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転生魔術師の第三の人生《仮》  作者: 赤李 基
第一章 弟子と水精霊の神殿
6/11

#5 フラグ

 そして僕達は屋敷を出て、再び街の方へと向かって歩いていた。

 既にポーチの中に詰めてあった荷物は屋敷に置いてきていて、中身は財布以外空っぽである。

 郊外の方は建物がかなり少ない。

 僕達の屋敷も含めて十軒あるか無いかで、土地に関して言えば畑か森もどきがあるだけ。

 何ていうか、のどかな場所だった。


「でもま、田舎暮らしだった僕らは都会よりこっちの方がいいな」

「確かにそれもそうですね」


 僕の呟きにリューネが反応する。

 先ほど歩いていただけでも、街中の賑わいはよく分かった。おそらく静かにしていたい時があっても、家の外は常にあんな感じなのだろう。

 それに比べてこっちは静かだ。


「にしても巨大な城壁ですな」


 アリュンが郊外のそのまた外側に造られた巨大な城壁を見ながら呟く。

 間近で見たから高さはわからないが、この距離から見ても大きく見えるんだ。相当な高さなのだろう。

 城壁の外から入ってくる人用に、門は合計四つ、南北東西に一つずつ設置されている。


「どうやって作ったんだろうねえ、あんな大きな壁」

「おそらく地属性魔術か何かでしょうな。あれほどの大きさの城壁を造るなら、相当な魔力量・技術を持つ魔術師でなければ難しいでしょうが」

「ふーん、てことはアレをやったのは物凄い魔術師って事か」


 少し興味が湧いてきた。

 あんまり自惚れしている訳じゃないけれど、僕より凄い魔術師がいるならば是非とも会ってみたい。

 別に僕は魔術師の頂点とか、世界の頂点とかそんな物騒な夢を掲げているわけじゃない。

 純粋に魔術が好きで魔術師をやっている。

 死んだ時以来、精神の進歩はかなりスローになっている。精神年齢はもう六十に近づいているのに、少年の心()を忘れていないのだ。

 こんなファンタジーな世界に憧れていたことを思い出す。


「もしかしたら主様も出来るかもしれませんな。魔力量も規格外なようですし」

「その規格外っての止めてくれないかな? なんか僕が常識から逸脱した人みたいな感じになってる」


 僕が苦笑しながらアリュンにお願いすると、顔を逸らして「実際に規格外だし」と呟くのが聞こえた。

 否定できないのが辛いけど、魔力量は多いに越したことはない。

 魔術師は魔力が命とも言える。魔力量が多い人ほど有利だし、少ない人ほど不利だ。

 魔術の威力を決めるのは使用魔力量と術式演算の完成度、この二つだ。

 戦闘中に魔力が切れた魔術師は、それ以降はただのお荷物にしかならない。


「でも実際にリオンハート様は凄いです。十歳の頃から魔力切れを見せた事はありませんし、『LEVEL5』の術を使っていますから」


 魔術には階級がある。

 それをLEVELと称し、一から五までの五段階。数字が大きくなるにつれて威力・効力共に上がっていく。

 僕はいわゆる『氷魔術師アイスメイジ』という魔術師に分類されていて、その名の通り氷属性の術が得意だ。

 氷属性のLEVEL5の術ならばほとんど使えると言っても過言ではない。

 もっとも、この体になってから全て試したわけじゃないが。

 ハッキリ言って使う場面が全然ない。


「まあ、氷属性は得意だからね。拙いけど、一応使えるよ」

「でもLEVEL5を十歳の時から使えるのは凄いことだと思いますが」

「そうですよ。そんなに謙遜されなくても……」


 謙遜するなって……ドヤ顔でもすればいいのか?

 自分で言うのもアレだけど僕はそんな性格じゃない。

 明らかに格下の奴に見下されるのは気に食わないけど、普通の評価をされるのは嫌いではない。

 前の世界でも天才魔術師だって威張っていたわけじゃないし。


「……それにしても、本当に魔術師は少ないんですね」


 辺りを歩く冒険者をチラチラ見ながらリューネが言う。


「まあ、僕も含めて家族に魔術師が四人もいたからね。実は魔術師多いんじゃ、って錯覚してもおかしくはないな」

「……あの、お言葉ですが、三人の間違いではないですか?」


 僕の言葉に首を傾げながら聞いてくる。


「え、何で?」

「いえ、リオンハート様にディアナ様、リシア様の三人かと……」


 ちなみにディアナが母でリシアが姉だ。

 いや、リューネ。流石に忘れるのはひどいと思うぞ?


「いやいや、レオネさん忘れてない?」

「え……?」

「レオネさんもリューネも、もう僕の家族だって言っただろ」

「……リオンハート様、あ、ありがとうございます……ッ」


 感極まったのか目尻に涙を貯めている。

 前々から言ってるけど、もうリューネもレオネさんも立派なシャオラン家の家族だ。

 リューネ=シャオラン、レオネ=シャオランに変名してもいいくらいに。


「わ、私はどうなのだ!?」


 見つめ合う僕とリューネの間に割って入ってくるアリュン。

 彼女の銀色の瞳はいつも以上にキラキラ輝いている。

 ……そんな顔されたら少しイジめたくなっちゃうだろう。


「え、ただの僕の従者」

「ひっ……ッ!?」


 僕の言葉に驚き、悲痛等と言った感情がごちゃまぜになった様な表情を見せるアリュン。

 流石に可愛そうだな。


「嘘だよ。アリュンも僕の家族だ」

「ほ、本当でしょうな!? 本当にそう思っているでしょうな!?」

「うん。家族なんだから家族らしい接し方してね」

「「うっ!?」」


 僕の言葉に二人が息を詰まらせる。

 ん、どうしたんだ?

 僕は家族同士なんだからあまり堅苦しくしたり、遠慮したりは極力やめようね、っていう意味で言ったんだけど……何か問題があったのだろうか?


「や、やっぱり私は家族じゃなくていいです……」

「わ、私もだ……」

「えー?」


 僕の家族が本日二人減りました。



   *



 行き交う人々の中をうねる様に歩いて、転移門から屋敷に向かう時に発見した服屋に来ていた。

 一階建ての建物で、窓ガラスの奥には沢山の服が並べられた棚が見える。

 持ち金は二十万Rレン。全部使う訳には行かないので、あまり高すぎる服は買わないように気を付けよう。


「よし、それじゃあ一人一万Rまでな。すぐに冒険者活動を初めて金を稼ぐ予定だけど、効率的に使うぞ」

「分かりました」

「分かっている、主様」


 そうして皆、バラバラに私服を物色し始めた。


 数十分後、それぞれ買う事に決めた服を僕がカウンターに持って行き、精算する。

 合計額は三万Rを少し下回った二万七千Rだった。

 僕が購入したのは黒いズボンに黒いスウェットシャツ、フード付きジャケット等、真っ黒づくし。

 リューネはいつもメイド服だったが、少しは着飾ってみてはどうだ? と言う僕の言葉を聞き、トップスやワンピースをいくつか。

 アリュンはワンピース一択の様だ。


「取り敢えず第一目標は達成だな」


 言いながら購入物をポーチに突っ込み、次の目的地の商店街へと向かった。

 目的は食料品だ。

 立ち並ぶ露店。その中で主に食料品が取り扱われている所へ向かう。


「じゃあ、食べ物に関してはリューネに頼むね」

「分かりました」


 言いながら物色を開始するリューネ。

 十数分かけて沢山の食料品を選び、購入したものをポーチに入れていく。

 流石に雑に扱えないため、ゆっくり丁寧に。

 もっとも、空間操作、拡大の術が掛けられている今、ポーチの中は異空間となっていて、まんま某四次元ポケットの様になっているのだが。


「もう大丈夫か?」

「はい。これくらいで十分でしょう」


 その後僕たちは街の中を一通り探検して、これから通う事になるだろう店の場所を把握し、屋敷に帰った。



 翌日。

 リューネの作る朝飯を食べ終えた僕達は、街の冒険者ギルドに向かっていた。

 場所は昨日確認してある。

 冒険者ギルドは南北東西に一つづつ置かれているようで、僕らの屋敷から一番近いのは東支部だった。


「ここが冒険者ギルドか。……前のとことあんまり変わらないな」

「前のとこ……ですか? リオンハート様は何処か他の街のギルドを見たことがあるのですか?」

「え? いや、前のとこって言うか、何かの本で見たって言うか、ね?」


 真っ平な嘘である。

 赤い屋根の巨大な建物の扉は、どういう仕組みか自動ドアになっている。

 いつまでも扉の前に立っていたら出入りする人の邪魔になるため、僕達はそのまま中に入った。

 念の為、皆外に出る時用の装備をしている。


「おぉ、皆武装している……」


 中に入ると、視界にはまず大量の冒険者の姿が映った。

 巨大な階段が左右に存在し、三階建てとなっていた。一階は椅子やテーブルが並べた食事処の様な場所になっていて、昼間だというのに満席だった。

 近くの案内板を見ると、二階はギルド職員の部屋。三階が何やら情報の管理室やらお偉いさんの部屋やら、僕らがこの先踏み込むことがないようなフロアになっている様だ。


「にしても、私服で来なくてよかったなあ。絶対舐められてた」

「確かにそれはそうですな。喧嘩を売られて主様が返り討ちにするシチュエーションが見え見えです」

「やめろ、そんな安易なフラグを建てたら武装してたって絡まれる」


 アリュンに指摘しつつ、僕らはカウンターの方へと向かう。

 そこには在り来りな赤・黒・白で彩られた、いかにも受付嬢! と言った服装をした綺麗な女性が立っていた。

 おそらく登録はあそこでするのだろうと思い近づくと、僕らに気がついた受付嬢がパァッと明るい笑顔を浮かべて聞いてきた。


「こんにちわ。冒険者ギルドにようこそ! 本日の要件はいかがですか?」

「えーと、三人、冒険者登録したいんですけど」

「冒険者登録……ですね、かしこまりました」


 そう言うや否や、受付嬢のお姉さんはカウンターの奥へと入っていく。

 一瞬怪訝そうな表情を見せたのを見逃さなかったが、問い詰める必要もないだろう。

 少し経った頃に、三枚の小さなプレートを持ったお姉さんが帰ってきた。


「それではこちらのプレートに血を一滴垂らしてください」


 言いながら小さなナイフを一本づつ渡してきたので、言うとおりに指先を少し切って、透明なプレートに垂らした。

 直後、真っ赤に染まったプレートに文字が浮かび上がり、やがて赤色が引いていく。

 最終的にできたのは、黒い字で何やら色々書かれた透明のプレート。


「これが冒険者の証、ギルドカードになります。なくさないように気を付けてくださいね」

「ありがとうございました」


 なんて簡単な手順なんだ。

 前の世界では紙に色々個人情報を書かされたりしたけれど、血を垂らすだけで終了とは。


「見習いの冒険者はEランクから始まります。よって、受けられる依頼はEランク、もしくはFランクのモノのみになりますので、ご了承ください。クエストボードはあちらになります」


 言いながら食事処の奥を指す受付嬢。

 クエストボードって、どこぞのゲームを思い出すな。


「ありがとうございます」

「いえいえ。それと、パーティ登録についてですが……今してしまいますか?」

「えーと、パーティって組まなきゃいけないものなんです?」

「そういう訳ではございませんが、迷宮に入る際はパーティ認証を必要とします。人数は一人から七人となっておりますが、いかがなさいましょう?」

「それじゃあお願いします。三人で」


 リューネとアリュンの方を見ながらお願いする。


「かしこまりました。それではギルドカードをお願いします」


 僕等のギルドカードを受け取って、何やら透明の紙とも板とも言えない何かに赤いペンで記載していく受付嬢。

 最後に『Fin.』と書くと、その透明な何かは明るく光った。


「これで登録完了となります。ありがとうございました」


 ギルドカードを受け取った僕等は、早速クエストボードなるモノが置かれる所に向かったのだが……。

 やはりアリュンのフラグは回収された。


「おい、そこのお兄ちゃん。新入りか? 女二人のパーティとか、舐めてんの?」


 僕の後ろに立つ小さな少女二人を見て、声を掛けてきた大男。

 背中に背負う得物は斧。前衛職のようだ。

 ……って言ってもなあ、男一人で女複数人のパーティは他にもあるように見えるんだが……あそこのテーブル囲っている人とか。


「いえ、そういう訳じゃありませんよ。僕は"多少"魔術が使えるし、後ろに二人も相当な手練です。お気に為さらずに」


 面倒事は回避したい。

 頬がピクピクと引き攣る感覚を覚えながらも、僕はなるべく穏便な口調で返した。

 謙遜、これ重要。


「ほう、そうは見えねえがなあ? ガキ共が遊び半分で来てんなら気に障るから帰ってくんねえか?」


 あれ、もしかして冒険者ってみんなこんな感じなの?

 確かに冒険者なんて職業は、常に死と隣り合わせだから荒くれ者が多そうなイメージはあるけど、ここってその冒険者が人口のほとんどを占める都市でしょ?

 もしかして……ここって新米冒険者は場違いな感じなのかもしれない。

 だからさっき、受付嬢も変な表情をしたんだ。


「遊び半分なんかではないですよ。割と真剣な話をしているつもりです」

「……ほう」


 思わず僕も反抗的な目で見返すと、ニヤリと笑った巨漢が身を翻した。


「せいぜい死なねえ様に気をつけるんだな」



   *



「なあ、もしかして冒険者ってみんなあんな感じなの……?」


 取り敢えずギルドの中にいるのが嫌だった僕は、クエストボードに向かわずに引き返し、ギルドを出たあと街を歩いていた。

 ゲッソリしたあ。

 確かに今思えば、冒険者の中にも新米っぽい人達は全然いなかった。皆が皆、冒険者歴が長そうな、そんな雰囲気を醸し出していた。


「仕方がないですよ。リオンハート様だけならまだしも、私達みたいな女の子供が一緒だったら舐められもします……」

「あの者共……私が聖獣だと知っての態度か? 主様が暴れてたら私も便乗していたところだったぞ」

「フラグ建てたのはお前だろーが」


 思わずツッコミを入れる。

 でも、どうしたことか。

 舐められないためにはやはり実力を見せつけるしかないのか。

 確かに僕らの装備も異常だったのかもしれない。

 僕は普通に見える黒コート、リューネはメイド服、アリュンに関して言えば普通のワンピースにしか見えない。


「……なあアリュン。今まで聞かなかったのはおかしいと思うけどさ、そのワンピース、一体なんなの?」

「何……と言うと?」

「いや、だからさ。普通のワンピースにしか見えないんだけれど」

「そう言う意味でしたか。コレは私の能力『光撃こうげき』によって作られた光のワンピースです」


 ……なんと便利な聖獣の能力。

 光撃だなんて言うくらいだから、戦闘性能しか持ち合わせていないと思っていたが、なんと防具まで作る事が出来るとは。

 もしかしたらコレを利用して一儲け……


「主様よ、今、私の能力で一儲けとか考えていたでしょう? このワンピースは私限定で装備できる代物だ。残念でしたな」

「そんな平然と心の中を読まれても困るんだけど」


 肩を落としてゲッソリしながら歩く僕の隣を歩くリューネが尋ねる。


「それでリオンハート様、私達は今、一体どこに向かっているんでしょうか?」

「え、どこってそりゃあ……」


 前方に見える大広場。そこに存在する巨大な門を指差しながら問に対する答えを呟いた。


「ちょっくら『第一迷宮』の守護神でも倒して、一気に成り上がっちゃおうとしてるだけだけど?」



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