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続けて2話投稿します。
「いらっしゃい」
「よくきてくれたね」
客間へ入ってきた男女二人にそう話しかけられ、私はダリアにつられるように席を立ち挨拶をする。
「マレシュ侯爵様、お邪魔してますわ。今日は友人のミレアさんもご一緒させていただきましたの」
(やっぱりアレン様のお父様、じゃあ隣にいるのはお母様ね)
実際に会うのは初めてだ。
「マレシュ侯爵様、私、コーラル侯爵家長女ミレアでございます。突然のお伺いご迷惑ではなかったでしょうか」
「二人とも来てくれて嬉しいよ。楽にしてくれ。お茶のお代わりはいかがかな?」
私とダリアにマレシュ侯爵夫妻、そして少し遅れて入ってきたハイン様の五人でその場の会話は和やかに進んだ。内容はほぼダリアとハイン様の今後の話だったが。
いつからか話の矛先が変わる。
「ミレアさんはアレンとはどこで知り合ったの?ダリアさんの婚約者だったのは知っているのよね?初めて話したのはいつかしら?」
(私達の関係は土下座から始まりましたとでも言えと?いや、これは墓場までもっていこう)
「ダリアを通じて少し話す機会がありまして」
「いやぁ、あのアレンが男らしく責任をとると言ったから安心しているんだよ。ミレアさんのこと本気で想っているって事だろうな。これもミレアさんのおかげだ。ケガは大丈夫かい?心配していたんだ。アレンをつれて正式に謝罪に行くと言ったのにジェリックが来るなと言うし、本当にすまなかった」
謝罪とともに頭を下げられて驚いてしまう。ジェリックは私のお父様。
(なにしてるのよお父様は!謝罪に来てくれたら「はい、許します」で済んだのに!)
マレシュ侯爵の話は突っ込みどころ満載だったが、とりあえず今の状況をなんとかしなければ。
「あ、あの、本当に大丈夫ですので頭を上げて下さい」
「ミレアさん、本当にごめんなさいね」
「夫人まで、、本当に大丈夫なんです。お願いですから頭を上げてくださいぃぃ」
やっと頭を上げてくれた侯爵は耳を疑うような事を言った。
「それでいつ正式に申し込みすればいいんだろうか」
「は?」
「ちょっとミレア!」
ダリアに脇腹を突かれてハッとする。これはやっぱり婚約の話ですよね。
「あっ、すみません。正式とはアレン様との婚約の話でしょうか」
「そうだよ。あんなに乗り気だったジェリックが少し待ってくれというので待っていたんだが一向に連絡がなくてね。それでどうだろうか、何か問題でもあるんだろうか」
いや、問題ありまくりだ。まず私とアレン様は相思相愛ではない。これからそうなっていけばという思いも今は、というより今までもこれからも、、、多分ない。
「あの、私は婚約するつ」
『トントン』
扉を叩く音で話を遮られてしまった。
「ん?誰だ」と侯爵様。
「カインです」
「入りなさい」
そこに現れたのはミレアの理想の王子様だった。
「ミレアさんは初めてだね、紹介するよ。末の息子のカインだ。カイン、こちらはコーラル侯爵家のミレアさんだ」
「「初めまして」」
声が重なりお互い照れてしまう。
そんな二人を見て「まぁ」と言ったのは誰だったか。
父親からどうしたんだと言われたカインは、みんなの賑やかな声につられて来てしまいましたと、さっきまで白かった頬を赤く染めながら言う。
「カインはミレアさんと同い年だな。この子は少し身体が弱くてね。少し前まで風邪で寝込んでいたんだよ」
「そんな事はありません。あれはただの風邪です。剣の稽古もきちんとやっているではありませんか」
「風邪だってバカに出来ないんだぞ。ハインもアレンも、、、」
マレシュ侯爵は末の息子のカインをよほど可愛がっているらしい。そんな親子の会話を微笑ましく思っているとカインから話しかけられる。
「コーラル侯爵令嬢はダリアと仲がいいんですね」
「はい。仲良くさせてもらっています。あの、宜しければミレアと呼んでください」
「じゃぁ僕のこともカインと呼んでください」
「はい、カイン様」
間に割って入った声に今までの暖かい雰囲気が壊れる。
「かわいい娘が二人も出来るなんて嬉しいじゃないか。これで我が家も安泰だな」
「娘ですか?」とカイン。
「ダリアさんはハインの婚約者だろ。それにミレアさんはアレンの婚約者だぞ。ミレアさん、万が一などないように私が厳しく見張る。ただ健やかに過ごしてくれればいいんだ」
「あのまだ私婚約す」
「あら、もうこんな時間。あなた今日の夜会の準備をしないと」
そうだったなと、この場はお開きとなってしまった。
「またぜひいらしてね。今度はアレンも一緒にね」という夫人の言葉とともに馬車に乗せられ帰ることになる。
馬車の中で「私に任せなさい」とダリアがニヤニヤしながら言ってきたが一体何の事なのか聞いても教えてくれなかった。
そしてこの時アレンは貴族街でミレアとの婚約話の行方を決定的にする出来事を起こすが誰も知るよしもなかった。