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吉光里利の化け物殺し 第二話  作者: 由条仁史
最終章 本当に欲しかったもの
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「嘘……嘘……」


 涙が、止まらない。お願いだから、そんな気休めは言わないでくれ。私は、どうしようもない人間なんだ。もう、救いようもない人間なんだ。だから救おうだなんて、市内でくれ。私は、誰かに愛されるようにはできなかった。誰も愛することをしない。誰も信じない。


 誰にも好意を向けない。

 誰にも好意を向けられなかったから。


 でも、今。

 はっきりとした気持ちを——伝えられた。


「嘘よ……嘘!」


「嘘じゃないもん!」


 駄々っ子のように、紗那は私に縋りついた。


「何度でも言わないとわかんないなら何度でも言う! さとり、私はさとりが好きだ! さとりが大好きだ! 吉光里利が——大好きだ! だから、さとりも——私が好きなさとりでいてほしい!」


 意味が、分からない。

 紗那の言っている言葉の、意味が、分からない。


 紗那の好きな、私?

 そんなもの——あるはずないのに。私には、私らしさなんてかけらもないはずなのに。どうして? どうして紗那は私のことを好いてくれるのか。


 まったくわからない。


 でも。


 そう。


 まったくわからなくても——


「ほん……とう、に……?」


 涙が口に入る。ろれつが回らない。


 これは——いいのだろうか。私が、縋りついて、いいのだろうか。天から差し込んだ、光のようなものに。私は、手を伸ばして、いいのだろうか。


 神様。

 迷える子羊がいるなら、救ってくれ。そう願っていた。


 でも、神様なんていないんだ。努力もしていない私なんか、救われないんだ。

 いままでずっと、そう、思っていた。


 でも、もしも——神様がいるんなら。


 どうだっていい——この手を、この伸ばした手を、つかんでくれ——


「本当だよ。さとり」


 震える手を、包むように受け止めてくれたのは、紗那だった。


「大丈夫。私があなたを、愛してあげる」


「……ぅ、くっ。ごめん……ごめんね……ごめんなさい……ぅ。あああ……」


 紗那の胸に、飛び込んだ。

 思いっきり、泣いた。


 ……いつぶりだろう。いつから、泣くのをやめた? 小さいころ、泣いたって助けてくれる人はいなかった。思いっきり泣いて、それを抱いてくれる人なんて、いなかった。


 いないと、思っていた。


 思い込んでいた。


 だから——紗那を、拒絶してしまった。自分なんて、と思って、勝手に。紗那の気持ちなんて、本当は考えもしないで。自分の憶測で。ただの邪推で判断してしまったなんて。


 ——なんてことを、してしまったんだ。

 私の、一番大切な友人を。


 どうして——信じられなかったんだろう。


「あああ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 だから、紗那の胸の中でうめく嗚咽は、謝罪の言葉だった。布地に涙が、唾液が、染みる。紗那はいいよと言うように私を抱きしめた。


 ……周りに人はいない。私たち二人だけの、大阪のデパートの展望台。


 鉄パイプは一本曲がってしまった。

 けれど、心は、ようやくつながった。


 窓の向こう側には、青い空が広がっている。雲が晴れ、暖かい光が包む。


 二人の嗚咽が、薄暗い展望台に響く。静寂が、二人を黙って聞いていた。

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