ゲーム ~超最新ゲームの世界~
① 凄いゲーム
「うわー! 走れる! 風だ! 匂いもわかるぞ!」
岡村はゲームに夢中になっていた。
パソコン、ネットが得意な岡村は一人、部屋の中で叫んでいた。
まだ女性を一度も部屋に入れた事がない彼の部屋は
「オタク」感が充満している。
残業ばかりで家に帰るのが遅い為、部屋もけっしてキレイとは言えない。
世界的にヒットしている、あの通信体験型ゲームが先程家に届いたのだ。
「まるで現実の世界じゃないか!」
特殊なゴーグルを付け全身に専用スーツを着る事により見るもの聞くもの感覚までもが、現実に生きているのと変わらない様に感じる。
「すごい! すごい! テレビで言ってたのは本当だったんだ!」
全世界の中で圧倒的に技術が進んでいる会社
「sugoikaisya」が開発した「sugoige-mu」。
このsugoige-muの開発によって今までの常識が一変した。
いろんな分野での開発が進み、世界の技術が急激に進化していった。
この冒険ゲームsugoige-muの中に入ると、あまりにも違和感無く歩き回る事が出来た。
現実の暮らしと同じに生活できる、とんでもないゲームだ。
「あはは。これは現実に戻れなくなるぞ!」
すぐに汗をかく癖がある岡村の脇の下は汗でびしょびしょになっていた。
当然、中毒になる人が増え、すでに社会復帰出来ない人がいるとニュースにもなっていた。
しかし、ずっとsugoige-muの世界の中に居たいがそうはいかない。
お風呂、トイレ、ご飯、そして睡眠等をとらない事には、人は生きていけない。
だが、そこにも開発が進みに進み、現実に戻りたくない人々を狙い、いろんなsugoiシリーズが生まれていった。
現実世界に戻らなくても、sugoige-mu中に自動でご飯を勝手に口に入れるロボット等を発売される様になっていったのだ。
お風呂もトイレも自動で出来る機械が発明され、睡眠はsugoige-muの中で眠る事が出来るようになった。
又、課金システムの逆でsugoige-mu内でモンスターをやっつけたり、活躍するとお金(仮想通貨)が貰え、そのお金(仮想通貨)が現実世界でも使える様にもなっていった。
つまり、二つ目の別の人生を生きることが出来るようになってしまったのだ。
② 有名人
「あー! sugoi銀行が閉まってるー」
あれからsugoige-muを続けてきた岡村は、加藤という可愛い女の子とsugoi銀行に来ていた。
sugoi居酒屋で知り合った加藤は明るく話しやすいのもあり、よく一緒に行動を共にしていた。
「だから開いてないって言ったじゃん」
「うるさい! もしかしたら開いてるかもしれないじゃんか!」
加藤は諦めが悪く思い付いたらすぐ行動に起こす子だ。
「ねー。それより岡村って現実世界に全然戻ってないんでしょ。どれぐらい戻ってないの?」
話もすぐに、あっちこっちへとポンポン飛ぶ。
「5年くらいかな~」
「え? 大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。sugoiトイレロボットもsugoi食事ロボットも買ったしsugoiお風呂ロボットも設置してきたから」
ゲームが得意な岡村はsugoige-mu内でお金を稼ぎ、sugoige-mu内に居続けていた。
「僕は、もう戻りたくないんだ! 現実世界ではモテないし、要領も悪いし、こっちなら何でも出来る!」
「ふ~ん。確かにゲームうまいもんね。強いし、こっちじゃ有名人だし」
岡村は昔やっていたバイトの店長によく怒られていた事を思い出していた。
ほんと現実世界では何もできない冴えない男だった。
こうやって女の子と話が出来るようになるなんて考えられなかった。
冒険ゲームのsugoige-muは岡村にとって初めて生きる意味を与えてくれた世界で、ここに居る事が彼の全てでもあった。
現実世界に戻るなんて事は一切考えていなかった。
「ね~。あっちの街にも行って見ようよ!」
加藤は、もう新しい何かに興味があるらしく岡村の腕を引っ張って向こうに行こうとしていた。
「そうそう私。一度でいいから、お月様に行ってみたいんだよね~」
ヘアメイクの仕事をしている彼女から何度も聞く、どうしても叶えたい夢の話だ。
とにかく元気で突拍子もない事言ったり、めちゃくちゃな子だ。
しかし、そんな性格の彼女には何でも話せるようになっていたし、振り回される自分も心地よく気が許せている。
少し彼女のことを好きになってる?気になってる?
そんな事を感じていた。
③ 新しいゲーム
「ね~ね~知ってる?」
月日が経ち、いつも一緒に行動するようになっていた加藤が、嬉しそうに話しかけてきた。
「新しいゲームが発売されたんだって!」
好奇心旺盛な彼女は新しいゲームの話に夢中だ。
sugoige-muで有名になっていた岡村は、新しいゲームが発売されてからドキドキしていた。
その新しいゲームは冒険ゲームではなく若い子に人気があるパズル的なゲーム。
女の子にも人気で、楽しいしオシャレなゲームだと噂になっている。
そして若者向けの為、操作が難しいらしく、冒険ゲームが好きな岡村には手が伸びなかった。
また30才を越えた彼には上手く出来るか自信がなかった。
何よりもミーハーな加藤が新しいゲームに乗り移ってしまうのが
怖かったのだ。
「岡村も新しい奴やってみればいいのに」
人の気も知らずに加藤は話を続けてきた。
「一緒に新しい方もやろうよ。」
その後、加藤に会う回数がどんどん減っていき、会話もその新しいゲームの話ばかりになっていった。
それどころかsugoige-muは古いゲーム扱いになってきて参加している人がどんどん減って来ている。
「どうしよう....このままsugoige-muがなくなってしまったら.....」
また現実世界に戻り、昔の冴えない自分になってしまうのだろうか。
せっかく自信がつき女の子とも話が出来るようになり、なりたい自分になれたのに。
そして加藤にも、いつか会えなくなってしまうんじゃないだろうか?
④ 決意
あれからしばらく加藤に会っていない。
sugoige-muの人気は落ち、参加している人も、ほとんどいなくなってしまった。
岡村自身もあんなに好きだったsugoige-muの悪いところが目につき、文句ばかり言うようになっていった。
「sugoikaisyaは何やってんだ....」
岡村は、愚痴を呟きながら、おいてけぼりを喰らった少年の様に空を眺めていた。
一緒に居る仲間もどんどん減ってきている。
今まで気にもしていなかった現実世界の自分の身体も心配になってきた。
もう7年もsugoige-muの中に居続けていることに気がついた。
「僕も戻ろうかな......」
結局かっこいい自分にはなれなかったのだろうか?
自信に溢れていた日々は幻だったんだろうか?
何をやっても怒られていた自分を思い出していた。
「もう終わりだ....」
「岡村~ 仕事が遅いぞ! 何やってんだ!」
ふと昔バイトしていた時の店長の言葉がフラッシュバックした。
「岡村! 諦めるのが早いんだよ! お前は!」
よく怒られたが、いつも気にかけてくれるいい人だった。
岡村はため息をつきながら思いに耽っていた。
「店長... 熱い人だったな~」
よく仕事終わりにお酒に誘ってくれて朝まで飲んだこともあった。
あんな僕のために.....
「こんな時、あの人だったら何て言うんだろ....」
ダメな僕になんて言って来るんだろう。
「加藤に会いたいな~」
あんな風に明るい自分になれないかな~と。
「加藤に会いたーーい!」
岡村は無意識に大きな声を出していた。
叫んでいた自分にもビックリした。
そして気がついていた。
僕は加藤が好きだ。
そして、加藤に会うにはsugoige-muに彼女が入って来ない限り会えないという事に。
「そうだ! 僕は加藤の連絡先も、何もかも知らないじゃないか! 僕は何も変わってないじゃないか!」
「もう一度加藤に会うまで諦めないぞ!」
⑤ めちゃくちゃ
「ここはゲームの世界じゃないか!」
現実世界じゃないんだから何だって出来るじゃないか!
こうなったら彼女がsugoige-muに戻って来るまで、いろんな事をやってやる!
加藤は好奇心旺盛な子だから何か面白いことや、目立つ事をすれば又sugoige-muの人気も戻り、会いに来てくれるはずだ!
「僕の出来ることメチャクチャやってやる! 何でも挑戦してやる!」
ものすごい努力の努力を重ね頑張った。
とにかく頑張りに頑張った。
自分を追い込んで追い込んで追い込んだ。
岡村はsugoige-muの中の世界で会社を創り社長になってみた。
多くの社員を雇い会社も大きくしていった。
冒険ゲームの内容にまったく関係ない新しい事をやってみた。
しかし少しだけ話題になったがすぐに忘れ去られてしまった。
「うーむ。まだまだー!」
次はsugoi銀行を襲い銀行強盗をやってみた。
これはだいぶニュースになり世間を騒がしたのだが、長くは続かず忘れ去られてしまった。
「くそー! まだまだ諦めないぞ! 加藤に会えるまでは!」
いろいろやるが、加藤は新しいゲームに夢中なのか全然sugoige-muに入って来ない。
「くそー! なぜなんだ!」
岡村はミュージシャンになってみた。
かなり話題になりテレビでも取り上げられ人気が出たので役者にも挑戦してみた。
そのままモデルをやったりニュースキャスターで報道番組を担当したりもした。
又、研究者になり、いろんな薬を開発しノーベル賞を受賞したり、今までなかった分野のエネルギーを発見して社会に貢献したりした。
その後も地下都市に行き地底人と仲良しになったり、地底人の王様になった事もあった。
「なにくそー!」
そして宇宙開発基地「oka」を立ち上げ、宇宙飛行士になり月にも行ってきて、月に居るモンスターをいっぱいやっつけたりした。
とにかく岡村は走りに走った。
凄い話題になり現実世界でもニュースになったが、なぜか加藤は入って来ずsugoige-muの参加者も増えなかった。
それどころか続々出てくる新しいゲームに押され、ついにsugoikaisyaがsugoige-muの配信終了を発表してしまった。
「もうダメだ.......」
いっぱいチャレンジした岡村は力尽き、くたびれてしまった。
「もう会えないのか.....」
岡村は肩を落としsugoige-muの配信終了の日を
ただただ待つ事しかできなかった。
⑥ 現実の世界
「お~い! 岡村~!」
岡村が地面を見つめ、うなだれていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「え?」
振り返ると、そこに加藤が立っていた。
久しぶりに会う彼女は相変わらずで、やっぱり笑顔も可愛いい。
「加藤...どうして?」
「へへへ、岡村に頼めばお月様に行けるんでしょ! 連れてってよ!」
「うぉ....」
「だって早くしないとsugoige-muって終わっちゃうんでしょ~」
「そうだけど....」
「じゃあ早く行こう!」
岡村は加藤を抱き締めていた。
「会いたかった!」
二人は月面に立って青い地球をゆっくり眺めていた。
「くくく....」
あっさり夢を叶え、さっきまで月面ではしゃいでいた彼女を思いだし、岡村は笑いが止まらなくなっていた。
いったい何なんだろうか? このあまりにも酷い不公平感は。
「ね~ 岡村~ 何で笑ってるの~?」
「あははは。何でもないよ」
岡村は地球をまっすぐ眺めながら、自分の夢も叶った事を知った。
自然に言葉がこぼれた。
「そういうことか....」
諦めず頑張れば何だって叶える事ができる。
かっこいい男にもなれるし、変わる事だって出来る。
そう。どこの世界に居ようと関係ない。
sugoige-muから出たって、新しいゲームに行ったって、現実世界に戻ったって。
「そんなことは関係ないんだ!」
自分次第なんだ.....
そして現実世界で彼女と会う事を約束し、岡村はついにsugoige-muから出る事を決めた。
8年ぶりに現実世界に戻ってきた岡村は驚愕した。
まったく身体が動かない。
あまりにも時間が経った為に筋肉が無くなってしまったのだ。
「ピクリッ」とも身体が動かせなくなっていた。
sugoiトイレロボットやsugoi食事ロボット等のおかげで身体は何とか生き延びていたが.....
「しまった...どうしよう.....」
岡村は慌ててsugoige-muの世界に戻ろうとしたが指さえも動かない.....
「ああああ....」
ピンポーン!
「岡村~! sugoiリハビリロボット買ってきたよ~」
そんな事になった人々の為に5年前に発売されていたsugoiリハビリロボットを持った加藤が満面の笑顔で部屋に入って来た。
おしまい
初めて小説書いてみた。
楽しかった~。
又、書きます!