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第七章 ライブラ王国と天秤の上の少年少女 二話

 コブラたち7人はライブラ王国の門の前に立っていた。

 門の前には白装束の男が長い槍を立てながら仰々しく立っていた。

 アステリオスはそんな彼らに気さくに話しかけ、通行許可証を見せる。

 その間、コブラたちは門からでも見えるこの国の様相に声をあげていた。

「なんか、白いな」

「えぇ。あれは石灰と言うものですね」

「ロロンさん詳しいね」

「キャンスは工業の国ですよ? 長年住めば知識だけは付きます。キャンスではあまり手に入る材質ではないので、よっぽどの貴族じゃないと家などには使えませんが」

「じゃあ、この国ではその石灰てのがよく採れるってことか?」

「レオ帝国の竹のように、こうして巡ると、国によって特色が出るものだな」

「きれい……ここでもう絵を描きたい」

「国の入り口で足止めは勘弁だぞ」

「あんたら、アステリオスの坊やが手続き終えてくれたっぽいぞ。いつまでも喋ってないで、いくよ」

 各々が駄弁っているのをリザベラが止める。アステリオスが手続きを終えて、門番の男と何やら気さくに話している最中であった。

 門番の一人がコブラの方を見ると、少し驚いたように目を見開く。

「貴方が、星巡りの使者の代表様ですね」

 コブラは首を傾げた。話しを進めるのはアステリオスであり、身なりも整っているのはヤマトである。その流れで初対面の人間が見れば、この旅の一行のリーダーはヤマトかアステリオスだと思うはずのところ、門番はコブラをまっすぐと見た。

「確かに俺がこの一行の代表だが、なんでわかった?」

 コブラは素直に問い詰めた。門番はにこやかに微笑んだ。

「えぇ、我が神子リブラ様と同じ目をしていらっしゃる。何か特別な方であると判断できます。それに、今朝神託を受けたところでしたので、貴方たちが来ることはわかっておりました」

 そういうと門番はコブラに対して恭しく対応をし、門をゆっくりと開ける。門番の言う目というのは、ここへ来る途中で突然変化した左目のことであった。

「神託……だからここまでスムーズにことが運んだのか」

「それにしても、あんたの左目と一緒って、どういうこと?」

 門を潜りながら、アステリオスは顎に手を添えて何か考えている。キヨは、コブラの横っ腹をついて問いかけるも、コブラも意味がわからないので首を横に振るう。

「わぁー! キレイ!」

 門を潜った先でリコリスが大声で叫んで、駆けだした。

 ロロンも景色を見て目を見開いて感動する。リザベラもリコリスを追うように駆けて彼女の背に飛び乗り、残りの者たちは足を止めてライブラ王国の光景に感動の声を漏らす。

「これは、なんと神々しい」

「本当……」

 ヤマトとキヨが声を漏らしている。

 コブラは隣のアステリオスに視線を送るが、既にそこにアステリオスはいなかった。

「美味しそうな野菜ですね!」

「おっ、兄ちゃんわかるかい?」

「どれも大きくて艶がある。この国の土はとっても上質なんだね」

「あぁ。それにここは太陽の恵みが優秀だからな」

「ぜひ、この野菜を使って料理がしたいなぁ」

 声のする方を見ると、既にアステリオスは野菜商人と楽しく話ながら仕入れの交渉をしている。

 皆が好き勝手に動いているのを見て、キヨも町の特徴を書き残すために小さな紙に筆を走らせながら辺りをキョロキョロと見ていた。ヤマトも武具屋の方へ吸い込まれるようにゆっくりと歩いてゆく。ロロンもいつの間にかいなくなっていた。

 こうなるとコブラは億劫である。他のものと違って、コブラにはこれと言った大きな嗜好がない。こうして皆が好き勝手に動いてしまうと、コブラはただひたすらに彼らが満足するまで待つしかない。ゆっくりと溜息を吐きながら、壁にもたれ掛かってぼーっとはしゃぐ皆を見守る。

「旅のお方、暇をなさっているのですか?」

 コブラの横に白いワンピースの服の少女がもたれ掛かってくる。大きなわら帽子をかぶっていて顏が見えない。

 コブラは無視してやろうかと考えたが、自分よりも小さい子どもを無碍に扱うことにコブラは抵抗感があった。諦めたように溜息を吐いた後、空を眺める。

「そうだな。うちの仲間たちはみんな好き放題なんでね」

「貴方はどこにも行かないのですか?」

「俺がここにいないと、あいつらどこに戻っていいかわかんなくなるだろう?」

 コブラは見晴らしのいいこの壁でもたれていたのはそれが理由であった。全員が満足した時に、すぐに目に入るところに動いていないコブラがいないとどこで集合して良いかわからなくなるからである。

「いい人なんですね」

「そうかね」

 コブラは適当に返事をする。

「実際は、特にどっかに遊びに行きたいとかがねぇんだよ。一人だとよ」

「そうなのですか?」

 コブラはなぜ今こうしてすらすらと言葉が出るのか不思議であった。

 横の少女が話しを聞くのが上手なのだろうか。手玉に取られているようで釈然としないが、不思議なほど言葉が出てくる心地の良さがあった。

「まぁ、それでもこうして色々見るのは好きだけどね。あいつらほどどっかに特化してって趣味はないな」

「そうですね。どうやら皆さん。楽しそうに見ておりますものね」

 わら帽子の少女もコブラが見ている方向を見つめる。そこでは楽しそうに駆け回っているリコリスの姿がある。

「この様子ですと、神殿にお越しになられるのはもう少し後でしょうか?」

 わら帽子の少女の言葉にコブラは首を傾げて彼女を見つめる。

「神殿?」

「えぇ、星巡りの使者はあそこ。あの山の頂上にある神殿へ向かうように言われております。国民皆がそれを周知しておりますので、道案内はしていただけるかと」

「そうかい。みんなが戻ってきたら教えてやんねぇとな」

 そう言いながらコブラは遥か遠く、この国の最上部に位置する神殿を見つめる。真っ白で神々しい立派な建物である。

 少女はコブラの麻布袋に目が行く。その麻布袋の中から何かが突き出て形が露わになっている。その形で袋の中身が本であることを察した。

「本が入っていますね? 読書の趣味がおありで? ライブラ王国にも本を保存してある場所がございますよ? 申請すれば閲覧もできます」

 少女が親切でコブラが暇をつぶせそうなところを紹介するもコブラは頭を横に振った。

「いや、確かにこれは本だが、本が好きなわけじゃねえんだ。こいつは特別」

 コブラはなにげなく袋から本を取り出す。その本はボロボロで、長い年月コブラが所持していたことがわかる。

「ヘラクロスの冒険……。ですか。有名な英雄譚ですね」

「あぁ。昔貴族のおっさんが気まぐれでくれたものなんだが、ずっと持ち歩いていてな。何回も読み直した。おかげでボロボロだけどな」

 コブラは自分でも驚くぐらい笑みがこぼれた。照れくさいような嬉しいような感情で胸がいっぱいになったのだ。

 少女はコブラが持っていた本をじっと見つめている。彼女の口角が嬉しそうにあがった。

「ヘラクロス。蛇に噛まれても死ななかったことで人でないと知る豪傑の男ですね」

「確か、記憶を無くしていた神。だったか」

「いえいえ、神に愛された者です。最後に天に上り神となった男」

「そうだったっけか? 何度も読み直したのに忘れちまったぜ」

「昔から――。きっとヘラクロスの冒険描写がお好きなのでしょうね。そういった方はあまり彼の出生などのことを覚えていないことが多いです」

「あぁ、確かに。俺へラクロスが最後どうなったかも忘れちまった」

「神になるのですよ」

「その神ってなんだ? よくわかんねぇよな」

「そうですね。私も読みましたが、よくわかりませんでした。星術との関わりから、夜になると光るあの星そのものではないかと、私は思います」

「だとしたら、あの光が人だっていうのか?」

「いえ、人ではなく神です」

「似たようなもんだろう」

「似たようなものでしょうかね」

 コブラの言葉に少女は微笑み返す。それでもわら帽子で隠れて目が見えない。口元だけで彼女の表情を読み解くしかなかった。

 コブラはいっそこの帽子を奪ってやろうかとも考えたが、それはしてはいけない気がして奪おうと伸ばした手をそっと下げた。

「どのような存在であれ、神は偉大です。だからヘラクロスは神に上がった」

「そういうものかねぇ」

「貴方はもし、神になれるとしたらどういたしますか?」

 少女がコブラを覗き込みながら問いかけた。その問いかけにコブラは言葉が詰まった。彼女のわら帽子が覗き込んだ勢いでズレて、彼女の右目とコブラの目が合う。

 彼女の右目はまるで星空のようなきれいな光を放っていた。それは、今コブラが変化している左目とまったく同じであった。

 そしてコブラは、その目をここ以外で一度見たことがある気がしてならなかった。

「お前は――」

「おーい! コブラ!」

 その時だった。ヤマトがコブラを呼ぶ声がする。コブラは咄嗟にヤマトの方を見て、彼女と目線が外れる。

「コブラ……。そうですか。貴方は今そのような名前なのですね」

 コブラにも聞こえないくらい小さな声でわら帽子の少女が答えた。彼女は壁にもたれ掛かるのをやめてコブラに背を向ける。コブラは彼女の異変に気付いて彼女の背を見つめる。

「皆さんにお伝えください。集まったらアストラ神殿に向かうように。待ってますね。お兄様」

 彼女は帽子を少し上げてコブラに微笑みかけた。両目がコブラの左目同様に夜空のようになっていて、コブラは目を奪われた。コブラの脳裏に何かがちらつき、コブラは何とも居心地の悪い気持ちになる。

 コブラがその心地悪さに俯いているうちに少女はいなくなってしまった。

「どうしたの? コブラ」

 キヨが駆け寄ってきて心配そうにコブラの肩を揺らす。

「悪い悪い。お前ら用は終わったのか?」

「あぁ。それよりもコブラ、先ほど話していた少女は?」

 ヤマトの質問にコブラは複雑な表情で彼らから視線をそらした。

「あ、あぁ。親切な国民だよ。俺たちが星巡りの使者だとわかると、俺たちが向かうべきところを教えてくれたよ。あの神殿だとさ」

「そう。じゃあ、後はアステリオスを説得して、その神殿へ向かいましょう。宿はロロンさんがとっておいてくれたみたいだし」

 そういうとキヨはいまだに店の男と会話の花を咲かせているアステリオスの元へ駆けてゆき、無理やり彼を引っ張り出そうとした。

 リコリスやリザベラも戻り、コブラたち一行はアストラ神殿へ向かうのだった。

 コブラの脳裏には先ほど顔を見た少女の影がちらつく。彼女のことをコブラは知っていた。忘れようと心がけて、本当に忘れていた存在であった。

 彼女は昔、コブラと共にオフィックス王国で孤児をしていた少女、リブラであった。


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