#4 冒険者の都市ユースティア
冒険者の都市ユースティア。
人口の七割が冒険者と言われる、冒険者のための都市。
「……ここがユースティアか」
フィオンの町の転移門でワープした僕達三人は、ユースティアの大広場に当たる場所にある巨大な転移門の前に立っていた。
建物は中世ヨーロッパをイメージできるもので、歩く人々はその大半が武装をしている。
冒険者の都市。
確かに、普通の民間人の方が少なかった。
「主様よ。私達がこれから住むと言う屋敷は郊外にあるのだろう? 取り敢えず行ってみないか?」
「そうだね。見て回るのはその後にしよっか」
これだけ広くて、これだけ賑やかな場所なら見て回りたくもなるのだけれど、取り敢えず両親が僕にくれた屋敷を見てみることにしよう。
二人がこの都市で活動している時に使っていた屋敷なんだとか。
……掃除とかどうなっているんだろう。
流石に二人共、蜘蛛の巣が張ってある場所を上げよう、なんて言わないよね……。
「凄いですね、リオンハート様。人が沢山います」
「流石都市って感じだね。フィオンとは比べ物にならないな」
ポーチの中から、僕達が住む屋敷が建つ場所が記された紙を取り出して歩いていると、リューネがそんなことを言いだした。
歩いている内に、武器屋、防具屋、雑貨屋、質屋等のこれから通う事になるだろう店を見つける。
その一つ一つがフィオンよりも大きい。
「主様、思ったのだが……」
「ん?」
「転移門があるのだから、いつでもここに来る事は出来たのではないか?」
「……あ」
思わず紙を落としてしまい、リューネが拾ってくれる。
「確かにそうじゃん……。別に十五歳になる前にもここに来てよかったんだよ……」
ガックリと肩を落とす。
八歳の時に両親に冒険者になると伝えた時から、ここの事は聞かされていた。
それ以来七年間。僕はずっとここに来る事を楽しみにしていたのだけれど……別に十五歳にならなきゃ行っちゃダメとは言われていなかった。
「……やばい、凄い落ち込む」
「き、気にすること無いですよ、リオンハート様。今私達はここに来ているんですから」
「す、すいません……そんなに落ち込むとは思っていなかった」
リューネが慰め、アリュンが謝ってくる。
いや、いいんだよ? 僕が馬鹿だっただけだから。
「う、うん。もう大丈夫……」
リューネから地図の紙を受け取って、気を取り直して街を歩く人々に目を向ける。
冒険者ばかりで、背中に大剣を背負う者や、二本の剣を背負う者、ローブを着た魔術師風の者など、沢山いた。
二刀流って結構沢山いるようだ。父さんとリューネが珍しいんだと思っていたけど、どうやら認識違いだったらしい。
あ、リューネに剣を、二刀流を教えたのは僕の父さんです。
「二刀流って、二本の剣を扱うのが難しいからって言う理由で、ゲームとかだと上位職とかだったんだけどな」
「ゲ、ゲーム? ジョウイショク? 何ですか、それは?」
僕の呟きが聞こえていたリューネが尋ねてくる。
この世界にはゲーム、漫画、ライトノベル等と言った娯楽が無い。
その代わり、剣や魔術などといった、今時の日本男児が憧れるファンタジーな要素がある。
そんな娯楽が無い世界の人が、ゲームの専門用語等知っているわけがない、か。
「いや、何でもないよ。気にしないで」
「そ、そうですか……」
にしてもこれ以上は誤魔化しきれないような気がする。
無闇に他の世界の言葉を口走らないように気を付けよう。
街を歩く冒険者達を観察しながら歩くこと数十分。僕達は郊外にある屋敷にたどり着いた。
「うっわ、デカッ!」
「流石ですね……」
「主様の両親はどれだけ金を持っているんだ……」
三人それぞれ思った感想を口に出す。
僕に与えられた屋敷はかなり大きかった。
勿論、フィオンの町にある実家よりは小さいものの、ここも相当な大きさだった。
正直言って、三人で住むには勿体無い程の。
「ねぇ、一瞬ココを売って、金にした後に他の物件を買おうって思った僕は不届き者なのかな?」
「私も少し考えてしまいました。申し訳ありません」
「いいではないか、大きな家も」
ここを売って出来た金で、もう少し小さな家を買えばかなり大金が手に入るような気がした。が、それは何となく、いや確実に両親を裏切る行為に思えた為に、思考を振り払う。
「よし、入ってみよう……もしかしたら今日一日掃除で終わるかもしれないし」
「「えっ?」」
僕の言葉に止まるリューネとアリュン。
もし屋敷の中が掃除されていなかったら、僕等三人で全て掃除することになる。この大きな屋敷を、だ。
もしかしたら一日じゃ終わらないかもしれない。
「そ、そうですよね……十五年以上使われてない屋敷ですもんね……」
「ま、まさか一日目が掃除で終わる事になるとは……」
落ち込む二人を見て、僕もテンションダウン。
今日のうちに服とか必要最低限のものを買い揃えておきたいのだが、それはもしかすると叶わないかもしれない。
今日はリューネの美味しいご飯ではなく、インスタント食品になるかもしれないな……。
「あ、開けるぞ……?」
「は、はい」
「う、うむ……」
息を飲み、渡されていた屋敷の鍵でロックを解除する。そして、ゆっくりとした動作で扉を押した。
「「「……ッ!」」」
そこには……。
綺麗に掃除されたホールが広がっていた。
「よ、よ、良かったぁ……」
体から軽く力が抜けていくのを感じながらも、中に一歩踏み込む。
実家のホールの二分の一程の広さで、左右には二階に繋がる階段が設置されている。
どことなくフィオンの町の屋敷と似た感じがある。ココを元にして建てたのかもしれない。
「危うく掃除で終わるところでしたね……」
「何故か以上に緊張した……」
僕に並ぶように中に入ってくるリューネとアリュンを見て、僕も小さく息を吐く。
やる事は沢山あるのだ。
冒険者ギルドに行って登録したり、服や食料品等と言った生活に必要な最低限の物資、街を見て回って店などの位置や情報を集めたりと色々だ。
「ん、待てよ……?」
家具は新品がもう置いてある、と両親は言っていた。深く考えれば、掃除がされていない汚い屋敷に新品の家具を置くだろうか?
もしかして、また僕が空回っていただけなのではないだろうか?
「……ダメだ、どうしたんだろう僕」
「どうしたんだ? 主様」
「いや、何でもないよ……」
ゴメンと二人に謝りながら、僕達は屋敷の中の探検を開始した。
基本的な構造は実家と同じで、少し違う所と言えば、小さいが部屋の数が多かったことくらいだ。
空間操作の術を使えば、小さな部屋でも大きくすることができる。何かあれば術を掛けよう。
「さて、と」
僕たち三人は今、リビングに置かれたソファに腰を掛けてくつろいでいた。
目の前のテーブルには早速リューネが入れてくれたミルクティーのカップが三つ置かれている。
本当に構造がまんま実家だった。台所の位置も、ソファの設置ポジションも全て。
慣れ親しんだ感覚の方が強くて新鮮味が欠けているが、まあいいだろう。
「じゃあこの後どうする?」
僕はミルクティーを啜りながら二人に聞く。
アリュンが僕と同じようにミルクティーを啜ろうとして、「熱っ」なんて言いながら、
「冒険者の登録はまだいいだろうし、先に日常品を揃えるべきではないか?」
「聖獣なのに一般的な意見だね」
「主様よ、それは私を馬鹿にして? ……まあいいです、私としてもココは初めてだが、人の姿をして街で生活していたこともありますし」
どうやらこの聖獣は僕より外の人の世界を知っているようだ。
「へぇ。だっだら冒険者登録とかしてるんじゃないの?」
「いや、それはしていないです。面倒だし、登録しても、得するのは迷宮の入場許可が貰えるぐらいですしな」
「まあ冒険者についての詳しいことはギルドで聞くことにするよ。……今思ったんだけれど、アリュンって一体どれくらい生きてるの?」
「それは遠回りに私の年齢を聞いているのですか? 女性に歳を聞くものではないと言われませんでしたか?」
少しキツめの目付きで僕を睨むアリュン。
確かに今のは失言だったかもしれない。
相手が聖獣だとしても年齢を聞くものではないな。
「ごめん」
「い、いや、別にいいのですがな……」
どうやら謝られて驚いた様子を見せるアリュン。リューネは無言でミルクティーを飲んでいた。
「でもまあ、さっきのは少し言い方がキツかったかもしれない。本当の事を言うと、もう何年生きてきたかなんて覚えていないのだ。知ろうとすれば分かるが、面倒くさいのでな」
「数えるのが面倒なくらい生きてるのは分かったよ」
「……、」
どうやら再び失言してしまった様だ。
何でこう僕はデリカシーとかそう言う感性がないのだろうか。だから彼女もできないし、魔法使いのままなんだ。
「でも、アリュンは綺麗だから、どれだけ生きてきたかなんて関係ないと思うな」
「……むぅ。主様は人たらしと言われたことがないか?」
……ある。
リーセイスとして生きていた時の弟子に言われた記憶がある。
やっぱり本心をそのまま伝えるのはやめた方がいいのだろうか?
「い、言われたことは無いかなあ」
「その吃り方、絶対にあるだろう?」
「楽しく二人で会話してるところ悪いのですが、この後はどうする事にしたんですか?」
少し機嫌が悪いのか、リューネが言葉に力を込めて聞いてきた。
「うん。じゃあ街に行って物資を買い揃えようか」
アリュンの口調が安定しない。
砕けた敬語って難しい