012「英雄達の潜在能力」
朝食を済ませ、英雄—転移者—たちと長、セツナは、応接間に集まっていた。
長の後ろには村の住人が数人並んでいる。
「さて、始めようか」
「その前に長。その方々は……?」
「ああ。昨日、トシエ殿たちの潜在能力を調べるのを手伝ってくれた、ここの住人たちだ。挨拶はまた改めてな」
「分かりました。……で、彼らの能力は判明したんですか」
「うむ」
小鉄の問いに頷いた長は、表紙に“第五十三期英雄調査書”と書かれたノートを取り出した。粗い和紙のような紙を、細い紐でまとめている。
「昨日確認した能力はこちらにまとめてある」
「拝見しても?」
「勿論だ」
そう言って長は、小鉄にノートを手渡した。その場の全員がのぞき込む中、小鉄はノートの表紙をめくった。
「英雄コテツ……は白紙か」
「そこはこれからだねー、あとでコテツの能力も調べるからね!」
「次は……英雄トシエ。山田の調査結果だな」
「英雄ってなんかちょっと照れちゃいましゅね……」
「山田さん、だいぶ嚙みますね」
松永にいじられながらも顔を赤くする敏恵だったが、調査を手伝ったという村人たちの反応はまた違うものだった。
「おお、トシエ殿……」
「あれは素晴らしかった……」
「二つ名を付けたいくらいの結果でしたな」
「二つ名?」
「うむ。これまで転移してきた英雄たちの中で、特に秀でた力を持つと思われる方には、二つ名が付くのだ」
「なるほど」
ノートにはまず、身体測定のような項目が並んでいた。
英雄トシエ
年齢/若手
身長/153糎
体重/計測拒否
「だいぶアバウトだな。っていうか単位は漢字表記なんだな」
「ですね。質量もグラムは瓦、キログラムは瓩と表記されています」
「なるほどね」
これも過去の英雄達が持ち込んだんだろうな、と小鉄は得心する。
ページをめくると、そこには敏恵の潜在能力について、詳細も含めて書かれていた。
潜在能力/超脳活性化
超 言語
優 記憶・類推・理論・整理
秀 計算・設計
「この超とか優ってのは……」
「潜在能力をより詳細に分類するための評価です。超、優、秀、可の4段階ですが、一番下の可でも一般的な人間を大きく凌駕します」
小鉄の質問に答えたのは、長の後ろにいた村人の一人だった。名前はユウ、というらしい。長身痩躯で丸い眼鏡をかけた、学者のような風貌の男だ。
「超ってなんかすげえな」
「はい。実際、計測不能という意味です。蔵の記録を読んで頂いたのですが、ざらっとめくっただけで全てをご理解されていました」
「山田さんすげー……」
「え、や、だって、日本語ですし!」
「俺も読んだけど、モノによってはかなり崩した字だったぞ。それも読めたのか?」
「あ、はい。手書きの文字は仕事で慣れてましたし……」
「トシエ殿のおかげで、文献の解読もかなり捗りそうだ。連れてきてもらって正解だったな」
長がニコニコと笑いながら、敏恵を褒める。彼女も満更でもないようで、でへへ、とややだらしなく照れ笑いをした。
「正直、期待はしてましたが……予想以上だなぁ」
「なので、我々としても、トシエ殿に二つ名を検討しています。候補としては“賢者”、“叡智の人”などが挙がっています」
「やめてぇ〜……恐れ多すぎるぅ……」
手で顔を覆って恥ずかしがる敏恵を、ユウが温かく見守っている。なんとなく面白がっている気がする、と小鉄は感じていた。
「で、荒木と松永はどうだったんだ……?」
小鉄がページをめくる。そこには、
英雄アラキ
年齢/31
身長/172糎
体重/60瓩
潜在能力/超精密行動
超 射撃
優 未計測
秀 未計測
英雄タケフミ
年齢/28
身長/183糎
体重/85瓩
潜在能力/超筋力
超 腕力
優 未計測
秀 未計測
「……未計測?」
「トシエ殿の発現項目が多すぎて、手が回らなかったのです。お二人の詳細はこれから、コテツ殿の調査と共に行います」
「なるほどね。じゃ、ぼちぼち始めましょうか。何をすれば?」
「まず、元の世界とこことで、自分自身で分かる変化があれば教えてください。それから過去の書物との照合や体力の調査などを行い結論を出します」
「変化か……」
小鉄は、転移してからのことを思い出していく。
「変化だらけだなぁ」
「この中で戦闘経験があるの、刈谷さんだけですしね」
「あ、コテツ、ヴェロキィ殴り飛ばしたのは? 元の世界でも出来た?」
「いや。なんなら、野生動物を相手にしたのはあれが初めてだ」
「あとさ、ヒィグとやたら戦いたがってたけど、ああいうのは?」
「ないなぁ。若い時は格闘技が好きでいくつかやってたけど、あれも競技としてだしな」
「ということは、コテツ殿の変化はそこになりますね。ちなみに、今の気分はどうです? 何かと戦いたいというような衝動は?」
そうユウに聞かれて、小鉄は少し考えた。が、あの時の感情そのものは覚えてはいても、その気持ちには全くなれなかった。
「……ないな。なんなら、出来るだけ楽をして生きていきたい」
「いつもの先輩だ」
「いつも言ってましたもんね、楽して生きたいって」
「うるせぃな。みんなそう思ってるだろうよ」
「コテツ……」
「お、おう、どうしたセツナ」
「ちゃんと生きよう?」
「うっ」
「セツナちゃんに叱られてる」
「しっかり娘に怒られるぐうたら親父感がえぐい」
「てめぇら……」
「あの、ぼちぼちよろしいですか」
ノリについていけないユウが、こめかみをおさえながら口を挟む。コテツ達は口々に謝りながら小さくなっていた。
「自覚変化については分かりました。次はそれを踏まえて、書物との照合、身体能力の調査に入りましょう」
スローペースで申し訳ないです。
これからも応援よろしくお願いします!ヽ(´▽`)/