お父さん
話を少し戻そう。
み空さんと出会ってから、1ヶ月が経った頃だろうか。僕とみ空さん、ヒロちゃんは仲良く楽しく過ごしていた。
精神病院で楽しくと言うのも変な話をではあるが、閉鎖病棟による外界からのしがらみから解放された僕は、人生を楽しむ道を進んでいた。
ビッグブックの読み合わせや、病棟プログラムでのスポーツや塗り絵にカラオケ、休養度外出を利用した散歩など。
また、この頃に一つの変化が訪れる。
同室に入院されているYさん。歳は自分の父親くらいだろうか、優しい笑顔が印象的な人と仲良く話したり、一緒に喫煙したりしていた。
み空さんとYさんと3人で話し込む事も多かったのだが、この時少し戸惑う事態が起こってしまった。
新しく入院して来た人が居るのだが、その人もYさんと同じ苗字だったのだ。更に、女性にも同じYさんが居る。
デイルームで名前を呼べば、3人が振り返る。非常に煩わしい。
僕とみ空さんは、この状況を打破しようと、名前で呼んでみたり渾名を付けてみたりとしてみたが、どうにもしっくり来ない。
そこで、女性は苗字で、新しく入った方は渾名で、笑顔のYさんを『お父さん』と呼ぶ事にした。
父親を亡くしていたみ空さんと、父親が恋しかった僕は、お父さんと呼べる事に喜んだ。
急性期病棟では3ヶ月の入院で満期となり、退院させられるのだが、僕とお父さんは入院日が近かった事もあり、より一層仲が良くなって行った。
今思えば、父親の愛に飢えていたのだろう。
赤の他人をお父さんと呼び、慕っていたのだから…
入院から2ヶ月ほどたったある日、僕とみ空さんは2人で外出届を出し、病院の近所のカラオケボックスへと来ていた。
2人でカラオケを楽しんだ帰り、み空さんから不意に告白をされた。
自分も鈍感では無い。流石に良い雰囲気になっていた事は自覚していたが、なんと言っても精神病院の入院患者だ。 更に、僕はバツ2になったばかりである。
み空さんの告白は素直に嬉しかったが、その場では返事をする事は出来なかった。
が、結局は付き合う事となり、2人での回復を目指していった。
それからは一層、回復の為に努力した。
AAのミーティングに通ったり、ビッグブックの読み合わせをしたり、息抜きに遊んだり仲のいい仲間たちと外食したり。
この頃、僕は日記を付ける事を日課にしていた。日々の気付きや自身のトラウマ、悩み等を書き出す為だ。
これが功を奏したのか、自分の悩みを打ち明け、共に話し合い、解決策を練っていく事で僕の気持ちは晴れていったのだ。
と、この時は思っていた…
誤字脱字や表現の指摘が御座いましたらコメントお願い致します。