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第1話 落ちこぼれノエル

「今日こそは……、今日こそは成功させてやる……!!」


 俺は突き出した右手に魔力を込める。


「『ファイアボール』!!」


 その大きな声とは対照的に、俺の右手からはプスーと小さな音が出ただけで、ファイアボールが放たれることはなかった。


「だああっ! どうしてできないんだー!!」


 叫び声があたりに虚しく響き渡った。





 俺、ノエル・マクベルトは落ちこぼれの魔法使いだ。

 それも魔法の修行を始めてもう三年以上経つというのに、魔法使いが最初に覚える初級魔法の『ファイアボール』すらまともに使えない、筋金入りのポンコツ魔法使いだ。


 落ちこぼれでもいいじゃないか、頑張って練習を続けることに意味があるんだと励ましてくれた大人たちもいた。

 だが、ろくに魔法が使えないことで周りから見下され、虐められている俺にとってはそんな綺麗事はかえって虚しくなるだけだった。


「はあ……、ステータスオープン」


 俺が溜め息交じりにそう唱えると、目の前に自分のステータスが表示される。

 この世界では自分の能力値が数値化されて見れるのだ。


-----------------------------------

【名前】ノエル・マクベルト

【年齢】15

【種族】人間

【性別】男

【魔力】60

【攻撃力】100

【防御力】80

【魔法攻撃力】60

【魔法防御力】40

【敏捷性】50

-------------------------------------



 俺は自身のステータスを見て更に深く落ち込んだ。

 ずっと修行してきたのになんなんだこのカスみたいなステータスは。

 平均的な魔法使いは、だいたいどのステータスも300くらいはあるってのに……。

 どうして俺はステータスも魔法の実力も底辺クラスなんだ。⁺


「もういい、今日はもう止めにしよう」


 こんな暗い気分じゃ修行なんてやってられない。

 俺が家に帰ろうとした時だった。


「おう落ちこぼれノエル。やっぱここにいたかー。会いたかったぜえ」


 声のした方へ振り向くと、そこには村一番の魔法使いのジャックとその仲間のドニーがいた。

 ああ参った。一番会いたくなかった奴らが現れちゃったよ。


「お、おう、ジャック。それにドニー。何か用? 俺、もう帰るとこなんだけど……」


「帰る? おいおい、釣れないじゃねえかノエル。いつも稽古つけてやってる俺に免じてちょっと話を聞いてくれよお」


 何が稽古つけてるだ。いつも稽古って言って、一方的に俺に魔法を撃ち込んで虐めてるだけじゃないか。それも三年間に渡ってだ。

 そんな奴の話なんて聞くわけがない。


「悪いけど、急ぐから。じゃあな」


 そう言って俺がそそくさと立ち去ろうとすると。


「あん? 今日のお前、なんか生意気だなノエル。おいドニー」


「あいよっ!」


「ぐっ!」


 ジャックに呼ばれたドニーは俺の腹に蹴りを入れてきた。

 その衝撃で俺はその場にうずくまる。


「おいノエル。ジャックさんが話があるって言ってんだ。帰るなんて許されないぜ」


 ちくしょう、ドニーめ。特に強いわけでもないくせに、ジャックといるときだけは態度がでかい腰巾着め。本当にむかつく。


「は……、話ってなんだよ、ジャック」


「よくぞ聞いてくれた。実は俺、明後日に村を出ることになったんだ」


「なっ!?」


「俺の魔法の実力が村長に認められてよお。ついに村を出る許可を貰ったんだ。明後日からは世界を旅して回って、魔法使いとして名を上げてやるぜ。どうだ? 羨ましいかノエル」


 ジャックはいやらしい笑みを浮かべつつそう聞いてきた。

 羨ましいに決まっていた。なんせ俺が毎日魔法の修行をしているのは、村を出て世界を旅して回るという夢を叶えるためなんだからな。

 その夢をよりにもよってジャックに先を越されてしまうなんて……。

 俺は悔しくて何も言い返せなかった。


「無視かよ……、まあいいや。そんでよお、村を出るとなるともうお前とも会えなくなっちまうだろ? 寂しくなるってもんだ。だからよお、最後に俺と決闘でもしねえか? 時間は明日の昼過ぎで場所はここでいい。言っとくけどお前に拒否権はねえぜ」


「は?」


 決闘だって? 冗談じゃない。ジャックのステータスはすべて1000以上は普通にあるんだぞ。そんなことしたら一方的に俺がボコられるだけじゃないか。何でそんなことしないといけないんだ。

 ああ、そうか……。俺のことを虐められるのはもう最後だから、旅に出る前に決闘とか言って思う存分叩きのめして、気持ちよく出発の日を迎えようってことか。本当に性根の腐った奴だなこいつは。


「あん? なんだよその目は」


 どうやら俺は無意識にジャックのことを睨みつけてしまっていたようだ。


「どうやら痛い目に合いたいようだな。『ロックブラスト』!」


「うぐっ!」


 対象に岩のつぶてを飛ばす地属性魔法の『ロックブラスト』。ジャックの一番の得意技だ。

 その攻撃が俺の全身を打ちのめした。痛みとその衝撃で一瞬意識が飛びそうになる。


「この……! よくもやったな! くらえ!! 『ファイアボール』!!」


 俺はやり返そうと、渾身の力を込めてファイアボールの魔法を唱えた。しかし、


「プスー」


 当然うまく発動しなかった。

 それを見てジャックたちは大笑いする。


「ギャハハハハ! なんだよ今の。すかしっぺかあ!? いつになったらファイアボールを使えるようになるんだよ? まあこの分じゃ一生無理だろうな。ギャハハハハ!!」


「こりゃあ明日の決闘、ジャックさんの勝利は確実っすねえ。楽しみ楽しみ」


「じゃあそろそろ帰るわ。明日はよろしくなー。ま、せいぜいあと一日修行頑張ってくれたまえ。ギャーハハハハ!」


 下品な笑い声をまき散らしながら、ジャックはドニーとともに去っていった。


「ちくしょう…………!!」


 俺は悔しさと体の痛みでしばらくその場から動けなかった。

スライドと申します。

お読みいただきありがとうございます。

これから頑張って投稿していきますので、よろしくお願いします。

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