第6話決断
「私がアイリスよ。」
リリーの口からそんな事がいきなり言った。
「どういう事だアレス?」
「いや、私にもわからない。固有スキルは知っていたが、まさかこんな事だなんてな。」
「ごめんなさい。けどこの子には何も問題ないから安心して。」
「にわかには信じられないな。」
「そこは、後でこの子から話を聞いて。今は時間がないからね。」
「納得ができないが、娘の意識が戻るなら今は置いておくか。」
「アレス、お前それでいいのか?」
「騒いだって仕方ないだろ?それに時間がないらしいからね。」
アレスさんは冷静にいってきた。
俺自身は精神世界で会話していたから、信頼できるとは思うんだけど。
「さて、もうあんまりないから今やったことの説明をしちゃうわ。」
アイリスはそういって何をしたのかの説明を始めた。
邪神の封印が解かれていっているのは、わかっていたから色々と対策を取りたかったらしいが、地上に神として降りることはできなかったために、代わりに自分の依り代になれる固有スキルを作りそれを手にしたのがリリーだったらしい。
今までもリリーとは何度か接触をしてきていて、封印の話をしてそれを防ぐためにその場所まで行って欲しいと頼んだとの事。
これでリリーがこの旅についてきたがった理由がわかった。
そしてこの封印の部屋に入るためには条件を満たしたものが開けられる扉があり、それ以外の人は開けられないようになっている。
開けて中に入ると封印の祠があり、その中にある宝玉を砕くと封印が解除されてしまう仕組みになっていた。
今回は、封印が解かれて邪神が力をつけてしまうぐらいなら、その封印ごと元から消してしまったらしい。
「それって大丈夫なのか?」
「ええ、貴方達には何も害はないわ。」
「俺達には?」
「彼にはかなりこたえるでしょうね。」
「邪神がですか?」
「ええ、彼はこれで絶対に元に戻れなくなってしまったからね。これは、貴方達が気にすることではないわ。」
「それならいいんだが。」
「それと、レインだけに話があるの。ちょっといいかしら?」
「レイン君にだけかい?私達には聞かせられないのかい?」
「貴方達に話すには少し時間が必要だし、今話がこの子に伝わるのはまずいわ。」
「何故とたずねても答えてくれないんですね。」
「この件は、私ではなくレインから話すべきだからね。」
「わかりました。」
アイリスの話に納得したのか、ルードさんとアレスさんが引いてくれた。
俺とアイリスはみんなと離れ、アイリスが何かを呟いてから俺の方を向いた。
「レイン、今までお疲れ様。」
「なんですか急に?」
「私は全て見ていたから識っているのよ。だいぶ進んでるんでしょ?」
「やっぱりあれの事ですか。ジェイドに言われてわかりましたよ。」
「ごめんなさい。こうなる事はわかっていたのに、こうする道しかなかったのよ。」
「謝らないでください。この力がなければとっくに死んでましたから。」
「・・・・・・嘘だとしてもそう言ってくれると少しは気が楽になるわ。」
「それで話って?」
「貴方はよくやってくれたわ。けどこのままでは邪神との戦いの前に、貴方はきっと壊れきってしまうわ。これは私のせいよ、こんなにも反動が強くなるとは思っていなかった。」
「それで?」
「邪神の封印を破壊したから、貴方はここで私のお願いを忘れてこの子と、平和に暮らす選択ができるわ。」
アイリスは何を言っているんだ?
ここで全てを投げ出して暮らせと?
「何をいっているんですか?」
「ここで力を使うのをやめないと、貴方は全てを失うわよ!」
「全てを失う?」
「そうよ!今はまだ五感が鈍くなったのと、記憶を少し失っているだけですんでるけど、次はどうなるのか私でもわからないの!」
それは、ひょっとしたら次に双剣のどちらかの力を使えば、俺は五感か記憶、もしくはそのどちらも失うって事なのか?
「ごめんなさい、私が甘かったのよ。
邪神になってしまった彼を助けたいからとやったことが、こんな事になるなんて思わなかったのよ。だからこれを聞いて貴方がお願いを断っても構わないわ。」
今力を使わないようにすれば、これ以上症状が悪化する事はないか。
けど俺の代わりができるだけだろうし、リリーはここで逃げた俺を責めないだろうが、きっと悲しい顔をするだろうな。
何より、俺の父さんなら絶対に進むだろうな。
昔父さんが言ってたっけ?
「行動を起こさない者には、どんな結果もやってこない。絶対に傍観者にはなるな。」
俺は両親に恥ずかしくない生き方をしたい。
「俺はこのまま、邪神と戦うよ。」
「ひょっとしたら、邪神にたどり着く前に死んでしまうかもしれないわよ?」
「ああ。」
「たどり着いても、戦う前にダメかもしれないわよ?」
「ああ。」
「倒したとしても、貴方も助からないかもしれないわよ?」
「わかってる。」
「ごめんなさい。貴方にこんな人生を歩ませてしまって。」
「いや、これのおかげで、出会えなかったかもしれないあいつらに会えたから感謝をしてるよ。だから謝らないで。」
「・・・・・・そうね、私もできる限りサポートするわ。それと安心して、私が体を借りている間この子に記憶はないわ。」
「ありがとう。」
「レイン、気をつけてね。」
その言葉を最後に、アイリスが宿ったリリーの体がその場に倒れそうになり、急いで抱きとめた。