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里子と里親

彼女はとても臆病でした。が、時には僕たちを守るかのように、家を訪れた人に対し威嚇をする事もあり、勇敢でした。

賢くもあり、でもどこか間抜けで…

 およそ3ヶ月の入院期間を経て、僕も退院が迫っていた。

 自殺未遂から約3ヶ月。沈んでいた気持ちは浮かび上がり、心も身体も晴れやかだ。


 退院後は実家に戻り、引き続きの療養と通院をする予定であった。期間は傷病手当金が切れるまで。


その間、み空さんと共に回復の為に毎日のようにAAのミーティングに参加した。

 また、ボランティア活動に参加する事もあった。東日本大震災の復興支援のボランティアだ。


 朝から晩までの無償奉仕を二日間。小さな子供達と遊んだり、イベントスタッフとして人員誘導したりと、充実した日々を過ごしていた。


 その一方で、悩みの種だった借金問題の解決も行った。債務整理を行い、月々の負担は軽くなった。


 順調に回復している。そう判断した僕は、み空さんと同棲する事となった。それは、実家に住んでいたのだが出張に出ていた弟が帰ってくる為、居辛くなった事も一つの要因だった。


 そんな中、み空さんの提案で動物を飼わないかと言う話になった。犬か猫かウサギを飼ってみようと色々な里子サイトを眺める。

 あるサイトで、1匹の犬を目にする。

推定2歳程の成犬。どうやら県外の保健所に保護されていて、数日の内に殺処分されるらしい。

 投稿されていた動画では、保健所の職員に吠える姿が映されていた。僕とみ空さんはその犬を見た時に、言葉では表せないほど胸が締め付けられた。

まるで、「助けて!助けて!」と悲願しているように見えたのだ。


 その犬を飼おう。助けようと、管理者に連絡を取り、里親になることになった。


 推定2歳の女の子。近所のスーパーまで送り届けて貰える事になり、初めての対面。

第一印象は、大きい。中型犬とは聞いていたが、大型犬に迫るサイズだった。

流石にマンションで飼えるサイズでは無かったので、事前情報と違う事、現在の住居で飼えない事を伝えるも、返還は不可能だと一蹴されてしまった。

 しばらくは管理会社にナイショにする事として、この子を飼う事にした。名前は『うー』。

うーは尻尾を丸く下げ、周囲を伺うようにキョロキョロとしていた。

 一先ず部屋へと向かい入れ、うーに必要な小物や餌を揃え、2人と一匹の生活は始まった。


部屋の片隅にラグを敷き、うーの居場所としたが、うーは一歩も動かない。

 お腹が空いているのかと餌を与えるもの、一口しか食べない。気分転換に散歩に連れて行くも、怯える様に歩き、数分歩いた所で座り込んでしまった。

 どうしようかと悩み、抱えて帰るかと抱っこしてみると、肉球から出血してしまっている。

 うーとの生活は、前途多難であった。


幼い頃のうーの生活は伺い知る事は出来ないが、余程酷い扱いを受けて来たのか、異常に怯えている。僕達との慣れない生活のストレスからか、足の毛が禿げ上がるほど舐め続ける事もあった。

 エリザベスカーラーを自作して付けたり、毎日の朝晩の散歩に連れて行ったり、毎日触れ合ったりして行く内に、うーも心を開いたのか、次第に言う事を聞いてくれるようになった。


 今思えば、僕はうーに対し、自分の子供達を重ねていたのかも知れない。うーを育てる事で、子供達への贖罪としようとしていたのかも知れない。


 うーを飼って数ヶ月後、体調の良くなった僕は、ついに社会復帰を決意する。

働き慣れた職場、慣れた仕事。少し不安はあったが、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせ、職場へと戻った。

 しばらくは順調な生活だった。早起きしてうーの散歩に行き、朝食を食べて出勤。

帰宅後にうーの散歩に行き、風呂に入ってAAのミーティングに行く。

 充実した毎日であったが、一つ気掛かりな事態へと陥ってしまった。

 み空さんが引き篭もりはじめてしまったのだ。

具合が悪いのかと心配したのも束の間、とうとうAAのミーティングにも行かなくなってしまった。


 忙しくなって行く仕事に、うーの世話、僕はあの日へと逆戻りしてしまったような錯覚に戸惑いつつも、平然と振る舞い過ごしていた。

 しかし、うーとのお別れが訪れてしまった。中型犬のうーは、このマンションでは飼えないのだ。幾度となく管理会社に掛け合ったが、却下されてしまった。


 無責任であった…軽率であったと悔やんだが、悔やんでも仕方ない。うーを再び里子に出す事となった。

 幸いにも、同県で良い里親が見つかり、うーは幸せに暮らしている。が、み空さんは引き篭もって昼夜逆転したまま、更に数週間が経って行った。


誤字脱字や表現の指摘が御座いましたらコメントお願い致します。

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