011「痛み分けと潜在能力」
信号弾を打ち上げ、小鉄の戦っている方を振り向いたセツナが見たのは、ヒィグが無造作に振った腕に、小鉄が吹き飛ばされるところだった。
――コテツ!!
叫びたい気持ちをグッとこらえ、息を潜める。セツナもまたヒィグの的に掛けられたら、助けられるものも助けられなくなるからだ。
ヒィグは吹き飛ばした小鉄の方をじっと眺めている。そのまま歩み寄るようなら、セツナは後先構わず飛び出すつもりだった。
だが。
不意に目線を外したヒィグは、そのまま元来た方向へと身体を向け、右足を大きく引きずりながらゆっくりと立ち去っていった。
――助かった、の?
充分な距離を取ってから、セツナは慎重に、しかし急いで小鉄に駆け寄った。
息はある。飛ばされた衝撃で意識は混濁していて、身体中のあちこちから出血してはいるが、どれも致命傷には至っていないようだ。
「ぅう……」
「コテツ!」
「ぐぅ……」
刺激しないよう、そっと触りながら怪我の具合を確認する。あれだけの距離を弾き飛ばされたというのに、コテツの身体には重篤な怪我は一切なかった。
そのデタラメな頑丈さに、ほっとしながらも半ば呆れるセツナの耳に、小鉄の声が小さく入り込んできた。
「逃げろって言ったろ……」
「コテツ!」
「熊公……ヒィグはどうした」
「行っちゃったよ。あの感じだと向こうも相当疲れてたみたい」
「そうか……」
未だ倒れたままの小鉄だったが、口調はしっかりしていた。
「そんなことより……」
「くそ、次は仕留めてやる……」
「えっ!?」
セツナは我が耳を疑った。
これだけボロボロになって、まだ闘争心が全く薄れていない。それどころか、次は仕留める、など……。
「ちくしょう、手も動かせねえ」
「救援の信号弾撃ったから、すぐに助けが来るよ。ヒィグは足引きずってたし、ヴェロキィも来る気配がないから、それまで休んでて」
「……すまんな」
「ううん。おやすみなさい」
「……」
なんだかんだ体力の限界はとうに越えていたのだろう。小鉄は静かな寝息を立て始めていた。
――――
小鉄が目覚めた時、彼は布団の中にいた。
「……」
目覚めたとはいえ、すぐには起き上がれない。普段は寝起きの良い小鉄だが、今回ばかりはそうもいかないらしかった。
「つっ、いってぇ……」
少し身体を捻っただけで、身体のあちこちが悲鳴を上げる。それでもなんとか顔を横に向けると、そこにはもう一組布団が敷いてあり、セツナの幼い顔が掛け布団からのぞいていた。
「あ、目覚ました」
「セツナ!? なんで隣で寝てんだ!?」
「おっはよー。コテツの付き添いするって言ったら、じゃあ隣で寝てろっておじいちゃんが」
「いや、危ないとか思わないのか?」
「泥みたいに眠って引っ叩いても起きない人に何の危機感を抱くのよ? そもそも変なことして放り出されたら、それこそヒィグの餌になるだけだし、それが分からないほどガキンチョでもないでしょ、コテツ」
「……おっしゃる通りで」
「じゃ、おじいちゃん呼んでくるからちょっと待っててね。……あと、向こう向いててくれる? 着替えたいから」
「お、おう……っ、ててて……」
やっとの思いで横に向いた小鉄だが、再び今度は反対側に向くことを強要された。彼の後ろでセツナが布団から這い出す音や衣擦れの音が聞こえてくる。
「……すまんな、運んでくれたんだろ」
「うん、まぁ実際運んだのはコテツのお友達……タケさんだけどねー」
松永のことか、と小鉄は得心する。
着替えている間、セツナが彼の元同僚たちのことをどう呼んでいるかを聞いた。
荒木史生はアラさん。
松永健史はタケさん。
そして、山田敏恵はトシエ。
なぜ荒木と松永だけさん付けなのかは分からないが、恐らくゴロが良いとかそういうことなのだろう、と小鉄は適当に腑に落とした。
「あいつらは今何してんだ?」
「まだ寝てるんじゃないかな? 夜が明けたばっかりだし」
「まだそんな時間か……いや、そういうことじゃなしに。ここであいつらは何しすることになったんだ?」
「あ、そっちか。まだ決まってないよ。でも潜在能力は大体わかったみたい。そっちはおじいちゃんが教えてくれると思うよ……っと、着替え完了っ。じゃあ呼んでくるね!」
「あ、いや、まだ朝早いなら無理に起こさなくても」
「だいじょーぶ、もう起きてるよ! もうじーさんだから!」
「いや言い方よ」
小鉄のツッコんだ時には、セツナの姿は既にそこになかった。
小さくため息をつき、布団の傍らに畳まれた濃紺の服を引き寄せる。この世界の服だろう、綿に似た柔らかな感触が、通した腕に心地いい。
「なんかスウェットみたいだな」
ボソリと呟き、同じ素材のズボンを履く。立ち上がって裾を軽く伸ばしたところで、セツナが長、敏恵、荒木、松永を連れて戻ってきた。
「具合はいかがかな……もう立ち上がるか、流石だなコテツ殿」
「しぇ、しぇんぱい!? もう起き上がっていいんですか!?」
「あれだけボロボロになってたってのに……」
「すいません、正直引いてます」
「ひどいな!?」
言いながらも彼らの顔は明るかった。どれほどの状態だったんだろうか、と小鉄は気になり、セツナに尋ねてみた。
「……そんなに酷かったのか、俺」
「んーとね。うん」
「力強く頷かれた」
「死んでますって言っても納得される感じだったよー。血塗れだったし。出血しすぎて顔真っ青だったしね」
「正直、もう先輩と会えないのかと思いました……」
「マジか……」
「それが翌日には普通に立ってるわ、傷は塞がってるわ」
「引くのも仕方ないかと」
「一晩調べてみたが、過去にもそれだけの回復力を持つ英雄の記録はなかったな」
そこまで言われて、今度は小鉄自身が自分にドン引きした。
「……これが俺の潜在能力ってことですかね」
「分からん。それ以前にヴェロキィを殴り飛ばした事実もあるしな」
そう言って長は、ぐいっと腕組みをした。
「コテツ殿が回復したのならちょうどいい。他の方々の潜在能力についても話したいことがある。朝食の後、少し時間を頂こうか」
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