Ⅲ
「嘘……嘘……」
涙が、止まらない。お願いだから、そんな気休めは言わないでくれ。私は、どうしようもない人間なんだ。もう、救いようもない人間なんだ。だから救おうだなんて、市内でくれ。私は、誰かに愛されるようにはできなかった。誰も愛することをしない。誰も信じない。
誰にも好意を向けない。
誰にも好意を向けられなかったから。
でも、今。
はっきりとした気持ちを——伝えられた。
「嘘よ……嘘!」
「嘘じゃないもん!」
駄々っ子のように、紗那は私に縋りついた。
「何度でも言わないとわかんないなら何度でも言う! さとり、私はさとりが好きだ! さとりが大好きだ! 吉光里利が——大好きだ! だから、さとりも——私が好きなさとりでいてほしい!」
意味が、分からない。
紗那の言っている言葉の、意味が、分からない。
紗那の好きな、私?
そんなもの——あるはずないのに。私には、私らしさなんてかけらもないはずなのに。どうして? どうして紗那は私のことを好いてくれるのか。
まったくわからない。
でも。
そう。
まったくわからなくても——
「ほん……とう、に……?」
涙が口に入る。ろれつが回らない。
これは——いいのだろうか。私が、縋りついて、いいのだろうか。天から差し込んだ、光のようなものに。私は、手を伸ばして、いいのだろうか。
神様。
迷える子羊がいるなら、救ってくれ。そう願っていた。
でも、神様なんていないんだ。努力もしていない私なんか、救われないんだ。
いままでずっと、そう、思っていた。
でも、もしも——神様がいるんなら。
どうだっていい——この手を、この伸ばした手を、つかんでくれ——
「本当だよ。さとり」
震える手を、包むように受け止めてくれたのは、紗那だった。
「大丈夫。私があなたを、愛してあげる」
「……ぅ、くっ。ごめん……ごめんね……ごめんなさい……ぅ。あああ……」
紗那の胸に、飛び込んだ。
思いっきり、泣いた。
……いつぶりだろう。いつから、泣くのをやめた? 小さいころ、泣いたって助けてくれる人はいなかった。思いっきり泣いて、それを抱いてくれる人なんて、いなかった。
いないと、思っていた。
思い込んでいた。
だから——紗那を、拒絶してしまった。自分なんて、と思って、勝手に。紗那の気持ちなんて、本当は考えもしないで。自分の憶測で。ただの邪推で判断してしまったなんて。
——なんてことを、してしまったんだ。
私の、一番大切な友人を。
どうして——信じられなかったんだろう。
「あああ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
だから、紗那の胸の中でうめく嗚咽は、謝罪の言葉だった。布地に涙が、唾液が、染みる。紗那はいいよと言うように私を抱きしめた。
……周りに人はいない。私たち二人だけの、大阪のデパートの展望台。
鉄パイプは一本曲がってしまった。
けれど、心は、ようやくつながった。
窓の向こう側には、青い空が広がっている。雲が晴れ、暖かい光が包む。
二人の嗚咽が、薄暗い展望台に響く。静寂が、二人を黙って聞いていた。




