第1話記憶
「・・ン、・イン、レイン!」
どこからか呼ぶ声によって俺は意識を取り戻した。
目を開けるとそこは、いつだったかアイリスに初めて会った場所だった。
「ここは、確か。」
「精神世界よ。ようやく意識を取り戻したのね。」
「アイリス、どういう事?」
「あなたはどうしてここに来たかわかるかしら?」
「えーと、確か・・・・・・そうだ!邪神の封印の場所で敵と戦って、剣の力をだいぶ使ってしまったはず。」
「その後は?」
「うーん、あっ!ルードさんが!」
「そうね、それもあってあなたの心を本能が守ろうとして、ここに来たのよ。」
そうだったんだな。
確かに俺はまた目の前で大切な人を失ってしまったんだな。
なんでだろう?
ここに来る前はあんなに悲しかったのに、今はそこまでじゃないな。
「どうしたの?」
「それが、なんだか改めて考えると、なにがそんなに悲しかったのか、わからなくなってきたなとおもってね。」
「!!レイン、あなたどっちの剣の力を使ったの?」
「たしか両方だったはず。」
「両方同じ回数?」
「いや、ダークネスの方が多かったはず。」
「!!まずいわね。」
なにやら、アイリスが慌て始めた。
一体なにがそんなにまずいのだろうか?
「レイン、あなた村の襲撃の事どこまで話せる?」
「そんなの全部言えるよ!」
アイリスは何でそんな事を聞いて来るのだろうか?
村の襲撃の事なんて1日も忘れた事なんてない。
「じゃあ、私に話してみて?」
「わかったよ。」
俺はアイリスに話しはじめた。
村の襲撃はちょうどリリー達やルードさんがいない時に起きたんだよな。
襲撃はたしか昼過ぎくらいで、俺は自分の部屋にいる時だった。
俺達は、その襲撃から逃げるために、村の裏側の入り口に向かった。
途中で父さんは、1人で敵に向かっていき、俺と母さんで逃げていった。
結局は敵の1人に追いつかれ、戦う事になった。
その結果、母さんは殺害された。
その後に敵の仲間達が集まってきて、父さんの事をしり、俺は暴走してその結果力を使ってしまい、ここに初めてきたんだ。
そう説明し終えると、アイリスは真面目な顔で、
「やはり、かなり進んでしまったわね。」
なにが進んだのだろうか?
「自覚がないのね?レイン、さっきの話間違っているわよ。」
「えっ!そんなわけないだろ。」
「本当よ。襲撃があったのは夜よ。」
おかしいな。
俺の記憶では、昼過ぎだったはずだぞ。
「レイン、あなたの村の名前はいえる?」
「当たり前だろ!確か・・・・・・えっ!」
俺は愕然とした。
自分の住んでいた村の名前が出てこない。
何故だ?
住んでいた記憶はちゃんとある。
ルードさんがきた時に村の入り口に迎えにいった記憶もある。
その時に村の名前を見ているはずなのに何故か思い出せない。
「・・・・・・出てこない。」
「やはりね。力の使いすぎの反動がここまできてしまったのね。」
「どういう事?」
「あなたの双剣はそれぞれ代償が必要だって話したわよね?」
「ああ、それは覚えている。」
「肉体的なダメージは、理解できているでしょ。問題が精神的なダメージなのよ。」
「精神的なダメージって、味覚が鈍くなったりじゃないのか?」
「それは、肉体的なダメージよ。精神的なダメージは、あなたの記憶よ。」
「俺の記憶?」
「そう、今の様に過去の事からゆっくりと消えていくわ。」
「!!それって!」
「・・・・・・最後は全てを忘れてしまうわ。」
それって俺自身が誰なのか、わからなくなってしまうって事か!
力の反動がそんなに強いなんて、覚悟はしていたが辛いな。
「レイン、今ならまだ間に合うわよ?」
「何のことだ?」
「ここで、辞めてもいいのよ。そうすれば今以上忘れる事はないわ。」
確かに今力を使う事をやめれば、これより悪くなる事はないのだろうな。
けどそれじゃ、今までやってきたことが全て無駄になってしまうのだろう。
俺を助けるために犠牲になった両親、村人達。
そして、邪神の封印を守るために死んだルードさん。
それが、ただの無駄死にになってしまう。
そんな事にしてはいけない。
確かに俺は最後はどうなるかわからないが、俺を救ってくれた人達に恥じない生き方をしたい。
「いや、俺は進むよ。後封印は一つだからね。」
「封印を一つ阻止した以上危険はないわよ?」
「それは、嘘だな。一つダメになって終わるなら、こんな事聞かないだろ?」
「・・・・・・変なところで鋭いのね。そうよ、彼はもう肉体があるから、封印がダメになっただけじゃ意味がないの。」
「やはりか。」
「次の封印での戦いの後には、彼と戦う事になるわよ。」
「それしかないんだろ?」
「そうね、彼は最初からあなたに執着していたからね。」
「まったく、いい迷惑だな。」
「レイン、いいの?」
「覚悟はできているよ。」
「そう、次があなたにとっては、一番の試練になってしまうと思うわ。気をしっかり持ってね。」
「忠告ありがとう。」
「そろそろ、現実に戻る時ね。」
「ああ、どれくらい時間が経ってるかわからないけど、たぶんすごい寝坊になってるからね。」
「気をつけて。」
「それじゃ。」
俺の体は光に包まれていった。