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初期練習作(短編)

私はわたしを愛したい

掲載日:2015/07/07

 人類の普遍的な欲求の源は、

「自分を愛する」ことなのだと理解した。

ネネ子という名前で一生が始まり、

いろいろと苦労したあげく、

名前を変えることを決意したのはつい先日だ。

私は今日から新しい名前にしよう。

そうだ、パパ子が良い。

私にぴったりの名前だ。

そう思った。


 「マジ言ってんの?

ちょっと考えてからにしたら……」

友人の忠告が心に響く。

「ネネさあ、このままでも可愛いよ」

だとしても、その名前は受け付けない。

私にはぴったりの名前があるのだ。

パパスからとったパパ子。

それしか思いつかない。

だって、私は一人息子が跡を継ぐような、

立派な人物になりたいのだ。

もはや性別なんてどうでもいい。

呆れてものも言えない友人を置いて、

家に帰ることにした。


 「ただいま」

玄関に「おかえり」の響きはない。

それはそうだろう。

私は、自分以外の誰も、家に入れたりは出来ない。

どうしてかって?

それは、わたしが悪魔の弟子だからだ。

悪魔はパパスと名乗っていた。

部屋には有害そうな図書が山と積まれている。

実際に悪魔と契約し、魂と引き換えに弟子にして頂いた。

息子は精神病院に入れてしまった。

それ故、知るすべは無いだろう。

全ては、神の御心のままに。

わたしは無我夢中で、息子の引きこもりを治そうと試みた。

それが全て失敗して、もうこの方法しか残されていないのだ。

神頼みをしたら、悪魔が来てこう言った。

「お前が全てを知ったら、お前は自己を愛するだろう。

しかし、このままだと、お前は息子だけを愛するのみだ。

それでは、彼はずっとこのままだ」

その日から、わたしは全てを知るために契約して、

その悪魔の弟子になった。

あれ以来、ずっと研究漬けの生活が続いている。

若さの秘薬、術の効用、呪いの対処、

気味の悪い物質も、実験材料として様々に調合する。

わたしはこの生活にのめり込んでいった。

なんだか楽しくて仕方ない。

まるで本来の自分に還ってきたようだ。

わたしは、息子のことも忘れて研究に打ち込んだ。


 しばらくすると、本当に息子の状態が安定してきたと、

病院から喜びに弾んだ電話がかかってきた。

わたしは適当に相槌をうち、電話を切ってしまった。

先方は変に思ったかもしれないと、ふと思った。

しかし、今なべの中にある物体の方が大事である。

わたしはまた調合に没頭し始めた。


 次の年の春。

息子は元気に、私立の小学校に通い始めた。

寮生活だが、何とかやっていけるだろう。

わたしは抜け殻のように、最近ぼんやりとしてばかりだ。

何か間違ったことをしたような気分だ。

だって、何もかもがわざとらしく感じられる。

そしてネネ子という名前が、心に響いて仕方ないのだ。

わたしは私自身を思い出そうとしている。

私は、実際は悪魔の弟子ではなく、平凡な母親である。

悪魔というものは、自分自身の内にあるもので、

ふとしたときに表に出てくるものなのだ。

私は以前の生活に戻ることにした。


 その頃、魔界では、悪魔が魂をつかんで喜んでいた。

「あの母親、うまくやってくれたようだな。

おかげでこの通り、美味しい魂も手に入った。

あいつらの運命はすでにこちらが頂いた。

なぜなら、あの母親は"わたし"を失ったのだから。

本当の自分自身をな」

悪魔は腹を抱えて笑っている。

「息子はよい悪魔になるに違いない。

まあその方が、簡単に生きられるだろうさ」

悪魔は闇に消えていった。

後には母親の息子に対する愛情が、

地面にうっすらと光り、取り残されていた。

それはいずれ、神に拾われることになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。 おちも考えさせられ いい。 書き慣れた、あるいは沢山の本を 読まれた成果なんでしょうかね 他の作品も読んでみたく なりました [気になる点] 特に 思いつきません
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