第5話 旅立ち
程なくしてドニーが村長や何人かの大人たちを連れて戻ってきた。
「ジャック……! こ、これは酷い……! 早くジャックを治癒しなければ。大至急ハンスの家に運んであげなさい。彼ならこの怪我でも治癒できるはずだ」
ジャックの姿を見た村長がそう指示を出し、周りの大人たちがジャックを運んで行った。
それを見届けた村長は俺の方へ向き直った。見たところかなり険しい表情をしている。
これは相当怒られるな。だが、元々仕掛けてきたのはジャックの奴だし、何とか乗り切れるだろう。
「ノエル、ドニーから聞いたぞ。お前は村一番の魔法使いであるジャックを無理やり呼びつけ、一方的に攻撃してあんな大けがをさせたそうだな」
「なっ!?」
村長の口から出た言葉は事実とは大幅に異なるものだった。俺は慌てて否定する。
「ち、ちょっと待って下さい! 俺はそんなことしてない! ジャックの奴が俺と決闘しようって言ってきたんだ!」
「ふむ、そうなのかドニー?」
「いいえ、ノエルが無理矢理勝負を挑んできて、ジャックさんをあんな風にしたんです。普段からジャックさんはあいつに虐められてて……今日もその被害に……」
「ドニーはこう言ってるぞノエル」
「全然違うんですって!! 虐められてたのは俺の方だ!! だってジャックは……」
「口答えするんじゃない!!」
村長の怒鳴り声が辺りに響いた。口答えせずにどうやって答えればいいんだよ……。
「いいかノエル。ジャックは優秀な魔法使いだ。虐めなどというくだらない行為をするわけなかろう」
なんだその理論は。頭が悪すぎて眩暈がするぜ。
おのれドニーめ。嘘の情報を村長にしゃべりやがったな。
確かにジャックは表向きには真面目で優秀な魔法使いだからな。俺のことも隠れて虐めてたから誰もその事実は知らないし……。そりゃ落ちこぼれの俺なんかより信頼度も高いってわけか、くそ。
「さて、こうなっては仕方がない。村長として私はお前に処分をする義務がある」
処分か……。まあ何となく予想がつくな。
「ノエル、今すぐ村を出ていけ! お前のような落ちこぼれはそもそもこの村にはいらんのじゃ!!」
やっぱりか。そう来ると思ったよ。
「そーだ、そーだ! 出ていきやがれいじめっ子ー!!」
ドニーが囃し立ててくる。あー、こいつにもファイアボールぶち込みてえ。
まあこれ以上騒ぎを大きくするのは面倒だからしないけど。
「分かりました。出ていきます。ご迷惑をおかけしました」
けっ! こんな村、こっちから願い下げだ。
それにもう俺は落ちこぼれ魔法使いじゃない。世界を旅して回るのに十分すぎるくらいの力が覚醒したんだ。村を出られるなら願ったりかなったりさ。言われなくたってとっとと出てってやる。
俺はすぐさま家に帰り、ものの五分で支度を終え、村を飛び出すのだった。