第9話 アリア・ウォルコット
さて、敵も倒せたことだし、馬車の中の女の子を助けてあげないとな。
俺は馬車の中に入り、女の子の足枷を壊してあげた。
「ありがとうございます! 馬車の中から戦うところ見てました。とてもお強いんですね」
女の子は俺の手を握り、とびっきりの笑顔でお礼を言ってくれた。
さっき遠目から見た時も可愛いなと思ったけど、近くで見るとさらに可愛いな。クリッとした大きいブルーの瞳はとても澄んでいて、なんだか吸い込まれてしまいそうだ。
それに加えて身体が比較的小柄なもんだから、まるでお人形さんみたいである。
しかも小柄な割には出るとこは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる完璧なプロポーション。同じ人間とは思えない。
「私、アリア・ウォルコットって言います。どうぞアリアって呼んでください」
そう言ってぺこりと頭を下げるアリア。礼儀も正しい子のようだ。
「俺はノエル・マクベルトだ。よろしく」
「ノエルさんですか。いいお名前ですねっ」
「あ、ありがとう」
名前なんて褒められたの初めてだからなんだか照れるな。しかもこんな可愛い子に。
「でも、本当に助かりました。奴隷商人に捕まった時はもうお終いだと思ったので……。本当にありがとうございます」
再び深く頭を下げるアリア。
この子を奴隷商人たちから助けられて本当に良かった。
奴隷になった人は死んだ方がマシな人生を送る羽目になるって言うし、この子がそんな目に合うなんて考えたくもない。
「あの、さっき魔法を使ってましたけど、ノエルさんは魔法使いなんですか?」
「ああ、そうだよ。魔法使いとして世界を旅して回ってるんだ。まあ、回ってるって言っても今日からだけどな」
「き、今日からですか? それなのにあんなにお強いなんて……。やっぱり凄いです!」
まさか俺がこんなに褒められる日が来るとは。なんだかとってもいい気分だ。
凄いって言っても、頭撃ったらなぜか覚醒しただけなんだけどな……。
しかし、こんな可愛くて育ちのよさそうな子が、なんで奴隷商人に捕らえられていたのだろう。
あまり人に話したくない事情があるのかなとも思ったが、俺は思い切って聞いてみた。
「えっと、ごめんな。答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど、アリアはどうして奴隷商人に捕まってたんだ?」
「え? えっと……その……」
急に俯き、もじもじし始めるアリア。だいぶ答え辛そうにしている。
やっぱり聞いちゃまずかったか。
「い、家出したところを捕まりました……」
「い、家出?」
なんか予想外の回答が返って来たぞ。
まあ家族に捨てられたとかいう笑えない理由じゃなかったのは幸いだが。
「は、はい。三日前に父親と喧嘩になりまして……それで勢いで家を飛び出したんです。そして、行く当てもなくふらふらと歩き回っていたところ、迷子になってしまって……。そこをさらわれてしまいました……」
「そ、そうなんだ」
こんないい子でも親子喧嘩とかするんだな。なんか少し意外だ。まあ喧嘩できるくらいに仲がいいってことなのだろうけど。
となると親も心配してるだろうな。
「あ、あのっ! ノエルさんの強さを見込んでお願いがあります」
「お、お願い?」
「はい。私のことを家まで送って欲しいんです。私、魔法は多少使えますが、まだまだ実力不足で……。強いモンスターに襲われたりしたらたぶん殺されちゃいますし、また人さらいに合うかもしれません。でも、ノエルさんのような強い方ががいてくれたら大丈夫かなと思いまして」
「なるほどね。ちなみに家ってどこにあるの?」
「フォートス王国っていうところにあります。ご存知ですか?」
「あー、一応知ってるかな。確か北の方にある王国だっけ?」
「そうです。小さな王国なんですけど、そこの王都エスティアに行きたいんです」
フォートス王国の王都か。ちょっと遠いかな。
でも、一国の王都なんて行ったことないし興味はあるなあ。どうしよう。
「ノエルさんだけが頼りなんです。ダメ……ですか?」
俺が悩んでいたところに、上目遣いで目をウルウルさせて聞いてくるアリア。こりゃ参った。
「分かった。俺に任せてくれ。無事に送り届けると約束するよ」
「嬉しい! ありがとうございます!」
こんな美少女にそんな目をされたら断れるわけないじゃないか。この子は将来魔性の女になる可能性を秘めていそうだ。
「じゃあすぐにでも出発しよう。日が暮れる前に森を抜けたいし。アリア、一人で歩けそう? 馬車の中に捕まってた時、少しぐったりしてたように見えたけど。無理そうだったら俺がおぶるよ?」
「大丈夫です。確かに体調は万全とは言えないですし、空腹で少しふらふらしますけど、出来る限り迷惑は掛けたくないので」
「そっか、アリアは強いな。とりあえず森を抜ければすぐにエルムの町があって、そこにはイノシシ肉を使った絶品のシチューがあるって話だ。そこを目指そうぜ」
「はいっ、私シチュー大好きです!」
「よーし、じゃあ出発だ」
「はいっ、これからよろしくお願いします。ノエルさん」
こうして俺はアリアをフォートス王国まで送り届けることになったのだった。