表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

004「異世界を歩く」

 キラキラした満面の笑みを浮かべるセツナに、小鉄はなんとなく居心地の悪さを感じていた。


「……あのさ」

「はいっ」

「新しい英雄って……どういうこと?」


 セツナから言われた言葉に、分からない単語が2つあった。

 もちろん“新しい”と“英雄”である。


 英雄には全く心当たりがない。あるとしたら今の恐竜もどきを倒したことだが、英雄とまで呼ばれるようなことじゃない。それに、新しいってことは、過去にもいたってことになる。


――訳がわからねえ。


「あ、それについては……」

「先輩!」


 セツナが口を開いた時、階段から敏恵が小鉄を呼んだ。

 声のする方に目を向けると、敏恵がちょうど階段を下りてくるところだった。


「おう、山田。消火器ありがとうな、助かったわ」

「い、いえっ! ……倒せたんですか?」

「なんとかな。お前と、このセツナのおかげだ」

「とんでもない!」


 小鉄が言いながらセツナを見ると、彼女は首を大きく、ぶんぶんと横に振っていた。


「英雄さんの機転と、あの凄まじい攻撃のおかげだよ! あたし一人だったら今頃どうなっていたことか……」

「えい、ゆう?」

「ああ、そうだ、それを聞きたかったんだ。俺が英雄ってどういうことだ?」


 さっき中断した問いをもう一度投げかけてみる。すると、セツナは少し何かを考えている素振りを見せ、それからまた満面の笑みを浮かべて小鉄に言った。


「話せば長くなるから、良かったら私達の村に来ない? おじいちゃん……村の長から話を聞いて欲しいの!」

「村……」


 どうやらここは、本格的に元の世界ではないらしい。大草原の時点で分かっていたことではあったが、村と聞いて小鉄は改めて認識した。


「あんなばけもののいる所に村があるのか?」

「うちの村のあたりには寄り付かないように、ヴェロキィの嫌う音を出してるんでだー。さ、行こ!」


 どのみちこのビルにいられる立場でもない。騒ぎを聞きつけた社長が来るのも時間の問題だ。

 小鉄はそう考え、セツナの提案にうなずいた。


「分かった、案内してくれ。山田、さっきは本当に助かった。……無事でいろよ」

「この建物の中なら大丈夫! こちらからも色々支援するからね!」

「え、でも、私は先輩と……」

「ここがどんな所かまだ分からない以上、むやみに外に出ない方がいい。食料も無駄に食わなければ数日はもつだろう。それまでに出来るだけの情報を持って戻ってくるから、待っててくれ」

「わ、分かりました。気を付けて、先輩」

「おう」


 社長が下りてくると面倒くさい。そう考えた小鉄は、どうせ行くならさっさと行こうとばかりに、古巣のドアをくぐり、改めて新天地に足を踏み出したのだった。


————


「ところで、セツナはどうして追われてたんだ?」

「えっ」

「村に近寄らないんなら、村から出なければいい。自給自足出来るくらいの設備はあるんだろ?」

「あー、まぁそうなんだけどー」


 セツナはちょっと困ったような顔で笑った。


「必要だから。ヴェロキィから採れる骨とか皮が。肉も食べられるしね」

「つまり猟師ってことか、なるほどな。しかし、ならば一人で出るのは得策じゃないだろ。数人のチームで動く方が効率がいい」

「他の人たちはそうしてるんだけど……あたしはちょっと苦手なんだー」

「苦手、か……」


 小鉄にも心当たりがあった。会社も、それが原因で解雇されたようなものだ。


「ならまぁ、しょうがないか」

「うん、しょうがないの。……あ、ほら、見えてきたよ」


 そう言ってセツナの指差した方には、確かに集落のような建築物が見えてきていた。

 周囲に張り巡らされた強固そうな高い城壁は、ヴェロキィのような怪物を中に侵入させないためのものだろう。その向こう側には、少し高い塔のような建造物を中心に、建物の屋根が見え隠れしている。


「村っていうか要塞みたいだな」

「そうなの?」

「ああ、普通村や町なんてのは、なんとなく出来上がるもんだ。これじゃあまるで昔のヨーロッパの城塞都市だ」

「よーろ、ぱ?」

「いやすまん、気にするな」


 小鉄は、あえてヨーロッパという言葉を出すことで、セツナがどんな反応を示すかを試してみた。彼女もまた、自分と同じ世界から来た人間ではないかと考えたからだった。

 だが、その反応は。


——どうやらこの子は異世界育ちか。……ならなんで言葉が通じるんだ?


「コテツ、ちょっと先に門番さんにお話ししてくるね!」

「あ、ちょ」


 言うなり走り出したセツナに追いつけるわけもなく、小鉄は一人、彼女の後を追って歩く。


「はええなぁ、あいつ……」


 そう呟きながら、小鉄は自分もまた、規格外の力を出していたことに思いを巡らせた。


——この世界に足を踏み入れて、走ってくるあの子を見た時、脳の奥で何かが弾けた気がした。状況に驚いていただけだと思っていたが……。


「あの時からか? ……この力は」


 軽自動車程もある恐竜が突進したとして、それを人間が一撃で跳ね返すことなど果たして可能なのか。

 理想的なカウンターが入ったから?

 それとも、火事場の馬鹿力ってやつか?


——いずれにしてもあの反撃は出来すぎだった。咄嗟に出た行動って意味じゃあ、いわゆる火事場の何とかだったんだろうが……。


 それにしても、と思う小鉄であった。

 そんなことを考えながら顔を上げると、村に入る門の前で、セツナがぶんぶんと大きく手を振っているのが見える。その脇には門番なのだろう、金属のプロテクターを付け、大ぶりな盾を持った男が二人、やはり小鉄の方を向いて立っていた。


「おーい! 英雄さーん、はーやーくー!」

「はいはい。……仮にも英雄ってのに、人遣い荒くねえか、あのお嬢ちゃん」


 そう言って苦笑した小鉄は、彼女の元に駆け寄っていった。

応援や感想などいただけるととても喜びます!




こっそりでもいいから教えてね!ヾ(´▽`)ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 恐竜狩るタイプの異世界はちょっと珍しい気がします! [一言] 社屋の入口で交戦中、ってなかなか聞かない言葉でクスリと来ました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ