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調査

~調査~

 火野はホテルで待っていたが結局荻みどりは戻ってこなかった。一度、鎌倉警察署に電話をしたがいなくなって一日も経っていないことから取り合ってくれなかった。


 荻みどりの両親にも連絡をしたが何の連絡も入っていないことを聞いた。おかげで変な詮索をされそうになった。とりあえず今鎌倉に来ていてお土産を送りたいが何がいいのかを話していたが決まらなかったのでこっそり電話をしたと説明をして納得をしてもらった。


 火野は荻みどりがいないことで眠れぬ夜を過ごした。


 そのため、今回の事件を考え直すことにした。


 ミッシングリンクというが、この被害者をつなぐもう一人の人物がいる。二階堂清美だ。清美がどうして吸血鬼になったと主張をしたのかはわからない。だが、何かメッセージがあるはずだ。


 だが、一体何を伝えようとしているのだ。それに約束。一体10年前に何があったというのだ。


 佐久本も思い出せと言っていた。10年前。火野は記憶を蘇らせようとした。まずはあの時、永福寺に行った時だ。いつだって言い出すのは清美だ。あの日、俺は木の枝を振り回していた。記憶の中では4人組だ。そのうち主犯格になったヤツの顔は今でも覚えている。髪の毛をつんつんに上に突き上げていた。目つきが悪く顎がとがっていた。俺を殴りながら笑っていたのだ。


 その笑顔がやけに怖かった。確か俺は木で防御をしていたが、自転車を投げつけられてろっ骨を骨折したはずだ。後は左手もだ。病院で目が覚めた時、横に居たのは父親だ。母親を見ていない。どうしてだ。こういう時身近にいるのは母親じゃないのか。


 それと、そうだ。一緒に居たのは朋子だ。朋子がずっと枕元で泣いていたのを覚えている。確か「気にするな」と言ったんだ。朋子がわるいわけじゃない。悪いのはあの中学生の4人組だ。治療費を払ってもらったのは記憶にある。だが、二階堂正文が何をしたのかは思い出せない。


 それに、今回言われて初めてあの主犯格の名前が日向野一ということを知ったのだ。そう、それまで火野は加害者と接点を持つこともできなかったからだ。だが、噂で聞く所だと鑑別所に連れて行かれたと言っていた。いや、保護観察かもしれない。とりあえず制裁を受けたのだ。


 火野はずっと謎だったのだ。どうして父親が制裁を受けないと行けなかったのか。確かに危険な場所に二人を連れて行ったのは事実だ。だが、実際先導切っていたのは清美だ。それに清美はその後も落ち着いた行動はとっていない。いや、もっとアグレッシブになったのだ。


 それは見舞いに来る朋子から聞いていた。そう言えば、入院していた時見舞いに清美が来なかったことを思い出した。


 怪我をしている火野を見たくないと言っていた。それともう一つ。新しい遊び相手ができたと言っていた。あの弟はなんて名だっただろうか。そうだ。確かトオルとか言っていた。漢字はわからない。けれど、そう朋子から聞いたのを思い出した。


 だが、わからない。あの時何があったのか。そう言えば、朋子が一緒に暮らしたいとか言っていたのを思い出した。


 あんな広い家に住んでいるのに、どうしてかと思った。そう思っていたらいつの間にか火野は眠ってしまっていたようだ。




 ホテルのアラームで起きる。枕元のデジタル時計を念のためセットしておいてよかったと火野は思った。だが、起きてもやはり荻みどりはいない。


 シャワーを浴びるために浴槽に行く。当たり前だが誰もいなかった。火野はシャワーカーテンを開ける時に少しだけ不安を覚えた。ホラー映画だとこういう時死体が合ったりするからだ。だが、現実の世界ではそんなホラーなど起きるはずがない。シャワーをひねっても赤い血が出てくることはない。そう思って蛇口をひねる。あたたかくなるのを確認してからシャワーに切り替える。


 シャワーを浴びたが、さっぱりした気にはなれなかった。そう、行方不明になった荻みどりが気になるからだ。だが、荻みどりを探すために時間を割くことはできない。


 佐久本に言われているからだ。自分の疑惑は自分で晴らしたい。ほっぺたを2回たたいてから火野はロビーに向かった。



 エレベータは住んでいるマンションとは比べ物にならない速さで下に降りて行った。降りていくと時間よりまだ早いにもかかわらず佐久本がロビーで新聞を読んでいた。


 佐久本が近づいてくる。


「なんだか寝たりない顔をしているな」

「ええ、彼女が、みどりがいなくなりましたから。警察は探してくれないんですか?」

「事件性があるとは思えないとの判断だ。それに今この事件のため人を割いている。知っているか。新聞でもテレビでもこの事件を取り上げている。しかも面白おかしくだ。現代の吸血鬼とか言われているんだからな。まあ、今世間を騒がすニュースがないから余計なんだろうな。ワイドショーはこぞって取り上げている。そのため警察は定期的に会見をしないといけない。こんな状態なんだ。女が一人いなくなったからと言って動いてはくれない。しかも、隠し事をしていたのがばれて逃げて行ったという背景もあるのなら余計にだな」


 そう言われて火野は苦い顔をした。こんなことでもなかったらばれないと思っていた。いや、いつかばれるかもしれないが、その時はちゃんと説明をしたかった。


 あの大内という刑事は多分ここぞとばかり火野のことを悪者として話したのだろう。火野は拳を力いっぱい握った。


「まあ、やることは今できることだ。とりあえず、保養所は許可がないと解放をしてくれない。だが、一つだけ条件がついたが許可が出たんだ。だから行くぞ」


 そう言って佐久本はホテルを出て行った。出てすぐ駐車場がある。そこに白いカローラが止まっていた。


「カローラですか。また」

「なんだ、結構いいぞ」


 そう言って汚れているカローラに乗り込む。車は山の方に進んでいく。葉山とは方向が違う。


「どこに向かっているんですか?」


 火野は景色を見ながらそう言った。佐久本が言う。


「二階堂本家だ。今あの二階堂家は荒れに荒れている。跡継ぎが若すぎるので会社をどうするのかで話しを続けているみたいだ。当主となった二階堂朋子は経営は伯父にゆだねるが会社の株券は手放さないそうだ。だから経営には携わらないが口を出すというのだ。後は家財一式は朋子がそのまま引き継ぐらしい。一部では、今行方不明の清美の分をどうするのかと話している。まあ、そんな誰も触れたくない骨肉の争いの中だが、今回保養所への立ち入りはその朋子が同行することで許可が出たんだ。だから、これから二階堂本家に行く」


 そう言われて火野はあの広いまるで昔話にでも出てきそうな日本家屋を思い出した。


 門があるが、門をくぐっても母屋には全然近づけない。しかも立ち入ることができたのは本館ではない。子供が遊ぶようにという離れがあるのだ。そこにしか通してもらえなかった。


「本館に入るのか?」

「まさか。門の外までだな。中に入る許可はもらえなかった。あの場所はそう簡単に他人が立ち入れる敷地じゃないんだ。まあ、前に調査で立ち入る時も大変だったんだ。二階堂正文が居なくなったとしても、親族には市会議員も県会議員もいる。それに所有している企業もでかい。誰もが顔色を見ながら対応する場所

だ。お前も知っているだろう」


 火野は言われなくてもわかっている。だから父親の小さな店なんて人睨みで成り立たなくなったのだ。だが、一体なんでそんなことになったのだ。そんなに娘二人を怖い思いをさせたことが許せないのならどうして火野自身の慰謝料を請求するためにも動いていたのだろう。


 何かを見落としているのかもしれない。それとも知らない何かがあったと言うのだろうか。


 そう思っていたら高い堀がある場所にたどり着いた。ここから先が二階堂家だ。


 正門前に車をつけてインターフォンを鳴らす。しばらくして黒服の男性が出てきた。銀の細井メガネをかけている。男性が近づく。


「どうも、はじめまして。葛西と申します。今日はお嬢様のご厚意により当方の保養施設の視察がかないました。私が案内しますのでついてきてください」


 そう言うと門が開き、ロールスロイスが出てきた。葛西が言う。


「では、着いてきてください。何、大丈夫です。そのポンコツでもついてこられる速度で走りますから。でも車間距離は撮ってくださいね。二階堂家と関係があるものがこんなみすぼらしい車を使っていると思われたくないですから」


 そう言うと葛西はロールスロイスに乗り込んだ。法定速度でしっかり走っている。


 葉山まで走って行く。だが、途中から山間部に入って行った。


「どこまで行くんだ」


 佐久本はそう言う。アスファルトから道が砂利道に変わる。更に進むと鉄柵が出てきた。


 前を走るロールスロイスが止まる。葛西が降りて鉄柵まで行き動かしていく。車が一台入れるスペースが開くとさらに車を走らせる。同じような鉄柵や門扉が3つ続いた後道路がアスファルトに変わった。


「なんだ、こりゃ。気持ち悪いな」


 そう、そこに出てきたのは洋館だ。作りは古いがしっかりしているのがわかる。ロールスロイスが止まったので、その付近に佐久本も車を止める。

ロールスロイスから二階堂朋子が降りてくる。髪は肩までの長さ。茶色の髪が風で少し揺らいでいる。大きな目がこっちを見ている。その目に吸い込まれそうだと火野は思った。


 もし、許されるのなら朋子と。一瞬そう思ったが火野の頭の中に荻みどりの顔がよぎった。


 だが、水色のワンピースがやけにきれいに見える。つい目を奪われるのだ。


「ちゃんと来てくれたのね。ありがとう」


 車を降りた火野に二階堂朋子はそう話した。


「では、こちらを案内いたします。といっても、何もわからないんです。この場所には色んなものが残っていますが、姉がどうやってここを出たのかもわかりませんし、今何をしているのかもわかりません。だって、ここには普段車がありませんから。歩いて駅まで行くとしても距離があります。まあ、気が済むまで見て行ってください」


 そう言われて扉の前に立った。扉の鍵は壊されている。まるで斧か何かで内側から壊したようになっている。佐久本が写真を撮りながら聞く。


「この扉は」

「見に来たらこうなっていました」

「家の中には斧とかあるのでしょうか?」

「斧はないですけれど、これを使ったのではないかと言うものはあります。ただ、人が持つには重すぎるものですが。葛西。扉をあけてください」


 葛西は言われて手袋をして手に持っているバールを使って扉をむりやり開閉した。


「この通り、この扉は壊れてしまっているため普通に開けることができません。警察に見てもらってから修理を行おうと思っていました。では中に入ります」


 そう言って中に入るとまるで台風でも来たのかというくらい荒れていた。まず壁にかかっている絵画はずり落ちている。花を入れるためなのか大きな壺も割られている。天井にあるシャンデリアも一部欠けている。床にはその残骸が残っている。


「なんだ、これは。何が一体あったらこんなことになるんだ」


 佐久本は写真を撮りながらそう言う。だが、朋子も葛西も何事もなかったかのように進んでいく。調理場などもあるが鍋がひっくり返り、包丁が天井に突き刺さっている状態だ。火野が言う。


「ここは普段は清美のほか誰かいたのですか?」

「いいえ、ここは清美だけがここにいました。食べるものは自分で料理をします。ここはテレビもないのでどうやって一日を過ごしていたのかはわかりません。けれど、お姉さまの部屋を見れば何をしていたのかはわかるかと思います。


 そう言って扉を開けた。そこは壁が真っ赤に塗りたくられていた。このにおいが何なのかわかる。血のにおいだ。むせ返るくらい気持ち悪いにおい。


 壁に書かれてあるのは魔方陣だ。昔いやというほど書いたものだ。いや、壁だけじゃない。床にも書かれてある。赤いものもあれば黒いものもある。黒いものはペンなのだろうか。いや、よく見ると違う。古いからもう黒く見えるだけなのだ。


「なんだこれは」


 佐久本が写真を撮りながらびっくりしている。


「お姉さまは悪魔の召喚に嵌っていたのです。そして、自らに悪魔が乗り移ったと信じている時もありました。だから姉さまがしたことは悪魔がしたこと。そう思うようにしていました。誰も触れたがらない事実です。何があって姉さまが壊れたのかわかりません。だからこそ、この場所に閉じ込めるようにしていたのです。私はそう両親から聞いていました」


 悲しそうに朋子は話す。火野は真っ赤に血塗られた部屋を見ながらふと目に止まったものがあった。その場所を指差す。


「あれは?」


 そう、そこには古い新聞の切り抜きが貼られてあった。そこにあったのは10年前火野が襲われた事件と、青年実業家がヨットで自殺の記事がそこにあった。朋子が言う。


「お姉さまはやっくんのことを大事にしていたんです。写真もありますよ。懐かしい写真です。ここにはやっくんから来た手紙も持ってきてましたから。と言っても年賀状くらいですけれど。やっくんはちゃんと二人に別々の年賀状を書いてくれたから渡しやすかったです」


 そう言ってテーブルの引き出しを開ける。そこは普通だった。写真があり、はがきがある。写真は小学生の写真、詰襟を着た写真とある。朋子が言う。


「お願いします。お姉さまを一刻も早く見つけてください。そうでないと不安なのです」


 深々と頭を下げる朋子を見て佐久本は「わかりました」と伝えた。



 佐久本の助手席に乗ってまた車が走り出す。佐久本が言う。


「お前は乗り気じゃないかもしれないが今回の犯人は清美の可能性がある。お前はまだ話していないことが俺にあるんじゃないのか?」


 そう言われて火野は覚悟を決めた。そう、吸血鬼のこと、誰かを恨んでいないかと聞かれて須藤の名を出したことを話した。


「ほかに名前は出なかったのか?」


 そう言われて思い出した。もう一人いる。あの時話したそう、ヒステリックおばさんのことを。



 子供のころ、海岸でよく遊んでいた。花火をした。だが、ただの花火ではない。火を使って召喚ができないのかと考えて行ったのだ。


 海岸沿いに住むおばさんがいつもうるさかった。あの時、そう火野は珍しく先に清美が帰ると言って朋子と二人っきりになった時があった。


 海岸から空を眺めて話し合っていた。するといきなり怒鳴られたのだ。物を投げられることもあった。ガラス片が投げつけられた時に火野の額にあたったことがあったのだ。


 それで怪我をした。3針縫うけがをしたのだ。だが、あのヒステリックおばさんは自分は投げていないと言い出した。


 結局証拠不十分でヒステリックおばさんはお咎めを受けなかった。名前をなんて言ったのか思い出せない。そうだ。確かあのおばさんには孫がいたはずだ。


 その話をすると佐久本は何件か電話をかけた。しばらくして佐久本の携帯がなった。佐久本が言う。


「お前が言っていたそのヒステリックおばさんは誰かがわかった。加藤佐和子というらしい。調べたらすでに血を抜かれた死体になっていたそうだ。死亡時刻は今日の2時から3時くらい。お前は何をしていた?」


 火野は思った。その時間は一人でホテルにいた。しかもその場所がどこかもわかる。誰も身の潔白を証明してくれない。


 火野は見えない恐怖にただ震えていた。



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