分間でどうやってアドレス交換するのか、皆目見当もつかなくて焦っていました。
かといって、このままアドレス0件で終わるのはカッコ悪いな…、
そう思っていると、燿さんの方から話し掛けてくれました。
耀「私達、今日は3人で来ているんですよ」
剛史「へ~、偶然ですね!うちらも3人で来てるんですよ」
耀「ふふーん、それはとっくにチェック済みだわ!」
剛史「そうだったんだ~、あははは~」
耀「えっとね~、私は偶々通りがかったから話し掛けた訳じゃないのよ」
剛史「じゃあ、ぼくと話したかったって事?」
耀「当ったり前でしょ!貴方の事を角度を変えながら見ていたら遅くなっちゃったわ」
剛史「へ~、ぼくってそんなに見られていたんだぁ」
耀(首を傾げながら)「もしかして迷惑だった?」
剛史「いやいや、そうじゃないですよ、こんな事は初めてだったんで…」
耀「ねえ、プロフィールシートを交換しましょ!最初に私の携帯番号を書くから」
剛史「あっ、はい!お願いします」
その時、ぼくはこう思っていました。
「どうぜ、丸っこい数字で書かれていく携帯番号は嘘っぱちなのでは?」
「今までのパターンだと、全く知らない人の番号か彼女の知り合いの男性に繋がったような…」
「どちらにしても、赤の他人からいきなり訳の分からない電話を掛けられた人にとっては、迷惑以外の何者でもないよな…」
そんな事を思っていると、
耀「ねえ、今から私の携帯に電話してみてよ」
と、耀さんが言ってきました。
剛史「えっ、何?じゃあ、この番号は本物って事か!」
耀「それは掛けてみれば分かるんじゃない?」
ぼくは、逸る気持ちを抑えつつ、震えた手で携帯電話を操作しました。
すると、数秒後には耀さんの携帯電話が間違いなく鳴り響きました。
耀(ぼくの事を上目遣いに見ながら)「私はそんなに悪い人じゃないわ」
剛史(脂汗をかきながら)「疑ってごめんね」
耀「フっ、いいのよ…、気にしてないわ」
その時、ぼくはこんな事を思っていました。
「よ~し、いい流れだ!」
「とりあえず、1件目の携帯番号は手に入れた~!」
「でも、やっぱりアドレスを取らないとダメな状況なのかな?」
ぼくは、初の携帯番号を取ったのとは裏腹に、守りに入りかけている自分に喝を入れました。
「ダメだダメだ!ここで引いてはダメだ!」
「守りに入ると、現状維持にはならずに人生下り坂コースじゃないか!」
「それに、守りに入れば入るほど次に動くのが怖くなるんだよな…」
「今日を逃すと一生後悔する羽目になる!」
「とにかく、アドレスを取るまでは際限なく押していかなきゃ!」
そう思い、玉砕覚悟で挑む事にしました。
剛史「あの、今日一緒に来たのは何番の方でしょうか?」
耀「24番の滝本紗綾さんと25番の原崎偕子さんよ」
剛史「その方はこの近くにいるんですか?」
耀「いいえ、2人は向こう側にいるんだけど、まだ誰とも話していないみたいだわ」
剛史「まあ、この男女比だったら仕方がないよね…」
耀「でも、不思議な事に誰も帰らないのよね…」
剛史「ぼくも、この男女比のままパーティーを続行するとは思わなかったですよ」
耀「それでも、今日は逆告白デーなんだから私達が頑張らないとね」
剛史「それなんだけど、いまいちシステムが分からないんですよね…」
耀「あの~、時計を持っていますか?」
剛史「ええ、ここに」(腕時計を見せる)
耀「残り時間は、あとどれくらいですか?」
剛史「あと、1分半ってところですよ」
耀「そんな~、もう、それしかないの?」
剛史「はい、だいたいそれで合っていると思います」
ぼくは、残りの時間が僅かになり焦っていました。
ですが、これだけ女性陣が多ければ、次回もアドレスを交換するチャンスはあると思っていました。
ところが、ぼく以上に耀さんが焦っている様子が窺えました。
そして、残り時間が1分になったところで、耀さんがぼくの目をじっと見てこう言ってきました。
耀「それでね、いきなりであれなんですけど、近いうちに私達と合コンしませんか?」
耀さんは、ぼくの心配を余所にして、いきなり本題に入ってきました。
まさか!女性の方から合コンを申し込んでくるとは…。
ぼくは、動揺を抑えつつも、
剛史「本当ですか?是非3対3の合コンをやりましょうよ!」
と、返答しました。
耀「向こうにいる2人の事は紹介出来なくてごめんなさい」
剛史「いえいえ、お2人にもよろしくね」
ぼくは、残り時間を考えると、もうここらが限界なんじゃないかと思い始めました。
すると、燿さんは慌てて携帯電話を操作し始めました。
耀「最後にアドレス交換しましょうよ」
と、言うなり、赤外線通信をONにし始めました。
(赤外線通信とは、赤外線を利用して信号を送受信して行うワイヤレス通信の事をいいます。近距離でしか通信を行えないものの、消費電力が少なくて済み、小型の端末で行えるのが特徴です。但し、赤外線通信は同時に複数の機器間での通信は出来ません。また、双方向の通信も出来ません)
ぼくも、あたふたしながらアドレス交換の準備をしました。
ここで、戸惑う事無く赤外線通信を立ち上げる事が出来たのは、先日会社の後輩に教えてもらったばかりだったからです。(何でも流行りのものは教わっておくものですね)
剛史「準備OKです!」
耀「いい?それじゃいくね!」
と、言ったところで、数秒後に耀さんのアドレスが送られてきました。
透かさず、ぼくのアドレスも同じ様に送りました。
耀「あ~、来た来た!やった~、やれば出来るじゃん私~」
剛史「いや~、アドレス交換が間に合うかどうかでヒヤヒヤでしたよ~」
耀「ねえ、あと何秒?」
剛史「5秒位かな」
耀「本当にギリギリね」
ぼくと耀さんは、お互いに目的が果たせのもあって、思わずにっこりと微笑みました。
女性主導とはいえ、アドレス交換が出来た事に素直に喜んだところで、会場係の方がストップウォッチを覗き込みました。
そして、程なくして5分おきの笛が鳴り響きました。
「ピ、ピィィィ-」
ここで、会場係の方が右手を高々と挙げてこう言いました。
「は~い、これで終了になりま~す」
「今、お話している方とは別の方と交代して下さ~い」
その言葉を聞いて、後ろ髪を引かれる思いで燿さんの元を離れました。
別れ際、耀さんの横顔をチラッと見ると、もの寂しげな感じがしました。
それから、数十秒後に司会者の男性が声高に叫びました。
「はーい、持ち場の係員はお相手が入れ替わったかどうかのチェックを願いま~す」
「OKでしたら手を振って合図をして下さ~い」
それを聞いて、会場係の方々は慌ただしく動き回っていました。
そういえば、今回の会場係の人達は他の所とは違ったなぁ…。
ぼくと耀さんが話している時も、胸元やカバンに付けた番号札を確認して回っていたっけな…。
要は、さっきまでの番号札が被っていないかどうか、スタッフ総掛かりで確認しているって事か…。
男女比が偏ってしまったとはいえ、毎回それをやるとなると大変だな…。
でも、これで不正は出来なくなるから、後々のクレームがつきにくくなるのかな?
それにしても、男性から女性に対してあれこれお誘いしたとしても、5分以内にアドレス交換するなんて余程の色男でもない限り不可能な領域ではないでしょうか?
ただ、それが女性多数のパーティーで、かつ、立場が逆転したとなると、こんなにもあっさりとアドレス交換が出来るもんなのかと感慨に浸っていました。
「いや~、逆告白パーティーなんて全く期待していなかったけど、こんなにモテるんなら来てみるもんだな~」
「よし!とりあえず1件目のアドレスは簡単にゲットしたぞ!」
これだけで、どうこうなる訳ではないとは思ったものの、何だか少しだけ自信がついたような気がしました。
男女の入れ替りが確認出来たところで、今一度司会の男性が叫びました。
「フリータイム8回目のスタートで~す!」
「それでは皆々様!頑張って下さいね~」
会場内は、再び騒めきました。
いくら、女性多数のお見合いパーティーだとしても、男性の誰とも話せないで終わるのは屈辱だったのかも知れません。
中には、女性グループ同士でジョイントして、1人の男性を追っていく姿もありました。
この時の女性陣にとっては、料金の安さのことなど完全にすっ飛んでいて、何とかして付け入ろうと必死でした。
一部の男性の元には、割り込みをしてくる女性もいたようです。
それについては、スタッフの方々が目を光らせていたので、きっちりと制止していました。
次に、ぼくの前に来たのは2人組の女性でした。
2人は、ぼくと耀さんが話している途中に横に並んできたのですが、恐らくはこちらの会話をじっくりと聞いていたのでしょう。
それは、2人は所々でプロフィールシートにメモをしていたからです。
女性4「こんにちは!私は11番の横山典果です」
女性5「初めまして!私は12番の千野夏南っていいます」(以後、典果さんと夏南さんと表記します)
剛史「どうも初めまして、20番の鈴木です」
典果さんは、ふんわりとしたパーマをかけていて、色白でぽってりとした唇をしていました。
胸元には、金色に輝く綺麗なネックレスをしていました。
夏南さんは、ツインテールでくっきりとした二重瞼をしていました。
スラリと伸びた足には、ピンク色のアンクレットを付けていました。
彼女は、見た目には惹かれるものがありましたが、話してみると天然な性格でした。
剛史「どうも初めまして、20番の鈴木です」
夏南「こちらこそよろしくね!」
典果「今日は逆告白の日だから来たんだけど、こんなにも女性だらけだなんて思ってもみなかったわ」
夏南「そうそう、私達ずっと迷走してたのよね…」
剛史「それは大変でしたね…」
典果「ねえ、さっき話していた子で決まりなの?」
剛史「まだ、決め兼ねているところですよ」
典果「あんなに楽しそうにしていたのに?」
剛史「それは、モテた事がなかったからですよ」
典果「そうは見えないわ、貴方はとても優しそうだもの」
剛史「でも、身長は低いですよ…、だから、見た目で避けられちゃうんでしょうね」
典果「そんな事はないわ!貴方の胸元の筋肉は素敵だわ」
夏南「わー、本当だ~!ちょっと触らせて」
剛史「ええ、いいですけど…」
(典果さんと夏南がぼくの大胸筋を遠慮がちに触る)
典果「ねえ、私達に決めませんか?」
剛史「参ったな~、こんな風に言われるのは初めてだから迷うな~」
夏南「ねえ見て!私、目元にキラキラしたのを付けてきたんだけど光ってる?」
剛史「あっ、本当だ!目元が綺麗だね~」
夏南「可愛いでしょう?」
剛史「うんうん、夜のデートに映えそうだね」
夏南「やった~、超カワイイって~」
典果「は?そこまでは言ってないでしょ!」
剛史「はははは~、面白い人ですね」
夏南「でしょでしょ~」
典果「私はいつも爪を綺麗にしているのよ」(艶々な爪を見せてくる)
剛史「わ~、爪ってこんなにも綺麗に光るんだ~、どうやってやるの?」
典果「それはね、もっと仲良くなったら教えてあげるわ」
夏南「ここも見て見て!」(夏南さんは後ろ向きになってうなじを見せてきました)
剛史「うわっ!何かゾクっとしちゃったよ」
夏南「へへ~、そろそろ私の虜になった~?」
典果「ちょっと~、時間が無いんだから早く核心に迫ろうよ~」
剛史「あっ、あと残り2分しかないや」
夏南「え~、もうそれだけ~」
時間制限5分という事もあったのでしょう。
女性側からしたら、誰しもが落としどころを探っていたのでしょう。
やはり、今回も女性側から早い段階で合コンの交渉をしてきました。
典果「ねえ、近いうちに私達と合コンをしましょうよ」
剛史「はい、是非とも!」
夏南「合コンやるんだ~!嬉しいな~、早くしたいな~」
典果「ちょっと~、夏南はしばらく喋らないで!」
夏南「は~い」
剛史「でも、こっちは3人で来ているんで、あと1人誘う事は出来ますか?」
典果「大丈夫ですよ、彼氏がいない友達はけっこういますから」
剛史「それなら、今月中に合コンやりましょう」
典果「ええ、心待ちにしていますね」
夏南(典果さんに向かって)「ねえ、あと1人誰がいい?」
典果「本恵ちゃんでいいんじゃない?」
夏南「そうね、この前も彼氏紹介してって言ってたからね」
典果「じゃあ、明日にでも聞いてみるね」
剛史「交渉成立ですね」
典果「それなら、アドレス交換しないとね」
剛史「あの~、赤外線通信のやり方分かります?」
典果「当たり前でしょ!」
夏南「出来ないと思ってバカにしたでしょう?」
典果「いい?私から送るね」
夏南「あっ!先を越された~」
という流れになり、典果さんと夏南さんのアドレスが赤外線通信で送られて来ました。
剛史「おっ、2人のアドレスが来ましたよ!今度はこちらから送りますね」
典果「あっ、来た来た~」
夏南「私にも来ました~」
ぼくは、平静を装っていましたが、心拍数が早くなっていくのが手に取るように分かりました。
ここで、会場係の方が声を張り上げました。
「はい、お疲れ様でした~」
「お時間になりましたので交代して下さ~い」
ぼくは、典果さんと夏南さんにお礼を言った後に2人の元をサッと離れました。
「よし!ノルマだった3件のアドレスをゲットしたぞ~!」
「ぼくもやれば出来るじゃないか!」
「これで、やっと誠司君との義理が果たせたな」
そう思い、ぼくはとても楽しい気持ちでした。
それにしても、今の状況を考えてみると不思議な感じでした。
僕らは、勢い込んでお見合いパーティーに参入したものの、箸にも棒にも掛からない状態が続いていた訳です。
それが、男女比が逆転したというだけで、今度は誘われる側になったのです。
ですが、うちら3人の見た目が良くなったり、急激に年収が上がった訳ではないのです。
その点を鑑みると、お見合いパーティーで勝てるかどうかは、男女比とメンバー次第といったところではないでしょうか?(誠実さと最低限の会話力は必要ですが…)
それと、言い方は悪いかも知れませんが、同性の参加者が自分よりも格下揃いであれば、モテる可能性はあるという事でしょう。
但し、楽勝と思われるパーティーでも、どんなに無理目の回と思った時でも、最後まで気を抜かずに走り続けなければならないのはいわずもがなでしょう。
ただ、うちら3人にとって今回のパーティーは、あらゆる条件においても申し分がないほど充実していました。
ぼくは、ノルマの3件が達成出来た時点で、これ以上全速力で走るのかどうか迷いました。
しかし、こんな好条件のパーティーなんて2度とないだろうと強く感じたので、ここらで欲が出てきました。
「よし!ここから先は記録更新だ!」
と、思ったものの、いつまでもチャンステーマが鳴っていた訳ではありませんでした。
ここで、司会の男性が声高に叫びました。
「え~、皆々様!」
「お楽しみのところ恐縮ですが、フリータイムは次で終了になります!」
そこで、会場内は騒然となりました。
しかし、男性陣には既に次に話す女性が決まっていたので、すぐに落ち着きを取り戻しました。
「それでは、フリータイムのスタートでーす!」
「最後の最後までお楽しみ下さいませ!」
その後、会場のあちらこちらで多くの女性が自己アピールを始めました。
その間、お話しが出来なかった女性陣は、幾つかのグループに分かれて雑談をしていました。




