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転生魔術師の第三の人生《仮》  作者: 赤李 基
第一章 弟子と水精霊の神殿
7/11

#6 ブルーレッサー

10/28 術装についての描写追加。なんか以前に書いた気もするがデジャブ?

    気のせいじゃなかったら教えてください。

 『第一迷宮』とは、この世界に存在する無数の迷宮の中で、一番最初に現れた迷宮の事を指す。

 その他にも第二、第三と段々続いていて、未だ攻略が終わっていない迷宮は『第三十六迷宮』と言う、三十六つ目の迷宮だ。

 元々迷宮の存在が発見されたのが最近で、攻略はそんなに進んでいない。


「んで、迷宮攻略に勤しむ人の目当てって言うのが、発見される宝のような術装って訳ね」


 迷宮は、何故か宝箱があったり、守護神が佇む部屋の奥に術装があったり、守護神を倒したら何かしら術装が手に入ったりと、攻略できれば金儲け間違い無し、しかし命の危険が大きい、そんな場所だ。

 僕もその内最前線の攻略組に混ざってみようかなあなんて考えてはいるが、どうも第一迷宮から順繰りやっていかなければいけないらしい。

 術装と言うのは魔術的な力が付与された道具のことを指す。


「そうなりますな。術装って言っても、戦闘に使うものだけではなく、日常的に扱える物等、様々ですが」


 アリュンが風に吹かれて持ち上がるワンピースの裾を抑えながら付け足す。

 ……いや、ちょっと待て。

 今僕は見てはいけない物を見てしまったような気がしてならないのだが……コレは問いただすべきか?

 問いただすべきだろう。


「おいアリュン! お前、パンツ履いてないだろう!」

「ぬっ!? 主様、ま、まさか、見えてしまったのか!?」

「見えたわ! モロ見えちゃったわ! いいからお前何か履け! て言うか、今までずっと履いてなかったのか!?」

「主様に初めて会った時にリューネの物を貸してもらいましたが、いずいからすぐに脱ぎました」

「絶対やめろ」


 その後僕らは服屋に寄り、即席で買った下着をアリュンに履かせた。

 全くもう。

 少しは恥じらいというものを持って欲しいものだ。


 ――転移門前。

 時間帯がピークなのか、行き交う冒険者の量が昨日よりも多かった。


「よーし、んじゃあ第一迷宮、もっとも難易度が低い迷宮だ。サクッと守護神倒して帰ってくるぞー」

「リ、リオンハート様、基本的に迷宮の守護神戦は同盟レイド……パーティを集めて戦うものなんですが……」

「大丈夫だって。確か第一迷宮は全三階層だろ? ちょっとまずいなあって思ったら引き返せばいいさ」


 自信満々に親指を立てる僕を見て、しかし心配そうな表情を戻さないリューネ。

 はっきり言って負けるはずがない。僕、リューネ、そしてアリュン。この三人ならば、第一迷宮の守護神ごとき余裕のよっちゃんだろう。

 アリュンは薄らと笑い、ワンピースの上から股のあたりをまさぐりながら、


「そうだぞ、リューネ。主様だけで十分だろう。何せ、第一迷宮だぞ? 最も難易度が低い迷宮なのだ、余裕だろう」


 どうやら下着の感触が気になるらしい。

 危ない、コイツは本格的に危ない。今まで下着を身に付けていなかった事とか凄い危ない、なんて考えながら小さく溜息をつく。

 転移する冒険者の列に並んでいた僕らだったが、やがて順番が回ってきた。


「それじゃあ行くよ? ……転移、第一迷宮」


 門の中心に立ち、少し大きめの声でそう言った。

 すると、僕の声に反応した転移門が青白い光を瞬かせる。僕らの体は徐々にそれに包まれていき、やがて視界が真っ白に染まった。

 真っ白い光が消えた時、僕らは第一迷宮の前に立っていた。


「ここが……第一迷宮か」


 木々に囲まれた平地に、巨大な洞穴があった。階段が下に続いていて、人工的に施された明かりが灯されていた。

 三階層もあるのだから、下はかなり深いのだろう。


「私は冒険者登録していないから迷宮に入るのは初めてだ」

「……リオンハート様、本当に大丈夫ですか?」


 相も変わらず心配している様子のリューネの問に淡々と答える。


「大丈夫だって。ホラ、行くよ」

 

 そして僕らは、既に攻略済みの迷宮区に続く階段を下りていった。



   *



「パーティリーダーはギルドカードの提示をお願いします」


 迷宮に入ってすぐの所にテントが張られていて、そこにいたギルドの職員が手を伸ばしてきた。

 どうやらここは安全区域らしい。道が二つに分かれていて、その先を行けば魔物が動き回る、本当の迷宮になるのだろう。

 迷宮といっても既に攻略されていて、ただの洞窟みたいな感じなのだが。


「はい」


 パーティリーダーは僕なので、コートの内ポケットからギルドカードを取り出して差し出した。

 受け取ったギルド職員は何やら作業を開始した。

 数分後、お礼と共に返されたギルドカードを再び内ポケットに入れる。


「地図の方はどう致しましょう? 一枚五百Rです」

「あー……それじゃあお願いします」


 その後、地図を購入して僕らは第一迷宮の探検を開始した。



 現れるのはゴブリンにしてはかなり小さい、小型ゴブリンやコボルトと言った人型の魔物。

 正式名称をスペンドゴブリンとスペンドコボルト。

 スペンドゴブリンは、緑色の体に黄色い目、小さな布を腰に巻きつけ、片手に小さな棍棒を持った危険度Eの底辺の魔物。

 スペンドコボルトも同じく危険度Eの魔物で、ゴブリンと違う所と言えば体が黄土色な所くらいだ。


 それが群れを成して襲いかかってくる。

 どういう事か、迷宮内では魔物が無限に湧いてくるらしい。そのため、攻略済みの迷宮にもこうして入る事が出来る、という事だ。

 リューネが黒い剣『レーデン』に付いた緑色の血を振り払いながら言った。


「全く、この迷宮にはゴブリンとコボルトしか出ないのですか? こういうのを確か、リオンハート様語でサギョウゲーと言うのですよね」

「ごめん、変な知識植え付けてごめん。それと、リオンハート語とかそういいうのじゃないから。まじでごめん」


 なんとなく罪悪感に襲われて謝る僕に首を傾げるリューネ。

 アリュンが退屈そうに、


「このままだと時間の無駄だと思うのだが……。さっさと先に進むべきでは?」

「うーん……確かにそれもそうだね。さっさと三階層の守護神の所に行こうか」


 壁に施された『照明石』と呼ばれる光る石の明かりだけでは物足りないため、光属性の初歩の術『Lux《光》』を大量に作り出して周りに浮かばせた。

 その後も何回かゴブリンやコボルトの群れに遭遇するも、リューネとアリュンが容易く倒していく。

 本格的に退屈になったので、早足で下に繋がる階段の下に向かうと、そこには一匹のゴブリンが佇んでいた。


「あれが階段の守護獣か」

「普通のゴブリンにしか見えないのですが……、あれもスペンドゴブリンですか?」

「今までのより少し体が大きいだけだろう。それと、アレは普通のゴブリンだ」


 迷宮の階段にはそれぞれ守護獣と呼ばれる、言わば中ボスの様な魔物が存在する。

 この階の階段を守護する魔物はただの『ゴブリン』だったようだ。


「うん、僕が手を下すまでもないね。アリュン、やって」

「御意」


 淡々とした動作で右手を突き出したアリュン。その手の平が白く発光したかと思えば、軽い衝撃波を当たりに撒き散らせながら光のレーザーが突き放たれた。

 僕との模擬戦で使っていたアレだ。だが、今回はかなり加減……と言うより手抜きの様だが。

 威力が昨日の十分の一以下だ。

 でもまあ、ゴブリン相手なら妥当な威力だろう。

 『Lux《光》』と照明石のみに照らされていた洞窟内が一瞬明るくなり、そしてやがて暗くなる。


「わお、一撃」


 そこに既に、ゴブリンの姿はなかった。


「当たり前です、主様よ。少し忘れられているようだが、私は聖獣ですぞ?」

「基本的に人間の姿ばかりだから時々忘れそうになるけど……そうだな、アリュンは狼だもんな」

「聖獣です」


 ここ最近……と言うか二年程狼の姿になっていないアリュン。

 確かに人の世界で住むならば人の姿から態々狼に変身する必要もないだろう。


「よし、行こう」



 その後も僕らは同じペースで迷宮を歩いた。

 出てくる魔物はゴブリンやコボルトばかりで、リューネもアリュンも瞬殺してしまうレベルだった。

 僕は未だに、迷宮に入ってから戦っていない。

 唱えた術は『Lux《光》』くらいだ。

 優秀だ。仲間が優秀すぎて僕の存在意義がない。


「どうしたのか主様。そんな悲痛そうな顔をして……?」

「体調が優れないのですか? 今から引き返して安静にしていたほうが……?」


 二人の優しさが心に突き刺さる。


「別にっ。僕の存在意義がなくて拗ねてるだけだしっ」


 相当幼稚なことを言った自信がある。

 そんな僕を見た二人がフォローしてくる。


「そ、そんなことはないですよ? 私達はリオンハート様がいるから安心して戦えている訳であって……ッ!」

「そ、そうですぞ主様。それに私達は元より、守護神は主様に任せるつもりで今戦っているのです。なあ、リューネよ?」

「は、はい。その通りです」


 ……。

 まあ、いいや。


「次はオークですか」


 リューネの一言に、視線を階段の方へと向ける。

 そこに立っていたのは、一体の大きなオーク。何の特徴も持っていない、太った裸の奴だから、ただのオークだろう。

 片手に木の盾、片手に石の剣を持っている。


「どうする? アリュンがまた吹き飛ばす? それとも――」

「私が行きます」


 リューネがそう言って一歩前に出た。

 背中から二本の剣を抜く。


「ん。任せた」

「はい」


 そういうのと同時に、リューネは動き出す。

 ようやくこちらの存在に気がついたオークも、盾と剣を構えて迎え撃つ。

 だが。


「はァっ!」


 リューネの斬撃の方が早かった。

 彼女はオークに攻撃の間を与えることなく、レーデンを振り上げていた。

 咄嗟に状況を判断したオークが、剣を引いて木の盾を構える。


「そんなものじゃ私の剣は防げません!」


 振り下ろされた黒い剣が容易く木の盾を叩き割り、そしてそのままオークの左腕を斬り落とした。

 赤い血が吹き出る中、リューネは顔色一つ変えずに引いていたもう一本の鉄の剣を振るう。

 その剣舞は、オークに悲鳴を上げさせることすら許さなかった。

 交互に振るわれる剣撃にズタズタにされたオークが、赤い血を吹き散らしながら地に伏した。

 いつもの動作で剣に付いた血を払ったリューネが側に寄ってくる。


「お疲れ」

「はい。さあ、先に進みましょう。次は守護神の間ですよ」

「ああ。そうだな」


 守護神の間。

 ようやくこの迷宮で最も強い魔物の登場だ。

 僕の退屈を凌いでくれる相手ならいいんだけど。



 階段を下りていくと、そこには巨大な扉が一つ佇んでいた。

 鬼のような顔が浮き彫りにされていて、その目は赤く光っている。

 アレは、中で誰かが戦闘している事を示す光だ。渡された地図にも、守護神の間についての情報だけは細かく記されていた。


「なになに、この迷宮の守護神は『ブルーレッサー』だってさ」

「ブルーレッサーと言えば、あの青くて大きなトカゲの様な魔物ですね?」


 僕の言葉に反応したリューネが、人差し指を顎に当てて呟いた。


「危険度はC。でもまあ、主様なら余裕でしょう」

「うん。僕一人でやるから二人は後ろで待っててね」

「も、元よりそのつもりだと……ッ」

「そ、そうですよ」


 僕が敢えて機嫌悪い風に言うと、二人が慌てて言ってくる。

 それを聞いてニヤッと笑いながら呟く。


「冗談」


 そんな僕の言葉は、扉が開かれる音によってかき消された。

 中から出てきたのは十数人の冒険者。

 それぞれが防具のあちこちに傷跡を残し、酷い者では仲間に方を貸してもらっている者さえいた。

 魔術師二人、盗賊二人、戦士が五人に剣士が三人、か。

 この同盟レイド、仕方ないことではあるが魔術師が少ない。傷が治っていない者がいるところを見ると、おそらく治癒術式を使えない、もしくは使えるだけの魔力が残っていない、か。

 皆が皆、駆け出し冒険者と言った様子だった。

 少し安心。


 なんて考えていると、僕達に気がついた冒険者の一人が声を掛けてきた。


「お、お前ら……三人でアイツに挑むつもりなのか? 小さな女の子だっているじゃないか……」


 戦士の男がアリュンに視線を向けてボソリと呟く。

 それが聞こえていたのか、アリュンは足音を立てて僕の側まで来ると、


「これでも私が子供だと言えるか!?」


 言うやいなや、キスをしてきた。

 そう、これが僕が彼女に魔力を供給する方法である。

 体内から魔力が吸い取られていくような感覚を味わいながら、僕は目を閉じた。なんかこれは、キスをしているのにキスじゃない感覚があるから恥ずかしくはない。

 でもこんな人前でやって、リューネが怒ったり、あの冒険者達がアリュンの事を聖獣だって気がついたり、リューネが怒ったり、リューネが怒ったりしたらどうするつもりなんだか。


 やがて唇を外したアリュンは、女子高生を想像させる体型となっていた。

 身長は僕より少し大きいくらいで、ワンピースの胸の辺りは大きく膨らんでいる。銀色の髪は先ほどより伸びていた。

 そんなアリュンの姿を見て目をパチクリさせる冒険者達に、苦笑しながら言う。


「そ、そういう事なんで、行きますね」


 大きくなったアリュンと、少し機嫌が悪いリューネと一緒に数歩歩いた所で思い出し、術式詠唱を開始する。


「癒せ。『Wang lux sanitas《治癒光・王》』」


 術が展開し、傷ついた冒険者たちを囲う様に光が現れた。

 王位以上の治癒術式になると、広範囲治癒が可能になるのだ。

 傷が完璧に癒された事に驚いた冒険者達が、手を開いたり閉じたりしている中、僕達は扉を開けて中に入った。

 扉が閉まる瞬間、奥から「ありがとう!」と言う声が聞こえた。


 視界に入ったのは、青い物体だった。

 背中からは無数の刺を生やし、手から伸びる爪は鋭く尖っている。青い体に赤い瞳、垂れる唾液は正に魔物と言った雰囲気を醸し出している。

 青の巨大トカゲ。

 図鑑で見た通りの形をしていた。

 黒い空間を、僕が作り出した光が照らしている。

 そんな中僕とブルーレッサーが激突した。


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