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公爵家へ着き、客間へと通されるとダリアが迎えてくれた。
「久しぶりね。これお土産よ」
「ミレア、これってあそこのお菓子じゃないの!楽しみだわ。早速頂きましょう」
ダリアはメイドにそれをお茶の席に出すようにと渡す。お茶を出しおわったメイドが下がり、二人きりになったところで私から切り出した。
「またやっていたけれど」
「あら、またなの?アレンも見境がないわね」
「一応婚約者なのよね?見て見ぬふりでいいなんてダリアは本当にそれでいいの?」
ダリアはアレンの浮気癖をとっくに知っていて、もし女の子と二人でいたのを見た場合、その場は見て見ぬふりで自分に報告してほしいと頼んでいた。頼まれていたのはきっと私だけじゃないはず。
「いいのよ。あれは一生治らない病気みたいなものだから。それにそろそろ集まったし、もういいかなとは思っていたのよ。ミレアのおかげでもあるわね。感謝してるわ」
「集まったとかおかげって何のこと?」
ダリアの言っている事が理解できずに聞き返すと思いもよらない返事が返ってきた。
「婚約破棄よ」
「婚約、、破棄!?アレン様と!?」
「アレン以外にいないじゃないの。みんなが集めてくれたアレン情報のおかげよ!」
正直驚いた。少なくともダリアは米粒くらいはアレン様を好きだと思っていたから、こんな晴々した顔で婚約破棄なんて言葉を出すとは思わなかった。私はひどくマヌケな顔をしているに違いない。
「両親の勘違いで小さい頃から婚約者にされていい迷惑だったのよね」
「勘違い??」
「あら?言ってなかったかしら。小さい頃、私ってアレンの家へ遊びに行った帰りに必ず泣いていたのよ。それが、、、」
ダリアとアレン様の父親同士が友人ということもあり、二人は幼なじみとして育った。よく互いの家に遊びに行っていたらしい。ダリアはアレン様の家から帰るころになると毎回「帰りたくない」と泣き出していたそうでダリアにつられてアレン様も一緒に泣いていた(単純につられ泣き)。両親達はそんな二人をほほえましく思い、また、なだめるために「大人になったら結婚すればいい。そうしたらずっと一緒にいられるよ」とあやしたそうだ。それがこの婚約の始まり、そして間違いの始まりでもあった。
「アレンと別れるのが辛かったわけじゃないのに勘違いされちゃったのよ。それでそのまま婚約者に」
「ってことは?」
「私、ハイン様が好きだったんだもの」
ハイン様とはアレン様のお兄様。ダリアがアレン様の家へ遊びに行くとハイン様が二人の面倒を見てくれたそうで、その時からダリアの想い人はハイン様。泣いたのはハイン様と別れたくなかったから。アレン様って一体、、、。
「幼い頃は婚約者という立場に満足していたのよ。アレンに会いに行けば必ずハイン様に会えるもの。でもしばらくしてそれは違うって両親を恨んだわ。気付いた時には遅かったんだけどね。それにしてもアレンが浮気者で良かったわ。それに聞いて!お母様に赤ちゃんが出来たのよ!って事は私はお嫁に行けるってことでしょ!今まで我慢していて良かったわ。家の為にって諦めてた部分もあったんだけれど、神様っているんだわ」
ダリアはすっかりハイン様の元へ嫁にいくつもりでいる。アレン様の件と公爵家の圧力で簡単じゃないだろうか。ふと疑問に思って聞いてみた。
「本当に婚約破棄出来るの?」
「もちろんよ。家の両親は恋愛結婚、浮気は絶対許さない二人なの。でもアレンはその辺りうまくやってたのよね。だからみんなにお願いしたの。いずれ結婚する女性の為にもアレンには少し痛い目みてもらいましょう」
自業自得ねと笑うダリアは少し、、いやかなり怖かった。婚約者である自分をほったらかして他の女性と遊んでいた事がダリアのプライドを傷つけていたらしい。家の為にも結婚するしかないと腹をくくっていたのだから当たり前。
アレン様は世渡り上手で親世代にとても気に入られている。下手に頭がまわるのも考えもの。「少しの女遊びくらい勉強のうち」「女遊びをしている?アレン殿はそんな男じゃないだろう」などとまわりの大人たちは彼に優しい。
今回はそうはいかないと思うけれど。