Ⅱ
「どうも、はじめまして、浜崎友です」
「は、はじめまして……花坂かなめです」
ルートさんが私たちを連れてきたのは町のはずれのほうにあるビル、その三階だった。エレベーターという上等なものはないようで、階段で一段一段上っていくしかなかった。
ルートさんの先導で扉を開けると、ソファーには二人の子供がいた。小学生? いや男の子のほうは中学生か……? いや、身長で年齢が分かるわけではない。
「ルートさん、この子たちは……?」
紗那が尋ねる。
「化け物により家族を失った子供たち……そういった子供たちを保護する、児童保護施設……まあ要するに孤児院だな。そこから、能力持ちの子供を連れてきた」
「能力持ち……」
というと、やはり化け物による能力だ。なるほど、化け物が人を襲い、そして家族も襲うというのなら、親を殺され、孤児院に入れられる子供だっているはずだ。
「えっと……友とかなめか……」
ジャックは何を考えているのだろう。顎に手を当てて考え込んでいる。おおよそ予想はつくけれど。またいらない名前を考えているのだろう。カタカナの。まあ、
そっちのほうが統一感は出るのかもしれないけれど、私はあまり興味がない。
「……って、こんな子供がプレイヤーズに入るの?」
こんな子供、なんて言う自分ももちろん子供なのだが、こんなに幼い人間をメンバーに入れるのは気が引ける。いや、別に私自身が子供が好きとかそういうことはなくて、少年兵だというのなら私はもう何も口出しできる立場じゃないし。だけれどまさか自分より年下の子がメンバーに入ることになるとは。
というかこの子たち自身はいいのか? いや、私たちのチームに入ることを了承しているのか? 何をするのかも分からずここに連れてこられているだけ……なんてことになっていないだろうか。
「ああ、能力持ちは貴重だ。大抵の化け物被害者は死んでいる。もしくはその能力を手に入れたことを知らないか、もしくは手に入れていたとしても誰にも言わないか……もしくは意図的に使わないか。トラウマになりやすいからな。能力持ちで俺たちの目的にこの二人は以前からうちにいてな。俺たちの目的も了承している。だからプレイヤーズに加入してもらうことにした」
「……そうなの?」
子供たち二人に訊ねる。
「はい。去年の今頃ですね」
男の子……えーっと、友くんが言う。落ち着いた男の子だ。ジャックのような破天荒さやルートさんのような雄々しい感じはない。さわやかな青少年というのか。草食系というのか。それにしたって礼儀正しい子だった。
「去年の今頃にルートさんに会って、そして先日ここに呼ばれたというわけです。かなめは僕と一緒の施設にいて、同じようにやってきました」
「…………」
かなめ、という女の子は友くんの言葉をきいてこくり、とうなずいた。この子は無口な子なようだ。紗那のような明るい性格ではないのだろう。どちらかというと私に近いのかもしれないがそれはかなめちゃんに失礼だ。こんなどうしようもない私に近いだなんてそんなことを言う資格があるものか。ただ、私に負けず劣らず内気な子のようだった。年上にかこまれてびくびくしているのか、少し怯えた様子が見受けられる。確かにこの子がこの中では一番年下だ。
年齢順に並べるとどうなるだろう。
一番の年長者――といってもまだまだ20代でとても若いのだけれど――はルートさん。その次が私と紗那、上下するかどうかは不明だがジャック。そして友くんと、その下にかなめちゃん。
……となると、プレイヤーズに加入するメンバーはこれで合わせて6人になるというわけだ。6人……確かに、4人だとまだ寄せ集まりかもしれないが、6人となると立派にチームだ。化け物を倒す、能力者集団。らしくなってきていると思う。
「おっと、こいつはリリだ。リーダーと呼んでやれ、レンド、カノン」
「か、かのんって……?」
ジャックの冗談めいた口調にかなめちゃんは戸惑う。
「おおー。なかなかいかした名前だね。なるほど、フレンドのレンドか。そしてかなめからカノン、ね。なるほど」
「よし、決まりだな」
「えっと、どういうことですか? そのコードネームのようなものは」
戸惑っている友くん。
「ようなもの……ではなく、コードネームだ。プレイヤーズの連帯感を保つためにも、コードネームで呼び合うんだ」
「へ、へぇ……」
おいおい、思いっきり引いているじゃないか。友くんの微妙な反応はつまりそういうことだろう。そんなことをして何になるのかがわからない上に、コードネームで呼び合うことをばかばかしいと考えているように見える。ばかばかしいとまでは言わないかもしれない。でも乗り気ではないのは確かだ。
というかどうしてルートさんもカタカナ呼びに肯定しているのだろう。ジャックと紗那はそういうノリのあるものが好きだというのは理解できるが、ルートさんはそういう人ではないはずだ。あくまでも現実的に、悪く言えば冷淡に物事を判断するのに。どうしてだろう。チームの団結力、というものをそこまで有用視しているのか。それはなんというか、優しいのかその優しささえも計算なのか分からなくなってくる。
ただおさまりが悪いから、というだけのことかもしれない。メンバーに入る通過儀礼のようなものを、済ませなければ気の済まないというのか。
どうだろうか。
「おっと、紹介が遅れたな。俺のことはいいが、自己紹介をしなきゃいけないだろう。どっちも、俺以外とは初対面なんだからな」
「あ、そっか。はじめまして、えーと、レンド、カノン。私の名前は星宮紗那。コードネームはサニー。よろしくね!」
紗那が一番乗りに名乗りを上げる。目線を二人に合わせるようにかがんで、子供と対等に話そうという意識があるようだ。本人にはっきりとそういう意識はないのかもしれないが。無自覚でも紗那はそうする人間だ、ということで十分か。
「俺はジャックだ。よろしくな。トランプのジャックだぜ。んで、こっちがリーダーこと、リリだ」
ジャックが私のほうを親指で指す。
「……どうも。リリです。本名は吉光里利って言います」
「さとり……さんですか。……どうしてリリというコードネームなんですか?」
友くん、いや、レンドくんからの質問。やっぱりこれは外せないのだろうか。私の名前と、リリという名前の関係性。名前の音読みは。私はあたりを見渡し――いかにも事務室といった感じでコの字型に並んだソファと中央にテーブルがある――ホワイトボードを発見したので、それに書くことにした。
ペンのキャップをとって、キュッキュッと書く。新品のインクが鮮やかに香りを放つ。そんなことには目もくれず、いつも通りの上手くも下手でもない字を書く。
「えーと、里利ってこう書くの。これ、音読みしたらどっちもリ・リになるよね。だからリリ」
「ああ、なるほど、よくわかりました」
ひと目見ただけで理解したレンドくん。毎回こんな感じで、私の名前についての話はあっけなく終わる。毎回説明するのも面倒だ、と思いながら私はクリーナーを手に取る。
消そうとした瞬間に、私の書いた文字をじっと見つめている瞳に気が付いた。えっと……かなめちゃん、カノンちゃんだ。
「……どうしたの、カノンちゃん」
じっと見ているが、特に何も言わないカノンちゃん。私がそう声をかけるとすこしビクッとしたようで体がわずかに振れるのが見えた。
「えっと、あの、その……」
「ん?」
何を言おうとしているのだろう。もしかして私の説明はわかりにくかっただろうか。人に説明することに長けているわけではないからわかりやすい説明ができたかは分からない。というかそもそも人に何かを説明する機会はあまりない。説明する時があるとすれば何かを質問するとか何か手続きをしなければならない時だけだ。人に日常的に教えることになるような人間関係を私は有しているわけではない。
「……まだ、習ってない漢字だからわかんない」
カノンちゃんはそう言った。
「あー……カノンちゃんって何歳? あいや、何年生?」
紗那はまいったというような表情を浮かべながら、カノンちゃんに聞く。
「えっと、3年生です……小学3年生です。学校の名前はちょっと難しくて読み方がわかんないです」
なるほど、カノンちゃんは小学生だったのか。低学年……いや、中学年だ。この呼び方を高校生になって使うとは思っていなかった。小学校の頃はよく周りは口にしていたことであるけれども。
しかし名前が読みにくい学校か。確かにどうなのだろうか。孤児院にいる子供がどんな教育機関で教育を受けているのかはよくわからない。ルートさんなら知っているだろうが、それは今聞くべきことではないだろうし、カノンちゃんも分からないところだろう。そういう面倒なことをすべてルートさんに任せているのだろう。
「となると、レンドくんは何歳?」
「15です。中三ですよ。今年で義務教育も終わりです」
中学生か、なるほど納得できる年齢だ。確かに身長はそれ相応と言ったところなのだろう。レンドくんは背の小さい子なのか、私よりまだ身長は低いようであったが、すぐに追い抜かれてしまうだろう。高校生になって、私は身長の伸びがもう止まった。逆に男子はこれからがもう一段と伸び盛りだろう。
まあ、別に身長なんて気にしてはいないのだけれど。
年齢もあまり気にはしない。
「おいおいルート」
と、ジャックは何かを誘うような口調でルートさんを呼ぶ。この口調は、少し空気が悪くなりそうな予感がする。
「こんな小さな子供にも、もしかして殺しに加えるつもりか? さすがにそれはやりすぎだと思うぜ? ……まあ、レンドのほうはともかく、カノンのほうはダメだ。幼すぎる。こんなんじゃ戦場で足を引っ張るだけになるのは目に見えてるぜ。リリよりも数段と役に立たない」
おい。
カノンちゃんのほうを擁護する発言なのだろうが、しれっと私のことを役立たず呼ばわりとは酷くないか。別に役に立ちたいとかそういうのはないけれど、ジャックの今の発言で私のことをどう思っているかが分かったぞ。役立たずと言われるのは嫌ではある。役に立つために何かをどうにかしようとは思わないが、そう言われること自体がなんか嫌だ。
「ふん。まあその点については二人にも許可を取っている」
「脅してんじゃねえのか? 保護してもらっている大人に脅迫されたら子供には反論のしようもねえだろ」
「じゃ、ジャックさん、ちゃんと僕たちで話し合って決めたことです。ルートさんが別にどうとかいうことじゃありません」
「でもよぉ、そこに変な恩義なんてものを感じて、背負いきれない責任感から引き受けたんじゃねえのか?」
「た、確かに恩義は感じています、けど無理なんてしていないですよ」
「ああ? どういうことだ?」
「能力を見てもらったほうが早いだろう」
「おお、能力! 待ってました!」
能力、そうだ。レンドくんとカノンちゃんも化け物に出会って、そして能力を手に入れたのだった。その能力が何であるか、それは戦う上で重要だろう。
「じゃあ、二人の能力を見せてもらおうか、まずはレンド、見せてやれ」
「はい」
そう言ってレンドくんはあたりを見渡す。何かを探しているようだ。レンドさんは見つけたと言わんばかりに時計を指さした。
「あれ、使ってもいいですか」
「ああ、いいぞ」
時計を使うとはどういうことだろうか。アナログ時計を何かに使うというのだろうか。しかしレンドくんはそれを外そうとかそういうことは考えていないようで、むしろ時計から離れる。みんなに見えるようにしているというのか。それ以前に時計を使って何をしようというのか?
「では行きます……時間亡失」
レンドがそれを言ったと同時に、時計が、少し、ゆがんだ。ガラスを隔てたように屈折したような、シャボン玉の中にあるような。流動性のあるガラスに囲まれたように見える。
「……ん? あ、ああ!」
紗那が大きな声を出す。何があったのだろう。時計をもう一度注視する。昼前だ。11時34分。腕時計で確認しても同じことが分かる――
「へぇ、こいつぁすげえ……完璧じゃねえか」
ジャックも何かに気付いたようだ。やはりあの時計が、何か変わったのだろう。もう一度時計をじっくり見ることにする。何が変わったのか。時針、分針、そして秒針利……ん。
ああ、なるほど……確かにはためには気づかないが、これは面白い。私が見ている壁掛け時計は、秒針の進みが異常に遅かった。いや、時針や分針よりは速く動いているが、それでも一般の感覚とはとても合致するものではなかった。
私も腕時計とそれを照らし合わせて確認してみる。すると、予想通りだった。
「時間が……遅れてる」
「はい。僕の能力、時間亡失は、任意の空間内の時間の進みを遅くする能力です。基本的には、十秒で一秒進みます……って、なんだか変な言い方ですけど」
なるほど、あのガラス球のような、ゆがんでいる空間は時間が遅くなっているのか。こちらで十秒経たないと、あの空間の内部では一秒も進まない。逆に考えると、あの空間の中で一秒を数える間に外の空間は十秒ぶんの時間がたっているということか。
「……時間を操るとは、これは何かがありそうな予感!」
紗那が謎にテンションを上げる。一体どこにテンションが上がる要素があったというのか。確かに時間を操る能力はとてもすごいものの、だからなんだという話だ。奇妙なものを持つと、実際の生活にはただの枷にしかならないだろうに。
「タイムリープどころか、時を止めることなんかもできませんよ。ただ、こういうことはできます」
レンドくんはもう一度時計へと手を伸ばす。そして開いた拳を閉じる。それと同時に時計を覆っていた膜のようなものはどこへやらすっと消えてしまった。時計の針はいま目覚めたかのように急ぎだした。
……急ぎだしたといっても、普通の秒針の速さなんだけど。
「え、ええっ!?」
紗那は驚く。その驚きにつられてカノンちゃんも驚く。カノンちゃんを驚かせてどうするんだ紗那。もう少し落ち着け。しかし何があったのだろう。今回は私はなにも見逃していない気はするけれど。
「……なるほど、だからロスタイムロスなんだね。そのネーミングは、皮肉なほど合っていると思うよ。最高!」
「ありがとうございます」
レンドくんはどこか誇らしそうに紗那に向けてお辞儀をする。
「……どういうこと?」
「ロスタイムロスだ。余剰時間の喪失……つまり、向こうで進まなかった時間は、そのまま失われる。例えばこちらで30秒間発動し続けると、あの中では3秒進む。10分の1だからな。そして30秒経ったところで能力を切ると、そこからは外の時間の流れに従う……結果的に、能力の範囲内では27秒間が失われるってことだ」
ルートさんが分かりやすく説明してくれた。なるほど、余剰時間喪失……それが時間亡失か。時間を遅くして、そして速めるわけでもない。失った時間は戻らない。
「この能力を使えば、化け物の足を封じることが可能だ。こちらの体制を整えて、もう一度化け物に向かうことができる」
「なるほど、前線に出るというより、後衛で支援するタイプか……」
「攻撃力のあるものじゃなくてすみません。この能力で皆様の攻撃の支えになれば幸いです」
なんというか、気持ち悪いほど礼儀正しいというのか。ここまでくると馬鹿みたいなただしさのように思えてくる。ここまでいい子がいるなんて、私はまったく知らなかった。クラスメイトとは大違いだ。いつも口汚い言葉で誰かをののしってしかいない人たちとは大違いだ。
「いかがでしょうか、リーダー」
「リっ……」
リーダーと呼ばれることにまだ慣れていない。もしかしてこれからずっとそう言われ続けるのだろうか? 少し想像したがあたまがくらっとしそうだ。
「うん。とてもいい能力だと思うよ。私なんかよりとても役に立ちそうだし」
「ねえ、その能力って私たちにも通じるの?」
紗那が突然に言い出す。
「通じるってどういうこと?」
「だからさ、その力を人間に使ったらどうなるのってこと。そうしたら……えっと、周りが速く動いているように見えるのかな」
「そうなりますね、試してみますか?」
「うん!」
そんなにあっさりと反応していいのか?
「ちょっと、それ大丈夫なの?」
「大丈夫だって。別に死ぬわけじゃなかろうし」
「いや、死ぬかもしれないじゃん。もし失敗とかして……」
「あー、確かに境界部分がどうなっているのかが分からないけどね。何が起こるかはわからないよ。まあでも、私自身が動かなければ、何も起こらないでしょ。壁と同じだって」
「で、でも……」
「失敗したらそこまでってことでしょ?」
何か、とても冷徹に紗那が言い放ったような気がした。紗那らしくない、なんというかさばさばしたような言葉。いや……紗那らしいのか。やることは割り切る。そんな奴だったか。
「いざとなったときはやる必要があるかもしれないよ。本当に――いざとなったら頭だけを外側に出すことだってあるかもしれない。確かに怖いけど、でもそこで縮こまってちゃ、いけないと思うよ」
「…………」
化け物にそこまで、紗那が真剣なんだとは予想だにしていなかった。私がまだ、巻き込まれただけの傍観者だからなのだろうか。いまいち化け物に対して真剣になり切れない。
ジャックを見る。私の視線に気づいて、口を開く。
「サニーの好きにやらせようぜ。サニーの言うことももっともだしな」
「僕自身も、何も問題はありませんよ。サニーさんが大丈夫なら、いつでも行けます。……リーダーの許可も必要ですね。どうしますか」
いまここで、リーダーというものの責任を負うのか。
……まあ、レンドくんの自信にあふれた表情から察するに、失敗はしないのだろうと思う。しかしもしも失敗したならということを考えずにはいられない。そうなったら、どうなるのだろう。最悪の場合……紗那が死んでしまう。
「大丈夫だって。私が勝手に頼んだことだし、リリが責任感なんか感じる必要はないって」
「……本当に大丈夫?」
もう一度、紗那の言葉を聞こう。
「イエース! こういうのは暗くやっちゃダメでしょ。明るくいかなきゃ! ね!」
そう言って紗那は私のほっぺを無理やり上げて、口の端を無理やり上げようとする。私はそれに逃げるように顔をのけぞらせる。何をするんだ。口には出さないけど嫌な顔をする。
「じゃあ……お願い」
「はい、わかりました」
レンドくんは紗那に掌を向ける。紗那はレンドくんの真正面に立ち、いつでも受け入れるという体制をとった。
「――時間亡失」
そして、紗那は、ゆがんだ。
「――――」
紗那は目を見開き、口を開けて何かを言おうとしているのか。とても動きはゆっくりしているため人間らしくないと思ってしまう。人間ってやっぱり普通の時間の流れでやる行動を当然だと思ってしまうのか。スローモーションの映像になっている。
ぬおお、という効果音が合いそうなほどの緩慢とした、それでいて激しい表情の変化。筋肉の動きがゆっくりと、はっきりと見えてしまいそうだ。何も聞こえないけれど。
「――解除」
「――い!」
レンドくんが手を握り、空間のゆがみがなくなった瞬間に、紗那の言葉の終わりだけが聞こえた。
「おおお!? おお、戻った」
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫、たぶん何も問題はない」
ペタペタと体のあちこちに手を当てる紗那。脚も動かして、大丈夫そうだ。
「一応体の周り全部を囲いましたが、どうしました?」
「うん! すごかったよ! 私的には一秒もなかったけど、秒針動くの速すぎっ! みんなの挙動もちょこまかとしてて面白かったよ!」
「まあ、これで人が中に入ったときの応用も聞くということが分かったな……どうだ、ジャック?」
「ああ、こいつはいいぜ。何よりも肝が据わっている。そのハートがあれば、大丈夫だ」
ハート、やっぱりジャックにとってそれはとても大事なのだろう。化け物を倒す、いや殺すというモチベーション。熱意。それがなければ、化け物を殺すなんて荒唐無稽に付き合わせるわけにはいかない……ということか。荒唐無稽とは思っていないだろうが、熱意のない人間は帰れという、ある種体育会系な考え方をしているように見受けられる。
……でもその点で言えば。
「カノンちゃん?」
「……ひゃ、ひゃい!」
びくんっ、と体を震わせて飛ぶように私のほうを振り向くカノンちゃん。小動物というか、挙動不審というか。
「えっと、あの、……なんでしょうか」
「いや……カノンちゃんの能力って、何かなって思って」
そこまで驚かせてしまったか。
熱意とは縁遠そうな子だな、と思わずにはいられなかった。