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相剋のアカシア  作者: 巫 偽夜
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プロローグ

化物、そうとしか形容出来ない。

雲一つ無い静謐な月夜に有るまじきその残虐。

全身が錘となって地中へと沈みこんでしまいそうな重力場の中、それは深紅の眼光を一筋置き去りにして翔ける。

淡白な月明かりをステージライトに、死屍累々の舞台の上で奴は軽快に舞い踊る。


身に纏う絶対零度の気流で加速、果敢にも斬り込んだ兵士二人を交錯寸前、一刀の下に切り捨て、余勢そのままに右足で反転、背後に迫ったもう一人を逆袈裟に両断する。

人だったモノがゆっくりと頽れる様とは対照的に撒き散らされた飛沫は、降りて間もない霜を朱塗りにする。


放たれた魔弾の嵐には、その間隙を縫合する様に距離を詰めて牙を剥く。

左脚で間合いに踏み込み、向けられた銃口の下から刃を喉元へ突き上げる。間髪入れず、逆手に持ち替えられていた右の剣が隣の射撃兵を貫く。


放置された亡骸を盾にして、視界に入る者を須らく、残さず刻んでいく。

澆薄に薙がれ、血を洗い冷然と煌いた双の剣閃。研鑽されたその技に、誰一人として手も足も出ない。

せめて戦った同胞達を、その惨たらしい最期を前にして、私は一人逃げ出した。


***


ひとまずは撒いたようだ。遠くに見えていた街の夜灯りが少しずつ近付く。湧き上がる安堵を受けてか、自ずから両足の力が抜けた。

傍らの大樹に凭れ、長い息を吐く。仄かに錆びた味のする吐息が不快に鼻を突く。


先程まで見えていた満月も、聳える陰樹林に覆い隠されてもう見えない。

凍みを強める夜風が頬を刺す。


畏れか、悴みか。震える手で粟立った二の腕を擦る。

慄きは収まる所を知らない。

仲間を殺された憤りはとうに冷め、無気力な諦めとなった。

引き摺った左脚が遺した赤黒い軌跡は何処か、あの化物の眼光を彷彿とさせる。


思い出すだけで怖気が増す。しかし、もうあの絶大な魔力は感じない。

林立する木々が障壁となる以上、お得意の機動性も奴は発揮できないのだろうか。


忘れもしない、あの気配だ。間違える訳がない。

柔らかい腐葉土を踏む靴の音が、大地を引き裂き蹂躙する剛爪の音のように、耳を侵し脳に地響きを生んだ。

気が狂いそうだ。今直ぐに大声で叫びだしてしまいたい。

駄目だ。考えるな。

見逃されたのでもいい、逃げ切ったのでもいい。

きっと私は助かった。


***


小一時間程寝ていたらしい。何の夢を見ていたのだろう、なんていう下らない関心はそこそこに、意識を現実に引き戻す。

多少の痛みは残るが、脛からの出血は止まっている、歩けない程ではない。

まだ私は安全ではない。直ぐにここを離れる決意をして立ち上がった。


ふと違和感を覚える。奴は私を見逃したのだろうか。

私一人を逃がしたと気付かない程に鈍いとは思えない。そして、逃がした手負いの獲物を放置するだろうか。


私なら――


深紅の流星が一筋。疑念が確信へと変わる前に奴は帰って来た。声にならない悲鳴に息が上がり、膝から地に落ちる。

遅れて肺が酸素を求め、激しく咳き込む。

片方の剣が振り上げられたのを感じる。


―終わり。

そう聞こえた気がした。私がそう思っただけかもしれない。

ふ、とほくそ笑む。案外あっけないものなんだな、と。

また涼風が吹いた。


臨死体験のお供である走馬灯は走りもしなかった。

最後に残ったのは疑念が一つ。


何故そこまで殺戮に拘る?悍ましき忌み子――



第1話投稿に際してこちらも投稿します。どんどん精進していこうと思うので、評価感想等頂ければ嬉しいです。

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