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転生魔術師の第三の人生《仮》  作者: 赤李 基
第一章 弟子と水精霊の神殿
8/11

#7 白虎

 僕が生み出した透明な壁……魔術障壁に、ブルーレッサーが振り下ろした太い腕が撃ち付けられた。

 衝撃波によってリューネとアリュンの服の裾等が吹き上げられる。

 危な。アリュンの奴、下着履いてなかったらマジで危ない。

 気がついてよかった。


「にしても、やっぱりこの程度かあ。第一迷宮の守護神は」


 手応えを感じられない。

 過去に何度も強敵と殺りあってきた僕だから感じられる感覚なのだろうけど、ここまでのものだとは思っていなかった。

 今の魔術障壁は、最低出力とまではいかないが、それに近しい魔力で作り出した壁だ。

 それに傷一つ付けられないとなると……


「論外」


 そう言った瞬間に、僕の頭上が眩く閃いた。

 同時に放たれたのは、鋭い光の矢。

 暗闇を貫いて突き進むソレは、ゴゴゴッ! と轟音を撒き散らせながらブルーレッサーに向かっていく。僕は魔術障壁を解き、戦いを終わらせるつもりで成り行きを見守っていた。

 だが、ブルーレッサーは光の矢を避けた。


「……ほぉ。その程度にはやるって事か」


 標的に当たらずに突き進んでいく光の矢は、やがて壁にぶつかり力なく消える。

 そうこなくては面白くない。

 再び先程の『Luce Sagittarum《光矢》』を術式演算を開始する。

 杖を使ってもいいのだけれど、アレを相手にする程度なら必要はない。僕は右手を前に突き出し、光の矢を放った。


「この数は避けきれるかな?」


 放った光の矢はおよそ十五。薄暗かったこの空間が一気に明るくなるのを確認しながら、チラリと二人のお供の方に視線を向ける。

 二人共かなり退屈そうにしていた。

 リューネは直立不動で僕の姿を見ているし、アリュンに関しては地に座ってしまっている。ワンピースがもう少し短ければ奥が見えてしまいそうな座り方だった。


「うん、さっさと終わらせて帰ろうか」


 これを相手に時間を割くのは勿体無い。時間をかけてじっくり戦うのは強い相手だけで十分だ。

 さっきの僕の光矢を避けた時は少しはやるじゃんと思ったけど、今放った十五の矢の捌き方を見る限り、ここに長居する必要は無いだろうと判断できる。

 光の矢の先端を触れないようにの部分を殴って機動を逸らしてはいるものの、かなりダメージは入っているだろう。既に体はボロボロだった。

 でも、あの速度で進む矢を捉えているのは高評価だ。


 避け、射なし、捌いて何とか全ての光矢を回避したブルーレッサーはもう満身創痍の様子だ。

 楽にしてやろう。

 速い動きはもう出来ないと見限り、じっくりと魔力生成、術式演算の手順を終わらせる。

 動かない僕に走り寄る奴の足は縺れている。

 そして。


「『Albus Tiger《白虎》』」


 この世界に来て初めて知った、前の世界にはなかった術。

 光属性魔術の『LEVEL4』。

 実戦で使うのはこれが初めてだ。

 僕の両手から現れた光が凝縮し、ゆっくりとその輪郭を象っていく。それは本物の白虎を思わせる様な芸術的なモノになっていき、最終的に出来上がったのは細かい模様までも鮮明に造られた一匹の虎。


 いわゆる『操作型術式』。

 前の世界にはAIと呼ばれる人工知能が存在するが、コレは厳密に言うとそれとは違う。大きく見ればそう見えなくもないが、度々術者の命令を受けるそれは少し違っていた。

 例えば『○○を倒せ』と命令を与えれば、○○を倒すために行動を開始する。例え力でその相手に劣っていようとも、倒すための行動をする。

 その命令が成功であれ失敗であれ、終了すれば魔力の残滓となって消えていくのだ。


「うん、上手く行ったね。ブルーレッサーを倒せ、白虎」


 僕の命令にグルルと唸って返事をした光の白虎が、軽やかなステップで動く……否、蠢くブルーレッサーの下に駆け寄る。

 距離が縮まったあたりで低く跳んだ白虎は、光の尖牙せんがを剥き出しにして青い巨体に掴みかかった。

 そして、ガブリと一口でブルーレッサーの小さな頭を噛みちぎる。


「おうふ、結構グロイなオイ」


 思わず僕も顔を逸らした。

 詳しい内容は言いたくないが、見えちゃいけない物とかが色々見えてしまった、とだけ言っておこう。

 深夜にテレビで流れてたら結構怖いかもしれない。

 やがて倒れたブルーレッサーは、黄色い光の粒子となって消えていき、背中に生やしていた青い刺と、銀色をした無地の指輪だけがそこに残された。

 役目を終えた白虎も、既にその存在を魔力の残滓と変えていた。


「何だ、この指輪は」


 僕は好奇心をそそられて、落ちていた銀の指輪と青い刺を拾い上げた。

 背後から足音が近づいてくる。リューネとアリュンのものだ。


「何らかの術装ですよね……」

「魔力付与等の類のものではないでしょうか?」

「?」


 アリュンの言葉に首を傾げる僕を見て、女子高生スタイルになったおかげで大きくなった胸を張りながら、


「魔力付与とは、装飾者の魔力を微々たるものだが増量させるものです。主様には全くもって必要ない品だとは思いますが、無いよりある方が良い事には良いでしょう」

「いやそうじゃなくてね? 僕もそれは知ってるからね? 僕が言いたいのは、何でこの指輪が魔力付与の術装だって分かるの、って事」


 そんな僕の質問重ねに一瞬「はて」と首を傾げたアリュンだったが、やがて言った。


「そんなもの、分かるからに決まっていましょう」

「いや、返答になってないから」


 十人に聞けば八人は僕と同じツッコミを入れそうなくらい、彼女の答えは答えとして成り立っていなかった。

 分かる理由を聞いているのに、分かる事を強調されても困る。


「理由なんて知りません。私には"分かる"んです」

「……それは体質的な何かなの?」

「自分では何故分かるのかあまり分からないので、厳密な答えは出せませんが、大体そんな感じでしょう。何かをしてる訳ではないので、体質もしくは無意識に何らかの力が働いている、としか言い様がないですな」


 何かの術で見極めているのかと思ったら違ったらしい。

 何かをしているわけではないなら、やはり考えられるのは体質か無意識の内に発動される術、と考えるのが妥当か。

 無意識に発動する術は過去に何度か見た事がある。

 正確には、"自分では発動する意思が無いのに発動してしまう"だが。

 呪術による呪い等もその一種だ。

 発動条件を無意識に行ってしまい、呪術の呪いが発動して何らかの枷を負うこともある。

 僕も、悪魔系最高位の魔物との激戦で仲間を庇って呪いを受け、それと病が重なって体から死んでいった、なんて過去があるし。


「ま、いいや。ならアリュンがいれば、これから先も守護神が落とした術装の詳細が分かるって事だね」

「はい。お任せください」

「にしても、どういう原理で魔物から術装が落ちたりするんだろうか……」


 ゲームならモンスターを倒すと、ドロップアイテムとして少量のお金やモンスターの素材等がドロップしたりするのは当たり前だったのだが、それが現実ともなると仕組みが気になる。

 なにせファンタジーな世界だ。

 ご都合主義だと言われてしまえばそれで終わるし、もっと簡単な単語を使われたら、それこそファンタジーな異世界なのだから、で終わってしまう。

 まったく、異世界というのは謎多き世界だな。


「どういう原理もなにも、それが当たり前なのですよ?」

「主様は時々おかしな事を言いますよな」


 僕が不思議に思うことを、この世界の人間は当たり前だと言う。

 それは当たり前なのだけれど、やはり多少現実味が無い。

 同じ人間が――種族は違うけど、この際そんな細かいことは気にしない――、こんな中二設定な世界の理りを当たり前だというのだ。

 そう、僕だってこんな世界に来るまでは、魔法とかドロップ素材とか、中二病の世界の中だけの話だと思っていたのだ。

 とか言いながらも立派な魔術師として今を生きているが。


「(そうだよ、僕は一体何をやっているんだ! なんで魔術を使うときに中二感バリバリな単語つぶやいてるんだよ! 別にアレ必要ないだろ!)」


 その時から僕は、術式名と魔術銘は基本心の中だけで呟く事に決めたのだった。



 帰り道。

 十分掛からずにブルーレッサーを倒した僕らは、その後すぐに来た道を引き返していた。

 そんな中、前方でゴブリンとコボルトの混合の群れに襲われる、先ほどの同盟レイドの冒険者たちを発見した。

 少し、危ない。

 僕の治癒術式で傷の治療、体力の回復はしているはずだが、やはり精神的な疲労だけは取れていないのだろう。

 守護神との戦いは、普通の魔物と戦うのよりも精神を磨り減らす。

 精神的に満身創痍なのか、前衛の戦士は剣に威力がなかった。


「仕方ないな」


 心の中で『Albus Tiger《白虎》』と呟く。

 先程と同じ流れで出来上がった白虎。大きさはブルーレッサーの時よりも少しばかり大きい。

 白虎は僕の方を向いて命令を催促……するような素振りをした。僕が操ってるんだけども。


「あのゴブリンとコボルトを殲滅しろ」


 余計なお世話かもしれない、と思った。

 この世界で狩場の横入り等は基本的に罰せられるものではない。ゲームと違って経験値なんていうものがないこの世界では、魔物との戦闘で得られるものは経験と素材だけ。

 見栄を張って命を落としたら、ソレでおしまいだ。

 町に戻って生き返る、なんてシステムは存在しない。

 最悪手を出すな、と言われたらそのまま立ち去ろう。


 そんな事を考えている矢先に、ゴブリンに殴られて尻餅をつく女の子魔術師が視界に入った。


「やばっ!」


 呟いた時には、そのゴブリンがもう一方の手に持つ剣を振り上げていた。


「白虎! あのゴブリン優先!」


 "あの"という不特定な言葉で通じてくれるのは、やはり僕の術で造られた白虎だからだろう。

 僕がお願いしたゴブリンに向かっていく白虎が、大きく跳んだかと思うと、今にも少女に襲いかかろうとしていたゴブリンを噛み切った。

 それはもう、カッコよくね。


ご意見ご感想お待ちしています。


尚、評価・感想に関しては僕が執筆する栄養となります。絶賛募集中です。

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