歴史から学ぶ心理学 『返報性の原理』
ビジネスの世界でよく言及される『返報性の原理』という心理を、故事(歴史上の出来事)を用いて説明します。
返報性の原理とは、相手から何かをされたとき、お返しをしなければと感じる心理です。
例えば先日食事をご馳走になったので、何か礼をしようと自然に考える事がそれにあたります。
この心理を政治に利用した人がいました。古代中国にひしめいていた多くの国のひとつ、斉において宰相(権力マシマシの総理大臣みたいな役職)にまで上り詰めた管仲という人物です。
『管鮑の交わり』や『衣食足りて礼節を知る』などのことわざの元になった人でもあります。
管仲は友人の推薦で、斉の国王に謁見する機会を得ます。そこで国王は管仲に、斉が強国になるためにはどうすれば良いか聞きました。その時彼が示した方針がこの心理を利用したものなのです。彼らの会話をフランクなものに変換するとこのようなものでした。
「斉を強くしたい」
「まず民を飢えさせないことです」
「Why?」
「飢えると民は逃げます。年貢が取れません。ですからまず彼らが農業をやりやすいよう、開墾を手助けしてあげましょう。まずはこちらがお金を出すのです」
「それから?」
「商業を豊かにします。生活に余裕が出来ると人は色々欲しくなります。制度を整え、商売をしやすくしてやりましょう。そうすれば多くの取引が国内でなされ、その分年貢も入ります。最初の投資分など、あっという間に取り戻せますよ」
「すげぇ! すぐやれ。お前明日から宰相な」
「やったぜ」
この政策を導入した斉は人々が飢えることが無くなり、民衆は喜んで開墾や商売をし、年貢も素直に納めました。
民衆を『良い王様のお陰で安心して暮らせるようになった。年貢を納めてこれからも守ってもらおう』という気分にさせたのです。
こうして斉は豊かになり、いくつもの国に分かれていた当時の中国大陸の中で、大きな力を持つまでになりました。
まず与え、それからとる。これが奪うだけだったのなら、民が他国に流れ、斉は逆に貧しくなっていたでしょう。管仲は人間の心理を深く理解し、国だけでなく自らも富ませることに成功したのです。