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015「リーダーとのタイマン」

「おおおおっ!!」


 小鉄は両脇に控える二頭には見向きもせず、真ん中に陣取るヴェロキィリーダーに向かって突進する。


「ギィアアアア!」


 ヴェロキィリーダーは、そんな小鉄に反応して、一歩、二歩と前へ進んだ。その様子に両側にいる側近二頭も動こうとするが、その瞬間、セツナのクロスボウの矢が二頭の足元に突き刺さる。矢からは細く煙が出ており、撃ち込まれた数舜の後に爆発した。


「ギャアァオオオアア!!」

「集団戦用の速射式よ! 貴重な破裂弾使ったんだからありがたくやられてよね!」


 破裂弾の威力それ自体はあまり高いとは言えないが、唐突に撃ち込まれたこと、足元に撃たれたゆえに一瞬足がすくんだこと、撃ち込んだ際に抉られた土や小石が破片と一緒に飛び散ったことで、二頭はバランスを大きく崩していた。


「どーよっ!」


 一方、小鉄はリーダーとの一騎打ちの真っ最中だ。

 どちらの攻撃も相手の防御に阻まれる。小鉄の斧をその太い尻尾で弾き、リーダーの爪を斧の腹で受け止める。

 一進一退の攻防のようにも見えるが、その実不利なのは小鉄の方だった。

 原因は武器である。

 小鉄の斧の柄は長い。集団戦闘では振り回すことで相手を不用意に近寄らせない戦法が使えるが、一対一となると、そのリーチの長さが逆に(あだ)となっていた。


——くそ、取り回しづれぇ。


 重くて長い斧は、一撃の殺傷力が高い。だが、動きそのものは速いとは言い難い。

 逆にヴェロキィリーダーは、言ってみれば素手のようなものだ。更に攻撃手段は牙、爪、尾とバラエティに富んでいる。

 何度も戦っていれば経験の蓄積でカバーできる部分ではあるが、ヴェロキィリーダーと対峙するのは二回目、しかもまともに正面から向き合うのは初めてである。

 更に悪いことに、今回のヴェロキィリーダーは、最初のやつよりも強いということに、小鉄は気付いていた。


——ジリ貧だな……。


 ふと、セツナの姿が目に入る。彼女は速射型のクロスボウを器用に使い、ヴェロキィを二頭まとめて翻弄していた。

 その様子を見て、小鉄はあることに気が付いた。


「……そうか」


 呟いた小鉄は後ろにステップすると、斧を大きく上に振りかぶり、リーダーに向かって思い切り投げつけた。


「くらえぇっ!!」

「ギォエエエッ!!」


 面食らったリーダーは一瞬動きが遅れたが、すぐに身体を回転させ、尾で斧を弾き飛ばす。


「思った通りだぜ!」


 小鉄はリーダーに向かって全力でダッシュする。怪物の牙が上から襲い掛かる直前、彼は大きく()に飛んだ。

 それを追ってリーダーの頭が小鉄の方を向くが、その反応に身体が付いていかず、足元がもつれる。


「てめぇの!」


 すかさず小鉄はリーダーの足元に蹴りを放つ。


「弱点は!」


 リーダーは倒れまいと反対側の脚を踏ん張るが、その巨大な身体はぐらり、と揺れた。


「横に動けねえことだっ!!」


 蹴った足を軸にして、小鉄は更に渾身の右拳を、リーダーの膝に横から叩き込む。


 ヴェロキィは横に移動できない。

 これは、セツナの機動を見て気付いたことだった。

 恐らくセツナ本人は無意識だろう。だが、常に相手の横を確保することで、彼女は常に有利を取り続けていた。

 ヴェロキィの脚は太く、強い。だがそれは、前後に対して、という但し書きがつく。より強く、より速く行動するために、彼らは前後の筋肉を極大にまで発達させ、横に動くための筋肉を削ったのだ。

 それが、今回は悪い方に転じた。


「セツナっ!」


 リーダーの下を抜け(・・・・)、反対側にいたセツナに近寄る。その時には、セツナは既に一頭にとどめを刺していた。

 小鉄はセツナの腰を抱くように腕を伸ばし、ベルトに差し込んだナイフを引き抜いた。


「わりぃ、これ借りるぜ!」

「きゃあっ! どこ触ってんのよ!!」

「すまんっ!」


 セツナのナイフには毒が塗り込まれている。それを知っていた小鉄は、ナイフを左手に持ち、再びヴェロキィリーダーと向かい合った。


「……これで終わりにしてやる」

「ギィィイィィイ……」

「おらああああっ!!」

「アアアアアアア!!」


 再び小鉄がダッシュする。学習能力が高いのか、リーダーが今度は爪を横薙ぎに払ってきた。


「ちっ……!」


 小鉄はやはり直前で横に飛ぶ。その時、リーダーの爪が小鉄の肩を抉った。


「いってぇだろがこの馬鹿野郎っ!!」


 構わず横に回り込み、手に持ったナイフを怪物の腹に突き立てる。すぐに引き抜いて、二度目は脚の付け根に思い切り突き刺した。


「ギャアアアアアア!!」


 強烈な悲鳴を上げながら、ヴェロキィリーダーは身体を思い切り回転させた。遠心力によって攻撃力が上がった尻尾が、小鉄の身体を横から吹き飛ばそうとする。


「んがああああっ!!」


 だが、小鉄は飛ばされず、尻尾にしがみついていた。その態勢のまま、彼は更にナイフを何度も突き立てる。


「ギィアアアアアッ!!」

「てめぇも命がけだろうがよ! こっちだって必死なんだよ!」

「ギョォォオオアアアア!!」


 やがて耐えられなくなったのか、ヴェロキィリーダーはその巨体を、地響きを立てて地面に倒れこませた。

 小鉄はすかさずその首にまたがり、ナイフを怪物の脳天に突き立てる。


「ギョ! ギャゴボォォォ……」

「……生きるためなんだよ。悪く思うな」


 ガクン! と大きく痙攣し動かなくなったヴェロキィリーダーの上で、小鉄は大きく息を吐き出した。

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