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吉光里利の化け物殺し 第二話  作者: 由条仁史
エピローグ
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エピローグ

「……じゃあ、もうすぐに帰ってくるんだな?」


 閉鎖中とはいえ、デパートの展望室で二人抱き合っているのが従業員らしき人に見つかって、ついでに曲がった鉄パイプについても糾弾されて。何やかんやで怖い人が私たちに襲い掛かってきたんですと言い訳をつけた。私の作った話に、紗那はきちんと乗ってくれた。


 まあ、例えば具体的にどんな人物が、とか。二人をここまで連れてきて、じゃあその怖い人とやらはどこに行ったのか、という考えるほど不明な点が思いつく、あまたの疑問をぬぐい切れているとは到底思えないけれど、まあそんな感じでうやむやにしてデパートを出た。


 ……もしかして従業員の人はカップルか何かと間違えたのかもしれない。私男ものの服着てるから。髪も切ったし。まあついでに言えばそのことをデパートのエレベーターの中で紗那にいろいろいじられた。まったく。

 で、大阪駅で電車を待っている、ホーム。


「いや、ちょっと行かなきゃいけないところがあるから、もう少し先になるかも。……化け物のほうは、大丈夫?」


「ああ、心配すんな、リリ。今のところは、強化された化け物は出てきてないから」


「……そう、なんか、いろいろごめんね。ジャック」


「気にすんな。……俺も、あそこでお前を引き留められなかったことは、嫌だったからな」


 ジャックも、どうやら私を心配してくれていたらしい。ふむ。そう思うと、案外私はいろいろな人に気にかけられているようだ。どうでもいい存在としては見ていない。

 それが普通なのかもしれないけれど。


「つーか、うるせぇなそっち。ホームか?」


「あー、うん。駅のホームってかなりうるさいよね」


 電話がちゃんと通じているのか、電車の音で不安になるときがたまにある。


「うるさいで思い出したが、紗那はどうしてる?」


「うるさいで思い出すんだ、それ……」


 何があったのだろう。むこうでも口論とか、そういうのがあったのだろうか。ただ今までのことを踏まえて、紗那のことを言っているのか。

 まあ、うるさいとは思う。おせっかいだとも、思う。


「紗那はいまジュース買いに行ってる」


「使いっぱしりか?」


「……まあ、そうだけど」


「かっはっは」


 笑われた。

 私も、笑った。なるほど、確かに紗那の好意で買ってこようかと言われたけれど、お金も渡さなかったからただの使いっぱしりだ。あとでお金を渡しておかないと。


「ルートさんは、どうしてる?」


「ああ? あいつはいつも通りだよ。なんだかなぁ……お前のことを、お荷物だと思っているんだかどうなんだか、なーんかよくわかんねえけどな」


「へ、へぇ……まあ、それがルートさんだしね。ルートさんらしいと思うよ」


「あいつらしいって、なんだよ」


「……なんか冷たいイメージ?」


「お前が言うか」


「あははー。だよねー……」


 笑い事かよ。

 まあ、笑い事だけど。


「……それで、どこに行くんだ?」


「ん……神奈川のほうまで。ちょっと、いろいろあってね……」


「……それは、化け物に関係のある話か?」


「……どうだろう。正直、私の自意識過剰なのかもしれない。でも、確かめておかないと……私に、深く関わっているかもしれないから」


「どういうことだ?」


 ジャックが理解できないのも、無理はないだろう……だって、紗那にも厳密な理由は伝えていないのだから。でも、紗那は深い事情なんか気にしないで、私に付き添ってくれた。

 学校は……まあ、いいだろう。少々休んだって。

 怒られれば済むことだ。


「まあ、そこはおいおい話していくよ」


「おい、話してくれねえと分かんねえじゃねえかよ」


「……帰ってきたら、絶対に話す。それまで、待ってて」


「おう、分かった」


 おや、納得してくれた。

 ジャックはやっぱり素直なのかもしれない。話せば分かってくれるというか、自分から拒絶しなければたいていのことは受け入れてくれるというか。

 単純なだけかもしれないけれど。


「じゃあ……そろそろ、ごめんね。化け物のことは、任せちゃって……」


「いい。とにかく、そっちもしっかりな? ……東のほうにいるんだろ?」


「うん。そうだね。一泊はかかると思う……下手したら二泊かも」


「りょーかい。実はお前が出て行ってから、化け物の出現場所がどんどん東側にずれてきている。いままで西にずれていたのが逆戻り。やっぱりお前を追いかけてるように感じるぜ」


「……こわー」


「って、化け物に関係のあること、調査しに行くんだろ?」


「そうだけどさ」


「ちなみに、あの路地は封鎖された」


「……マジで?」


「つーか、周辺すべて建て替えだ。まあなんだ、もともと人も少ないボロマンションだったし、立て替わればいい感じになるんじゃねーの?」


「そう……なんだ」


 あの路地は、もうなくなってしまうのか。まあいい。ひょっとすると……いや、その可能性はまだ可能性の段階で閉じ込めておきたいけれど。でも可能性として、もうすぐ、化け物は倒せるかもしれない。


「さぁーとりぃー」


 間延びした紗那の声が聞こえる。


「じゃあ、また。紗那と話す?」


「いや、いい。とりあえずごめんって、伝えておいてくれ」


「うん。了解」


 電話はそこで切れた。


「ん、私にはよかったの?」


「よかったんじゃない? なんかごめん、って」


「あー、そう、か……。まあ、私のほうこそごめんなんだけどね」


 やっぱり何かあったのか。私のせいで口げんかが勃発してしまうとは……やれやれ。


「それじゃあ、行きますか。はい、これ」


 紗那は私にペットボトル容器のコーラを手渡してきた。


「……なんでコーラ?」


「自由に選んできて、って言ったじゃーん。私のセレクトだよ。砂糖入ってないと頭も回らないしね」


「はぁ……まあ、いいけどさ」


 プルルルルルル——構内放送だ。電車がやってくる。


「まず、新大阪だっけ。さとり」


「そう。そのあと新幹線で横浜に。……どのくらいかかるのかは知らないけど」


「席もとってないでしょ? ……どのくらいかかるの?」


「それは、どっちの意味で? ……うーん。数時間はかかると思うし、ただの電車賃からはかなり高いと思うよ」


「あー……」


「いや、私が出すよ? お金ならあるし」


 ちなみに、リュックは紗那が責任をもって、駅員さんに届けてくれていた。金目のものはなかったとはいえ、着替えを誰かに見られるのはやはり抵抗がある。

 いい友達だ。

 本当にそう思う。


「ごめん! あとでちゃんと返すから!」


「いいよ、私にわがままに付き合わせてるだけだから」


 私たちは、電車に乗り込む。



「紗那」


「ん?」


「……ありがと」


「こちらこそ」

第三話に続く。

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