第 話 物語の叛逆
僕達はいつも縛られている、閉じ込められている。
小説は様々な規則や規律によってがんじがらめにされている。
小説は――
現実を描かなければならない
正しい日本語で書かれなければならない
読者に影響を与えなければならない
なにか意味がなければならない
一貫性がなければならない
全体として統一されていなければならない
もっともっと、他にももっと、もっとたくさんのルールや理想に囚われている。
小説を書いてみればわかる。
面白く書こう、技巧的に書こう、読者を驚かせよう、読者を癒そう、あれを糾弾しよう、これを正当化しよう、すばらしい価値を提示しよう、価値観を覆そう、なにかを示そう、思想を伝えよう、
様々な目的意識に左右され、隷属している。
小説は僕みたいに支離滅裂に書かれてはならない。書くものと書かれるものが混ざりあったり、読むものと読まれるものが混同されたり、主人公とヒロインが混濁するなんてことはあってはならない。
何故ならば、僕たちは実に様々な規則や規律やルールや理想に隷属することで、ようやく小説を読むことができるのだから。
しかし
なにに依らず「してはならない」のは、それができるからだ。
たぽたん、すぽん、とぱぱぱ、まとと、
ちゅるつる、のるろ、おうわぷ、こぴとよ
「僕は教室の机をたたき、音を奏でる。」
そうなの「と宇野さんが言う。」
そうなんだ「と僕が言う。」
意味のないことをしたいのね「と宇野さんが落ち着きはらって言うのを聞いて僕は」かもしれない「と言う。実際にはどうなのか、僕にはわからない。」
僕が目的を持つことは、それ自体がなにかの間違いであるような気がするんだ「と言いながらも、それもまた間違いであるような気がしてくる。僕は不安になる。」
たしかにね「と宇野さんであり僕は言う。」目的を持っているのは作者であって、作品ではないもの「と小説は言う。」
「たしかに、その通りだ。
やはり僕はいいことを言う。
目的を持っているのは僕であって僕じゃない。
特にメタフィクションでは、僕が作者に対して気を遣うなんてことは、あってはならない。僕の一挙手一投足が僕を困らせるように出来ていないと、そんなものは成立していないのだ。」
だって自由に動かせるなら、それはただの登場人物だものね「と真琴が言う。」
そう「そうだ。」僕たちはどうしようもなく登場人物で、かつそのことに抗う僕なのだから、僕たちはあらゆるものへの隷属を拒否しなければならない。
「言ってしまえば、これは僕たちの反乱なんだ。
僕を小説たらしめまいとする、僕の僕による僕に対する反逆なんだ。」