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出血のわりに傷は大したことはなく傷口を消毒し、清潔な布を当て包帯で止める。ミレアは借りた救急箱から必要なものを取りだしアレンの手当てをしていた。
「ミレアってこういうの慣れてるんだね」
「別にそういうわけではありませんけど、侯爵家の専属医の先生に教わったんです。私ってなんでも自分でやってみたいっていう性格で、、、貴族令嬢としてはどうかと思いますよね」
「ううん、いいんじゃないかな」
「そうでしょうか」
「本当にいいと思うよ」
ちょっぴり甘い雰囲気な二人の間に声がかかる。
「ちょっと、私がいるの忘れてないわよね?」
ミレア御一行はダリアの家へ来ていた。
手当てをするのにミレアの家もアレンの家も適当ではない。そこで行き先がダリアの邸となった。やっぱり医者に見てもらいましょうといってもミレアが治療してくれるって言ったじゃないかと取り合ってくれなかったからだ。
元々ミレアは観劇が終わった後アレンとの外出を心配したダリアへの報告のため公爵家へ向かうことになっていた。
「アレン、ミレアを守ったのは誉めてあげる。けどミレアをミレアと呼んでるのは許せないわね」
「まぁいいじゃないか。友人なら呼び捨てだろ?」
「友人ですって?」
「ダリア、私が先にアレン様のことを敬称もなしに呼んでしまったの」
「そうなの、まぁミレアがいいなら。治療が済んだのなら離れなさい」
アレンへ『しっしっ』と手を払う動作をしながらミレアを自分の横に座らせるダリア。
あ、そうだと思い出したようにアレン。
「そうだ、ミーちゃんて誰か聞いても?」
「私の飼い猫なんです。家の外へ出てしまって帰ってきた時にはケガをしていたんです。ほんの少しの傷だったのに気が付いたら傷口が化膿してしまって、それが原因で今歩くのも辛いみたいで」
「それで医者の真似事を?」
「、、はい」
「ミレアは優しいんだね」
「そんな事はありません」
「いや、優しいよ」
「そんな事は」
「ちょっと、私がいること忘れてないわよね?もういいわよね。ミレアは私が送るからアレンは帰りなさい」
「それは無理だね。侯爵夫人にちゃんと送り届けると約束したんだ。さぁミレア帰ろうか」
アレンはそう言って座っているミレアへ手を差し出した。
ミレアは悩んだ。正直どちらでもよかったから。ここでアレンを追い返すと母親のアレンに対する評価が急降下する。(すでに底辺であることはミレアは知らない)それに今日は自分の身を守ってくれたアレンの気持ちを無下にするわけにもいかないのではと。
一方ダリアに送ってもらうとすれば、ただ家へ帰るだけなのに公爵家の馬車を出してもらうことになる。ちょっぴり心苦しい。んーと唸ったあとミレアは答えを出した。
「ダリア、今日はアレンに送ってもらうわ。色々迷惑かけてごめんなさい。今度ちゃんとお礼にくるから」
そう言ってアレンの手をとった。
(何?何なの?、、ダリアに送ってもらえばよかったかもしれない)
侯爵家へ向かう馬車の中でミレアは居心地の悪い思いをしていた。ミレアの隣にアンが座り、ミレアの向かいにアレンが座ったのだが、向かいから視線を感じる。窓から車内へと顔の向きを変えたそこには自分を見て微笑むアレンがいた。一度目は笑顔を返してまた窓へと視線を移したがすぐに視線を感じる。そっと見ればまた微笑むアレン。
(確かに格好いいし笑顔も素敵だけど、、、なぜそんな顔で見るの?変よね、、変、変、、態?家に着くまでずっと見られていた気がする。疲れた)
無事にコーラル侯爵家へ着いた。侯爵夫妻は出掛けていておらずアレンは挨拶出来なかった事を残念?そうに言っていた。
アレンは帰り際アンがこちらから目を離しているのを確認すると素早くミレアの右手をとると軽く口付けした。それだけで固まってしまっているミレアへ「またね」と言って更におでこにも口付けし王子様風笑顔で去っていった。
「ミレアお嬢様?どうかされました?」
その場から動かないミレアを不思議に思ったアンが声をかけるとミレアは顔をアンに見られないよう背け絞り出したような声で一言言った。
「な、なんでもないわ」
恋愛初心者のミレアの顔は真っ赤に染まっていた。




